2015/06/23 のログ
ご案内:「保健室」にビアトリクスさんが現れました。
■ビアトリクス > (無人の保健室に二人の生徒が入ってくる。
一人はしっかりとした足取り、
一人はふらついた足取り)
(ふらついた足取りの生徒――ビアトリクスは
基礎トレーニング科目……いわゆる体育の授業中に
体調を崩して、保健課の生徒に担ぎ込まれてきた。
汗を流しすぎたのだろう)
■ビアトリクス > (ビアトリクスは応急処置を施され、
奥のベッドへと横たわる。
かつぎ込んだ保健課の生徒が退散すると、
彼は一人残される形となった。)
(体力のない彼は、
こうして体調不良で保健室に運ばれることが
そう珍しい話でもなかった)
(ベッドの脇に置かれた経口補水液を一口含んで、
荒く息をつきながら、天井をみつめる)
■ビアトリクス > (……この学園に来るまえから、
保健室と名のつくものには常連になっている。
どれほど体力をつけようと訓練しても、
貧弱な肉体が鍛えられることはなかった)
(幼少のころから徒競走ではいつも一周遅れ。
あらゆる運動競技では足手まとい。
誰もペアを組もうとするものもなく、
ついでにいえば給食を食べるのだって遅い)
■ビアトリクス > (呪われているのだ)
(呪われている――と
少なくともビアトリクスは確信している)
(この“ビアトリクス”という名前に)
■ビアトリクス > (ペットボトルの経口補水液をもう一口飲もうとして傾け、
枕元にこぼす)
「……」
(ビアトリクス、とは過去に存在した女魔術師の名前だ)
(どういうつもりで、男性として産まれた自分に
女性の名前がつけられたのか――
それはもはやどうでもいい。
とにかくこの名前はひどく恥ずかしいものだった。
いまでは恥ずかしいと思うことすらもなくなってしまった)
(男性に求められるような力強さ、猛々しさ、頼もしさが
すべて欠けてしまっているのは、
この名前のせい――
ビアトリクスの中では、それがいつのまにか真実になっていた)
(息が苦しい)
■ビアトリクス > (……苦しい)
(震える手が、ペットボトルを取り落とす)
「あっ」
(床に落ちたそれは、当然ながら
中身をぶちまけて
床を水浸しにする)
「……」
■ビアトリクス > (ずっとバカにされてきた……)
(ずっと侮られてきた)
(せめてこの身が本当に女性であったなら……)
(幾ばくかこの苦しみも減っていたのだろうか)
(そんなことを何度繰り返し考えてきたことか)
■ビアトリクス > (呼吸のペースが早くなる)
(水分と塩分が足りない……
こぼしたものを拭う元気も、
新しいものを取りに行く余力もない)
(心臓が爆発しそうだ――
胸元をぎゅっと握りしめる)
ご案内:「保健室」に神宮司ちはやさんが現れました。
■神宮司ちはや > (こんこんと控えめなノックの音。
保健室の外側から「失礼します」という声。
ビアトリクスはどこかで聞いた覚えがあるかも知れない。)
■ビアトリクス > (掴んだジャージの胸元が、じわりと黒く滲み出したところで、
聞き覚えのある声が響いた)
「……あー……」
(喘ぎながら、ベッドから返事をしようとしたが、
意味を為す言葉が出てこなかった)
■神宮司ちはや > (暫くの間外で待っていたものの中から返事がないようなので
そっとドアを開いて中に入る。
誰も居ないのかな、と思いながらきょろきょろと辺りを伺うと、ベッドに横たわるビアトリクスに目がとまる。
びっくりした様子で相手を見つめるも、床にこぼれた液体を見てただならぬ光景に慌てて)
ひ、日恵野さん?!
■ビアトリクス > (息が荒く、意識が朦朧としている。熱中症か貧血の症状に見えるだろう。
ちはやの姿を認めると、震える手を動かして冷蔵庫を指し示す)
「……そっちの冷蔵庫の中に
似たようなペットボトルが……何本か詰まってるはずだ。
……悪いけど、取ってくれないか」
(息も絶え絶えな様子でそう頼む)
■神宮司ちはや > (指差された冷蔵庫と体調の悪そうなビアトリクスを交互に見つめると、
わかったというように何度か頷いた。
冷蔵庫を開いてそれらしいペットボトルを何故か3本も抜き出すとうさぎのような落ち着きの無さでベッドに近寄る。
水たまりを避けて、ビアトリクスにペットボトルを一本差し出す。)
お、起きられますか?あ、あとペットボトル開けますか?
(心配そうな顔で、相手を見つめる。
何かしら手が必要ならすぐに貸すだろう。)
■ビアトリクス > 「……頼む」
(青と白を貴重とした配色のペットボトルの一つの蓋を開けてもらい、
飲ませるように言う)
(むせて口の端からこぼす)
(横たわって激しく息をついていたが、
少し経つと落ち着いたようで、
身をわずかに起こして、ちはやを怠そうに見る)
「フゥ……
助かった。……ええと、ちーちゃん。」
(目の焦点がまだ定まり切っていない)
■神宮司ちはや > (むせる相手に落ち着いて飲んでもらうよう、
背中に手を回し上体を支える。
慌てないようにゆっくりと背を擦る。)
いえ、ぼくもよく調子を崩すから……。
でも今は先生いらっしゃらないんですね、困ったなぁ……。
(自分ではこういう時に適切な処置がきちんと出来る自信がない。
誰か他の人が居ないか、きょろきょろと周りを見渡してみる。
もちろん誰も居ないのだが)
■ビアトリクス > 「……まあ、こうしてこれ飲んで安静にしてれば大丈夫だろ。
体調は崩し慣れてるからわかる。
……落とした奴は、まあ、後でなんとかする」
(妙な理屈を言って、
ジャージの袖で口元を拭う。
片方の手でシーツを掴んでいる)
「……ああ、きみも体調不良で来たのか」
(だとしたら世話させて悪いな……とビアトリクスは思った)
■神宮司ちはや > あ、でも体調不良の人に掃除させるわけには……。
ぼくやっておきますから日恵野さんは寝ていて下さい。
いえ、ぼくはこの間お世話になった保健の先生にお礼を言いに来たんです。
今はいらっしゃらなかったみたいですけど。
(ビアトリクスを寝かしつけると、掃除用具入れを探して中から雑巾とバケツを取り出す。
床にこぼれた水を雑巾で丁寧に掃除し始めた。)
■ビアトリクス > (……そこまでしてくれなくてもいいんだけどな、
と、掃除をするちはやを少し気まずそうに見る)
「……そうか。……」
(再び横になり、タオルケットをかぶる。
少しは体調が良くなってきたようで、
言葉にも精彩が戻ってきた)
「……恥ずかしいところを見せたな」
(礼の言葉のかわりに出てきたのは、そんなセリフ)
■神宮司ちはや > (あらかた吹き終わるとバケツに溜まった水と雑巾を流しに捨てる。
きちんと絞ってバケツの水滴も拭き取ると用具入れにまた片付けた。
手を洗ってベッドの近くに椅子を持ってくると、そこに座り
心配そうにビアトリクスを見る。)
いえ、誰だって調子が悪い時はありますから
恥ずかしいことなんてないと思います……。
(それからそっとタオルケットを被った相手の頭らへんに少しだけ触れてみる。)
■ビアトリクス > 「ふわっ」
(頭に触れると、ビクリ、と大げさに感じられるぐらいに
身を震わせて反応する)
「な、な、なんだよ。
びっくりするだろ」
(身を起こしてちはやを向く。不意に触られて狼狽したらしい)
■神宮司ちはや > (驚かせてしまったことに逆にこちらも驚いて
慌てて手を引いた)
あ!ご、ごめんなさい……!
調子が悪い時って人にこうしてもらうと……
ちょっと落ち着くかなって……
い、いやだったらごめんなさい……。
(しょげた様子で両手をひらひらとして、もう何もしませんのポーズ。)
■ビアトリクス > 「いや……」
(あからさまにしょげた反応に
罪悪感を刺激されたような表情になって)
「その、別に……いや、というわけじゃ……
ない、が…………」
(言葉の途中で、再び横になって
向こうを向いてしまう)
■神宮司ちはや > (そっぽを向かれると困ったように手をもじもじと動かして)
あの、ぼくちょっとだけ体調をよくするおまじない、できるんです。
……おまじない、かけてもいいですか?
(恐る恐るといった調子で問いかける。)
■ビアトリクス > (年下の男子相手に何をやっているんだろうか……
と少し情けない気分になりながら)
「……おまじない?
……好きにすればいいよ」
(そっぽを向いたままで。
興味が無いわけでもないし、嫌というわけでもないが
どうしても言い方がぞんざいになってしまうのに
わずかに自己嫌悪が芽生える)
■神宮司ちはや > は、はい!では……失礼します……。
(そっと再び頭に手をのばすと優しく撫でるように)
いたいのいたいのとんでいけ~
わるいのわるいのとんでいけ~
(間の抜けたような軽い調子で悪いものを吸い取るように撫で続ける。
同時に集中して、本当に少しだけ相手の苦しみや痛みを軽くする『魔法』を発動する。
それほど練達してはいないから効果はお察しだが果たして少しは良くなるだろうか。)
■ビアトリクス > 「……」
(一体どんなおまじないだろうと思ったら
随分と間の抜けたものだった)
(……しかし確かに気分が良くなっている。
超自然的な効用なのかというのはさりげなさすぎて判別がしがたい)
(あっけにとられていたが……まるで子供扱いされているとふと気づく。
なのに快方に向かっているという事実がやたらと恥ずかしく……)
「う……く……」
(羞恥に強く握りしめたシーツに極彩色の色彩が滲んでいく。
やがてそれはビアトリクスが気づかないうちに
タオルケットや床へと跳ね出すように広がっていく……
放っておけばちはやのほうへと伸びていくかもしれない)
■神宮司ちはや > 日恵野さん……?
わっ……?!
(相手のかすかな声に首を傾げた。
もしかしておまじないが効かなくてまたなにか調子が悪くなってしまったのだろうか。
はっとしてシーツから滲み出した極彩色に気づく。
じわじわと水に溶けるインクのようにこちらへ広がっていく何かに驚きながらも身をすくませ逃げることが出来ない。)
■ビアトリクス > 「あっ――」
(ちはやの反応にようやく何が起こっているか気付き、
奇妙な色彩の発生源となっている自分の手の首を強く掴む)
「……この!」
(――それで《踊るひとがた》の暴走は収まり、
部屋を侵蝕していたものは水に溶けるように薄まり、消えていく)
「……」
(身をすくませた、ちはやの姿が目に映り)
(訳を説明することも、おまじないの礼を言うことも出来ず、
タオルケットを頭からかぶり、
罪悪感と情けなさに、それこそ幼子のように身体を丸めて
震えて押し黙ってしまった)
■神宮司ちはや > ………あっ……
(乱暴に自分の手首を握るビアトリクスにそんなにしなくても、と声をかける前に
色彩は消えて元の白いシーツに戻った。
今一瞬起きたことに驚きながらも、ビアトリクスと目が合ったとき
自分がどんな反応をしていたか、悟る。
恐れてしまった。たぶん自分もやられたらとても傷つく態度。)
ご、ごめんなさい!日恵野さん……ぼく、ちょっと……びっくりしちゃって……
(何を言っても言い訳にしかならない気がして段々と語尾が小さくなる。
そうかこれが、ビアトリクスの異能――。
咄嗟に離してしまった手をもう一度、相手へと伸ばし指先で触れようとする。)
ごめんなさい、これが日恵野さんの異能だってわからなくて……えっと、もう、怖くないです。
……ありがとうございます。
■ビアトリクス > 「…………」
(少しの沈黙をはさみ)
「…………その、これは、ぼくが悪いんだ。
は、恥ずかしくなってしまって……」
(震えながら、かすれた声でとぎれとぎれにそう口にする。
クリーム色だったタオルケットは、感情を映して蒼に染まっていた。
今度はそれ以上には広がりはせず)
「…………ごめん、なさい」
(触れる手を拒むことはしない。
撫でられれば、丸まったままではあるが……
ビアトリクスの小刻みな震えは止まるだろう)
■神宮司ちはや > 恥ずかしい……?
(何か恥ずかしがらせるようなことをしてしまっただろうか。
振り返るもどの辺に理由があったのか判然とせずそれ以上は聞き出そうとはしない。
蒼く染まったタオルケットから自分も色が移ってしまうかもしれないが
今度は恐れずにしばらくの間ぽんぽんとあやすように撫で)
そろそろぼく、失礼しますね。
あまり長居してまた体調くずしちゃうとよくないし……。
(そっと手を引くと席を立った。)
■ビアトリクス > 「んん……」
(撫でられて、気持ちよさそうな声が我知らず漏れる)
「…………ありがとう」
(ようやくそう言った)
(ほどなくして、安心したのか
丸まったまま静かな寝息を立て始める……)
■神宮司ちはや > (どういたしましてと、あいまいな笑みを浮かべる。
相手が寝入ったのを確かめるとほっと息を吐いた。
起こさないように慎重に、音を立てないように静かに保健室を出ると、もう一度だけ最後に振り返り、そのまま去っていった。)
ご案内:「保健室」から神宮司ちはやさんが去りました。
ご案内:「保健室」からビアトリクスさんが去りました。