2016/06/13 のログ
ご案内:「教室」に赤城 雪子さんが現れました。
赤城 雪子 > 放課後の美術教室。

今日は雨で、そのせいか、美術部部員も……いや、校舎に残っている生徒自体が少ないのだろう。

雨がざぁざぁと降りしきり、強い風がその雨粒を時折窓へと叩きつけている。

建物自体から、人の気配は薄かった。

教室の電灯は半分しかついておらず、薄暗い教室内には女子生徒が一人居るだけだった。

窓際の席に座り、机の上で手を動かす。

その周りには置きっ放しにされたイーゼルや出しっ放しの彫刻があり。
電灯の明かりに照らされて、女子生徒を中心にした複雑な影模様を壁に作っている。

赤城 雪子 > 女子生徒の机には木片と鉄片と、発泡スチロールと、まぁ、廃材なんだろうものが積み上げられている。

「…………~……ん~…………」

小さい声が何か歌いながら、両手が廃材を組み合わせて、何かを作っているらしい。

円柱のような、壷のような、花瓶のような。
あるいは、螺旋を描きとぐろを巻く蛇のような。

そんな意味の分からないもの、ぼんやりとした顔で、虚ろな目をして作っている。

赤城 雪子 >        ざぁ…………ざぁ…………
…  ………~……ん~…… ……
   ざぁ…………ざぁ…………
~ン…………ぅン…………

赤城 雪子 > 雨の音と、小さな歌が混ざって奇妙な調和を持った音楽を作り出す。

両手で作っているものに、更に木片をつけて、削って、鉄片を曲げて、刺して、スチロールを削って接着剤で貼り付けて……

接着剤をつけたスチロールは接地面が溶けて崩れて、おかしな着き方をしても全体で見れば それが正しい形 であったかのようで。

赤城 雪子 > 歪なパーツに彩られた創作物の壁に映った影は、飛び出した部品がまるで中から何かが飛び出そうとしているかのような。

あるいは、外から何かが入り込もうとしているかのような、とても奇妙なものだった。


「ー……   ん、ゥ……  ~~~  」


ふと、女子生徒が手を止めて。
幾分か意識の戻った目で、作ったものを眺める。

「…………変なの……」

自分で作っているものであろうに、口から出てきたのは短い一言だけ。

赤城 雪子 > 「………………ツ、いたぁい……」

暫く、窓の方を、雨の景色を見ていたが、少し形のいい眉を寄せる。
痛みを堪えるように軽く、頭を左右に振ると、机にあった塗料の瓶の蓋を全部開く。

「…………ら……~……」

塗料の瓶の一つに乱暴に筆を突っ込むと、そのままの勢いで創作物に色を塗る。

ベタベタ、ペタペタ。

使った色を水で拭いもせず、別の塗料の瓶に突っ込んで、混ざった色を更に塗る。

ぺた、ぺた
  べた   べた

塗った色の上から更に色を塗って、更に色を塗って。
最初の色がもう分からなくなるほど塗り重ねて、分厚くしていく。

赤城 雪子 > 塗り重ねられた色は元から歪だったものの形と合わさって、複雑な模様を作り出す。

赤く白く黒く青く黄色く、金色で緑色で銀色で灰色で塗られた模様ができあがっていく。


「~~~~……ん~~~
   ……ぅ~~   …………」

奇妙な歌と共にゆっくりゆっくり、手を動かす。

赤城 雪子 > そうして出来上がったのは、多種多様な色と模様で塗りたくられた、色んな形の大きさのパーツの飛び出した、歪な坩堝。


「…………は……」


女子生徒は手を止めて、壁に映った坩堝の影を見る。

飛び出したパーツが複雑に形づくる影により、それは最早、何かが出て行こうとするのではなく、何もかもを吸い込もうとしているかのような印象を与えるものになっていた。


「はは………………気持ち悪い。の。」

赤城 雪子 > そのまま何分か、何十分か、影を眺めていただろうか。
一際強い風が吹いたのか、窓を叩く雨音が強くなる。

その音にはっと顔を上げると、虚ろだった目に若干の精気を戻して、大きく、何かを振り払うように頭を振った。


「…………帰ろ。」


溜息と共に、立ち上がると使っていた道具を乱暴に片付ける。
ガチャガチャと塗料の瓶を片し、筆を汚れた布で包んで鞄に投げ込んで。

赤城 雪子 > ノロノロとした足取りで教室を出て、出る間際に電気を消す。
ドアの閉まる音と共に、真っ暗になった美術教室は完全な無人になった。

残ったまま放置された作品の脇には、小さいプレートが一つ。

"天国の残火
    赤城 雪子"

ご案内:「教室」から赤城 雪子さんが去りました。