2015/08/11 のログ
ご案内:「保健室」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
奥野晴明 銀貨 > 「智鏡ちゃん、やっぱりここに居た」

そっと保健室の扉を開き中に一人の少年が入ってくる。
14歳ほどの細い体躯と、無機質な人形めいた容貌。ここにはないどこかを見るような遠い目線を
今はついたての奥、ベッドに寝る一人の少女に注いでいる。

手には欧州土産を入れた綺麗な柄の紙袋を持って、寝ているベッドの少女を驚かさぬように近づいた。
近くにある椅子を引き寄せ、ベッドのそばに座ると彼女を覗きこむ。
星衛智鏡、《鏡の悪魔》――彼女は薄く目を開けてこちらを見つめ返す。眠っていたわけではなさそうだ。
銀貨を認めると、喜んでいるのか悲しんでいるのかわからない曖昧な表情をかすかに見せた。

奥野晴明 銀貨 > 「こんにちは、気分はどう?」

うすく整った笑みを彼女に向けながら膝の上に乗せた紙袋から一冊の本を取り出す。
海外の書店で手に入れた、精細で美麗なイラストの乗った動植物図鑑。文字はすべて向こうの国のものだが文章が読めなくともそのイラストだけで目を楽しませることは十分できるだろう。

「今日はね、欧州のおみやげをほかの学級の子たちにも渡してきたところなんだ。
 智鏡ちゃんにも渡そうと思って。はい、気に入ってくれると嬉しいのだけど。」

そういって寝ている彼女の腕を取り、胸元のあたりに本を置いてから腕を乗せる。
うっすらと視線を胸元に移した智鏡がその拍子を指先でなでた。

奥野晴明 銀貨 > 表情は硬いし反応は薄いものの、彼女がこのおみやげに満足していることはなんとなくわかる。
元とはいえ、結構長い付き合いだ。
言葉がなくともその身振りや手振り、微妙な表情を可能な限り読めれば意思疎通は可能だ。

「良かった、喜んでもらえてこちらも嬉しいよ」

彼女の様子に一つ頷く。今はこの保健室に一人きりだったらしい。
彼女はここの常連だ。勝手にベッドで寝ていることも珍しくない。
だけど彼女の異能を知らない人が入ってきたりしたらきっと大変なことになるのだろうな、とは思う。
彼女だってそれを知って、できるだけ人が居ない時間帯を狙ってくるのだろうけれど。

彼女がここの養護教諭、蓋盛椎月とどういった関係であるかはすでに承知である。
たちばな学級の生徒の、長い付き合いのある生徒ならなんとなく薄々感じられるもので確証はないが。
銀貨は別にそれを咎める気はない。彼女が欲して必要としているのなら、それは彼女にとって大事なことだ。

奥野晴明 銀貨 > 智鏡をはじめとするたちばな学級の生徒たちの多くは、心の奥底で人を恋しがっている事が多い。
突然制御不能な異能をその身に背負わされ、そのせいで仕方なく他の人々との共同生活がおくれなくなってしまう。
人は一人では生きては行けない。特に子供ならなおさらで、誰かの手が必ず必要となる。
それなのに、自身で制御できない異能や魔術は人を遠ざける。

自分たちに分け隔てなく手を差し伸べてくれる人がいれば入れ込むのも当然だ。
それぞれの苦しみが形となった地獄の底で、そっと導いてくれる人のなんと特別なことか。
自分にもそれはよくわかるからこそ、智鏡も蓋盛も銀貨は責めることが出来ない。

突然のフラッシュバック。
自分が異能を制御できなかった頃、足元から無限に沸き立つ蟻や蝶、イナゴや害虫に恐れをなして
研究区の真っ白い密室に閉じ込められ、拘束された日々。
毎日の世話のために慎重に自分に接していた人々の目。悪魔を見るような冷たい眼差し。
そして意図せず事故でその相手を《軍勢》によって食い殺してしまった瞬間。

反射的に目元を指で抑える。呼吸が荒くなる。鼓動の早くなる胸を押さえつけ、大丈夫だと一人唱える。
大丈夫大丈夫、僕は大丈夫だ。大丈夫――

『優等生ヅラのマザコンめ。未だにそれを引きずっていようとは哀れだな』

ふいに目の前の少女からしわがれた声が聞こえた。
そっと顔を上げる、見慣れた智鏡の視線はきょとんとしたものだが何故かその顔がひどくいびつに見えた。

「――こんにちは、《鏡の悪魔》さん」

そっと、囁くようにそう呟いた。

奥野晴明 銀貨 > しわがれた老人のような枯れてかすれてひび割れた声がけたたましく笑った。
《鏡の悪魔》は智鏡が比較的心を許している級友相手には出にくいという性質を持つ。
だがそれは確実に出ないというわけではない。きっといま自分が揺らいでしまったことで智鏡が不安に思ったから発動したのだ。

ふ、と息を整え肩の力を抜くと綺麗に整った笑顔を少女に向ける。

「マザコンはひどいな。否定はしないけれど」

『母親の訃報を聞いて心身を安定させたお前が何を言うか。あの女がずっと恐ろしかったのだろう?邪魔だったのだろう?
 彼女の死を知って一番最初にでた感情を覚えているか?”安堵”だ。
 彼女が死んでようやく自分があいつの枷から外れたように感じたんだろう?

 代わりにその気持を自覚した時、お前は罪の意識で無意識にその時を止めた。
 忘れたくないのだろう?彼女の死もあの時の”安堵感”も。
 お前の中で母親の存在は一等大きい物だった。これがコンプレックスでなくてなんだというのか』

がさがさと耳障りな声で《鏡の悪魔》が語りかける。全くもってその通りだ。
だがここで無理に反論したり、肯定したりして話に乗ってはならない。
腕を組んで静かに目の前の少女を見つめる。大丈夫だよという顔をして。

奥野晴明 銀貨 > 銀貨が何も言わないのをいいことに《鏡の悪魔》がさらに饒舌になってゆく。

『お前は自分の力を恐れているという体をしているが、実際は違う。
 自らが行動を起こしたことで”責任”を負うことが怖いのさ。
 生徒会に在籍して傍観者に徹しているが本性は自分では何も成し得ない甘ったれのクソガキだ。
 自分にできることはお気に入りの《軍勢》で他の何もかもをおもちゃのようにぶち壊せるってだけで
 それがきっとお前が一番したいことなのに、我慢なんぞよせばいいのにいい子ちゃんぶりやがって

 なんて醜い子だろうね、お前は』

最後の声音は老人から、聞き覚えのある母親のような声音になる。
神経を逆なですることにかけては一級だ、だけどまだそこを撫でられただけでは銀貨は傷まない。
平然と、腕を組んで座ったままじっと耳を傾ける。

「よくご存知で」

皮肉げに口元をわずかに歪めた。
言われずとも、自分の弱さも醜さも抱えたものも汚い部分もいやというほど思い知っている。
彼女の異能に付き合わされるのもこれが初めてではない。何百回とこんな場面は起こってきた。
自分に効果が無いと知ったのか《鏡の悪魔》の口調が、切り口が新たなものに代わる。

『お前、蓋盛と寝ている智鏡に嫉妬しているだろう?自分でも気づかぬほどの、奥底で』

初めて銀貨の片眉がぴくりと動いた。

奥野晴明 銀貨 > 彼の反応に味をしめたように笑うと《鏡の悪魔》がここぞとばかりについてくる。

『やっぱりじゃないか、その反応。
 お前は母親代わりの女が欲しいんだ。いいよなぁあの蓋盛とかいう教師は。
 損なことしかない役回りの異能のお荷物集団を口では面倒だと言いながらなにくれとなく世話を焼いてくれる。
 嬉しいよなぁ、誰からも見捨てられたお前らを、いいやお前を真っすぐ正面から見てくれる女。

 それに優しく、誰にでも股を開いてくれるっていうじゃないか。
 智鏡の時だって、あの女はさぞ優しく抱いてくれたよ。とても柔らかく、甘くて心地が良かった。
 お前だってあの腕で、身体で、包んで優しく抱いて欲しいと思っているのだろう。
 なぁに恥ずかしがることじゃあない。誰だってすることだよ。

 欲しいんだろう、お願いすればいいじゃないか。
 そのどっちつかずの身体を衣服から自由にして、シナを作って懇願すりゃあいいじゃないか。
 抱いてくださいと、簡単なことだろう?きっと彼女は断らないさ。

 母親の代わりにしたって、きっと文句は言わないよ。さぁやってごらんよ』

下卑たやじを飛ばすように、ここぞとばかりに相手の急所を得たりと《鏡の悪魔》が銀貨の心を言葉でえぐり突き刺してくる。
銀貨はその言葉に刺されながら、普段は一片足りとも見せはしない動揺の色を薄く顔に乗せた。
智鏡がその様子に上半身を起こし、不安そうに見つめる。彼女の不健康そうな手が銀貨の膝に置かれた手に触れた。

そのぬくもりを礎に、自己を取り戻す。ぐちゃぐちゃに引っ掻き回され傷ついたものを瞬時に再生するように。
あるいは鉄壁の《軍勢》を呼び出して己を守るかのように心を覆って。

「――……残念だけど、それは無理だよ。
 あの人は弱い人としかきっと寝ないから。

 僕は結構見栄っ張りでね、好きな人達の前で弱いところなんか見せたくはないから」

それだけ言って、乗せられた智鏡の手を両手で包む。

「大丈夫だよ、智鏡ちゃん。僕は大丈夫、君も大丈夫、ね?」

そうして人を安心させることを完璧に計算尽くした笑みで彼女へ微笑みかけた。

奥野晴明 銀貨 > 握られた自分の手と銀貨の微笑みをゆっくりと交互に見ると智鏡はそっと頷いた。
それを皮切りに《鏡の悪魔》が表現するようなおぞましい悪態を銀貨につきながら段々とその声が小さくなってゆく。
あとに残るのは保健室の中の静寂。
何事もなかったかのような普段通りの穏やかな空間。

「ごめんね、智鏡ちゃん疲れちゃったよね。起きるまでそばにいるからもう一度寝てもいいよ」

彼女にそう促すと、ゆっくりと彼女は身を横たえタオルケットを引き上げる。
胸に銀貨からもらった本を抱き、もう片方の手で銀貨の手を握りしめた。
その様子を見て、銀貨がそっと彼女の額にかかった髪をなで上げる。

《鏡の悪魔》に言われたとおり、自分はきっと蓋盛教諭を好いている。
だけど彼女を独り占めするのはどだい無理な話なのだ。彼女はきっと誰も愛せない。
誰も愛していないから誰にでも等しく優しい。

それにまだ、今自分を崩して彼女の前にさらけ出す勇気はない。
きっと一度崩れてしまえば”奥野晴明 銀貨”という存在はばらばらと砕け散りそれこそ《軍勢》が散り散りになるように惑い跡形もなくなってしまうだろう。
それだけは出来ないのだ。自分が潰えるまで、自分は”奥野晴明 銀貨”という形を保ち続ける、優等生でなくてはならない。

外から夏の日差しとともに部活に勤しむ生徒たちの喧騒が聞こえてくる。
智鏡の胸の上下動、穏やかな寝息を聞きながらそっと銀貨は目をつぶった。

ご案内:「保健室」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。
ご案内:「ロビー」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 夏期休業中は通常の授業は行っていないが、そのかわりに集中講義として魔術学研究法と題された授業を行っていた。
その名の通り、魔術学の研究を体験する授業であるが、獅南は毎回、先行研究実績の無い研究課題を用意して来る。
それ故に体験とは名ばかりであり、実際に危険を伴う実験が行われている。

今回の研究課題は【賢者の石】の生成材料に関する実証研究……と、これまた古めかしいが視点の新しい研究を行っていた。
今日の授業は終了したが、目立った事故はなく、同様にして目立った成果もあがらなかった。

「……基本に帰って、単なるエネルギー体として捉えるか?」

生徒たちの報告書を眺めながら、小さく呟いた。

獅南蒼二 > 生徒の発想力は非常に豊かであり、時には稚拙と感じるようなアプローチが成功をみることもある。
今回の課題では、愚直に様々な材料を一つ一つ検証するチームや、禁書に記された材料そのものの生成を目指すチーム、さらには【賢者の石】のもつ性質や属性から、それを模倣した術式を構成しようとするチーム、様々な実験が行われている。

それらの結果や成果は、生徒名は匿名だが、全てデータベース上にアップロードされており、誰でもアクセスすることができる。
さらには、意見を書き込むこともできるようになっており、生徒は世界中からヒントを集めることができる。

獅南蒼二 > 「……今回の課題は、少々難問過ぎたかな。」
などと楽しげに笑いながら、レポートを眺める。
泣き言を言うような生徒は居ないが、行き詰まりを見せているチームも多いようだった。
だが、それこそが研究の本質である。
山のように積み重なる失敗の上に、たったひとつでも成功が輝けば……それが大成功なのだから。

「………………。」

事実、彼自身の研究も、行き詰まりと言うほどではないが停滞しつつあった。

獅南蒼二 > 蓋も開けていない缶コーヒーがテーブルの上に置いてある。
しかも3本も…だ。癖で授業のたびに買うのだが、今回の集中講義では授業中に飲んでいる余裕が無い。
「……………。」
だがそれは、彼にとって喜ばしいことであるようだった。
生徒が知的好奇心をもち、研究に邁進する。そして恐らく挫折し、そこから新たなことを学んでいく。
きっと、今授業を履修している生徒の大半は、失敗を乗り越えることはできないだろう。
だが、一握りの生徒でも…それを乗り越え、魔術学者としての道を歩んでくれれば…。

「………ほぉ、これはなかなか面白い着眼点だ。」

レポートの中の1枚、それは賢者の石を“周囲の魔力を吸収・増幅する装置”と位置付けて研究を進めていた。
恐らく、完成するものは賢者の石とは似ても似つかぬものになるだろう…だが、そうして作り上げられたものはきっと、全く別の発明となる。

ご案内:「ロビー」にネコメドリさんが現れました。
ネコメドリ > てくてくてくと猫のような目をした変な鳥がやってくる。
近くの椅子の下までやってくると、ぴょんと飛び乗った。それはちょうどあなたの隣で──

「っと、お隣失礼……って、うわ!獅南───」

と、断りを入れつつあなたを見れば驚いたように体を竦ませた。

「──先生じゃん。珍しいね、こんなトコいるのはさ…」

この鳥も一応座学であればあなたの授業をいくらか受けている生徒の一人。授業態度はあまりよろしくないが…
ちなみに今日の授業には出ていなかった。

獅南蒼二 > これだけ目立つ生徒は他に居ないだろう。
それに、ある程度の年月をこの場所で過ごしている白衣の男はきっと、貴方の“昔”の事も知っている。
だが、それでも貴方のことを“鳥”として扱っている。

「奇遇だな……丁度、お前を焼き鳥にするかタンドリーチキンにするか考えていたところだ。」

レポートを手に持ったまま視線だけをそちらへ向けて、男は肩を竦め、笑った。
それからレポートをテーブルの上の山へと戻す。

「で、何か言い残したいことはあるか?」
意訳:欠席した理由を説明せよ。

ネコメドリ > 「いやいやいや、オイラ食べてもおいしくないと思わない!?
 よく考えてみてもほしい、んな人間の知性を秘めた生物をだね……って、ヱ?何言い残したいコトって…あ、あ~~~~~」

このやり取りは過去、何度かあったようで、いつもの如くすぐに言い訳をし始めた。

「いや、ホラ、今夏季休暇中ですし、オイラさっきまでバイトしてたし、つまり忙しいし、おすし、ですし、っていうかそもそも何やってたのよせんせー」

欠席早退お構いなしなこの鳥は、"鳥になったあたり"から大体こんな調子であった。
レポートの山を見ればなにやらうんざりしたような顔。『行かなくてよかったー…』とかそんな風に思ってる。

獅南蒼二 > 「そうかそうか…そう言えば賢者の石の材料は“生きた人間”という文献もあるのだそうだ。
 人間の知性を秘めた生物でも可能なのかどうか…これは非常に興味深い研究課題だとは思わんかね?」
そしてそんな言い訳も何度か聞いているらしく、獅南は慣れた様子でそう返す。
勿論本気ではないだろうし、本気だったらもうきっと実行している。

「なに、いつも通りの、退屈な授業の振り返りだ。
 …………飲むか?」
3本のコーヒーのうち1つを投げ渡す。翼を手のように使えることも、よく知っているから。

ネコメドリ > 「はっはーん、つまり先生はオイラを使って賢者の石を作りたいワケだね!って、ナルカーッッ!!
 ──っていうかさ!賢者の石の材料に生きた人間とか先生、鋼の錬●術師読みすぎじゃない?好きなの?」

と、冗談には冗談で応酬。いつも大体こんなやり取りなんだろう。多分。
投げ寄越された缶コーヒーは、受け損なって少しその場でお手玉してからキャッチした。

「…オイラ、こーしーってあんまし好きじゃないんだけどなぁ、
 でもまー、先生がオイラに何かくれるのって珍しいし、せっかくだし頂いておくよ」

あー、どこやったかなーとか言いつつ後ろ手にごそごそしていて、しばらくするとその翼に白砂糖の入った瓶が握られていた。
缶を開けてからそれに砂糖を匙三杯分入れる。

獅南蒼二 > 「ははは、アレは確かになかなか面白い漫画だな。
 ……錬金術に関して多大なる誤解を招きそうな気もするが。」

読んでいたらしい。楽しげに笑ってから、こちらも缶コーヒーを開ける。
珈琲が好きじゃないとは贅沢なやつだ。

「ほぉ、嫌なら別に飲まなくても良い。」

なんて言いつつも、奪い取るつもりはない、好きにするがよい。
珈琲を一口飲んでから、小さく息を吐き……視線を、大きな鳥へと向ける。

「……相変わらず才能を無駄にしているのだな、お前は。
 お前のその才能があれば、魔術学の発展にも十分に貢献できるだろうに。」

ネコメドリ > 「あー、うめー、うめーー、砂糖入りのこーしーはうまいでごわすなぁ…」

嫌なら飲まなくて良しとの言葉にわざとらしく反応する大人気ない鳥。

「あー?才能の無駄?才能の無駄遣い、おおいに結構コケコッコー!」

そう言いつつ、身を乗り出してテーブルに置いてあったレポート用紙を見遣る。
それを見て何か思ったのか、ちょっと声の調子を落として──

「……それに、大それた事やろうとすると絶対よくない事起こるのさ。魔術ってのはさ……」

獅南蒼二 > 相変わらずな様子にも、肩を竦めて笑うのみ。
この男がこれほどに寛容なのも、眼前の“鳥”が優秀な魔術師であるが故だろうか。

「…尤もな意見だ。
 だがそれは、かつての科学も同様だっただろう。」
相手の言葉やその声色の変化に、こちらも小さく頷いて…
「誰かが、思いついた者が前へ進まなければそこには停滞があるのみ。
 ならば私は、危険を冒しても前進する道を選ぶ。」
レポート用紙には賢者の石を生成するための様々なアプローチを研究した形跡が残っている。
だがそのいずれも、恐らく結実には至らないだろう。
それでよい、という獅南の方針もきっと、貴方は良く知っているはずだ。

「…資金を調達でき次第、第三研究室は大規模な検証実験を行う。
 内容はデータベースに上げた通りだ……よくない事が起きんよう、精々祈っていてくれ。」
私が死んだら単位は出せんからな、なんて、肩を竦めて笑う。

ネコメドリ > 「おーおー、ご立派ですねェ……でもまぁ、昔の科学者にも獅南せんせーみたいな人、居たんだろうなぁ。というか先生科学者気質よね。
 ──でも賢者の石はちょっと漫画読み過ぎでしょォ!?」

『そもそも賢者の石って何ヨ』とか言いつつレポート用紙の束を翼に取り、
パラパラ捲っては時たま笑ったり、うえぇって顔をしたり、『あ、コイツ、ド●クエやってるな』とか感想を呟く。

「ま、魔術にしろ賢者の石にしろ目指すものってのは人によって違うもんよね。
 先生がそういうならオイラは止めないけどさ───
 
 ──死ぬようなのはやめてよ!?一応オイラも授業でてるんだからね!?」

単位プリーズ!そう言わんばかりに翼を広げた。単位が欲しいネコメドリのポーズである。

獅南蒼二 > 科学者気質という指摘はまさにその通りだろう。
魔術師には獅南のようなタイプは珍しく、魔術学界隈でもこの男は変人扱いだ。

「賢者の石というものは実体がつかみにくい。
 まぁ、とどのつまりは正体不明だな……不老長寿だとか錬金の触媒だとか、様々な文献が残っている。
 つまり、好き勝手に作り出せるからこそ、研究課題には最適なわけだ。」
なんて言いつつも、珈琲を飲み干した。それから、相手の言葉に肩を竦めて笑い、
「無事に研究が終わったら、お前に単位を出してやろう。」
わざとらしく死亡フラグを立てる先生であった。

ネコメドリ > 「ふぅーーん、確かに賢者の石っていうのはゲームとか漫画とか作品それぞれで効果とか効能とか全然違うよねぇ……
 オイラ的には『賢者の石というのは幻想で、それを欲した人間を誑かす悪魔だ~』とかなんとか書いてあるこのレポートが面白いと思うンだ」

そんな事が書かれているレポート用紙を一番上にしてテーブルの上にレポートの束を置いて返した。

「オイオイオイ、死ぬわ先生。そのセリフ死亡フラグだわ先生。
 ──ま、わざと立てておけば逆に死なないって聞くし、大丈夫かな~…っと、それじゃ先生、オイラそろそろ次のバイトの時間だから行くよ。
 夏季休暇もそろそろ終わるし、そん時になったらまた授業出るよ~、んじゃね~~」

ひょいっと椅子から降りると、翼を振りつつてくてくと歩き出した。
去り際に飲み干した缶をぽいっと空き缶用のゴミ箱の穴に向けて投げると、吸い込まれるようにしてそこに入った。
それが魔法の影響かどうかは、きっと獅南にはわかっているだろう。

ご案内:「ロビー」からネコメドリさんが去りました。
獅南蒼二 > そのレポートは獅南も注目していたようで、内容を読むことも無く頷いた。
「この考察は確かに適切だが……かつても“金”という悪魔に誑かされた人間が、錬金術により様々なものを生み出した。
 神も悪魔も利用してこそ、魔術学は更なる高みへと昇華されると、そうは思わんか?」
楽しげに笑いながら、立ち上がる相手を見る。
これだけの魔術的素養を持っていながら、バイト、とは。
神や悪魔が存在するのだとしたら、神は不公平であり、悪魔は役立たずだ。

「……さて、上手くことが運べば、良いのだがな。」
小さくそう呟けばレポートを纏め、最後の1缶をポケットに入れた。

ご案内:「ロビー」から獅南蒼二さんが去りました。