2017/10/17 のログ
■暁 名無 > 「……うん?」
どこからともなく聞こえて来た声に、首を傾げる間も無く。
気が付けばもうだいぶ夜も更け、すわ幽霊でも出て来たかと思いきや。
「お、おうお前さんかい……こんばんは、だ。
そうさなあ、会えると解ってりゃもう少し良い顔も出来たんだけどな。」
思わず苦笑を零しつつ答える。
嗚呼、背中に何か凄い幸せな質量を感じる……。
■咲月 美弥 > 「あら、返答にもキレがありませんね?」
まるで水中であるかのようにするりと、重さを感じさせない動きで
頬を撫でるように回り込みながら顔を覗き込む。
そのまま額を合わせようとして。
「んー。熱はなさそうですけれど
風邪ですか?それとも恋煩い?」
どちらにしても首筋に触れているのだから
大まかな体温は判るのだけれど。
「気の多い方ですもの。色々と風の噂で聞いていますよ?」
くすくすと笑みをこぼしながらいつかのように
吸い込むような眼差しで貴方の瞳を覗き込む。
触れていた場所から伝わる体温は少しだけ高めで
まるで残り香のように体温が少しだけ残るような
そんな感触を与えるかもしれない。
■暁 名無 > 「はは、仕事疲れだと思ってくれ。」
実際幽霊も似たようなものかもしれない、と思わせるような動きで、背後に感じていた声が前に来る。
触れ合う額に、思わずどきりとさせられるが、努めて平静を装いつつ。
「ははは、どんな噂だろうかねえ。
あんまり他人からの評価は気にしちゃいねえんだが。」
多分良し悪し半々といったところだろうか。
女生徒に対する言動に関しては風紀委員からも注意を受けたほどだし、自覚もあるにはあるんだが。
「んまあ、夢魔でなくとも魅力溢れる子が多いからな。
ついつい目移りしてしまうもんさ。」
心身ともに冷えていたところに、この暖かさは如何とも魅力に過ぎる。
自分でも気づかないうちに、此方を見つめる少女の腰に腕を回してしっかりと抱き支えていた。
■咲月 美弥 > 「師というものは中々忙しいですものね。
この島なら猶更……
まぁお仕事疲れという事にしておきましょう。お互いの為に。」
至近距離で発される言葉にくすぐったそうに少しだけ身を捩るも
その腕の中から逃れる様子は見せないまま、
少しだけ瞳を伏せ彼の噂に少しだけ思いを巡らす。
そう悪い物ばかりでもなく、むしろ良い物が多いけれど……
「そうやって出会う皆に言っているのでしょう?
知っているんですからね?私だって」
少しだけ拗ねるように言いながら
抱き支えられるままついと身を寄せ、腕の中からその顔を見上げた。
まるで秘密の逢瀬を楽しむかのように
月明りに照らされ出来た影が一つに重なる。
触れ合う部分から伝わる熱はゆっくりと互いの心身を蝕んでいって。
■暁 名無 > 「そそ、お互いの為にね。
……って、何がお前さんの為なのか分からないんだが。」
腕の中、触れ合う身体同士の熱と感触がじわじわと頭の芯を痺れさせてくる。
仕事で疲れてる所に覿面に効果を齎しそうだが、今更腕を解くわけにもいかない。
がんばれ理性、毎度辛い思いをさせてすまない。
「昼には昼の、夜には夜の。
太陽が照らして映える花と、月が照らして魅せる花があるもんだろ。
愛でるに値すると思った花を愛でてるだけさ。
それとも何かい、お前さんは他の誰より自分が一番だと言いたいのかな。」
我ながら意地の悪い顔で少女の瞳を覗き返す。
こうして張り合おうとでもしないとすぐさま彼女の魅了に堕ちてしまうことだろう。
……まあ、前に発破掛けたのは他でもない俺だけどさあ。
■咲月 美弥 > 「ふふ、秘密です。
ちゃぁんと順番立てて、私の大事なトコロ、暴いてくださいな?
その方がきっと楽しいですもの」
悪戯な表情で囁きながら貴方の胸を指先で叩いていく。
その腕の中、その鼓動を紡ぎ奏でる様に指先で拍を刻む。
それに合わせるように、謳う様に言葉を紡ぐ。
意地の悪い笑みを浮かべた顔を
ただただ穏やかな笑みで見返して。
「あらあら、ここは妬く所でしたね。
私、浮気を許せるタイプですの。
だから私が一番でなくとも平気ですよ?
ただ、ちゃぁんと帰ってきてくださいね」
そうして紡がれたのはある意味自信に満ちた、夢魔らしい言葉。
離れられるなら離れて行ってもかまわないと彼女は本気で考えている。
彼女らにとって人の心は一人の為だけのものでなければいけない物ではない。
心はもっと自由で、不可解なもの。
「太陽の下の貴方は誰かにあげましょう。
夕日に染まる貴方も、誰かに預けてあげましょう。
けれど、月の下踊るのならば……
その時は叶うなら、私の事を思い出してくださいね?」
彼女は知っている。
自身の本質が並みの花では並び立つ事が出来ない
甘い蜜を湛える大輪の花であることを。
そして、だからこそ決して追いすがったりなどしない。
……それでも去っていくものを引き止める事などできないと
何度も心を砕くような想いをして知っているから。
■暁 名無 > 「成程な。
そういうことなら、確かにその通りかもしれない。」
胸を叩く指が、耳を撫ぜる声が、知らずの内に彼女の言う事を肯定してしまう。
一挙手一投足なんてレベルじゃない、もっと細かい僅かな動きでさえこちらの心を揺さぶってくる。
それこそ、呼吸をするだけで人を魅了しかねないと思わせる。
空恐ろしいな、これが夢魔か。
「……ふむ、なかなかどうして。
我ながら面倒な男だという自覚はあったが、お前さんも相当大概な女だな。
く、はは。
分かった、俺なんかで本当に良いのなら。
幾らでも君と踊りに帰って来ようじゃないか。」
こんな風にかな、と。
腰に回した手を支えにしたまま、ぐいと上体を押して覆い被さる様に彼女の顔を覗き込む。
社交ダンスなんかでよく見掛ける体勢をイメージしつつ、実際に踊った事なんて一度足りと無いけれど。
そんな事もどうでも良くなるほどには、月に照らされた顔に見惚れてしまった。
■咲月 美弥 > 「ええ、秘密は暴いていく瞬間が一番楽しい物でしょう?
ですから……焦らず好きに暴いていって良いのですよ。
その代わりと言っては何ですが……
もしもそうありたいと願えたなら……」
”貴方の時を少しだけ私に下さいな。”
囁く声は罅割れに沁み込む水のように手探りし、
隙間を押し広げることなく、けれど確かに染み渡っていく。
これでもただ心の赴くままに身を任せているにすぎない。
本能的にただただ甘い夢と魅了を振り撒き
誘蛾灯のようにその命尽きるまで離さない。
それが彼女ら夢魔が悪魔と称される所以。
「私達なんて皆”大概”でしょう?
寄る辺があるからこそ船旅は楽しいなんて誰かが言っていましたもの」
そう、この島にだけに限らず、きっと誰もがそれぞれの人生をドラマチックに生きている。
そして夢魔は其処に甘い夢を添えるもの。
言い換えるなら夢魔はいつの時代も過ぎ去るものを見送り続ける者。
だからこそ、その多くが本質的な欲求とは別に”人を愛していた。”
此方の世界でそうかは判らない。
少なくとも彼女の世界ではヒトは愛すべき存在だった。
それ故に滅びの道を歩んだのだけれど。
「ふふ、お待ちしております。
ちゃんとエスコートしてくださいね?
さもないと私、独りで立ち尽くしてしまいますもの。」
覆いかぶさるような仕草に笑みをこぼし、ステップを踏むように足を滑らせる。
淑女として一通りの動きは把握している。
その中には勿論、慣れていない相手にリードしてもらう事も。
理想的な距離を保つように体を預けながら潤んだ瞳で瞳を見返す。
まるで抱き留められるような姿勢のまま吐息が絡まるような距離で
言葉を忘れたようにただじっと見つめあって。
■暁 名無 > 「俺の、時……ね。
生憎と今の俺は時間に関しては大分特殊な立場に居るんだがな。
……ま、それはそれとして、安いもんだ。
お前さんみたいな可愛い子と過ごせるならな。」
一晩でも二晩でも、それこそ毎晩でも差し出せる。
そう思う事は容易だけど、流石に口には出来なかった。
言葉にしてしまえば、本当にそうしてしまいそうだったから。
「ははっ、違いない。
ただ、俺のは船旅と呼べるほど豪勢なもんじゃないけども。」
手漕ぎのボートの方がまだ幾らかマシに思えるほど。
大河に浮かぶ木の葉のような生き方に、寄る辺なんて本当にあるのかどうか。
それにこうして魅力の渦に飲まれそうになりもする。
……それがどうしようもなく楽しく、離れられないと知っているからこの生き方なんだけども。
「上手く出来るかは保証しかねるけどもな。
ま、お前さんみたいなのはただ立ってるだけでも引く手数多だろう?
それは何だか気に喰わないからな、戻って来るともさ。」
他の男に奪われたくないと思うほどには、半ば心を捕まれているらしい。
でもまあ、こうして俯瞰して思えるということはその感情も今、こうして夢魔の気に晒されて居るからなのだろう。
……そういう事にしておこう。
「さて、このまま朝まで踊り続けたいところだけどもだ。
流石に昼間も仕事を抱える身の上、そうも言えないんでね。」
名残は惜しいが、今日はそろそろ夢から醒めなければいけない。
次はいつ逢えるだろうか、なんて考えてしまうだけで彼女を抱く腕が鋼の様に動かなくなる程だけども。
……それにしても思った以上にこの身体、ヤバいな。
■咲月 美弥 > 「……そうですか?
それなら、私は嬉しいのですけれど」
覗き込んだ瞳に揺れと疲れを見る。
彼女らは触れているだけでも多くを奪っていく。
今夜だけでも相当量を奪ってしまっているだろう。
今夜はそろそろ限界かもしれない。
一瞬だけ熱い欲望がその鎌首をもたげる。
体の奥に籠る熱を彼に曝け出し、共に夢に堕ちてしまおうか。
このまま眼前の彼を心地よい夢に沈めてしまおうかと。
けれどそれはきっと、今は……。
内心そう呟き瞳を閉じると、小さく頭を振って小さな吐息を吐き出した。
「では今日はよく眠れる御呪いをかけてあげましょう」
そういうと貴方の胸元に添えられていた手をゆっくりと、輪郭をなぞるかの様に滑らせる。
そのまま両手で頬を包み込んで……額にそっと口づけた。
ただ静かに、子を愛する親のように純粋な慈愛の念を込めて。
そのまま少しの時間じっとした後、ゆっくりと身を離す。
「……飛び切り甘い、素敵な夢が見られる御呪いです」
貴方の髪を梳くようにゆっくりと手を遊ばせながら
月明りを映しとったかのような笑みを浮かべて小さく小さく囁いて。
そうして固くかき抱かれた腕をそっと押す。
それはまるで嘘のように簡単に動くはず。そう望んだのだから。
そうしてゆっくりと離れると今度は何処か透明な
直ぐに割れてしまいそうな笑みを浮かべて……
――雲が月を覆い影が落ちる。
それが晴れた時にはもう、残っているのは残り香だけ。
「おやすみなさい。せんせ
……良い夢が見られますように。」
けれど確かに、小さな声がその場所から響いた。
それは直ぐに空へと溶けて行ったけれど。
……夢魔が与える夢なのだから
少なくとも夢見心地にはなれるはず。
内容がどのようなものになるかは……
その性質上本人だけの秘密としておいた方が良いかもしれない。
■暁 名無 > 「はは、素直に喜ばれると少しだけ後ろめたいな。
なんせ男が女の子と一緒に居たいと思う時は、大抵多大な下心も付随してるもんだ。」
からりとした笑みを、昼間生徒たちへと向けるのと同じ笑みを浮かべる。
そうしないと自分の中で均衡が取れなくなりそうだった。
俺は教師で、彼女は生徒。今は、まだ。
「え?まじない?」
ふわりと頬に触れた手の暖かさが妙に懐かしく、思わず思考が停まる。
その隙を突かれて額に口付けを受ければ、流石の俺も自分でも分かるほどに表情が強張った。
頬や耳がみるみる熱を帯びるのを感じる。
しかし身動きもとれず、そのまま彼女が離れるまでの、短く途方も無く長い時を待って、
「……お、おう。ありがとう。」
気恥ずかしくて彼女の笑顔はまともに見られなかった。
全く持って変な所で俺も初心である。中学生か。
お陰であれほど自分では動かし難かった腕が、簡単に彼女を離した事も気付かなかった。
「ああ、おやすみ。
……ってまた名前を確認するのを忘れてたわけだが。」
出席取れねえじゃねえか。
そんな事を呟きながら、彼女の残した香りを感じながら文字通り名残を惜しむように月を見上げる。
明日もこんな月が出ていれば、とそんな事を考えながら俺はゆっくりと屋上を後にしたのだった。
少しだけ、ダンスでも覚えてみようかと、頭の端っこで思いつつ。
ご案内:「屋上」から咲月 美弥さんが去りました。
ご案内:「屋上」から暁 名無さんが去りました。