2018/11/20 のログ
ご案内:「保健室」に木里嶺 静織さんが現れました。
■木里嶺 静織 > ━━━━━━━━外はすっかり帳の落ち、肌寒さに、街灯の明かりが、薄らと空気のプリズムに朧と化す時刻。
…………沢山の紙が置かれた傍らの机を、横目でぼんやりと眺めている。
ベッドに半身を起こした格好で、手の中のスマートフォンの画面からの光が、下から顔を照らす。
……痣が残り、包帯を巻かれた頭。片腕は治具で固定されて動かせず。唯一動くのは、細い右の手。
━━ついかたさっきまで、誰かとメールでやりとりをしていた。
文面には、自分の事が心配だ、今直ぐに向かうという旨が書かれていた。
それへの返答は、ただ短く。
『お兄ちゃんは心配しないで。私は大丈夫』
「……………………っ」
……感覚を補助する電極は今体にはついていない。それでも、時折、耐え難い、あの時の痛みを無理やりにでも思い起こさせるような鈍痛が走り、顔をくしゃりと歪める。
何度この一日で思い出されたかも、数えるのを止めていた。
「…………」
━━━━こんなに苦しくて痛くて辛くても。
今、自分の立場は。
『中学生が歓楽街を夜遅くに出歩き、一般人に異能で暴行未遂を働いた』というレッテルが貼られている。
……現場に残してしまっていた車椅子から、自分のことを特定されたのだ。
■木里嶺 静織 > ……駆け込むように病院へと向かい、そこで治療を受けた。
仕事が終わったという兄の元へと自分の怪我の知らせが届いたらしく、その後すぐに駆けつけた兄は。
自分の姿を見て泣き崩れていた。自分が悲しませたという針が、深く心に食いこんで。
……そこに居続けてしまうだろう兄が、むりやりでも遠ざかるように、学校への通学を通した。
学校に兄が居続けることは出来ない。だから、そうした。
……それも、授業中にぶり返した痛みが意識を奪い、夕方頃に目を覚まして。
そのまま、それからずっとここにいた。
無理を承知で宿泊を頼んだ。
昨日のことを知った教務課の人が訪れ、昨日のことを1時間以上も尋ねられ続けて。
……眠る気も消え失せてしまって、ただ、出さなくては行けない沢山の紙。反省文の提出を押されて、動きづらい手が、メールのやりとりの少し前にそれらを終わらせた。
読んで貰えるとは思えないミミズののたくったような字を沢山書いて。
「━━━━ひ、ぐ…………」
此処に、兄が居ないことが良かったなと思いながら、痛みと、心の悲鳴が成すまま、ぽろぽろと涙を零した。
■木里嶺 静織 > クラスで向けられる目は、転校生という存在への興味ではなく。
異能によって一般人に暴力を振るおうとしたという恐怖と嫌悪に染まっていて。
……学校に行きたくないという、一日前の自分なら絶対に考えないようなことを、考えさせた。
━━出来る訳がなかった。通って、普通になろうとしたかっただけで。
それがああなるなんて思ってなくて。
……嗚呼、何で。なんて。
「…………私、馬鹿だ……馬鹿だ、なぁ…………っ」
……優しい兄の指が、きっとそれでも液晶越しに優しくあろうとした言葉を涙で濡らす。
そんな優しい兄の、もっと大切な事を邪魔しては行けないと。冷たく返した自分の字を、恨めしく見つめた。
……風が何処からか抜けてくる。冷たい空気の乾いた匂いで、鼻の奥が、つん、と痛くなる。
「……っお母さん……お父さん…………しおり、どうすれば、よかったのかな…………?」
ご案内:「保健室」に白鈴秋さんが現れました。
■白鈴秋 > 少し無理をした。鈍く痛む右腕を治す為道具などを置いて、ジャージなどに着替えてからこうして一旦学校へと戻ってきた。途中ドタドタと慌しく駆けていく風紀の姿も見えた。少し安心した事だろう。
なぜ態々学校へ来たのかというと、パンデミックに負わされた火傷の件は学校も知っているのでここなら利用書を書けば包帯などを借りても特に何か言われたり怪しまれたりすることもないし、薬なども豊富にある。
そう思って来たのだが。
「……?」
ふと、聞こえた泣き声。放置しても良かったのだが……その声が余りにか細く、どうにも放置もできなかった。
軽く頭を掻いて。
「……どこかいてぇのか」
いきなり顔を見ても驚かせるだけだろう。ベッドのカーテンの向こうから声だけで話しかけた。
■木里嶺 静織 > 「……ッひゃう」
小さな悲鳴が、カーテンの向こうから返る。直後に、苦悶の息が続き。
……少し間が開いてから。
「…………せ、先生の人、ですか?……だ、大丈夫です……ごめんなさい……もう、消灯時間なのに……」
……そちらの事を宿直の先生と思ってるのか。萎縮するような色を含んで、細い声はやや上擦った声でいらえた。
ベッドの外側、カーテンを隔てた横には、学校の貸与品である証のシールが貼られた最新型の車椅子。
横にはきちんと並んで置かれた、かなり小さいサイズの上履きがある。
……サイズからすると、中学生位の持ち主だと判別もつくだろう。それが何故この時間、保健室に居るのか。
■白鈴秋 > 「先生じゃねぇよ。だから別に電気は気にするな困るのは学校だけだ」
少し驚いた様子の声を聞いて思わず笑ってしまう。なるほどたしかにこの時間に居るのは先生くらいのものだ。
車椅子や靴を見て大体どの程度の年齢の少女がいるかわかるが……自身も本来はここに居るべきではない人物だし、貴方こそどうして? と聞かれても非常に困る故に。
「……なんでこんな時間にとか深くはきかねぇよ。俺も学生だからな、お互いにバレると面倒な事らしい」
そう答えると椅子に座る。カーテン越しでも椅子が軋む音は聞こえるだろう。
「薬ぬったり包帯巻いたりしてるから。しばらくはいるが……あんまり気にしないでくれよ」
さっきの様子から気にするかもしれないと考えそう答える。
上の服を脱ぐ音などが聞こえはじめるだろう。
「……嫌な事でもあったのか? なんか泣いてたみたいだしよ。言いたくねぇなら言わなくて良いが。」
薬を開く音や塗る音などをさせながらそんな事を聞く。顔も見えない相手なのだから少しは言いやすいかもしれないし、抱えるのは……辛い事をよく知っている身の上だ。
ご案内:「保健室」に木里嶺 静織さんが現れました。
■木里嶺 静織 > 「…………先生、じゃ、ない?…………そう、なんですか」
……少し安堵している声だった。というより、先までは恐らく、先生への萎縮のようなものがあったから過剰に反応したらしい。
……聞こえる音を誤魔化すように、姿勢をゆっくりと変える布ずれが聞こえる。軋む音と、押し殺したような悲鳴を混じらせたが、吐息の後に。
「…………何でも、無い、です」
━━泣いてたことを聞かれていたのなら、そう告げる意味も、伝わるかなという気持ちだった。
言いたくても、それは言えないこと。言っても、もうどうにもならないこと。そして、それへの諦めと、
押し殺して、声よりずっと、ずっと深くに匿った悲嘆。
■白鈴秋 > 押し殺すような、それでも何かを伝えるような”何でも無い”の声。不器用というかなんというか……
少しだけカーテン側に視線を向ける。それからまた元に戻して。
「そうか、まぁ変な夢を見ることはあるだろうな」
軽い口調でそう声に出す。といっても嘘と……本当に夢などと思っていないと彼はわかっていると思わせるように極端に口調を変えた。
それは昔、自身がされた事。まぁあの人ほど上手く行くかはわからないが。
「どんな夢だった」
話を振るように声をかける。それでも話したくないのなら打つ手は無いかもしれない。
だが話したとしてもそれは本当にあったことではなく夢なのだ。
ホントの事は話にくくても”夢”の話ならできるだろうか。互いに顔も名前もしらないわけだが。
■木里嶺 静織 > ━━━━━━━━ゆっくりと、顔を向けたような気がした。
「…………学校の、夢です」
……細く、細く。
「………………クラスの友達と帰ってて、普段、帰る道が、通れなくなってたから、少し、遠回りをして、帰る夢……でした」
夢、というのだ。なら、夢なんだから、きっと、悪夢でもいい。
カーテンの白布の向こうから響く声は。
……自分ではない誰かの夢を話していくように。
「……知らない道で、知らない人と会って…………乱暴、されて、お兄ちゃんから預けられた、大事なものを、取られそうに。なって」
「……取り返そうとしただけなのに、私が、その人に、乱暴をしようとしたって、責められる夢、でした。
……取り返そうとしただけ、で……乱暴なんて、しようと、なんか……っ」
■木里嶺 静織 > ━━━━言葉尻で言葉がほつれ。
……嗚咽が零れた。
■白鈴秋 > 「学校の夢か」
シュルシュルと包帯を巻く音。しっかりと聞いていると思うと話し難いだろうというある種の配慮のようなものだ。
話を聞く限り悪人に何かをされて、それに抵抗したら逆に悪人にされた……という夢なのだろう。
ギシッと少し大きく椅子が軋む音がする。背もたれに深く座った音だ。
「嫌な夢だったな……その兄さんから預けられた物はちゃんと取り返せたか?」
もしそれまで取られたままならば。それは本当に最悪の悪夢だろう。
といっても、それが救いになんてなっていない事は今の彼女の声を聞けばわかるが。それでも、1番最悪の事態では無くなるだろう。家族の信頼を裏切ったという罪悪感まで背負う事にはならないで済むのだから。
■木里嶺 静織 > 「…………取り返し、ました」
それは、夢としては完結している。
……ただその余韻は、少なくともまだ、消えてはいない。
「……先生に、怒られました。異能を持ってる人が、持ってない人に使うなんてとんでもない、って。…………けど、私……取り返そうとしただけ…………盗られて、返してって言ったら、叩かれて、蹴られて……服も、切られて……」
━━そこまでで。
カーテンの向こうから、嘔吐くのを堪えるようなくぐもった息が聞こえた。
「……私、あのまま、ひどいことを、我慢すればよかったのかな。我慢して、ぜんぶ、ぜんぶ受け止めてれば、皆から、嫌われなかったのかな。お兄ちゃんを、泣かせちゃわなかったのかな」
━━━夢という枠を外れて、零れ落ちた言葉。
当たり前のように抵抗をする事が、この結果を導いたことが、そうならない為の最善が何なのか。
自分の正しさが分からなくなってしまって、ただ、酷くその声は抑揚を欠く。
■白鈴秋 > 「取り返せたのか、そこだけは良かったじゃねぇか。それまで取られたままじゃ最悪も良い所だ」
少し軽く言うのはあくまで今話している内容は”夢”なのだから。本当の事のように重く返しては意味がない。
そして、相手の言葉を聞く。泣くのをこらえるようなそんな声。
「そうだな……」
少し考える。きっとこれに正解なんてない。たしかに手を出してしまえば今の様に追い込まれる。だが手を出さなければ……取られたまま。場合によっては乱暴ですまない場合すらありえる。だから……
「どうすればよかったか……ってのは正直言いようがねぇ」
相手が夢という枠を外したのなら。真剣なトーンで答える。だがその言葉は冷たい言葉かもしれない。しかしそれが事実なのだ。
だけどなと付け加え言葉をつなげる。
「もしどれが正解かって答えをつけるなら……少なくとも俺はその行動を間違ってるとはおもわねぇ」
コトコトと何か音がする。静かな中でその音は聞こえるだろう。
「確かに友達には嫌われちまったかもしれねぇが、もし我慢すれば怪我じゃすまなかった可能性もある。そうすればもっと泣いてたと思うぜ兄さんは。それに……女子の友達ってのはどういう関係か俺にはよくわからねぇが。しっかり話せばわかってくれる奴も居ると思う。少なくとも俺はお前の言葉が真実だって信じてる」
コーヒーの匂いがするとベッドの近くの机に置く音がする。自分のはブラックだが彼女のベッドの近くに置くコーヒーは甘めに作ってある物だ。といってもカーテン向こうだから手を伸ばさないと届かないかもしれないが。
暖かい物でも飲めば落ち着くという少しの優しさだ。それに飲まなくともコーヒーの香りは気分を落ち着けてくれるかもしれない。
保健室にインスタントが置かれていたので勝手に使わせてもらった。流石に細かい数までは把握していないはずだ。