2015/09/19 のログ
リビドー >  振り向く瞳に金色の残光を見る。
 空目か、黄昏の悪戯か。僅かに見上げる形で、紫と翠のオッドアイが、ヨキの瞳を覗いた。

「全くだ。少し前まで昼と呼べる程だったのにさ。
 ……ん、教科書販売を手伝っていてね。それの帰りだよ。」

 ひとたび"美術"の話題を振られれば、緩めた表情は貪欲なニヤつきへと変わる。

「ああ、美術は好きだぜ。
 心が 描く感性の具象も、計算され尽くされた数学と幾何学の上に成り立つ美術もどちらも好みだとも。
 感性の発現も叡智の結晶も、どちらもヒトが創り出す事の出来る至宝だと思うとも。

 ……する側となると、ボクはどうしても後者に走りがちだけどね。」

ヨキ > (微笑みの、緩い弧を描いた形に瞼が細められる)

「ああ、なるほど。あの教科書と来たら、嵩も張ってなかなかの重労働だったろう。
 ……いや、でも君の場合は、力仕事も苦にはならんか。
 顔の見かけによらず、肉体派と聞いているから」

(リビドーのカーディガン越しに、筋肉の丸みを帯びた肩を一瞥する。
 美術が好きだ、という言葉に、嬉しげな半眼を見せる。
 瞼を開いた拍子に、再び零れる金色のあえかな灯――やはりどう見ても、眼球の奥から発せられるものらしい)

「少なからず嗜みのあるものとお見受けするよ、リビドー。
 君は『哲学者』だと聞いていたから、どれほど広くを学んでいるのか興味があった。
 哲学に魔術に体術に……美術も愛してくれるとはな。
 ヨキが美学の授業で取り上げる哲学者に、そんな広範な好奇心の持ち主が在った。

 その哲学者は美を論じ、さまざまな文筆に携わったが――絵を描いたとは聞いていないな。
 君のような哲学者が数学を以てして作り上げるもの、お目に掛かってみたいものだね」

リビドー > 「ははっ、苦にはならなかったが生徒の重みは感じたよ。」

 残光――に見えた灯火は、眼球の奥底から発せられている。
 それが空目でも景色の悪戯でもないと察する。察する為に、再びヨキの瞳に注視していた。
 それ故に、視線の先が肩に届いている事も見て取れた。

「ああ。絵を描いた哲学者は聞かないな。ただ、古ギリシアの哲学者の幾らかは幾何学を愛していたらしくてね。
 感性と言うよりは計算に因るものだが、彼らは確かに観る事――絵や図形に対して神秘性や芸術性を見出していたんじゃないかな。
 とは言え、それ故に模倣の模倣だと厳しく当たる哲学者も多かったらしいがね。難しいものだ。さて」

 没頭仕掛ける程に熱心に述べてから、気を取り戻して思い出す様子を見せる。
 数度の瞬きと首を回す動作は、仕切りなおしの意か。

「ボクもその辺りの哲学者でね。とは言え決して芸術や感性を低く観る事はないし、
 模倣――ボクに言わせれば奇跡の再現も好ましいものだとは思う。
 だから、そうだな。その時のテーマに最も近しく、気に入っている何かを"再現"するような美術になるかもしれないな。
 どうすればそれに近付けるのか――下手を打てば贋作や盗作とも言われるかもしれないような、オマージュとリスペクトの塊かな。」

ヨキ > (リビドーの軽妙な言葉の選びに、内心にもまた好奇の灯が点ったらしい。
 相手を見下ろす顔はひどく楽しげだ)

「応用数学なる学問が、そうと呼ばれていなかった頃から――自然の美は人間を魅了したと見える。
 今や数学者が、聖母のマフォリオンのひだから、その布地が何たるかを解明しようとする時代だ。
 突き詰められた美の形は、自然が何の気なしに作り出す数式に近付いてゆく。
 人間というやつは、いつまで経っても模倣者に過ぎんものだな」

(そうしてヨキも、と、四本指の両手を広げてみせる)

「ヨキはかつて、真なる意味で獣であった。
 それが人の姿に変じた今、取ってきた手段はすべて模倣の模倣、また模倣だった。
 だからリビドー、ヨキは君の手法を嘲りはせんよ。
 ただ美術を好きこのむこと、ヨキはそれだけで君を歓迎しよう」

(両の手のひらを合わせる。まるで子どもが、気の合う友人でも見つけたかのような仕草)

「美とはすなわち、自分の持つ経験から引き出され、対象と比較されて結び付けられる観念のことさ。
 君はそれだけ、美を見出すことのできる経験が多いということだろう。

 ……そんなリビドー、さて君はどうしてこの常世学園に?
 確かに思索には持ってこいの環境とは思うが」

リビドー > 「かもしれないな。黄金比なんてものを提唱したりもする。
 とは言えそれだけではないと思うし、思いたくもあるよ。やや矛盾しているけど、本心さ。」

 月並みに言えば人の可能性かな――なんて言葉で濁して一度締めくくる。
 そうしてヨキの言葉に耳を傾け、一句一句に顔を頷かせる。もとい、半ば無意識に頷く。

 "四本の指"を広げた彼は、真なる意味で獣と言う。
 嘲りはしないと、肯定すると聞けば、

「ありがとう。ある種感性の美術に喧嘩を売るような事を言ってしまってもいるからね。
 しかし、ヨキ先生が真なる意味での獣、か。……獣の定義を考え直したくなる程には疑ってしまうよ。
 ヨキ先生程に善き先生など、見たことがないとも。」

 韻を踏んでいる事に気付く事はない。弾ませた言葉で、臆面もなく言ってのける。
 秘めている事はあるのだろうが、今この瞬間はそう思えたと錠す。

「……ああ、そうだな。此れは素晴らしいとか、見事とか、そう思う事はたくさんあるよ。
 モノ扱いする気はないが、生徒の一人一人が美しいとだって言ってみせようか。……と、ちょっと大きく出過ぎたかな。」

 視線を逸し、頬を掻く。
 勢いに乗りすぎた自身に軽い気恥ずかしさを覚える。
 簡単に表せば、"格好付け過ぎたかな。"

「ん、そうだね。来た理由となると、そうだな――ちょっとむずかしいかな。
 でも、簡単に言うのならば――可能性を見出した。かな。
 ただの異能や魔術の実験場所で終わらないと思ったから、この島に足を運んでみたくなった。」

ヨキ > 「さあ……、ヨキとて根は真摯とは程遠いさ。
 何せヨキは――芸術ほど、動物が生きてゆく上で無駄なことはない、と考えているからな。
 獣の合理と、人間の融通から出来てる。それが今のヨキだ」

(リビドーの褒め言葉に、ありがとう、と短く返して笑う)

「いずれこの常世島に骨を埋める者として、褒め言葉は大きくなるほど嬉しくなるね。
 ここを見てきた甲斐があるというものだ。
 ヨキにとって、この島の者はみな愛しい我が子のようさ。
 そしてリビドー、君もまたヨキの懐、気に入りのひとりという訳だ」

(珍しく気恥ずかしさを覗かせるリビドーに、くすくすと小さく肩を揺らして笑う。
 島へ来た経緯から、その真意を覗き込まんとするかのように、リビドーの異色の瞳を見据える)

「可能性、か。
 全くもって、この島はそうした『可能性』からスタートした場所さ。
 ここにはまだ――見通しらしい見通しさえ何もない。明るく楽しく、お先は真っ暗。
 君の言う『可能性』……それは、君にとっての?それとも、世界にとっての?」

リビドー > 「『獣の合理』か。全く、とんだ牙を隠し持っているものだ。
 で、ボクもヨキ先生の懐と来た。嬉しくはあるが、先を越された気もしてしまうな。
 ボクも先生として、この島は好きだ。――全く。」

 くすぐったそうな、年若き風貌に違わぬ喜が浮かぶ。
 真意すら脇に置かれる程の、純粋な喜の感情だ。それ以外には浮かべていなかった、
 が、――覗き込まんと異色の瞳を覗かれている事に気付けば、その瞳は闇のような深さを以って真意を覆い隠す。

「ボクでも世界でもないさ。人そのものだよ。
 ……まあ、半分は付き合いのようなものでもあるけどさ。」

ヨキ > 「ふふ。この上背に、こんな嵩張る服を好んで着けるくらいだ。
 暗器の隠し場所には、事欠かないのでな」

(ゆったりとした袖を持ち上げ、冗談めかして嘯いてみせる。
 リビドーの顔に喜色が満ちるのを、その目に焼き付けるかのような眼差し。
 自ずとそうするほどには、平素の彼が容易くそんな顔をする類ではないと知っていた)

「人そのもの――か。
 ……ふうん、付き合い。君の隣、あるいは後ろかな。
 君が財団に直接籍を置いているらしい、という話は聞いたことがある。
 他に君と繋がった研究者、ないし哲学者がどこかに?」

リビドー > 「暗器か。合理と融通の合いの子だな。
 牙を出して歩く訳にも行かず、武器を持たぬ訳にも行かず。合理と融通の賜物だな。
 ヨキ先生らしいといえば、らしいぜ。」

 目を細めて、衣服の裾を見据える。
 暗器をそのものは比喩かもしれないが――巧妙に隠しているのだろう。
 聞いた上でなら推測こそ出来れど、一目で完全に看破出来るものではなさそうだ。
 実はやはり比喩であり、本当に持っていないのかもしれないが――
 ――というよりも、そうだろうと思っておくことにした。

 ……財団の名が挙がると、片眉を潜める。
 嫌と言う訳ではないが、その路線を挙げられると否が応にも気を引き締めねばなるまい。

「ん、ああ。表に出る事はないけれど、一人カワイイ研究者がね。
 彼女もボクもただの末端の一派でしかないが、彼女はボクにとっては幼なじみのようなものでね。
 皆が完璧に幸福になるにはどうしたらいいんだろう、ってずっと考えているよ。正直、少し危うい位だよ。
 思い込みが激しくて善性の塊みたいな所があってさ。まだ一人にはしておけないな……」

 参ったぜと言わんばかりに、頭の片側を抑えて大きく息を吐く。

ヨキ > 「ヨキはスマートでいて、美しいことを愛するでな。
 ふふん。ヨキの機嫌を損ねると大変だぞ。
 どこから刃がにゅっと飛び出してくるものか判らない」

(嘘か真か、腰に手を当て、モデル然として気取ったポーズ。
 すぐにふっと笑い出し、姿勢を元通りに崩す。
 財団と、リビドーの幼馴染。
 まだ見ぬ縁を思い浮かべるようにして、ふっと笑う)

「そうか……君の同志か。
 素敵だな。君に、そうして評することのできる近しい間柄が在るなんて。
 皆の完璧な幸福――か。この島にあっては、善性が強いほど付け狙われ、危険に晒されるからな。

 ……今はまだ、よくよく守ってやるがいい。
 その女性が、君に守られることから離れ、君と一対一で立つことのできる人物になるように」

(後方の壁に凭れ、窓辺に肘を突いて大らかに微笑む)

リビドー >  
「ああ、正しい言葉があった。腐れ縁だな。良い縁などでは決して無い。
 ボクは彼女が大嫌いだからな……ま、彼女と恋仲になることもないし、骨を埋める気はない。
 同士でもない。キミの言う通り何れは決別するんだろうが、未だ先の話だ。それに、守っていると言うよりは……」

 苛立った声が響く。眉間に皺が寄る。片目が見開く。
 頭を抑える様に掻く。大きく息を吐く。瞳には闇ではなく、

 激情にも似た感情を、垣間見る事が出来るだろか。

「……と、悪いね。ちょっとキミに当たってしまった。
 頭を冷やす事も兼ねて、ちょっとその辺を歩いてくるよ。
 キミ……ヨキ先生にあまり格好悪い所を見せたくもないからさ。名残惜しいが行く事にするよ。」
 
 壁に背を預け、笑みを浮かべるヨキへと苦笑を見せた。
 そのまま、ゆっくりと通りすぎようとするだろう。

「また会おう。ヨキ先生。」

ヨキ > 「へえ……それはまた、とんだ悪縁だったか。
 てっきり気が置けない相手とばかり思ったが……そうでもないようだな。いや、失敬」

(リビドーの表情の変化を、それもまた見逃すまいとするように。
 表出する激情を、余さず肌に捕えるように。
 真っ直ぐに見つめて――謝罪の言葉には、緩やかに首を振る)

「いいや……、ヨキは打たれ強いのが取り得でな。
 人に従い、人の捌け口となるのがヨキに与えられた役目さ。

 ……この頃はよく冷える。頑健な身体とて、せめて自愛に努めてくれよ」

(足を踏み出すリビドーを、軽く手を挙げて見送る)

「――それではね、リビドー。
 このヨキへ、また君の話を聞かせてくれ」

(リビドーの姿が見えなくなるまで見送る。
 白い影のように佇んでいた長身は、やがて悠然とした足取りで美術準備室へ戻ってゆく)

ご案内:「廊下」からヨキさんが去りました。
ご案内:「廊下」からリビドーさんが去りました。