2017/04/21 のログ
宵町 彼岸 > 「ええ―…そんなに……」

それはもう丁寧に対応してくれた。
見事に真正面から捕球されてしまうと
見せずに帰るという計画は少し難しそう。
差し出された椅子に小さく頷きちょこんと腰かけると
かくしを少し探った後そのまま手に握っていたことに気が付いて

「えと、これ……」

おずおずと手を差し出す。
その手に握られているのは受講届と入部許可証の二枚。
そのどちらにも細い文字で宵町彼岸とサインがしてある。
後は担当講師が受理して印を押せば正式なものとして処理されるもの。
それを渡すべきなのか……いや、渡して良い物か悩みながらも
それを差し出さないと話は前に進まない。

「……ボク、芸術の才能、無いです
 だから、きっと授業、あんまり意味ない、かもです。
 受講しない方が良い、なら、その……」

小さな声がどんどん小さくなっていく。
どうしても窺うような上目遣いになってしまう理由は
決して自分の体が小さいだけではなくって……
自分でもよくわからないけれどきっと
これが自信が無い、という感覚なのだと思う。

ヨキ > 差し出された紙の文字に目を落とす。
受け取ろうとした手を――彼岸の様子を見るなり、引っ込めてしまった。

「そうか。……いや、受講しない方がよい、と決めるのは、我々教師ではないよ。
 教師はいつだって、君たち学生が学びにやって来るのを歓迎しているんだから」

言って、新しい湯呑に傍らの水筒から冷たい緑茶を注ぐ。
それを彼岸の傍へ置いて、身体ごと相手へ向き直った。

「まずは、それに名前を書いて持ってきてくれたこと、どうも有難う。
 随分と勇気が要ったろう?

 そうしたら……少しばかり、ゆっくりと話をしてみようか。

 焦って受講して、やはり失敗だったと感じてしまうことも、
 受講したかった気持ちを押し止めて後悔することも、どちらもヨキの本意ではないんだ」

目を細め、穏やかな声で笑い掛ける。

「授業に意味を見出すのは、君自身がやるべきことさ。
 教師はそれを応援するために居るのだからね。

 ――どうして君は、自分に才能がないと思ったんだい?」

宵町 彼岸 >   
「あ……」

ひかれる手に何処か安堵の混じったような様子で
何処か複雑な感情の一息を吐く。
受け取ってほしかったのか、拒絶して欲しかったのか
……多分そのどちらも正しい回答。
このヒトはこんな風に笑うのかと思う。

「……ボクが作る、ものはいつも、からっぽ、だから」

膝元に手を置いたままぽつりとつぶやく。
彼女が芸術が好きな理由は、そこに感情が宿っているから。
否が応でも読み取れてしまう彼女にとっては
その純粋な感情のうち、それに注がれる激しい感情こそが美しいと感じた。
……それを何というかはまだわからないけれど。

「好き、だけど、届かない、から
 ……だから」

だから好きなのかもしれない。
決して届かないと思うからこそ
星と同じように焦がれるのかもしれない。
そして同じくらい手に届いてしまう事が怖い。
手が届けばとたんに色を失ってしまう様な気がして。

「ボクが触れると、奇麗じゃなくなっちゃう……から」

ある意味とても珍しい本心からの言葉。
あの作品を作った人だからこそ、こんな言葉を伝えるのだろう。
あの子供のような世界への喜びを芸術にぶつけた作品を
この世に送り出した、目の前の人物に。
膝の上で両手をぎゅっと握り、俯く。
こうしてただ言い訳を並べても本当は答えなんてわかっている。

ヨキ > 少しずつ零れる彼岸の言葉に、じっと耳を傾ける。
相槌を挟むこともなく聞き終えてから、ゆっくりと口を開いた。

「君は確か……先日、『製図やコピーなら得意』だと言っていたね」

過日の言葉を借りて、話を続ける。

「そもそも人間の目というものは、とても都合がよく出来ていてね。
 同じ景色を写真と視界とに映し取ったとしても、見え方は大きく違うだろう?

 写真は、人間の目に捉えることの出来ない瞬間を見事に切り取ってみせる。

 一方で人間の目は、写真に収めきることの出来ない『そこには存在していることが見えないもの』まで感じ取る。
 たとえば……人の在り方や、その場の空気や、光の移ろいや、思い出といったものをね」

彼岸の表情と反応とを見ながら、ひとつずつ言葉を選んでゆく。

「自分が空っぽだと思うなら、はじめは『借り物』から始めてみればいい。
 身の周りの美しいと思うものたちを、触れて、感じて、とことん写し取ってみればいい。

 偏執的なまでに手を動かしてみれば、自ずと対象の裏側や内面まで見えてくる。

 ……感じて覚えたことを自分の中で捏ねくり回し、自分の中から沸き起こるものを
 引っ張り出してくるのは、その後でだって十分なのさ」

茶で喉を潤し、ゆったりと腕を組む。

「『本当に美しいもの』は――誰に触れられようとも、手垢ひとつ付きはしない」

宵町 彼岸 >   
「そのままにしか、写せない、です。
 何処まで行っても、そのまま、で」

絵画にしろ音楽にしろ技術自体は非常に高いレベルにある。
それもそうだ。彼女には記憶経験だけで言うなら常人の何倍もの累積時間がある。
理論だけでできるものではないけれど、その経験すら取り込んでしまえば
理論上模倣できないものはほとんどない。

けれど、それはどうしようもない程救いのない世界のお話。
それらを無かったことにするにはもう戻れない程……染まり切ってしまった。
そんな汚いモノが触れていいのだろうか。
そんな穢れたモノが近づいても良いのだろうか。
美しいものを知った時から、
重い濁った澱がずっと抉る様に囁き続けている。

「……"本当に美しい物"は」

だからこそその言葉はつき刺さるような感触を残した。
断言された言葉を噛み締めるように反芻する。
その言葉を言い切る事はとても眩しく……そう言い切れることが何よりも羨ましかった。

きっと本当はそう信じたい。
原型すら失った何かが触っても、決して変わらない物がある。
同じように信じたいと叫んでいた誰かは鏡の中で泣きそうな瞳をしていた。
それのことはもう、思い出せなくなってしまったけれど
もう信じる事は出来なくなってしまったけれど
確かにそれを信じたがっていたような気がする。

「……どこかにそんな人、いた気が、するです」

ふにゃりと少しだけ小さく微笑む。
この人はきっと、本当に心の底からそう信じているのだろう。
表情が判断できなくとも我が事のように誇らしげにしているだろうと
願いに似た確信とでもいう様な、そんな心持ちで……

「……そうだといい、なと、思うです。
 綺麗なモノ、好きだか、ら。
 借り物、でもいい、なら、少しだけ、出来るです」

呟くように小さく口にするとぴょこんと椅子から立ち上がり、小さくお辞儀をする。
そうしてふらりと気まぐれな風のように職員室から足早に去っていった。
椅子の上に記名された二枚の紙だけ残して。
忘れ物の多い彼女ではあるもののそれは決して"忘れ物"ではなかった。

ヨキ > 「そのまま、か」

微笑む。

「ヨキはいいと思うぞ、そのまま。
 だが、文字どおりに『そのまま写して』なお何も描き出すことが出来ないのなら。

 詰まるところ――君の目には、何も見えていなかったことになる。
 写し取る対象の中には、君の与り知らない心や、来歴や、背景といったものが含まれているはずだからね」

冷ややかな言葉の選びのようでいて、語調はすこぶる優しく、穏やかだった。

「君に鍛えるべきものがあるとすれば、それは巧拙からなる作品づくりの技術じゃあない。
 対象を見つけて、触れて、読み取り、解釈し、丁寧に掬い上げる視野と度胸だ。

 戦うためには、武器のみならず『戦い方』も学ばなくちゃ。
 芸術の勉強は、芸術それのみによって出来ている訳ではないんだよ」

彼岸の挨拶に、こちらもまた頭を下げて微笑み返して見送る。
――足早に去った彼岸が残した用紙に、目を落とした。

「……………………、」

昼休みも間もなく終わる。
午後の講義へ出てゆく人の中で、ヨキは独り呟いた。

「ヨキとて、何の根拠もなく話しているのではないよ」

ペンを執る。
受講申請と、入部届。

教員の記名欄に、日付と自身の名をさらさらと書き記す。

「この目で見て、肌に感じたのだから」

何より強く、美しいものを。

ご案内:「職員室」から宵町 彼岸さんが去りました。
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「保健室」に宵町 彼岸さんが現れました。
ご案内:「保健室」から宵町 彼岸さんが去りました。
ご案内:「保健室」に宵町 彼岸さんが現れました。
宵町 彼岸 > 「んぅ……」

夕方の保健室、カーテンで仕切られたベッドの中に微睡む姿があった。
寝心地はあまり良くなかったのか布団は乱れ、額にうっすらと汗をかいていた。
服は白衣の他にはパーカーと最低限の物しか身に付けていないようで
転がりまわったのかそれもかなり乱れてしまっている。
ある意味平常運転だけれど今日はまともに服を着てくるのを忘れてしまった。
流石にその恰好は目に悪いから保健室で何か借りてきなさいと送り出されたものの……

「……んぁぁ」

授業は特にでなければいけない物もそう多くない。
そのままベッドにもぐりこみ……気が付けば日もだいぶ落ちている。

『すんませーん。養護の先生いるっすか!
 ちょっとこけて怪我したんで治療をお願いした……っていねぇ』

勢いよくドアを開ける音と共に男子生徒……おそらく運動系の部活の生徒が
保健室内に入ってくる音で目を覚ます。

「はーぃ……。せんせーでーすぅ……」

寝ぼけ眼でカーテンの隙間から顔を出すと
目をこすりながらぼやーっと返事をした。
彼女は確かにせんせーと呼ばれることもある研究者だ。
けれどこの状況下では適切な返事とは言えない。
求められているのはそっちの先生ではないのだから。

「……知らない事は無い事と同じ。うん」

一応医術師としての資格は取得している。
まぁ白衣だし勘違いしてくれるでしょう多分という
非常に適当な言い訳をしながら小さく欠伸をすると
そのままスリッパを足に引っ掛けるとペタペタと医務机の前に歩いていき

「……今何時だろー?まいっかぁ」

時計に目を向けながらくぁぁと大きく伸びをする。
当然のことながら元々自身の服装にはお構いなしの上
寝乱れており色々と危うい格好になっている事から
年頃の学生にはかなり目に気の毒な事になっているけれど

「……ゆーがたかぁ。良く寝たぁ。
 それで、怪我?ちょっと見てあげよ―かぁ?」

そんな事そもそも気にかけないタイプでもある。
ふかふかの椅子に腰かけ揺らしながら小首を傾げてそちらを眺める。

ご案内:「保健室」に烏丸秀さんが現れました。
烏丸秀 > 夕方だ!
学校だ!

サボりの時間だ!

まったくもって不良学生の思考をもって保健室へと突入。
女子生徒とかいたらナンパして、可能ならばイタしてしまえというとんでもない不埒物。
それが烏丸秀である。

「んー、でもまぁそんな都合よく……」

都合よくなのかどうかは知らないが。
医務机の前に、なかなか刺激的な格好の女生徒が一人。
なんだろう、これは、据え膳?

などと思いつつ、遠慮なく医務机へと向かう。

宵町 彼岸 >   
『おおぅ……あ、えっと、はぃ、よろしくお願いしまっす』

男子学生は戸惑いながらも保険医だと勘違いしてくれたらしい。
この島特有のなんでもあり感は彼を納得させるのには十分だったようだ。
……そこまで考える余裕がなかったのかもしれないけれど。
まぁどっちにしろ大人しくしていてくれるなら何でもいい。

「ん―……転んだだけみたいだねぇ。
 汚染痕なし、魔術反応も見られない……ん。ただの事故だねぇ
 これくらいならぁ……別にいっかぁ」

いくら一見大したことがない怪我とは言え
ここ最近は異能や魔術等の影響を考慮する必要がある。
特にこの島ともなれば……そんなものが日常茶飯事で島のどこかで起きている。
実力主義の世界なら特にそうで嫉妬や八つ当たりでの怪我など珍しくもないが、
見逃すことは許されない。それは些細な事で重大な事件に至る可能性もある。
その為この島での医療従事者というのは非常にレベルが高い能力を求められる。
本当に些細な事で人の命を奪いかねないから。

「良かったねぇ。こけないように気を付けないとだよぉ?
 これぐらいならぁ、報告はしなくていいよぉ。
 コーチにだけ一応話しておけば大丈夫ぅ」

そう言って傷口を撫でると、その傷はまるで元々なかったかのように
綺麗さっぱり消えており、男子学生は目を丸くする。
それもそうだ。彼女が特に魔術等を使ったようには見えないだろうから。

「お大事にぃ」

そう言って驚いている男子生徒に手を振り送り出す。
何やら首を傾げているようだけれど、この島はそういう物。
そう考えて納得したのだろう。
去っていく背中を見送った後、椅子に戻り……

「それでぇ……君もどこか悪いのかなぁ?」

ばさりと腰かけて足を組みつつ椅子を回転させ、新たに入ってきた男子生徒へと目を向けた。

烏丸秀 > 生徒かと思いきや先生のような物言い。
いや、その格好で先生は――どちらかといえば、無い。
いまどきコスチューム物のAVでも、もうちょっと頑張る。
白衣にパーカーに下着と……あ、治してもらった男子生徒、ちょっと屈んで出て行った。
まったく情けない、それでも男か。

「いや、ボクは怪我でも病気でもなくてサボり」

しれっと言うと、医務机の前の椅子に腰掛ける。
記憶の棚を引き出すが……該当の先生、無し。

「それで、えーっと……保険の先生?
ボクの記憶では、今日まで保健室に来た事は無かったと思うけど」

保健室に出入りする美人教諭は大体チェック済みなのである。

宵町 彼岸 >   
「あははは、さぼりかぁ。
 ならボクと一緒だねぇ?
 駄目だよぉ?サボっちゃ。体以上に頭が悪くなっちゃうよぉ?」

臆面なく吐き出された言葉に笑いながら
そのままくるくると椅子を回転させ続ける。
なんだかちょっと楽しくなってきたけれど……

「んやぁ?ボクはせんせー資格は持ってるけどぉ
 ここのせんせーじゃないよぉ?
 一応この島では生徒だもぉん
 うわぁ、目が回ってきたぁ」

ぐでぇと机に突っ伏しながらけらけらと笑い声を響かせる。

「保健室のせんせーは全員覚えてるとかそんな感じぃ?
 でもボク、保健室にはよくいるよぉ?君の記憶もまだまだだねぇ」

揶揄うように口にしながら少しだけ顔を上げそちらに目を向ける。
最も彼女自身転入生で、なおかつ不定期に色々な場所に出没するのだから
それを把握しているものの方が少ないのは仕方がない事なのだけれど。

烏丸秀 > 「だいじょぶだいじょぶ。
ボク、そもそも頭悪いからねぇ。これ以上悪くなりようがない」

あははと笑いつつ、もう一度観察。
うん、なかなかかわいい。肉付きもグッド。

「あぁ、生徒かぁ。
そりゃ知らないや、先生しかチェックしてなかったし」

そもそも学校に来るのも稀な男である。
保健室に美人の先生が来る日とかは喜んで行くのだけれど、生憎最近はそういう事も無かった。
おかげで今日も学校に来たのが久しぶりという体たらく。

「へー、保健室によくいるんだ。
そりゃ良い事聞いた。キミみたいにかわいい子が居るんだったら、学校に来るのも悪くないし」

にこにこと笑いながら、医務机に椅子を寄せる。

宵町 彼岸 >   
「そーぉ?なら安心なのかなぁ?
 まぁそういうのもありっちゃありなのかなぁ?
 うん、きっと安心だねぇ」

何故かその説明で納得した。
よくわからない理論で納得する辺りまごう事なく変人の類。
何処か飄々とした印象を受けるけれど、顔の判別が出来ないので
他の情報を頭の中の生徒名簿と照らし合わせていく。

「なーにぃ?年上ずきぃ?
 がっこの保健室のせんせって人気だよねぇ。
 男子ってそういうのなんでそんなに好きなのぉ?
 皆教えてくれないんだけどぉ」

このテンションにいきなりついてくる辺り
人慣れしているんだろうなぁとぼんやり思う。
なんだかんだ言ってこういう人の周りにはいろいろと集まるものらしい。

「うんー。何処にいるかは気分次第だけどねぇ
 がっこ楽しいよぉ?色々変な人が居るしぃ」

自分の事はそれはもう完璧に棚上げした。

烏丸秀 > 「そうそう、美人な年上好き。
あとかわいい年下の子も好きで、綺麗な同い年の子とは運命を感じちゃうかなぁ」

つまりかわいかったり綺麗だったりすればどんな年齢でも構わないという事である。
おおよそ節操というものが無い。

「そりゃぁねぇ。
保健室という密室、学校でありながらベッドというシチュエーション、それに白衣で美人!
これが好きじゃない男なんて居ないね」

断言しながらもう少し観察。
おおよそ飄々として、とらえどころがない少女。
好みではある。あるのだが……
どこか……

「居るよねぇ、変な人。
ぼかぁ、かわいい変な子は大歓迎だけど。
授業があんまり好きじゃないんだよね」

宵町 彼岸 >   
「可愛ければ大体なんでも許せるよねぇ。わかるぅ」

力強く肯定。可愛いとか綺麗は正義。主に見る側の意見として。
どうせ見るなら綺麗だったり可愛い物の方が良いに決まっている。
最も……顔の造形等は判断できないのだけれど。

「ああ、なるほど?
 なんだかちょっとわかったような気がする?」

頭上にはてなマークを浮かべるように首を傾げながらも
適当に聞こえかねないような返事をする。
頭の中はミステリ小説的な世界だった。
もしも本ならこれから起こる殺人事件にワクワクドキドキである。
今現在そういう状況だという事はそもそも気が付いてすらない。

「授業……あー。
 ちょっとわかるぅ。特にもう知ってる授業とかは
 受講するのすっごい眠くなっちゃう……
 せんせの方も寝てていいよって空気出すしぃ」

資格持ちの相手に解説をさせられるなんて
講師にとっても一種の罰ゲームのようなものだ。
常にテストされているような心持で落ち着かないに違いない。

……その目は目の前を見ているようで現を見てはいなかった。

烏丸秀 > 「そうそう、かわいければいいよねぇ。
あ、でもどんなにかわいくても男はノーセンキューだけど」

男はノー。
でないとあの公安とかが寄ってきそうな気がする。
油断は禁物である。

「で。ボクは烏丸秀。しがない生徒。
キミの名前を聞いていいかな?」

どんな付き合いもまずは名前から。

しかし……

(なんとなく……)

宵町 彼岸 >   
「そこは意見のそーぃ?
 オトコノコでもオンナノコでも
 可愛ければオールオッケーかなぁボクはぁ」

ある意味此方も節操なしだった。
というより、区別がつかなければみんな同じだ。
何だかやたら周りを警戒しているように伝わってくる言葉に
過去に言い寄られでもしたのかな?と首を傾げる。
その様は理想的な動きと角度。

「……名前。
 名前……どこだっけ……メモ……」

ごそごそと懐を探るも、今日は探るような服をそもそも着ていない。
数秒探すと何かを悟ったような表情で動きを止めた。
ああこれ、メモない奴だ。

「んーと、あ、カナタ、カナタだよぉ。
 ……多分」

本気でちょっと自信が無さげだった。

烏丸秀 > 「あー、そっかー。
まぁ、色々あるからねぇ」

言い寄られたというか。
なんだろう。あれは。
囮捜査なのかなんなのか。
まぁ気にしないでおこう。

「ふぅん、カナタかぁ。
よろしくね、カナタ」

名前が思い出せないらしいが……
まぁ、この島の事だ。
そういう存在も居るだろう、うん。

「で、カナタは――研究員?
にしては、保健室で寝てるってのは珍しいと思うけど」

宵町 彼岸 >   
「色々あったのかぁ、なら仕方ないよねぇ」

声に混じる哀愁に若干の同情を込めた声を送る。
何だろう?本気で言い寄られでもしたのかもしれない。
当人はきっと一生懸命だったと思うので
なんかこう許してあげよう的なアトモスフィアを感じないでもないけれど
其処はまぁ突っ込まない事にしよう。

「そそー。研究員だよぉ?
 いちお、学生兼研究員ってとこ
 本当はねぇ?研究室籠ってたいんだよぉ?」

不満げに唇を尖らせる。
明らかにその話題になると不機嫌になる。

「でもねぇ、駄目っていうのー。
 室ちょがね?今は結果待ちだから来なくていいっていうんだよぉ
 それに今は大事な時期だから学生しっかりしなさいってぇ
 そんな事良いのにぃって言ったら怒るんだもん。
 だからぁ、しばらく結果が出るまではがくせ―してるんだよぉ」

客観的に彼女の経歴を見るならそういうのはある意味自然かもしれない。
記録上元々身寄りがなかったうえに、育った孤児院は消失して
天涯孤独の身の上なのだから……まさにカワイソウな存在。
もっと腫物を扱うような扱いを受けても仕方がない事ではある。

烏丸秀 > 「学生兼研究員かぁ。
カナタ、頭良いんだねぇ」

常世の研究所はそれこそ無数にあり、研究員もかなりの数が居る。
だが、結果待ちで学生をしている、という事は……

(……研究員とは名ばかりの、披検体の可能性もあるねぇ)

まぁ、そういう事も多いだろう。この島なら。
ただ、こんな自由に出歩けているという事は、そんなに悲壮な事情でもないのかもしれない。

「学生するなら、学校で勉強するだけじゃなくて、遊びもしないとねぇ。
買い食いとか、帰りにゲーセン寄るとか、映画を見に行くとか」

そういえば最近映画を見ていない。
なんか『ゾンビシャークVS悪魔兵団』とかいう映画がやってた気がする。
誰だ、監督は。

宵町 彼岸 >   
「そだよーぉ?これでも天才なんて呼ばれてるんだからぁ」

机に臥したまま気だるげに微笑み告げる。
普通に見たならそれこそ心臓を掴まれると称されるような笑顔でも
人慣れした相手には何処か作り物めいた印象を与えるかもしれない。
ある意味そんな表情を作る事に慣れた、疲れたような笑み。

「ゲーセン、とカラオケはねぇ?行く約束してるよぉ。
 だからねぇ、その人と一緒に行くまで我慢するんだぁ。
 買い食いとかそいうのは好きだけどぉ……えーがは見た事ないかなぁ」

けれど、続く言葉には何か思い出したのか
今度はぱぁっと花のような笑顔を浮かべる。
映画に関しては名前は知っているものの、
そういえば今まで挑戦してみた事は無いかもしれない。

「からむーはそいうの好きぃ?
 せいしゅん、をおーか?してるんだねぇ?
 ……日本語って難しい」

先週やってた映画は正直興味を惹かれたけれど
一緒にいたクラスメイトに何かを悟った表情で
肩を叩かれ静かに首を振られた。
あれは見ない方が良いというボディーランゲージだったと思う。
それを悟れるほど穏やかで慈愛に満ちた表情だったと他の人が言っていた。

烏丸秀 > 「凄いなぁ、天才かぁ。
ボクは頭も悪いし、能力も無いからなぁ」

もう、これっぽっちも無い。
なんかアイテムを使った瞬間移動とかはしてるけど、それも非常に弱い。
この島の分類で言えば、無能もいいとこである。

「あ、カラオケもいいねぇ。
――んー、映画かぁ。最近のオススメだと、なにかなぁ」

『ゾンビシャークVS悪魔兵団』はちょっとレベルが高すぎるだろう。
他に最近ヒットしたやつだと

「これかなぁ。『your name?』と、『トゥルー・ガジラ』。恋愛映画と怪獣映画だよ」

スマホで二つの予告編を見せてみる。
そういえばまだどちらも見ていない。
誰かとデートで行って来ようか。

「からむーって、なんかお菓子みたいな響きだね。
うん、まぁ、ボクは人生を謳歌してるからね。
愉しんでこその人生だよ」

むしろ、それ以外の生き方を知らないとも言えるのだが。

宵町 彼岸 > 「……ふぅん?
 まぁ天才とかそ言うのはあんまりよくわかんないけどねぇ
 勝手にそう言われてるだけだしぃ」

呼吸と声のトーンに何かを察し、一瞬沈み込むような笑みを浮かべる。
まぁ確かにこの島は比較対象が多様過ぎる。嘘ではないかもしれない。
特に程度問題になってしまえば正解なんて無いに等しいのだから。
それがその通りだとは……いえるかは本人のみぞ知る事だろう。

「恋愛……うーん、そいうのはよくわかんないからぱすぅ
 怪獣は……かいじゅーは……」

見た後きっと再現しようとするだろうなぁと自分でもぼんやりと思う。
たいていの怪物なら大体作れると思う。真面目に。
うん、やめといた方が良いかもしれない。

「楽しんでこそかぁ。うん、そう聞くと楽しそうだねぇ
 でもこう、よくない?からむー。かわいいよ?からむー」

どこか適当にけらけらと笑いながら人差し指を指揮棒のようにふり
謳うように、楽しそうに何度かからむーと唱えてみる。
その様子は無邪気で楽しそうに見えるかもしれない。

烏丸秀 > 「あはは、そっかぁ。
まぁ、色んな人が居るよね、この島」

彼女の笑み、事情、そして話す内容。
なんだろう、魅力的な少女なのだが……

(……空っぽなのか、壊れているのか)

おおよそ人間味というものが薄い。
そういうタイプも結構居るのがこの島なのだが。
表面的には普通の女の子のような話もするので、余計不気味だ。

「うーん、気に入ったのならそれでいいけど。
楽しいよー、うん。ボクは人生が本当に楽しいからね」

あははと笑って返す。
さて、この子は本当に愉しんでいるのだか。

宵町 彼岸 >   
「うんー。変わってて面白いよぉ。
 昔はこんな世界があるなんて思いもしなかったもん
 特にこの島はすっごく変な所だよねぇ」

何処か探るような雰囲気が伝わってくる辺り、
表面だけで受け取るタイプではないという事が伝わってくる。
本当なら要注意人物なのかもしれないけれど、
ここ数日の出来事で彼女はだいぶ寛容性を得ていて……

「うんー。気に入ったよぉ。
 まぁすぐ忘れちゃうんだろうけどぉ。
 ああ、そうそう。ボク、人のこと覚えてられないから
 次会ったとき判らなくっても怒らないでねぇ」

思い出したように口にする。
ある意味とても素直に生きているのだけれど
……まぁそんな事は些細な事。
そんな事よりは一応ちゃんと伝えるべきことは伝えておこうと思う。

烏丸秀 > 「本当、変わってて面白いよね」

さて、そろそろ時間だ。
名残惜しいが、行かなくては。

「そりゃ残念だねぇ。
まぁ、今度会ったらその時にまた覚えてもらうからいいよ」

くすりと笑い、ひらひらと手を振り。
保健室を後にするだろう。

ご案内:「保健室」から烏丸秀さんが去りました。
宵町 彼岸 >   
「じゃーねぇ」

その背中に小さく手を振ると、再び椅子をくるりと回転させる。
そのまま勢いを込めて机を蹴って……

「にゃふぅ!?」

勢い余って椅子ごと地面に倒れこむ。
イメージではベッドまでキャスターで滑っていく感じだったのだけれど…

「……あはぁ」

遅れて髪がふわりと床に広がる。
それを切っ掛けとしたかのように保健室の床に倒れこんだまま、小さく肩を揺らし始めた。
それは次第に大きくなり保健室の中へと響き渡っていく。

「次は、どんな顔を見せてくれるかなぁ」

実に無邪気な笑みを浮かべたままくすくすと笑うと瞳を閉じる。
ここが床でも、ベッドでも、彼女にとって大した違いはなかった。