2016/06/24 のログ
ご案内:「ロビー」に畝傍さんが現れました。
■畝傍 > 二年生になった畝傍は、島内を忙しなく駆け回っていた去年の夏に比べ、至って平穏な日常を過ごしていた。
日中は授業を受けたり、依頼があれば転移荒野などへ"狩り"に赴き、
放課後や依頼のない日は商店街へ遊びに出たり、週に一度は自主的に射撃訓練を行う。
訓練の成果もあり、銃をケースに収納した状態で精神の均衡を保てる時間も長くなったので、
普段はケースに収納した状態で携帯し、一人になったところで取り出すようにしている。
そんな畝傍は放課後のロビーで、一人の女子生徒に話しかけられていた。
「可愛い後輩たちから噂は聞いてますよ。畝傍ちゃんはカイジューを狩ってるんでしたよね?良かったらぜひ話を聞かせてほしいんスよ。例えばそッスねェ……畝傍ちゃんの見たカイジューの生態とか、能力とかッ!」
左手首に付けた金色のブレスレットと赤褐色の短髪、そして小柄な体躯が特徴的な彼女は、
畝傍のライフルケースを興味深そうに見つめると、目を光らせ早口気味になりながら問いかける。
それに対し、畝傍は若干困惑したような表情を見せていた。
■畝傍 > 「あの、えと……ボクが狩ってるのはカイジューじゃなくて、マモノだよ。たぶん……キミのおもってるのとは、ちがうとおもう」
畝傍が狩っているのは魔物、その中でも転移荒野や青垣山といった未開拓地区に出現し、
人々に何らかの危害を加える危険性のある魔物や、
落第街方面で違反部活が秘密裏に飼育しているような魔物に限られる。
当然、普段異能を行使することはない――出来ない――畝傍一人の狙撃で倒しきれる魔物の大きさや能力には限界があり、あまりにも強力すぎる魔物を狩ることは難しい。
「あー……そスか。実際にカイジュー狩ってる人から聞き出せれば参考になると思ったんスけどねー」
「ごめんね。……でもキミはなんで、カイジューのことをしりたいの?」
がっかりしたように肩を下ろし、ため息をつく短髪少女。
その姿を見て何だか申し訳なくなりつつも、畝傍は彼女に問う。
■畝傍 > 「そりゃあ、ウチら特撮研究会はカイジューの映画を撮ってるからッスよ。つってもウチらのカイジューは着ぐるみッスけど、リアリティってのが要るじゃないスか」
ロビーの椅子に座り、じっくりと相手の話を聞く姿勢を示している畝傍に、
特撮研究会の所属だという短髪少女は早口で話を続ける。
「逃走に役立つ異能もなければ、武器の訓練も特に受けてない、取材用のヘリなんかに回す予算もないウチらが、本物のカイジューを直接観察しに行くのはなかなかキツイすからネ」
畝傍に話しかけているこの短髪少女は、実際何の異能も持っていない。
左手首のブレスレットも、畝傍が見る限りでは魔術的なアイテムの一種ではなさそうだった。
「ですからカイジュー……いえ、畝傍ちゃんの場合は魔物でしたっけ。とにかく、そういうものと最前線で戦ってる人に話を聞いたり、場合によっては取材に協力してもらったりなんかしちゃおうかと……ネ」
てへ、と笑いながら、短髪少女は軽く舌を出してみせる。
■畝傍 > 一通り短髪少女の話を聞き終えた畝傍は、目を輝かせて関心を示す。
「えいが、つくってるんだ。……すごいね」
畝傍には特撮の知識はないため、難しいことはわからない。
ただ、眼前のこの短髪少女が映画を作っているらしいと聞けば、素直にそんな言葉が出てくる。
「っしょー?特撮研は毎年映画作って、常世祭とかで上映してるんスよ」
短髪少女の口から発せられた『常世祭』という単語を聞いて、
畝傍は去年の常世祭の時期にあった出来事を思い出した。
といっても、畝傍自身は去年の常世祭に顔を出せていない。
ある時襲ってきた『星の子ら』<シュテルン・ライヒ>の一人を、
自らの異能の影響で生じたもう一つの人格――千代田に肉体の主導権を譲り渡した上で撃退したはよいが、
その際に千代田の人格との交信が途切れてしまったためだ。
その後は紆余曲折の末、千代田の奮闘もあって両人格間の交信は無事に復旧したのだが――
■畝傍 > 「……もしもーし?畝傍ちゃん?」
ついぼーっとしてしまっていた畝傍の目の前で、短髪少女が手を振る。
「あっ……ごめんね。ちょっと、かんがえごとしちゃって」
畝傍は軽くまばたきをして、軽く詫びた。
「そいや自己紹介まだっしたね。ウチは"帰ってきた新特撮研部長二世"こと、三年の兜率槇(とそつ・まき)ッス!」
短髪少女――槇は、右手で左手首のブレスレットを示すようなポーズをとりながら名乗り。
「……そっか。ぶちょうさん、だね。ボクは、ウネビ。畝傍・クリスタ・ステンデル。ぶちょうさん、よろしく」
自分よりも小柄な槇が実は先輩だったことに内心驚きながらも、
畝傍は改めて彼女に自らの名を教え、にっこりと微笑んだ。
■畝傍 > ――しかしその直後、姿勢を戻した槇の表情に若干の陰りが見えた。
それを見逃さなかった畝傍は、槇に問いかける。
「ぶちょうさん?どうしたの?」
「……あ、イヤ、何でもないスよ。ただねェ……ウチら最近、調子悪いっていうか……」
先程とは一転、左手で頭を抱え、何やら悩ましそうなポーズをとる槇。
今まで明るく振舞っていた槇が突然表情を変えるからには、何かあるに違いない。
そう感づいた畝傍は、彼女にこう告げた。
「ぶちょうさん……ボクでいいなら、はなしてみて。なんでも、きくから」
■畝傍 > 「いや、なに……畝傍ちゃんにはあんま関係ない話ッスよ。ただ……ウチら、もう駄目かもしれないってことでね」
槇は頭を抱えたまま畝傍の方をちらりと眺め、語り出す。
「ウチや畝傍ちゃんが生まれるずっと前の話ッスけど――昔、カイジューってのは映画やテレビの中にしかいないはずのモンだったんスよ。ウチも先代部長も、その時代のカイジューや、それを打ち倒すヒーローに憧れてました」
さらに続ける。
「でも今時、そんなのはごくありふれたモノになってます。暴れまわるカイジューも、カイジューを倒して人々を守るヒーローも。そんな時代に、ウチらがわざわざ着ぐるみやセットを使ってカイジューを撮る意味なんてあるんスかね?……なんてコト考えちゃって。ウチらたぶん、シラケてきちゃったんスよ」
大変容により、世界のあり方は変わった。
それまで空想上の存在だと思われていたもの、神話や伝説にしか存在しえなかったものが、
現実に当たり前のように存在するものとなった。『怪獣』や『ヒーロー』も、また然り。
そのような時代に、人が想像上の『怪獣』を撮る意味、『怪獣映画』を作る意味はあるのか――?
槇を含む特撮研究会のメンバー達は、そのような疑問に突き当たってしまったのだという。
畝傍には、映画やテレビの中にいたという『怪獣』のことはわからない。
畝傍は、今この現実に存在する『魔物』を狩る狙撃手である。
されど。畝傍の中には、彼女らが抱いているそれに通じるであろう思いがあった。
自らの中に抱き続けている、強い信仰があった。
「……ボクは」
■畝傍 > 「……ボクには、あるんだ。しんじてることが。ほかのヒトには、しんじてもらえないけど」
畝傍の右目が鋭く光った。真剣な面持ちで、槇を見つめる。
「信じてるコト?……何スか、それ」
槇は暗い表情を変えずに問いを返す。
「ボクがマモノを狩るのは……おかねのことも、あるけど。いちばんは……"女神さま"が、みちびいてくれたからなんだ。マモノを狩って、ほかのヒトをまもって、たすける……そうしていれば、いつかボクのつみはゆるされるんだって、いってた」
畝傍の言う"女神さま"とは、異能の発現に伴う精神の破綻がもたらした妄想に過ぎない。
しかし、その信仰があればこそ、畝傍は今日まで自身を支えることができていたのだ。
「ボクは"女神さま"のことをしんじてる。だから、ぶちょうさんも……うまく、いえないけど。しんじてみたら、いいとおもう。ボクも……ぶちょうさんのえいが、みにいくから」
「……ふゥん。今のウチには畝傍ちゃんの宗教観は理解しがたいスけど……まァ、参考にしときますよ」
どこかシニカルな口ぶりながらも、言葉を返す槇の口元は微笑みをたたえていた。
■畝傍 > 「じゃ、ウチはこれで。またどっかで会ったらよろッス」
足早にその場を去ってゆく槇と、それを見送る畝傍。
(ふしぎなヒトだったな……でも、またおはなししたいかも)
そんな風に思いながら、畝傍もまたロビーを後にするのだった――
ご案内:「ロビー」から畝傍さんが去りました。
ご案内:「廊下」に不凋花ひぐれさんが現れました。
■不凋花ひぐれ > 「散策などに興じるのも良いかもしれません」
手前のいる学級からの帰り際。
夕刻となり皆々健常な学生らが通る棟へ渡りながら、周囲の話し声を聞いていた。
今度できたあの店のスイーツを食べに行くだの、部活がどうだのと花を咲かせる少年少女。
堅く閉ざされた瞼とは裏腹に、堅い印象よりも重量を思わせない程度の華奢な娘。
鞘で地面を叩きながら歩いていると、下駄の音を響かせていると、頭飾りの鈴が鳴ると一瞬こちらを見る気配はするものの、気にかけた一欠けらの意識を向けるのみ。
他者から見て特異な見目であろう。ごちゃごちゃとした装飾を好む学生とは別ベクトルに手前はごちゃごちゃしている。
最も、それが特異と言うなら鼻で笑ってやるところ。こんなものは下の下だろうと。
散策と口にした行為そのものに、当たり前ではあるが目的意識もなかった。廊下を渡りきって周囲を見渡すと、廊下の窓際から教室の連なる白亜の廊下を斜陽が照らしていた。
■不凋花ひぐれ > 耳ざとい、年を食った婆みたいな耳が時折煩わしいと思うことがある。
「俺、期末テストが終わったらあの子に告白するんだ」とか何とかプライバシーもあったものではない内容まで聞こえてしまう。
まぁそれはそれとして、頑張れと心の中でエールを送ってやろう。完遂できない淡い夢だとしても。
「……眩しい」
ふと見上げた西に下がる陽光。誰某にも平等に降り注ぐ甘酸っぱい光。
この頃は日が降りるのも遅くなってきて、明るい時間が長くなった気がする。
そろそろ七月だ。期末テストだなんだと学校行事もあれど、終えたその先もまた盛りだくさん。
気が早いだの云われてしまえばそれまで。しかし、そう、何とも楽しそうな響きではないか。
「イベントがあれば、ですが」
首をかしげて呟く言葉。くると後ろを振り向いてゆらゆらと肩を竦め、教室の連なる廊下を歩く。
かつんかつん、昼間ほど喧騒の少ない廊下に、鞘を叩く音が木霊する。
■不凋花ひぐれ > 夏、体育、スポーツ。武芸にのみ特化した手前は多少の運動も心得はある。
思えばこの島に着てから海に訪れたことが無い気がする。ずっとずっと内陸にいてばかり。
数度海沿いの美術館を覗いたくらいで、海に入ったことも無い。島暮らしが長い割りに、まだまだ知らないことは山ほどある。
「探検、探索……イベント、海」
先の彼らのような、テストが終わったら何をするかを、少し考えてみてもよいかもしれない。
友人と買い物巡り? 島を遊び倒す? いっそ遠出して本土に行って、お気に入りのロック歌手のライブに出向くか。
なるほど、楽しいことが待ち受けていればこのような思考に至るのも頷ける。
脳内会議もそこそこに、ついぞ面白いものは無いかと、くたりくたりと首を揺らした。
■不凋花ひぐれ > ……なんだか楽しく思えてきた。
勉強が終われば楽しい『青春』とやらに興じてみるのも面白いかもしれない。
訓練ばかりに気をとられていたが、少しくらいは、そう学生らしいことをしてみても良いだろう。
「――――」
お気に入りのロックを口ずさみながら、日の沈む廊下をとんとんと歩くこと。
ご案内:「廊下」から不凋花ひぐれさんが去りました。