2015/07/26 のログ
ご案内:「保健室」にルフス・ドラコさんが現れました。
■ルフス・ドラコ > 蛍光灯の溶け落ちた室内で、明かりといえば燃える衝立だけで。
室内には荒い息遣いが二つ。
一方の少女の体に、自身の体を覆い被せて深く呼吸する少女の髪は炎の照り返しを受けて紅い。
その下で床に引き倒された少女の息は荒く、浅く。震える声で『助けて』と甲斐なく繰り返す言葉が何度か混じった。
ぽたぽたと落ちた体液が、下にいる少女の顔を濡らす。
口元に入ろうとするそれを拒もうとして、少女の助けを求める声が止まった。
■ルフス・ドラコ > 「……貴女にはまだ聞くことが有ります。その間は、殺さない」
上に位置する少女が、下にいる少女の腕を押さえながら体を起こす。
口を開くと、その顎先に雫になって溜まっていた赤い液体が揺れて振り落とされた。
「腕以外は折られたくないのでしたら、早く答えたほうがいいでしょうね」
背後の炎からは影になって、その血液が流れ出てきている左の眼窩がどうなっているのかわからないだろう。
そこに手術刀を突き立てた、いま引き倒されている少女以外には。
ルフスがまだ無傷の左手を少女の胸元に差し入れて、制服のポケットに収められていた学生証を取り出すと少女は再び呻いた。
先ほどまず押し飛ばした時に胸骨にヒビが入ったか、それとも折れたか。
わかるはずもないので、背後の明かりが学生証に届くように、自分の影から外れるように左手を軽く掲げる。
透かしとプリズムの特徴については、既に調査してある。
「……この学生証は、『無辺』の下部組織で作ったものですよね。
つまり貴女は、その辺りから命令を受けていた」
学生証を見ていた右目が、少女に再び向けられる。
何の光も捉えていないのに紅く、背後の炎よりも赤い瞳が彼女を見た。
「たまたま、いつもの通りに生活委員会保健課として保健室に居たら、
来てしまったんですよね。喉から手が出るほど返してほしい学生証のための標的が。
私が。」
ぽたりぽたりと落ちる血の滴を避けるように、微かに首を振ろうとする少女の胸元に、ルフスが左手を当てる。
「こういうことの経験はあまり無いので、痛くしたとしたらごめんなさい」
胸骨を、押し込んだ。
■ルフス・ドラコ > 左手に体重をかけて、体を沈めて。悲鳴を上げた少女の口元に耳を寄せた。
「慣れてないものですから。次はちゃんと服の上じゃなく、直に触るようにしますね」
ただ『助けて』、と。それだけ繰り返す様には首を振って、再び体を起こす。
そうして左手一本だけで行うにしては実に器用に、ブラウスのボタンを外していく。
「今度は、直に骨をさわりますから。」
悲鳴を上げる少女の口の中へ、顎先から垂れた血涙が入っていく。
むせているのか、呻いているのか、どちらともつかないが、ただ苦しんでいることだけは分かっていた。
「もう一度聞きますけれど」
「誰に頼まれて、こんな凶行に及んだんですか?」
それでも首を振る少女の様には、感心とも嘆息とも取れるため息をついた。
少女から離れて、未だ燃える衝立の近く。
先ほど、この少女に治療を頼んだ時の椅子に腰掛けると、左手で左目を覆った。
■ルフス・ドラコ > 血が、左手をなぞって流れて、肘からぽたぽたと落ちていく。
右手は昨日の銃創が開いたままで、ついでに言えば銃弾も入ったままだ。
いつぞや使ったように、赤龍の血液は炎に近い。その肉体もまたその恩恵に預かりうる。
炎に置き換えることで傷跡はすぐに消えてなくなるだろう。
目の前で苦しむ少女と違って。
左目に当てた左手に意識を集中させて、衝立を燃やしているように炎を呼べば済む話。
どろりと不定形の炎で出来た体のように、存在そのものが燃やすためにある物のように振る舞えば済む話。
だがルフスは机の上に置きっぱなしの治療キットからガーゼを取り出すと左目に当て、包帯は巻かずにその上から眼帯を被せた。
右手の傷にはバンドエイドでも貼っておく。
元々はこの程度のつまらない用事だった。2日か3日もすれば治る傷だが、
"治療"したかったのだ。せいぜい人間らしく。
邪魔が入ったせいで、先程の"遊び"で欲求を誤魔化すことになったから、
それほど理性の側に行動の主導権を取り戻せては居ないのだが。
「……治療していただき助かりました。お礼として風紀委員でも呼んでおきます」
さきほど抜き取った学生証と、さっきまで左目の中に有った手術刀は衝立の火に放り込む。
「その様子なら、今度は本物の一つも手に入るかもしれませんね」
折られた両腕、はだけられた制服。
暗闇の中に顕になった肌を見る度に脳裏によぎっていた、
牙を突き立てて彼女の血液で左目を癒やす欲求も治まっている。
「それでは。お互い二度と会わないように祈っています」
扉を閉めて、どのみちスイッチを押したところで反応のない電灯をオフにして。
赤龍が立ち去ると、部屋にはただ燃やされたものと燃やされなかったものだけが残った。
ご案内:「保健室」からルフス・ドラコさんが去りました。