2016/10/06 のログ
獅南蒼二 > 獅南にとって,もはや異能や異能者など…
…心底どうでもいい,些細なことに過ぎなかった。
彼が憎んでいたのは“異能者”などではなく“理不尽な力を持つ者”すべて。
獅南の内面に存在する言葉を使うのなら,この世の全ての“天才”を羨み,憎んでいた。
“凡人”である己と“天才”たちの間に存在する雲泥万里の差。
尋常の努力などでは到底埋めることのできぬ差を,魔術学の力によって,埋める。
彼が目指したのは,ただそれだけのことだった。

獅南蒼二 > だが,凡人と天才の間にそびえる雲泥万里の差を作り出していたのも,
ほかでもない自分自身であった。
彼は紛れもなく,両親と弟の幻影を追いかけていた。
異能によって無限の魔力を得た,文字通りの天才であった両親と,弟を。

「…………私が,クローデットを裏切った,か…。」

……クローデットは紛れもなく天才だ。
膨大な魔力を内包し,魔力への親和性も非常に高い。
そして十分な知識と術式構成の技能,さらには学習への意欲を併せ持っている。

“天才である彼女が,自分のような凡人を気に掛けるはずなどない。”

何の疑いもなく,獅南はそう考えた。
それこそが,己が作り出した“天才”の幻影を,クローデットに投射しているに過ぎないのだと,気付くこともなく。

獅南蒼二 > 裏切ることも,切り捨てることも,利用することも,容易いことだと思っていた。
しかしそれは,獅南の中に“天才”への憎しみがあったからこそだったのだ。

才能を持ちながらにして努力を怠る者,
才能によって他者の上に君臨する者,
才能によって凡人を理不尽に害する者,

そんな彼らを利用し,切り捨て,時には亡き者にすることさえも,
獅南にとってはごく自然なことであった。
それは己を認めなかった“天才”への復讐でもあったのだから。

獅南蒼二 > レポートを読む手は止まり,視線は明らかに文面を追ってはいなかった。
缶コーヒーはテーブルに置かれて,獅南は静かに,瞳を閉じた。

「……………………。」

彼が異能者を受け入れたのは,そんな自分への戒めであったのか,
それとも,彼が友人であるヨキに語った“理想”を本気で追い求めているのか,
いずれにせよそれは,彼の属する【レコンキスタ】の信念からも乖離する行為だった。

「………………。」

誰にも理由を語らぬ魔術教師は,静かに,静かに,ため息を吐いた。

獅南蒼二 > “理想”

“全てを受け入れる,真に平等な世界”

レコンキスタの掲げる理想よりも,余程笑える理想だ。
そもそも如何にしてそれを成し遂げるのか,いかなる状態をもって成し遂げたとするのか,
そんな基本的なことさえ,判然としない。

「……………。」

それはこの男が唱える理想にしては,あまりにも稚拙だった。

獅南蒼二 > ……この不器用な男は時として,自身の幼稚な願いを壮大な理想に置き換え,
その達成のための努力を正当化することがある。
それは己の願いを,己自身にさえ素直に刻めない男の,歪んだやり方だった。

「…………。」

魔術学により,努力と研鑽によって誰もが力を持てる世界を作る。
己の努力と研鑽を誰かに認められたいという願いがその理想を生んだ。

天才も凡人も,全てを受け入れる,真に平等な世界を作る。
あまりにも稚拙で,あまりにも壮大で,あまりにも馬鹿馬鹿しいその理想を作り上げたのは,
無意識のうちにクローデットを拒絶し切り捨てたことへの自責の念。
そして,彼女の才能を,そしてこの獅南にも劣らぬ努力と研鑽を………今度こそ,受け入れ,認めてやりたいという願い。

獅南蒼二 > クローデットはきっと“裏切者”となった自分を憎んでいるだろう。
それだけのことをしたのだから,仕方がない。

そして…友人であるヨキもまた“裏切者”であった自分を憎んでいるはずだ。
それだけのことをしたのだから,仕方がない。


教え子は以来その姿を見せず,友人との約束は薄氷を渡るがごとし。
それでも獅南は……もしかしたら,信じてみたかったのかもしれない。

ご案内:「ロビー」から獅南蒼二さんが去りました。