2015/07/20 のログ
ご案内:「ロビー」に朽木 次善さんが現れました。
朽木 次善 > 携帯電話を片手に。
反対の手に缶コーヒーを持って、話をしている。

周囲には生徒が行きかい、その雑踏に言葉は紛れる。
ウワサ話や、世間話に混じっているからこそ、言葉をそこに滑りこませるように通話する。

「……ええ。
 そう、ですね。センパイ。
 公安か風紀に、知り合いいませんかね。出来れば、話が通じる系の。
 俺、生活には知り合い多いんですけど、ちょっとそっちに交友ないんですよね。
 出来れば、一定以上の発言力がありゃいいんですが、多少なりとも情報に通じてるなら誰でもいいす。
 ……フェニーチェの、情報をちょっと貰いたいんですよ」

朽木 次善 > 声を、落とす様子はない。
誰の耳に入っても構わないとばかりの声量で、何も濁さず、何も誤魔化さずに言葉を電話の向こうに投げる。
その言葉は人々の雑踏の中に紛れて、その単語に引っかかる人間以外は足も止めない。
既に猥雑な流言飛語に名前が乗る程度にまでなっているその劇団の名で、朽木を見る者はいない。
元より風体が与太を流しているとしか思えない風体をしているのだ。当然とも言える。

「……いや、大丈夫ですよ。
 深入りはしません。ただ、情報として知っておきたいだけなんすよ。
 ……あっちの地区、異邦人街の方も俺たち仕事するでしょ?
 現状がどうなってるのか、そういう情報ってある程度以上の正確な情報になると、
 風紀や公安側で制限が掛かるじゃないすか。
 ほとんど現場にそういうのが降りてこないんすよ。若いのが不安がってまして。
 なので……秘密裏に、出来れば私的に現場に情報を下ろしてくれるルートが、ちょっと欲しいなって」

息を一回吸い、吐く。

「……あれの首謀者の名前って、わかってるんですか」

ご案内:「ロビー」に『室長補佐代理』さんが現れました。
朽木 次善 > 「………そうすか。
 いや、すいません。なので……まあ、どこかにパイプ通せないかなって思ってるんすよ。
 そういう情報の統制を超えた情報が、現場に正しい影響だけを与えるわけではないことはわかってるんです。
 でも、それがどういう姿で、今どうなってるのかっていうのが、
 どうにもこっちまでイマイチ降りてこないんすよ。
 分かってます。そういうのを統制して統括するのが彼らの仕事だっていうことは。
 でも、風紀や公安も現場が居るはずで、だったらその現場の人間は俺たちのこと多少は理解してくれるんじゃないすか。
 俺は別に、風紀や公安の領分を侵そうと思って言ってるわけじゃなく、
 かち合う可能性があるのなら、知っておくことはマイナスには働かないんじゃないかって」

一回、言葉を止める。
声量が上がっていることに気づいた。
電話越しにセンパイが困っていることにも、冷静になってようやく気づく。
いつもの調子に戻り、嘆息した。

「すいません。ちょっと熱くなりました。
 ただ、嘘は言ってないです」

『室長補佐代理』 > 授業の合間。
死ぬほどある課題を、各教室で授業を終えた教師にギリギリのタイミングで届け終え、男は摩耗していた。
ロビーを通じて右往左往を繰り返し、丁度三往復。
それで課題の提出を一先ず終えた男は、うんざりした顔でコーヒーを片手にロビーのソファに腰掛けた。
それだけで、普通ならこの話は終わりのはずだった。
背後から……丁度、背後のソファに座った男から、その話が聞こえてこなければ、この話は語られることもなかった。
 
だが、その話が聞こえてしまった。
 
それなら、男もまた登場人物となることは避けえない。
これは、そういう一幕であり、それだけの話だった。 
一言も語ることもなく。振り向くこともなく。
ただ、その話を背後から聞く。傍耳を立てる。
その必要が、ある話だった。

朽木 次善 > 背中合わせにソファに座って傍耳を立てる男に意識など行くわけもなく。
意識は電話だけに向けられている。ソファを挟んだ背中合わせのまま、通話は続く。

「……知りたいんですよ、フェニーチェのこと。
 あれを、一時的に拘束しかけ、接触した人間が居ることも、噂では聞いています。
 その真偽は、俺には確かめようもないですが」

息を吸い、大きく吐く。

「接触したってことは、今の公安や風紀の権能で、
 その首謀者の身元がわかっていないなんてことはないんじゃないかと思います。
 ……現場の人間にとって、それは死活になりえる。
 先に確認された『死立屋』についても、その後の続報が何もないまま、
 俺たちはそこを現場とするならその地に赴かないといけないんですよ。
 それを、その全てを汲んでほしいとは言いません。
 でも、避け得る物を避けることも備える事もできないまま無知を貫けというのであれば、
 俺たちは首を縦には振ることは出来ませんよ、センパイ」

口内に、再び熱い吐息が充満するのを感じる。

「人が、死にましたよね。
 公安では、為す術なく。次は生活がそうなる可能性も、十分にありえる話じゃないですか。
 ……だから俺は、少なくともその現状だけは、知っておきたいと思うんです。
 すいません……パイプがないセンパイに言っても、しょうがない話でした」

『室長補佐代理』 > 目前に当事者のいない世間話だからこそ聞ける『正当な評価』を聞いて、口元を歪める。
傍目から見れば『そう』評価して当然だ。
言い訳はいくらでも出来るが出た『結果』は覆らない。
ある程度は織り込み済みとはいえ大勢の公安委員が死に、首謀者は未だ拿捕されていない。
傍目から見れば惨憺たる有様といえるだろう。
声しか確認していない背後の男の打擲は正当であると、男は胸中で嘯いた。
そしてだからこそ、調査部別室とは相容れない『正答』であるとも。

朽木 次善 > 「いえ、責めてるわけではないです……そんな声出さんでくださいよ。
 俺も、最初からそんなに大きく期待して言ってることではないので……。
 整備課だけでどうにかなるとも思ってないですし、調達課にも声かけてみようかと、っと」

後ろに伸びをしたところ、背後に先ほどまで居なかった誰かが座っていて、
自分の身体がソファを押したことで迷惑を掛けたかと頭を下げる。
何も言ってこないのであれば、そのまま話は続くだろう。

「……いえ、そんなつもりは、本当にないですよ。
 そんな仕事熱心に見えますか? 見えませんよね。今もコーヒー片手に時間つぶしてますよ。
 冗談す。そこはしっかり怒るんすねセンパイ。
 ……いえ、違いますよ。次の現場、別にそっちの方向じゃないです。
 安心してくださいよそこは。
 でも、そっちの方で仕事してるやつももちろんいるんじゃないすか。
 今日の別班のシフト見てませんけど、最近一年も既に現場にどんどん投入されてますし。
 ああ、三枝君って知ってます? 知らないか。今度紹介しますよ。女の子す。
 そういう子が危険な目に合うのって、上の人間がどうにかするべきなんじゃないすかね」

息を吸い、少しだけ声のボリュームを上げる。

「どう思います、センパイ。明らかに不自然じゃないすか。
 それか他の委員会のことは、あいつら別にどうでもいいってやつなんですかね。
 ……もしかしたら、公安には俺達にも分からないようなそれを公表出来ない理由とかあるのかもしれませんよ。
 ただの、理由のない推測ですけどね」

『室長補佐代理』 > 声は掛けず、横目で一瞥だけして顔を確認する。
生気を感じさせない、疲れた顔。
窪んだ眼下に浮かぶ隈は色濃く、こびり付いているように見える。
枯れ木を思わせる風貌と、若干の熱を感じさせる声色は余りに似つかない。
一瞥で分かる印象は、そこまでだった。
左肩同士が向かい合う背中越しの斜向かい。
故に男の腕章は恐らく見えていないのだろう。
都合が良いのか悪いのか。
続く、枯れ木男の『推測』を、黙って聞く。

朽木 次善 > 公安委員には、全くの門外漢だ。
先日ギルバートも自分で名乗るまで朽木にはそれが公安の構成員であることは気づけなかった。
組織として巨大が過ぎる故に、顔を一瞥した程度で分かることが出来ない弊害が表れているとも言える。

「……例えば、首謀者は既に本当は公安に拿捕されていて、それを発表出来ない理由があるとか。
 一番怪しいと思うのは、それが内部犯であるという可能性だと思います。
 風紀も公安も、身内の不祥事には強く拒否反応示しますからね。
 フェニーチェの首謀者が公安委員会の委員だったとするなら、この強固な情報統制にもちゃんとした理由がつきます。
 それを、内部でもみ消すために、彼らは情報を統制して、
 現場に特効薬を与えることなく自然治癒という形で危険への不安を癒やそうとしているとは思えませんか。
 完全な憶測ですよ。
 ただ、こういう理屈であるなら説明がつくってだけの話です。
 今になって他委員会とはいえ、現場に赴くの人間にその人相すら伝えられてないのは、
 もうすでに危険が危険ではなくなっているからだとは考えられませんか。
 委員会同士の軋轢を鑑みなかったとしても、一般人への協力が拿捕に繋がることもあり得るというのに、
 彼らはその手配すら大々的には行っていない。もしかしたら、公的に発表されてるかもしれませんが、
 少なくとも俺が調べた中では出てこない程度には、かなり静かに行われている。
 どうなんですかね。
 ……今、フェニーチェはどの程度の危険度の案件なのか、俺にはさっぱり見えてきません」

目を伏せ、電話口に声を近づけ。

「先の公道での事故として処理された補修工事。
 あれも無関係なんですかね。
 すいません。こっちは整備課の他の班通じて調べました。
 調べても、出てきませんでしたけど」

嘆息は深く、重い。

「せめて。
 その首謀者と遭遇した公安委員にコンタクトが取れれば、後はこっちで引き出せるんですが、
 もしかしてそれも情報制限されてるんですかね。だとしたら、もうお手上げだ」

と言いながら、本当に両手を上げる。
両手を上げて、電話口から口を離したと同時に、ぽつりと呟く。
正面を見据えて、本当にただの独り言のように。

「――フェニーチェの首謀者、本人から接触してこない限りは」

『室長補佐代理』 > やけに弁の立つ輩であると、男は思った。
生活という単語から察するに生活委員会の実働員であることはわかるが、それにしても現場らしからぬ聡明さといえる。
現場の人間は『思想』や『思惑』を考えないほうが仕事がしやすい。
これはそれらを下位に見た言葉ではない。
この枯れ木男が先もいったように、統制を超えた情報が現場に正しい影響だけを与えるわけではないからだ。
故に、その『統制を超えた情報』に辿りつくだけの頭を持った人間は現場から自然と姿を消すのである。
現場の実情よりも、価値もない『真実』とやらに踊らされるばかりに。
かつての部下の横顔を思い出しながら、コーヒーを一口啜る。
枯れ木男の推測は『あり得る話』だ。
説得力もあり、公安は事実、『必要なら』それくらいは平気で行う。
故にそれは十二分にあり得る推測であり、枯れ木男の懸念も間違ってはいない。
 
だが、それだけだ。
 
間違っていないだけ。それ以上でも、それ以下でもない。
故に、彼は電話口でそれを喚き立て、その上で周囲に喧伝しているのかもしれない。
疑いを持つ何者かがいると、それこそ何者かに知らせる為に。
風説としてなら、何がどう伝わろうが誰の責でもない。
 
そのような聡明さと、明晰さを言葉から推察したが故であろうか。
最後に、枯れ木男が言い放った一言に……男は眉根を顰めた。

朽木 次善 > すぐに耳元に電話を戻し、話を続ける。

「……いいえ。ですよね。
 一介の生活委員ですからね。何一つ出来ることはないと思いますよ。
 ……俺は、その辺の人間より何倍も臆病なんですよ。
 だから、そういう危険を先に知っておきたいという、ただそれだけの理由です。
 本当です……何回も言ってるじゃないすか。
 そんな意図はないです、俺にそんな正義のヒーローみたいな正義感があるように見えます?
 それに、俺の異能センパイも知ってるじゃないすか。
 千枚通しの朽木次善すよ。そんな異常者に勝てるわけないじゃないすか。冗談きついな」

缶コーヒーを片手で弄びながら苦笑いを強くした。

「ええ、ですね。
 了解です。すいませんね、この話すんの確かセンパイに対しては三回目かなんかでしたね。
 またこんど奢りますよ。うぃす。ええ、失礼します」

通話を終えて、電話を畳む。
通話時間は、優に二十分を超えている。
行き交う人の数も、その分数にこの学園の密度を乗算した数に相当するだろう。
……その中の何人がこの話題を聞き、何人が耳を傾けただろう。

或いはその中に、自分が求めているフェニーチェそのものがいるかもしれないことだってある。
だとしたら、この通話自体が布石になり、奇縁に恵まれるかもしれない。
自分は、自分の幸運を信じてはいない。どちらかといえば不運の方が昔から仲良くしようと声を掛けてくる。
だったら、そんな幸運を呼び寄せるためには、凡人は凡人らしく、施行の回数を増やすしかない。
自分は間違っていない。それ以上でもそれ以下でもない。
こうやって電話口で言葉にし、風説に載せ、喧伝することでしか周囲に情報を拡散できず。
そしてそういう形でしか、もっと深くに『潜る』事ができない。

公安委員会と背中合わせのソファから立ち上がり、ヌルくなったコーヒーを片手に、
生活委員会の男は去っていった。

ご案内:「ロビー」から朽木 次善さんが去りました。
『室長補佐代理』 > 足音を数え、完全にそれが遠ざかったことを確認してから……振り向く。
当然、そこに枯れ木男の姿はなく、目につくのは生徒の雑踏のみ。
それどころか、先ほどまで枯れ木男の座っていたソファには別の女生徒が座って炭酸飲料を飲んでいる始末である。

撒かれたか? 穿ち過ぎか?

いや、あの男の冴えた語り口から推察するに、可能性は常に『悪い方』に考えた方がいい。
下手をすれば、自分という公安委員がこのロビーを奔走する事を『知った上』で此処にいた可能性すらある。
自分という公安委員の課題が溜まりきっていることは調べれば分かることなのだ。
ならば、その可能性は常に頭の隅におくべきだ。
そう己の思考に保険を掛けるほどに、あの枯れ木男の考えることは『現場の人間』のそれとはかけ離れていた。
その思考の視点は……完全に、『現場の裏を知る人間』のそれであった。
  
「生活委員……朽木、次善……か」
 
偽名であったとしても、口にした以上、そこから『追える』事は間違いない。
ならば、それは……『自己紹介』とみるのが妥当だろう。
どこの誰に対するモノなのか……そこまでは、わからないが。
 
頭を振る。
不確定要素が多すぎることにかわりはない。
なら、それは今結論付けるべきことではないのだろう。
 
胸中で己にそう言い聞かせ、男も缶コーヒーを片手に雑踏に足を踏み出す。

恐らく、今、他に出来ることはない。 
 
 

ご案内:「ロビー」から『室長補佐代理』さんが去りました。