2017/04/22 のログ
藤巳 陽菜 > 「ええ?それはないわよ。
 いくらなんでも気のない相手に弁当を作るわけないじゃない。
 それなのにそんな関係じゃないっていうのは先輩が相当なスケコマシか朴念仁かのどっちかよ。」

悪戯っぽく笑いながら言う。
どっちでもありそうな気がする…。

「…その人もやっぱり悩んでた?
 急に身体が自分の物じゃない部分が出て落ち込んだりしてた?」

翼、まだ翼が生えた方が良かったかもしれない。
…確かに不便はあるだろうけど空が飛べる。
分かりやすく出来なかった事が出来るようになるのだから。

「精神的な問題…えーと、なんなの?
 気力を形にしたものとか?ごめんなさい、分からないわ。」

その紅いビー玉を手に取って見てみる。
紅く赤い。それは少年の瞳と同じ色。
気力とかの塊だろうか?疲れるから嫌とか?

「こう、こっそり路地裏とかに呼び出して証拠も残さずペロリみたいな…。
 いや、自分で言っててもないわね…。
 こうやって異能について話せる先輩がいてくれるだけでもありがたいと思うわ。
 ええ、間違いなく東雲先輩は力になってくれてるわよ。」

こうして異能についての話を出来るだけでもありがたい。
それに、この島に三年いるだけあって色んな人の事を知っている。

東雲七生 > 「そうなのかな……。
 自分の料理スキルの向上の為なのかな、って思ってたんだけど……。
 藤巳は、そうなの?」

気になる相手に料理を振る舞ったりするのだろうか。
あくまでも雑談のつもりで振ってみる。

「悩んでたっていうか、何だっけな。
 翼はあるのに、飛べないで悩んでたっけ。」

確かそう、と思い出しながら訥々と語る。
幾分結構前の話だから、現状は変わっているかもしれない。
彼は、元気だろうか。そんな事をぼんやりと考えて我に返る。

「血だよ。俺の血。あの時見た触手もそう。
 俺の異能は、自分の血を操る力でさ。
 能力使う度にどこかしら傷つけなきゃならなかったから、使うの嫌だったんだー。」

今でこそ様々な形でストックする事を覚えたのだが。

「いや、まあ、そう言って貰えるのは嬉しいけど。
 もっと直接的に、後輩の悩み事とかには乗ってあげたいしさ。
 特に異能に関しては。俺も散々一人で悩んだりしたから。」

藤巳 陽菜 > 「っそ、それは私も好きな男の子が出来たら手料理の一つや二つ…。
 振る舞ってあげたりするわ。…好きな人とか…出来たことないけど。」

今はまだ経験がないけど元に戻って好きな男子とかできたら弁当ぐらい!
いや、まあ、料理は得意ではないけど練習すれば…。

「翼があるのに飛べないって…それ酷いわね…。」

きっと、勝手にがっかりされたりしたのだろう。
…私が異邦人だと見た目で勝手に思われるみたいに。
きっと私のそれよりも酷かったのだろう。

「へー血なのねって血!?」

思わず手に持っていたその血の塊を落としてしまう。
コロコロとそれは机の上を転がってうどんのどんぶりに当たって止まった。

「ご、ごめんなさい。少し驚いてしまって。」

おそらく無意識で自分の手を拭きながら謝る。
血、血、あまり人の血というのは触っていていい気分にはならない。
それも、彼が自分の異能を精神的に苦手としていた原因なのだろう。

「直接的な悩みね…この体になってから食欲が増して食費がかかって仕方ない事とか?
 いや、冗談よ。まだ、何とかなってるから。」

異能の事での相談…。
身体の動かし方が云々とかどうすれば治るのか云々じゃなくて…。

「じゃあ、さっそく聞きたいんだけど東雲先輩はどうやってその異能と折り合いをつけたの?
 確かに便利だとは思うけど血を流さなくてもプールの掃除ぐらい出来ると思うんだけど…
 そんな事に使えるってことはもう使う事に抵抗ないんでしょう?
 身体を傷つけるのに慣れて抵抗がなくなったとか?」

東雲七生 > 「へえ~。
 今まで付き合った彼氏の一人や二人居ないの?可愛いのに。」

さらりと言ってのけながらうどんを啜る。
思ったままを口にしているだけで、他意などは特に無いのだから性質が悪い。

「うん、本人も相当気にしてた。
 けどまあ、そんなもんなんだと思うよ。
 自分と相性のいい異能が目覚める方が、レアなのかもしんないって。」

御新香を齧りながら言うには少し酷かもしれないな、と反省する。
聞き様によっては運が悪かったと思って諦めろ、と言っている様にも聞こえるかもしれない。

「ああうん、まあそういう反応するよね。
 気にしないでー、他人の異能だったら俺もそういう反応すると思うし。」

穏やかに笑いながら首を振る。仕方の無い事と、と諦めているのだろう。

「食欲が増したら体重にも直結するから尚の事動くのに慣れとかないとだな。
 まあもう少し肉付きが良くなっても良いと思うけど……あ、冗談だった?

 うーん、異能との折り合いの付け方、か。
 正直、どれだけ嫌ってもある以上はしょうがなく、かな。
 俺の場合怪我さえしなければ異能が発動する事は無かったけど、何もしないままだと万一怪我した時に暴走されても困るし。
 制御するには、やっぱり自分の手足同然に知っとかなきゃいけないと思って。
 怪我はそんなにしょっちゅうしなくてもいい方法を思いつい方から、今はそっち使ってるんだけどさ。」

本当は今でも少し使うのに抵抗あるし、怪我をするのはもっと嫌だ、と小さく肩を竦めながら笑う。

藤巳 陽菜 > 「出たわねスケコマシの本性が!そんな風におだてても無駄よ。
 …私が可愛くないとか自分で知ってるし。」

ただし顔は照れて少し紅くなっている。
…普段からそんな恥ずかしいことを言いまくっているのだろうかこの人は…。
そんなんだから弁当とか作られるのだ。

「そんなもんね…。
 まあ、全身蛇にならなかっただけましくらいに考えとくわ。」

それと比べたらいくらかはマシなのかもしれない。
最もこの状況になれるつもりはないけれど。

「でも…ごめんなさい。」

謝りながらも机の上の紅いビー玉には視線をやらないようにしている。
綺麗だとさえ思ったそれは今は机の上で奇妙な異物感を放っているように感じる。

「確かに、何をしてても怪我はするものね。
 その時の事を考えて練習をしてたと…。」

確かに嫌なものでも自分の一部なら受け入れてそれを上手く使えるようにする。
制御して手足同然に使えるようにする。
それはきっと大変な苦労だっただろう。
嫌いな物を自分の一部として受け入れて、文字通り血のにじむような努力の果てなのだろう。

「…東雲先輩は私みたいに異能を消そうとか無くそうとかは思わなかったの?
 嫌いなんでしょソレ?いつ普通の人間でいる事を諦めようと思ったの。」

東雲七生 > 「こういうのがスケコマシっていうのか……。
 ふぅむ。別に思ったまま言っただけなんだけどな。」

言う様になったのは実のところだいぶ最近からである。
それも自分があちこちで言われるから「可愛い」という言葉自体に若干感覚が麻痺してきたからという悲しい理由だ。

「まあ、とりあえずなっちゃったもんはなっちゃったものとして受け入れるしかないんだよ。
 否定してて消えるなら苦労は無いし。」

続く謝罪の言葉には微笑ったまま何も言わなかった。
肯定するでもなく、否定するでもなく、ただ笑ったままビー玉を拾い、上着のポケットに仕舞う。

「消そうとも思ってるし無くせたら良いなと今も思ってるよ。
 でもその為には今ある自分の異能を徹底的に知り尽くすのが一番の近道なんじゃないかって思ってるだけ。
 こう、火が燃えてるとして、それを消す場合。火がどういう原理で燃えてるのかを知ってれば、消火方法は幾らでも考えられるでしょ?
 水を掛けて消す、じゃあ水が無かったら?粉を掛けて消す、じゃあ水も粉が無かったら。
 そうやって、状況が絞られて来た時にも打つ手は考えられる。
 普通の人間で居る事を諦めたつもりはないけど、そうだな強いて言えば……俺は俺だから、かな。」

異能があってもなくても、結局のところ自分は自分。
本質的には変わらないから、と七生は子供っぽく笑った。

藤巳 陽菜 > 「…そういうの良くないと思うわ。
 特に私みたいな言われ慣れてない相手には良くないと思う。」

…心臓に良くない。


その言葉は納得できた。本で読んだ異能の知識より、研究所で聞いたいくつもの言葉より。
納得することができた。
確かに自分の異能を知る事が自分の異能を消すための一番の近道なのだろう。

「…やっぱり東雲先輩は二つ上の先輩っていうだけの事はあるわね。
 …先輩は凄く強いと思う。」

彼は強い。その子供っぽい笑顔からは想像できないくらいに強い。
自分の嫌いな部分を受け入れられるそんな強さがある。
それを受け入れて自分を自分として認められる強さが彼にはある。

陽菜はそこまで強くない。この蛇の体を自分の物とは認めない。
認めてしまったら自分の何かが崩れてしまいそうだから。
だから、まだこの身体を…いや、絶対にこの身体を認めない。

「凄く参考になったわ。今日はありがとう。
 …また、相談させてね。」

いつの間にか全て食べてしまっていた定食のお盆を片手と身体で支えて
空いた方の手で杖を持ち立ち上がり急いで帰ろうとする。

いいえ、きっと参考にはならない。
…この先も私は今のこれが私であることを認めないから。


…いつか、私にもそんな強さがあれば。

ご案内:「食堂」から藤巳 陽菜さんが去りました。
東雲七生 > 「言われ慣れてないなら、今後言われた時に驚かないよう慣れておいた方が良いと思うけど……。」

頬を軽く掻きながら苦笑する。
七生自身、慣れてしまったのだから言えるのだろう。
相手の心臓なんて知ったこっちゃないのである。いい迷惑だろう。

「強いかなあ……まあ、強くならなきゃいけないっていう強迫観念みたいなもんがあるからだと思う。
 でも実際のとこまだまだ弱っちいけどね、俺なんて。」

逃げる事から逃げ出しただけの、臆病者だ。
逃げ切れなかった時が怖くて怖くて、それならばと逃げるのを止めただけなのだ。
七生自身は、自分の事をそう思っている。だから、誰かの相談にはいつだって乗りたいと思う。
自分が逃げ切れなかった分、誰かには逃げ切って欲しい。
逃げるのを辞めたのなら、ともに立ち向かいたい。だから。

「ああ、うん。いつでも相談に乗るよ。」

笑顔でそう告げて、七生は藤巳を見送った。
一度、すん、と鼻を鳴らしてから完全に姿が見えなくなったのを見届けて、

「認められないから、嫌だからっていうのも十分原動力にはなるよ。
 傍目には後ろ向きに見えたりするんだろうけど……ポジティブもネガティブも、思う強さは等価値だし。」

ずるる、とめんつゆを一気に啜って。

「ネガティブだからってその気持ちが弱いってわけじゃない。」

むしろ、認められないからこそ、強い意志が彼女にはあるのだろう。
だったら、やっぱり、もっと力になれたら良いな。
そんな事を思いながら、七生は唐揚げを頬張るのだった。

ご案内:「食堂」から東雲七生さんが去りました。