2015/07/16 のログ
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (夕刻の美術室。廊下にも人気はなく、しんとしている。折り畳み式の長机を広げ、本を読んでいる。
 『色彩の文化史』。ほかにも机上には数冊の本が重ねられていた。歴史、文化史、生活史、変遷史、風俗史。
 いずれも歴史について扱っていながら、テーマはみなばらばらで、取りとめがなかった。
 動物観の、裸体の、ヨーロッパの、家庭料理の、交通の……)

(黙したまま、視線は右から左へ文章を追っている。
 時どきページを捲る以外には、校舎をなぞる風の音が響くだけ)

ヨキ > (章をひとつ読み終えるごと、手にした本に親指を挟んで表紙を閉じ、瞼を閉じる。
 人間に比べれば、ひどく遅い読書だった。眼鏡の下から指先を差し入れて、目頭を擦る)

「………………、くらくらする」

(人間の姿になって、十年と少し。
 一朝一夕で学ぶにはあまりにも膨大な歴史の一端が、手のうちの、それから目の前の数冊の書物に圧搾されている。
 一ページにつき、およそ800文字強。800文字が裏表で一ページ。それが全部で、284ページ、322ページ、438ページ、618ページ……)

ヨキ > 「…………。図書室、とか、本屋、というのは……」

(あの場所を好きこのんだり、勤めたりする人間は、ときに恐ろしくはならないのだろうか、と思う。
 こんなにも――こんなにも文字と、思想と、意図と、創意とが固く詰め込まれた書物というものが、目の前に十万、頭上にも十万と収められている、ということに。
 数えたことがある。書架の一段に、およそ50冊。七段から八段。まとめて一連。四連で一列。
 一列が二組。左右で二列。『社会科学』のほんの一区画。
 学園が所蔵する書物の、ごく一部。それ以外のまだ見ぬ本。あるいは島で流通さえしていない紙の山……)

「……だめだ」

(持っていた本に栞を挟み、机に置き、頬杖を突く。
 何気なく木のタイル張りの床へ視線を落とすと、そこには刷毛で擦ったような、古い油絵の具の跡があった)

「……………………」

(山積している。この視界に入る何もかもに、人の営みが。
 頬に当てた手のひらで顔を拭い、額を押さえる)

「(……――途方も、…………なさすぎる……)」

ヨキ > (目を閉じたまま、手のひらから額が滑り落ちる。
 ごとん、と重い音がして、机上に額をぶつける。
 目の前に置かれた本はみな黒ずみ、色褪せ、擦り切れて、図書館の所蔵している本ではないことが分かる。
 いずれも古書店で買い求めた古本だ。
 それもまた、見も知らぬ誰かの手を経て自分のもとへやってきたもの)

「……ヨキは」

(傍目には、机に突っ伏し、両手を机上に力なく置いた格好で丸くなっている)

「ヨキは……人間ぞ。疑いようもなく」

(たまに少し、疲れるだけで)

ご案内:「教室」に蒼穹さんが現れました。
ご案内:「教室」に朽木 次善さんが現れました。
ご案内:「教室」から朽木 次善さんが去りました。
蒼穹 > (夕方。初夏に入ったこの頃は、昼が長く、夜が短い。)
(放課後となった今でさえ、少し昼の鮮やかな青色と夕色が鬩ぎ合っている…くらいかもしれない。)

(静まり返った廊下、いやにしんとしたその廊下を、何の偶然か練り歩くわけだが…。)

(たまたま、美術室の横を通りかかる。窓から見える、机上に突っ伏し広がる黒髪。)
(ここからは聞こえないけれど、何かを呟いていたようで。)

(がらーっと、ノックもせず扉を開けて無遠慮にも一歩そこへ踏み入れてみる。)

お、おーい、だいじょーぶですかー。
(外見先生っぽいけれど、実に馴れ馴れしい口調にて、突っ伏した彼へと入り口から声をかけようか。)

ヨキ > (扉の開く音。人の気配。机上を引き摺るように頭を引き起こすと、椅子に腰掛けたままの格好でやってきた少女を見る)

「――ああ」

(相手が生徒らしいことを察すると、小さく笑う)

「済まない、驚かせたな。少し居眠りを。
 君は……委員会の、見回りか何かかね?」

(机上に広げていた本をまとめながら、美術室は辺鄙なところにあるから、と、眉を下げて笑う)