2015/10/07 のログ
■流布堂 乱子 > 「ええ、それではまたこの校舎でお会いしましょう。」
会釈を返しながら、棗の方に置いた手を戻すこともなく。
女子生徒たちが出て行くのを見送った後で、棗が話し始めるのを聞けば、
すぐ近くの彼女の顔に視点を戻した。
「……そうですね、私の方は近距離でないと"加減"が効きませんのであまりお薦めはできないところ、ですけれど」
両肩に置いた手で、後ろから棗を誘導し、空いた席に座るよう促す。
乱子自身は、手近なイスを尻尾で引っ掛けると引き寄せて、座った。
演習を行うとしたら、その前に詰めることがある。
「……ただ、『力の使い道』を弁えていない方とは、
演習を行っても得るものは少ないのでは、とも、思います」
■十六夜棗 > 視点が少しおぼつかない。肩に置かれたまま椅子へ座るように、と押されれば、困惑の表情の方が先に立つ。
まず、座ってから、少し問われた内容に、頭を悩ませる。
今はもう、目的もある、社会とは違う道になるだろうけれど。
「……お勧めは出来ないけれど、……?
…その使い道を弁える弁えないは人それぞれの価値観による物ではないでしょうか?
……有事にも使わず、仕舞いこむ事を弁える、と言う人もいれば、使うべき時に使う事を弁えているという人もいるでしょう。
その使うべき時もそれぞれ人によって違うでしょうし、又別の人にとっては常日頃実戦の最中で鍛え続ける事こそ弁えている、と言う人もいます。
……あ、えーと。私は十六夜、棗、と言いますが…。」
時たま詰まりながらも、思考を口にして、どんな考え方が貴女にとっての弁えている、と言うのですか?と視線を口元に向けて問いかけた。
■流布堂 乱子 > 「流布堂乱子、と申します。見ての通り風紀委員をしていますけれど、登校は今日が初めてですね。
何かの縁かもしれませんし、どうかよろしくお願い致します。」
名乗られたことに対しては会釈を返し。
「……それと、謝るのが先でしたね。
先程は邪魔をしてすみませんでした」
もう一度、今度は謝罪のために頭を下げた。
「初登校なものですから、人を見て真似ようと思って。
本日は後方から皆さんのことを眺めていたんです。……棗さんのことも、勿論。」
「あの女子生徒たちに演習を持ちかけるまで、貴方がずっと"待って"いたところも。何度か、拳を握りしめていたところも。」
「ですので、失礼かとは思いましたけれど"演習のお誘い"についてはお邪魔をする形になってしまいました。」
背筋を立てて少女が語る口元は、実に滑らかで。
「偉そうに申し上げてしまいましたけれど。
弁えている、というのは棗さんの仰るほど複雑に系統立てているわけではなく。
単純にただ、『目的のために』力を振るう筋道が立っているかどうか、とそういう意味だとお考えください。」
「先ほどの方たちには、『研鑽のために』力を振るうことへの理解がありました。
ですけれども、棗さんは、何のために演習を持ちかけたのか……その部分の筋道が、私には理解しきれていなかったものですから。」
■十六夜棗 > 「登校が初めてで風紀委員になれる物なのですか…」
表情が微妙に怪訝な物に変わる。
学園生活の経験がなくてもなれるとはどう言う事なのか、考えると悪い方向へと想像してしまう。
「……ああ、いえ。ただ、私を真似ない方が良いと思いますよ。
きっと悪例ですから。」
基本的に人に自分から話しかける事も殆どしてなかった筈だし、ずっと見られていたなら授業中も授業に参加しながら独りで過ごしていた事も見られているだろうから。
拳を握り締めていた所と言われて手を見て、手が汗ばんでいた事に、たった今気付いて。
それもまた、悪例として、笑った。
「研鑽の為に、と見えたのなら、多分…私と見ている視点が違ったのだと思いますよ。
私は……私の筋道を……理解する為にはちょっと変わった経験が必要だと思います。
集団から外れた人を眺めて見ると理解しやすくなると思います。」
自分の行動と衝動を、何とか整理して、搾り出した答えは。
イジメられた経験がなければ、そういう現場にいた人でなければ。きっと理解できない。
学校生活が今日初めての方には解らないのでは無いか、と思った。
■流布堂 乱子 > 「……人手不足もありますし、先輩や同期に支えられていると何とか成るものですよ」
怪訝な眼差しに、ほんの少しだけ目をそらす。
成れる成れないというか、書類上そう"した"のであって。
それこそ、基準にされて困るのは此方も同じことでは有るのだけれど。
兎にも角にも、目的のための手段として、言葉を使っていく。
「……そうでしょうか。真剣に授業に参加していらっしゃったと思いますけれど。
とても、真剣に。周囲の私語を看過できない、とご判断されていたほどに。」
棗の浮かべた笑みに、愛想笑いを返したりもせず。
授業中に棗が握っていた拳は、怒りのためだと判断した上で。
「……ですので、不思議に思っていたのはその点です。
何故あの時に直接張り倒さずに、放課後になってから演習なんて回りくどい言い方をするのかと」
業種の都合上、人の弱みと恨みつらみについては常に敏感に感じ取れるようにしていて。
島にやってきた一学期の間は"ルフスとして"授業に出ていたのだから。
■十六夜棗 > 「…学内での事件もありましたからね。」
全てを玩具と言ったあの龍やら炎の鳥やらを従えていた少女の事件。
人手不足と言われれば、そこで納得はする。
「……授業に真剣に参加していた事は否定しませんけれど、
私語だからでは、ないんですよ。
放課後になるまでは気付いていませんでしたから。
……流布堂さんは集団生活の経験は長いのでしょうか?」
その理由とは違う、と首を振って。
■流布堂 乱子 > 「ええ。それに、風紀委員は学園領域の治安を保つのが仕事ですから」
つまり、こうして座って話しているのも治安の悪化に繋がりそうだったから。
という意味にも取れる言葉をさらりと述べて。
それから、問いかけに対しての答えを、自分の中で作り上げるのに少し時間をかけた。
「……島に来るまでは、それほど多くなかった、でしょうか。
多くても三人くらいと行動していたように思います。」
学校のような集団生活を指しているのであれば。
一人ではなかったにせよ、経験と数えるものでもないだろう。
■十六夜棗 > 「……治安、ですか。」
額面通りに受け取るか、躊躇った。
授業中の私語にその場で直接張り倒さなかったのは何故かと言う言葉を聴いただけに。
「それなら……起こりにくいのかも知れないですね。
幾つかのグループができて、グループ同士の関係の悪化や、グループに属さない人。
属せない人。属せなくなった人。属していても下層に追われた人。
そう言う状態を実地で知らないと、きっと私の行動の理由は解りにくいものだと思いますよ。」
集団生活の経験を聞けば、今言葉で話しても、きっと文化や種族の違いで理解が難しい、その上で自分の説明が解りやすく行えるか解らなかった。
だから、それを実地で知る上で注目する部分を、代わりに挙げた。
■流布堂 乱子 > こうして話しているのも、
『実習区域ではなく、何か起こすなら学園であってほしい』
という風紀委員会内の勢力争いの走狗としての行いで有り、
島内に散らばる風紀委員会を学園地区に集めることで治安が良くなる、という意味ではあるものの…
「…………」
乱子は棗の話を聞いてなお、小首を傾げた。
少なくとも、この少女は怒っていた、と思う。
先ほど本人が言った通り、授業中はそうでなかったにしても、
放課後、あの女子生徒たちに話しかけに行った理由は何らかの怒り
(授業中の私語にせよ、この場に居ない誰かへの誹謗中傷にせよ)
だった、はずだ。
「演習中の事故に装って、場合によっては殺してしまっても構わないと思う理由、ですか?」
■十六夜棗 > 「……」
これで、集団生活をしたことが殆どない、と言っていた彼女が理由を知った上でどう動くのか、少しは気になる位には…
何かを期待していた。
それで、鬱屈を抑えようとしていた。
「……殺気を感じたのですか?
……演習中の事故に装って、とまで思うかどうか、は置いておきましょう。
確信がある、ようですから、……
強いて言えば、彼女達でなくても殺意を抱くまでなら幾度となくありましたから、行動に移さないだけで私が一部の人種に殺意を抱きやすい事は否定しません。
…私は今日は帰った方が良いでしょうか。」
こうして話す以上、目を付けられた事まではどうしようもない。
殺意を抱きやすい事も、また事実だからそれは認めるしかない。
後はどう扱われるかに話を移す。
このまま帰らせてもらえるなら今日は帰るし、捕まえるのであれば…一応抵抗はしない。
彼女の判断次第で今日のこの先が決まる。
ご案内:「教室」から十六夜棗さんが去りました。
■流布堂 乱子 > ……指先で、炎のようにうねる髪先をくるくると丸める。
乱子にしたって、明確な意味で殺意を感じたわけではない。
「四半分はあくまで、この場で済ませずに演習場へと誘った状況からです。
私的制裁は他人に見せつけることも期待すべき効果の一つです。
それをあえて、棗さんは捨てた。」
「そしてもう半分は、『何故自分がこうしてここに居るのに、
彼女たちがあんなふうに生きていられるのかわからないから』」
彼女の様子に当てはめた、いつか聞いた『恨み』の言葉をそのまま答える他にはなかった。
それは答えには程遠く、
感情の生まれた理由については未だ乱子のたどり着く手がかりはない。
それでも、残る四半分として、
「それに、この学園の教室には『殺さなくてはいけない相手』が同席していることがありますから。
竜殺しと龍のように、退魔師と魔物のように。」
確たると信じられたわけではない。
ただ、あり得る中で最も対処すべき選択肢として、殺意を放棄せずに済んだ。
「……まあ、ほとんどカマをかけたようなものですから。
これで一般の学生を拘束でもしようものなら、それこそ力の使い方を弁えていないというものです」
指先に巻き付いた髪で、人差し指がうっ血する。
ゆっくりと髪を解きほぐすと、棗にもう一度視線を合わせた。
「演習はまたいずれ。それではまた明日、ということになるでしょうね」
彼女のたどる筋道を解明出来る時までは、状況を動かすことも出来ないだろう。
そう思いながら、乱子はゆっくりと手を振って、棗を見送った。