2016/01/18 のログ
ご案内:「保健室」に黒兎さんが現れました。
黒兎 > 吸血鬼、という言葉は、恐らく、
この世界に居る人ならば一度は聞いた事のある言葉だろう。
大変容後の世界に現れた異邦人の一つとしての吸血鬼は勿論。

この世界の創作、あるいは伝承では、古くから、人の、あるいは生き物の血を啜り生きる化物、
吸血鬼、ヴァンパイア、チュパカブラ、その他、色々。
様々な形で、様々な形の人類の敵、様々な血を吸う鬼が描かれてきた。

黒兎 > 私、黒兎はその吸血鬼である。
齢は今年で200程を数えるが、容姿は艶やかな黒髪、白磁のような肌、薔薇の花弁のような紅い唇。
そしてルビーのような深紅の瞳を備えた、美少女女子高生らしい女子高生である。

黒兎 > こと、創作に描かれるような幼女のような姿も取れると言えば取れるが、
幼い姿というのは以前の人間の社会性が発展する以前の、
孤児達が日々の塒を求めて彷徨い歩くような戦乱多き時代ならば、
正体を隠すのに僅かばかりの長があったとはいえ、

現代の平和極まりないような社会で生活を送るのにおおよそ便利とは言い難く、
町を歩くごとに「お嬢ちゃん、迷子かな?お母さんは?おうちは?」

などと聞かれるのでやめてしまった。

黒兎 > 素性を隠す為なのに、寧ろそれを喜び勇んで聞かれる姿を取るとは此れ如何に。

かつての世界ではどうあれ、現代社会において、平日の夜にふらふらと街を歩いていて怪しまれず、
かつ、女子高生という強力なステータスを振りかざす事で人を魅了出来るのは女子高生なのである。

であるからして、私、黒兎は美少女の、女子高生の、吸血鬼である。
あえて女子高生らしく現代風に言うならば、BJK、びしょうじょ、じょし、こうせい。である。

黒兎 > そんな美少女女子高生吸血鬼の私が今何をしているかといえば、
何の事は無い、その儚げかつ繊細そうな見た目を存分に生かして、
「少し気分が悪くて。」とその場で儚げに灰になって風に乗って消えて行きそうな声を出し、

こうして無事保健室で体育から、もっと正確に言えば、
太陽の光などという凶悪極まりないこの世の邪悪から逃れ、
ぐったりとベッドに横たわり、概ね暇を持て余してると言わざるを得ない時間を過ごしている。

黒兎 > いや、実際に先刻、私、黒兎は灰になって消えそうだったのだ。

そう、私は、あくまで普通の吸血鬼である。
創作の世界で描かれるような、「太陽の光など遠の昔に克服しているわ!!」のようなモノではなく、
プールで泳ごうとすれば溺れ、鏡には映らず、太陽の光には長時間晒されれば焼けて灰になり、
十字架やらニンニクでごくごくあっさりと倒される吸血鬼である。

黒兎 > 魔術には人よりも優れた適性を示し、
肉体も人よりも多少は優れてはいるとはいえ、
結局個の力であるが故に、人間という種の発展した科学力、軍事力、組織力、
有体に言ってしまえば、数の暴力にはただ静かに屈する事しか出来ない吸血鬼である。

黒兎 > そもそも、吸血種にそれらを全て覆すような圧倒的な力があるのなら、
とっくの昔にこの世界は吸血鬼の支配下に置かれている事だろう。

そんな存在もどこかには居るのかもしれないし、
私もその吸血鬼に憧れを抱き、図書室で創作物を読んで研究に励み、
たまには外にでて太陽を克服するような努力もしているが、
実に残念ながら未だそれには至っていない。

そんな平凡でいて、平凡ではない、静かに日々を送る吸血鬼である。

黒兎 > しかしながら、私にも、吸血鬼としての誇りや拘りは存在する。
いや、もはや吸血鬼という種としての本能なのかもしれない。

それは客観的に見れば恐らく致命的な問題なのだろうと、
残念ながら思わざるを得ない。否、知識の数々が、そうであると告げるのだ。

進む時計は、ゆっくりと、授業の終わりを告げる合図へ向かう。
その音が響けば、体育の時間は終わり、次の授業がはじまる。

如何に儚げでミステリアスな雰囲気の美少女とはいえ、
二限続けて休めば流石に何らかの追及を受ける事だろう。

故に、私、黒兎は、静かに立ち上がった。

ご案内:「保健室」から黒兎さんが去りました。