2015/08/09 のログ
『室長補佐代理』 > 「なに、怪我すりゃまた来るさ」
 
そういって、今度こそ立ち去り。
校舎から出ていく直前で、ふと、男は思い出す。
生活委員……朽木次善。
保健課も当然ながら生活委員会の一端である以上、それについて尋ねる機会ではあるが。
 
「いや、まぁ……いいか」
 
別に、少し妙な電話をしていただけの人物で、仕事で追っている下手人でもなければ、知己というわけでもない。
わざわざ二度手間するほどの事ではあるまい。
それよりも、溜まりきっている書類の始末のほうが今は大事だ。
そう思えば、時間も惜しい。
それきり、男の思考はデスクに山積した書類の事で埋め尽くされてしまい、他には特に何を思う事もなかった。

ご案内:「保健室」から『室長補佐代理』さんが去りました。
鈴成静佳 > (……笑顔で見送る、とはいえ)
(朱堂さんに出会った最初の印象から、あるいはメアさんから炎の巨人事件の顛末を聞いた時から、ほとんど固定観念のようにへばりついている考え)
(やはり公安は、どこかが変だ。……この感想は覆ることはなかった)

(インフラの維持は、生きたいという原初的欲求、基本的人権を保証するための仕事だ。従事する側も享受する側も、ほとんど無意識といっていいかもしれない)
(対して、治安の維持というのは多分に「正義」「秩序」という概念がつきまとい、不可分といえよう)
(……そして、朱堂さんとの話の中から感じた、彼の「正義」とは)
(まるで、法を害する無法者からひたすら意思を削ぐような。あるいは都市というシステムから無視し、爪弾き、『放逐』するかのような)

(それもひとつの解なのかもしれない。犯罪が実を結ばない社会は、犯罪のない社会と同義といえよう。でも)
(犯罪者といえど、力に溺れた者といえど、彼らは人間。彼らの思ってきたこと、積み重ねてきた人生をひたすら『無為』の彼方に追いやるということは)
(割りを食う人がいて、その人たちが再起する機会を奪う……その意思をも『無為』にすることに、他ならないのでは)

(それは、住人皆を快適に健康に生きられるようにするという、生活委員の立場からすれば、素直に飲み込めない考えである)
(かといって、ひたすらインフラや衛生を改善していけば、それはそれで「より良い暮らし」を求める声はやまない)
(難題である。当然だ。きっとそれは、都市国家というモノが成立してから30世紀弱、人類が悩み続けてきた命題なのだろうから)
(ちょっと世界史を齧った程度の静佳では、考えても詮無きこと)

『難しい話をしていたようね。保健室の番は私がしておくから、アナタは休憩でもしてきたら?』

(いつの間にかデスクの椅子に腰掛けていた養護教諭が、静佳に優しく言う)
(静佳は無言で頷き、難しい顔をしたまま、保健室をあとにした)

ご案内:「保健室」から鈴成静佳さんが去りました。