2016/07/06 のログ
セシル > 「そうか…気が向いたら、由来など調べてみることにしよう」

『気が向いたら』は大体にして気が向かないものではあるが、それは措く。
セシルにとっても、相手にとっても、そこまで重要な関心事ではないだろうから。

「…そうか…「楽しむ」ことが第一か」

そう幼女に答えるセシルの顔には、先ほどまでの曇りの陰はない。
すらりと長い腕を、鉛筆と、水色の短冊に伸ばした。

メルル博士 > セシルが気が向いて由来を調べてみる、確かにメルル博士にとってもそれほど重要な事ではない。
雰囲気だけでも、行事というのは楽しんでいる人が多い事だろう。

「はい」
メルル博士は、短く答える。
『楽しむ』事。それからヒントを得たのか、セシルから曇りの陰が消え、水色の短冊に手を伸ばしていた。
願い事を決めたのだろうか。
メルル博士は、セシルの方をぼんやりと見つつ、プライバシーのため短冊の方には目を向けない。
セシルが短冊に願い事を書いている間は、口を閉ざしておく事にする。

それからしばらく、セシルが短冊に願い事を書き終えるまで待っているだろう。

セシル > 「…そうだな、気晴らしくらいには出来るだろう」

幼女の答えにそう応じ、短冊に言葉を綴っていく。
台がないのでやや歪んでいるが、基本的にはかっちりとした字だ。

『家族と旧友が息災でありますように』。

「帰れるように」という「本当の」願いは、書かなかった。
「また会えますように」とも書かなかった。

ただ、自分の祈りが届けば良いと、祈りを通じた「繋がり」を今は信じようと思って。
匿名の短冊を、すらりと長い腕を使って、笹の内側の方に、吊るした。

「これでよし…と」

その表情は、何か吹っ切れたように、梅雨時に似合わぬ晴れ晴れとしたものだろう。

メルル博士 > セシルがどのような内容を書いたのか、それはメルル博士には分からない。
だが、笹に吊るしているセシルの晴々とした表情を見ると、とても良き願い事を書けたのだろうと察する事ができる。
セシルの表情を見ると、メルル博士も無感情ながら先程のように少しだけ笑った……ように見える。

「あなたの願い事が叶うといいですね」
声のトーンはいつも通りながら、その言葉はどこか優しかった。
あくまで願い事なのだから叶うかどうかは分からない。
笹に吊るされている短冊にしても、全てが叶うわけではないだろう。
「このたくさんある短冊のうち、どれぐらいの願いが叶えられるのでしょうか」
メルル博士は、笹を見上げながらそんな事をぽつりと呟いて見せる。

「出来る限り多くの願い事が叶った方が、みんなが幸せになれる。
 そうは思いませんか?」
この笹には、人を傷つける願い事はない。
つまり、多くの願い事が叶えば叶う程、基本的にみんなが幸せになれるのだ。
そう簡単で単純な話でもないかもしれないが。
それに、科学者が抱く疑問でもないかもしれない……。
だけど、そんな疑問を抱くのは純粋な子供心がある故だ。

セシル > 「ありがとう。
………互いの願いの成就を願い合う、この瞬間のために、この習わしがあるのかもしれんな」

ほんの少しだけでも、表情が和らいだように見え、その声にも優しさを感じさせる幼い娘に、朗らかに笑いかける。
厳密には、七夕の風習の願い事にはある程度決まり事があるのだが…今、この場では、きっと些細なことだろう。

「…どうだろうな…私の願いなど、「解釈」次第でどうとでもとれそうだし。

だが、「出来る限り多くの願い事が叶った方が皆が幸せになる」という貴殿の考え、私も賛成だ。
…貴殿の願いも、叶うと良いな」

そう言って幼女に笑いかけるセシルの笑みは、口の端を横に引く、男性的な印象の強いものだった。
誤解が加速されること請け合いである。

メルル博士 > 互いの願いの成就を願い合う、その瞬間のために七夕がある。
その言葉に、セシルは軽く頷いてみせる。
「それは一理ありますね。
 少し違うところはあると思いますが、彦星と織媛もまたお互いがお互いの再開を望んでいます。
 短冊の願いもまた、お互いがお互いの願いを願い合うものなのかもしれません」
この笹の願いを全て願う事も含めて、そういった習わしはやはり素晴らしいものだと感じる。

「あなた自身が望む良き“解釈”をされた方が、それが本当の“願い”であると、メルル博士は思います。
 “解釈”を変えれば悪い結果となるならば、それは真の“願い”ではありません」
どんな“願い”を書こうとも、それは短く文章にしたものに過ぎない。
屁理屈をこねて、解釈を変えて悪い結果に到達するのであれば、それは真実の“願い”ではない。
それが願った本人が最も実感できる事だろう。

「メルル博士の願いは、叶ってくれないとむしろ大変困ります」
メルル博士の願い──。

『11次元で観測されたメルテニセツク現象が、コーレテウデネ管を通じて常世島で発生しませんように』

これは果たして、どんな意味を持つのだろう……。
ただ一つ言える事は、この願いが叶わない方が天文学的確立で難しいという事か。

セシルの笑みは、やはりイメージ通り男性的な印象を受けた。
つまりは、さらに誤解を招いている。
男装麗人である事からも、メルル博士は、セシルがモテる(もちろん女性から)であろうと予想していた。

この誤解が解けるのは、まだ先かもしれない。

セシル > 「…気持ちが通じるところに「奇跡」が起こる…
………などと言う言い方をしては、少女趣味に過ぎるか?」

「私らしくないな」と言って、おかしそうに笑う。
男らしい男であれば「らしくない」どころの話ではないので、違和感を生じさせるきっかけに………いや、どうだろうか。

「…そうだな、その通りだ。
まあ、私の願いは「解釈」を変えてもそうまで悪い結果にはならんだろう。せいぜいが「基準」の話だ」

「息災」を祈るのが何年間の話かで相当話が変わるのは事実だが、それでも善し悪しの反転まではかなり遠いだろう。
セシルはどちらかといえば体育会系の人間なので、その辺は多少楽天的なのだった。

「「叶ってくれないと大変困る」か…大きく出たな。
あるいは、私と似たような願いなのかもしれんが」

幼女が大きなことを言っているのか、それとも健康関連などの、叶わなかった場合が非常に大変な願いか。
知的に非常に早熟らしいこの娘の願いを盗み見るのは倫理に反するだろうと解釈しているセシルが彼女の願いを知ることはないが…どのみち、見てもその意味を理解することは出来ないだろう。

「…さて、短冊も飾ったし私は鍛錬に赴くとしよう。
貴殿も、昨今の気候に気をつけて、息災でな」

幼女の表情の乏しさおよび、発言の内容から誤解されていることなど全く察しないまま。
セシルは、中庭の笹に背を向け、幼女に鷹揚に手を振りながら中庭を後にしようとする。

メルル博士 > 「あなたは容姿端麗な殿方かという印象を抱いていましたが、意外な一面もあるのですね。
 言い方が少し失礼だったかもしれません……申し訳ありません。メルル博士は、素敵な事だと思いますよ」
セシルを男だと思い込んでいるので違和感こそ抱いていないものの、
それでもセシルが男として、メルル博士が抱いた印象を口にしてしまう。

「そうですか。
 どちらにしても、願いはやはり望む形で叶ってくれた方がありがたいものですね」
メルル博士がセシルの願い事を知る由もないが、息災ならば出来る限りながく願いが続いてくれた方がありがたいものだろう。

「当然、大きいですよ。
 あなたも、メルル博士と同じような願いですか。
 もしや、あなたも“アレ”に気付いてしまったわけですね」
この“アレ”という単語から意味を理解するのも、おそらくメルル博士のみかもしれない。
メルル博士の勘違いを起こした会話は、傍から見ればわけのわからないものに見えるだろう。

「剣術の鍛錬ですか?」
メルル博士は、首を傾げる。
腰の二本の剣を見て、剣術を判断したわけだ。
「鍛錬、頑張ってください」
普段通り、無表情での応援だった。

「はい。お気遣いありがとうございます。
 あなたも、これからさらに暑くなりますので、鍛錬中の脱水症状にはお気を付けください」
メルル博士は、去っていこうとするであろうセシルに軽く頭をさげて、彼女を見送る。

セシル > 「ああ、私は男ではないよ」

「容姿端麗な殿方」という言葉を、しれっと否定。誤解され慣れ過ぎて、もはや苦笑混じりにすらならなくなりつつある。
最後の最後で爆弾爆弾投下だが、「ロマンチックな志向も持つ細身の美男子」はとある層の女性にクリティカル率が高そうなので、投下しておくに越したことはない爆弾だろう。
…この幼女が「とある層」に該当するかは、また別の話だが。
そして、「女性である」ことに「だがそれがいい」となり得る女性の存在も、また別の話だが。

「ああ、それに越したことはない」

幼女の言葉に、真顔で頷く。
目の前の相手と違って、常識的な志向の枠組みを越えることがほとんどない(性にまつわる考え方については、意見が割れるところかもしれない)セシルにとって、理想的な願いの成就は、当然「健康な天寿の全う」以上ではない。

「………いや、貴殿の言う”アレ”は分からんが。
まあ、貴殿の未来はまだまだ長いことだし、大きい願いに越したことはなかろう」

”アレ”と言われても分かるはずがなかった。苦笑いが浮かぶ。
ただ、幼女らしい先の長さに、願いの大きさを託す言葉を返した。
そして、鍛錬の内容を順当に言い当てられれば、強気の笑みを浮かべ。

「ああ。
自分で努力出来る範囲のことは、願う前に自分で努力すべきだと思うからな。
応援、感謝する」

そう、礼を述べた。

「この季節に屋外訓練に臨むほど無謀ではないが…水分補給には気をつけよう。
それでは、またな」

気遣いに礼を述べ…今度こそ、セシルは中庭を後にしたのだった。

ご案内:「廊下」からセシルさんが去りました。
メルル博士 > 男ではない。さすがのメルル博士も、その言葉には、はっきりと目を見開く。
「メルル博士は科学者として、これまで科学や異能を散々追求してきたつもりですが、世の中はまだまだ分からない事ばかりですね。
 あなたが女性である事には、メルル博士も目を丸くしてしまいます」

望む形での願い。
セシルの願いは、叶えられるのか。
それはメルル博士には知り得ない事であった。

「“アレ”ですよ、えっと──」
科学者として追求していくうちに知ってしまった『世界の真理的なもの』といった旨を口にしようとするが、すぐに口を噤む。
知っていてもそう簡単に口にしてはいけない、タブーである。
知ってしまった科学者が守るべき矜持であると言えるかもしれない。
「いえ……何でもありません」
そして、メルル博士は“アレ”に気付いていないセシルが自分と同じような内容を短冊に書いていない事は察する。
気付かないのが普通であり、気付いているメルル博士が実際のところイカれている事柄である。
「はい。ながい未来、この命尽きるまで研究はやめません」

そして、セシルが去っていくのを見守るのだった。
 

ご案内:「廊下」からメルル博士さんが去りました。
ご案内:「廊下」にフィアドラさんが現れました。
フィアドラ > ここは学校の中庭に繋がってる廊下…
というか学校の中庭です。笹とかいう木が置いてあってそこには色々飾っています。

七夕、なんでなのかは分からないですけど短冊に願いを書けば叶うらしいのです。
神社と違ってオサイセンを入れなくても書いておけば願いが叶うそうなのでお得です!

「えーと、なんでも叶うのかな?」

人を傷つける願いは駄目と注意書きには書いてますが他の事なら何でも叶うのでしょうか?

フィアドラ > 悩みます…。
例えば焼きそばパンとかあんぱんをいっぱい食べたいと言う願いを書いてそれが叶うとします。
…多分とても嬉しい気持ちになります。

「でも、本当にそれでいいのかな?」

短冊は一つしか使えませんそれならもっと良い事があるはずです…。
そう、パンはお金で買えるのです!

「…どうしようかな?」

短冊を持ったまま固まってしまいました。