2016/11/10 のログ
■ルチア > 「私は異世界というよりは、並行世界から来た人間なので、元々この世界と然程変わらない風景に住んでいましたから。
でも、あそこは寛容な街ですね。
私は好きです。
――まだあちこちと言えるほど足は運んでいませんが、
色々なところに行ってみたいとは思います」
そう言って頷いて。
「100%の肯定が必要なのかな。
彼女と君は違う人間だし、
そこまで親しいわけではない。
疑問は生まれて当然だと思う。
なあ、シング。
その子がこの島で生まれたことを苦しみだと思っても、
それはその子の負うべき問題で、未来に君の負うべき苦しみではない。
やれるだけのことをしようと思うのは大事だし尊いことだと思う。
しかし、不必要に背負うことはない。
抱え込むには人の手のひらはあまりに小さすぎる」
そう言って、運ばれてきたエスプレッソに口をつける。
ちりり、とした刺激のある、馴染みのないが心地の良い味。
「それでも、この島は受け皿だ。
私のような異邦人でも――この地球の人間と姿が同じだから、と言うのはあるだろうけれど、受け入れてくれている。
ならば、この島で生まれてくる子にだって、それは同じはずだし、
ヨキ先生のように選択肢を増やし見守ってくれる人もいる。
それ“ら”は人一人の手のひらよりずっと大きいはずだ。
だから、その子が、これからも生まれてくるだろうそう言った子らが
この島に生まれてきてよかった、と思える可能性は決して低くない。
君だって、そう言った手のひらの1つになるのだというのなら尚更だ。
一人では抱え込めないことでも、まとまれば大きなモノを受け止められる」
自分で言っていてまとまりがないな、と苦笑しながらチョコレートを口へと放り込む。
ナッツが入っていないのに、ナッツのフレーバーがした。
■シング・ダングルベール > 「ルチアは大人だなあ……今日は改めてそう思うよ。年頃の姉みたいで肌痒い。
いっそ姉さんとでも呼ぼうか今度から。ああでも、それを許さないのがファン層だ。
んー……俺もファンが欲しいよ。」
聞き覚えのないフルーツの盛られたタルトをさくりと齧る。
ベリーやパインのような甘味と酸味が鼻に抜けるが、形容しがたい未知の味。
幾重にも絡まった思考の紐が緩み解けるような。郷愁を誘うそんな味だった。
祭事はまだはじまったばかり。これから何人もの島民が、この店に足を運ぶのだろう。
その人たちも、自分のような気持ちを抱くのだろうか。
身を浸すような平穏に、心ごと任すこのひと時を。
できれば自分が助けたあの妊婦にも、同様に味わってほしいと。
彼は窓の向こう空を眺め、しかとそう思うのだった。
ご案内:「教室」からシング・ダングルベールさんが去りました。
■ヨキ > 「なるほど、並行世界か。
そうしたらもしかすると、ヨキはこちらの世界の君に会ったことがあって――
君は元の世界で、そちらの世界のヨキに出会っているやも知れんな」
かつて知り合った人びとの記憶の中に、ルチアの面影を探すように目を細める。
それは一瞬のことで、すぐに元の眼差しに戻るのだったが。
「彼女の言うとおりさ。
楽観的であることと、文字どおり何も考えないこととは、似ているようで全く異なる。
何かに心配なく立ち向かうためには、相応の準備と心構えが必要であるからな。
生徒の誰もが心の中に少しずつ、君ら二人のような憂いと覚悟を併せ持っていればいい。
この島を動かしてゆくのは、君ら学園の生徒なんだ。
その生徒らを助けるために、ヨキたち教師が在る。
互いに頼り頼られながら支え合い、誰かを支えることが出来ない者をも余さず助ける。
そうすることで、堅固で安定した社会というものが出来上がってゆくのさ。
ちょうどこんな――薄っぺらに見える透かし彫りの柱が、すっと真っ直ぐ立ち続けているようにね」
ルチアとシングの会話を聞きながらゆっくりと紅茶を飲み干したところで、ああ、と壁の時計を見遣る。
「それではヨキは、次の打ち合わせに向かわねばならんでな。
君らはどうぞ、ゆっくりしていってくれたまえ」
言いながら、赤い革の長財布から代金を取り出し、テーブルの上に置く。三人分の金額だ。
「――今日は特別だ。
二人とも、いい常世祭を堪能してくれよ」
笑って席を立つ。ではね、と軽く手を掲げ、喫茶店を後にした。
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。
■ルチア > 「厳密に――いや何というか、この世界とは似ているようで大分違うんです。
ですが、この世界にもう一人の私が居るのなら、幸せであればと思います。
ヨキ先生みたいな素敵な男性と知り合っていたら忘れることなんてないはずですが」
冗談めいた台詞を交えて己のいた世界を説明する。
文化や歴史、地理やらはかなり似たものだったが、一番の違いは大変容がなかったことだろう。
教師の言葉を聞いて、頷く。
島を動かしているなんて感覚は当然ながらない。
それでも、もう少し時間が経てばそんな感覚も――自覚も生まれてくるのだろうか。
「姉さんは流石に擽ったすぎるよ。
いっその事ヒーローでも目指してみるかい? シング」
エスプレッソを口に運びながら小さく笑い。
慣れない味と香りだったが不思議と落ち着くそれらを味わいながら――
立ち上がった教師を見上げ。
置かれた金額に頭を下げた。
「すいません、ごちそうさまです。
――ええ、勿論。
ヨキ先生も、良い常世祭を」
異界の地で今まで知らなかったものと出会い、交わっていく。
ソレが幸福なのか、もしくは幸福な仮初の夢なのかは解らなかったが――。
今は安寧の中にいた。
ご案内:「教室」からルチアさんが去りました。