2016/05/04 のログ
ご案内:「教室」にリビドーさんが現れました。
リビドー >  連休の合間。
 陽ざしは強く、冬から春、春から夏への季節の移ろいを想起させる。
 
 ……自主的に学びたい生徒のための特別講義との一つ。
 同時に、様々な事情で特定の単位や出席が危ぶまれる生徒に単位や出席実績を配るものになっている側面もある。

「と言う訳で特別講義だ。
 普段より長い時間を取っているとはいえ、この時間だけで教え込める事はそう多くない。
 名前だけでも憶えて帰ってくれれば幸いだな。」

 そう茶化しつつ、生徒にレジュメを回させる。
 生徒の数は多くなく、授業態度も様々だ。
 スマートフォンを弄っているようなものもいるだろう。

リビドー >  
「だからそうだな、覚えこませるものは今回はあまり取り扱わない事にしておこう。
 神代の哲学――古ギリシアの住人は世界をどう見ていたか。どう考えていたか。現代においてどう派生したのか。
 彼らはどのような魔術や神秘を持っていたのか。神はどうあったのか。それらを語るの良いが、覚えるにも息が持たんだろう。」

 スマートフォンを弄っている生徒と目が合う。
 そうなった故にばつの悪そうにしていた生徒に、軽く笑ってみせる。

「咎めるつもりはない、自覚があるならボクはそれで良いと思っている。
 完璧な奴などそうあるまい。出来たとして、精々何でもできる位だ。
 ……失礼。悪く言うつもりはなかったんだがね。まぁ、追々話そう。
 本筋の講義にもかかわるから、どの程度触れるかは迷うがね。」

リビドー > 「で、何を話すつもりだったか。ああ、今回は類型だな。
 それを馴染みのある形、キミたちの覚えのある路線でアプローチしようと思っていたんだ。
 それゆえに精確ではない所もあるし、矛盾や雑味もあるだろう。
 俺の方が詳しいと思うかもしれない。そうである可能性もある。
 ま、その辺も踏まえて類型のテーマであるかもしれないな。
 その分、アクセスのしやすい出典と内容を用いたつもりだよ。
 知識としては突き詰めがいるが……さて、プリントに目を落としてみるといい。」

 プリントに並ぶ単語――人名や題名らしきものと、それを補足するようなあらすじの数々。
 それらは少しの学、あるいは遊戯や創作に触れているならば、"竜を殺した英雄の物語"であると目星を付ける事はできるだろう。

「さて、どうかな。何か見えるかい。」

リビドー > 「ああ、"竜を殺した物語"の数々だ。
 この内のいくつかは真で、いくつかは創作で、その創作にも原典があるものは多い。
 もっと知りたければwikipediaを開き、内容に疑問や興味を覚えたら図書館に行くと良い。さて。」

「こいつらには"だいたいの共通項"が存在する。ん、キミ。質問かい。」

 生徒の一人から挙手が上がり、言葉を投げられる。
 "これらは先生が意図的にそうなるものを集めただけではないでしょうか。"
 
 そう告げられれば、頷く。

「ああ。それは否定しないよ。だが、少なくはない。真と言うには推しが弱いが――その辺は週明けの講義で詰めよう。
 キミは確か、ボクの講義をそれなりに取っているだろう。……だがそうだな、時間があれば少し触れるか。」

リビドー > 「話を戻そう。
 とりあえず、こいつらには類型がある。類型とできる祖型がある。
 昔に語られた概念でもある。"竜殺しの物語の祖型"だ。」

 間をおいて、板書を始める。
 板書されたものは2枚目のレジュメにあるものであり、板書している間にめくらせる。
 めくる音や、ノートを取る音が消えた事を確認してから向き直り、口を開く。

「『英雄』が『怪物』を『神の力』を借りて殺す。
 これが、竜殺しの物語の祖型とされているよ。
 興味があればスマートフォンの展開を許可するから、ドラゴンスレイヤーで検索してみるといい。
 キミたちがどこまで精確に触れる事が出来るかはわからないが、ある程度のものは読み取れるはずだ。
 真を知るものにとっては嘘や薄っぺらいものに見えるかもしれないが、とりあえずはこれでいい。」

リビドー > 「同じような引用や出典が続くかもしれないが、とりあえずはそう思っておいてくれ。
 ――さて、どうだい。適当な童話や物語を浮かべてみて、この祖型に当てはまるものがどれだけ浮かぶかな。
 少し外れたものもあるだろう。そこも踏まえて、結構当てはまらないかい。
 竜殺しでなくとも、『悪さをする怪物』を『旅人』が『何らかの力』を借りて退治する。
 そこに引っ掛けられるものは結構あるだろう。何が言いたいかと言うと……」

 再度の挙手。
 内容は"俺は漫画を古本屋で買って読むが、当てはまらないのも多い風に思う。"

「ん、ふむ……なるほど。先にそっちに触れておくか。疑問を抱えたままだと飲み込みづらいだろう。
 最初に結論を提示すべきだったかな。」

リビドー >  
「全く、特別講義では時間が足りないな。簡潔に私見を置いておこう。
 それらは『多様性』と『発展』だ。
 結局のところ、先ほど提示したものは祖型・類型だからな。
 そこから『何故』と要素を分解し、『よきもの』はこうだと造り直す。
 ……とりあえず、結論に戻るぞ。その上で駆け足で振り返ろう。」

 息を吐きだし、間を置く。
 生徒の意識を切り替えさせようとそうしてから、さらなる板書を加える。

リビドー >  
「これらの【類型】の概念は【祖型】を扱う概念こそが、
 哲学者プラトンが提唱し以後の哲学史で時折出没するイデアだ。
 ――と、ボクは教えよう。

 つかみを好くするために誤魔化したが、とんだ遠回りになってしまったな。
 全く、ボクでも完全な講義など出来ないか。努力せねばならんよ。」

 これまでの板書のどれよりも荒く、その単語を書き連ねる。

「と言っても、このイデアって概念は結構ぶれのあるものだ。
 最初に世に広めた哲学者だって、中期と後期では微妙に扱いが違う
 中期では祖型として、後期では理想として語っている節があるが……ま、置いておこう。
 哲学は下手を打つと翻訳者のさじ加減の段階で意図が変わる。原書で読めといわねばならんし、
 原書で読んだとしてもキミが展開する時には微妙に形を変えているだろう。」

リビドー >  
「それはイデアを語る事すら困難を極めると言う事に他ならない。
 更に言えば、理想や模範を完全に扱う事などそうできやしない。
 但し、それがあるとは認識できる。

 ――出来ないとは言わないが、全知全能の存在だって、創造神にだって出来ていないことではあるとは思わないかい。」

 見せつけるように、指先に焔を灯す。

「少なくともプラトンの語るデミウルゴスは失敗した。失敗することで、同時にイデアがあることも提唱した。
 ……混乱を極めるこの世界は、どうだい。少なくとも完全と呼ぶには程遠いだろう。」

リビドー >  
「だから安心して努力しろ。理想(イデア)を追い求めるといい。
 誰にだって手中に収める事ができないものだ。故に挫折する必要も卑下する必要もない。但し。」

 火を消して、机に手を置く。

「それは皆に言える事だ。キミの嫌いな奴だって、尊敬する奴にだって適応される。
 イデアの見方が違えは相違も生まれるだろう――その時に上手くやれるように、実力や感性を磨く事は大事だぜ。
 誰もかれも完全でなく、自分も完全でないと自覚して努力しろ。が、無知の知だったかな。他と優れているかどうかは別としてもだ。」

リビドー >  
「以上だ。少々難解にしてしまったが、
 結局のところ『理想に向かってがんばれ』と言う話だ。ボクのこれだって完全なイデアには足りえない。
 よりよく語れると言う者がいるのなら、純粋に取り入れたいよ。
 イデアだって……ああ、やめておこう。時間だ。」

 響くチャイム。

「これにて講義は終了だが、みな仲良くしておけよ。
 教師としてはイデアの見方が違うなら殴り合えなどと言えん。」

 冗句めかして笑ってみせてから、余ったレジュメなどをまとめて抱える。
 そうしてから、その場を去った。

ご案内:「教室」からリビドーさんが去りました。