2017/07/24 のログ
神代 理央 > 此方の問いかけに素直に頷く兎。意思疎通を行う事は可能な様だ。
未知の動物ともなれば、UMAだの幻想生物だのを研究している連中が詳しいのだろうが…生憎とそちらの知識はまるで無い。
だが、角の生えた兎といえば、思い浮かぶ名前が一つ。

「レプス・コルヌトゥス、だったか。しかし、あれはこんな立派な角つき兎って話じゃなかった気がするが…」

悩んだところで、己の知識量では正答を導き出される事はないだろう。取り敢えず、眼前の鹿兎にどう対処するか考えなくてはならない。

「お前が何故こんな所にいるのかは知らないが、何処か行きたい所があるなら可能な範囲で希望に答えてやろう。それとも、学校関係者に飼われているペットだったりするのか?」

こういう動物はさぞ女子に人気が出るだろうし、意思疎通が出来る高度な知性はペットというよりもパートナーとして人気が出るだろう。
野良(という呼び方が妥当かはさておき)でないのなら、学園の生徒か教師に飼われているのだろうか、と考えながらまじまじと鹿兎に視線を向ける。
……随分と撫で心地の良さそうな毛並みだなあ、と無意識に手を伸ばしてしまった。

暁 名無 > 怪訝そうな顔でこちらを見遣る生徒に、さてどう説明をしたんのかと考え続けるが妙案は浮かばない。
何しろ長いこと喋れない。これが非常にもどかしい。

『レプス・コルヌトゥスを知ってて何故ジャッカロープは知らない……?』

年代的には後者が新しい筈で、近代の存在だ。
いや、そういうツッコミをしている場合じゃないんだが、職業柄どうしてもツッコミを入れてしまう。

『行きたい場所は此処だし、誰かに飼われてるわけでもねえんだけど……うーん。』

魔術の事故でこうなった、とそれだけを言えば納得して貰えるだろうか。
可能性としては五分か、それよりも誰かのペットという事にされてしまった方が良い気がする。

あ、そうか。俺のペットって事にすればいいんだな。

「ア……アッチ……ベ、……ッドニ……」

やっぱりこの発声法はつらい。
とにかくベッドに連れて行ってもらえれば、その利用者についてすぐに理解が及ぶと信じたい。

神代 理央 > 何だか物言いたげな視線を向けられたのは、この鹿兎は自分の正体について訴えているからだろうか。
何かおかしい事を言っただろうかと一瞬悩んだが―まあ、悩むだけ無駄だろうと頭を振る。

「ベッド……?この状況で寝床に向かいたいとは中々肝っ玉の座った獣だな」

流石に睡眠を取るためにベッドに連れていく事を望んだのでは無いだろうが、この状況を思い返せばそのシュールさに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
しかし、希望は叶えると言った手前、それを無視する訳にも行かない。

「動物の扱いは慣れていないんだ。多少手荒でも文句を言うんじゃないぞ?」

別に兎相手に言い訳しても仕方ないのだが、一応声をかけてからおっかなびっくり抱き抱えようとするだろう。
もし抵抗されなければ、若干不安定な姿勢ながらも、何とかベッドまで運ぶ事には成功しただろう。

暁 名無 > 別に抱えて運んでほしかったわけではなかったんだが、まあ結果的に辿りつけるなら何でもいい。
モフモフふわふわのダブルコートの毛皮は我ながら中々の触り心地だろうと思うが、
如何せん男に触れられても嬉しくも何ともないのがとてもネックだ。一方的に相手に良い思いをさせてるだけ。くそっ。

『ベッドに着いたら資料の中に埋まってる名札か名刺でも引っ張り出せばそれで片が付くよな。』

さて運ばれたベッドの有様と言えば寝具とは思えない程に本が雑多に散りばめられ、ノートパソコンが点けられたまま放置されている。
改めて見ると酷いな……。

神代 理央 > 十二分に毛皮の感触を楽しんで内心ホクホクしていたが、辿り着いたベッドの惨状に困惑げな表情を浮かべる。
この保健室を訪れたのは入学時の身体検査以来だが、こんな生活感に溢れたベッドを見かけた記憶は無い。いや、カーテン等で隠されていれば見えないだろうし、その時は片付いて頂けかもしれないが―

「…この独身男性の万年床みたいなベッドがお望みだったのか?このベッドの主がお前の飼い主だと言うのなら、きちんと片付けさせる様にお前が忠告してやるべきだと思うがな」

兎をベッドに乗せた後、呆れ果てた様に声をかける。
しかし、散乱している資料は学生レベルでは到底理解し得ない様な高度な物ばかり。普段見かける機会の無い資料の山に、思わず目移りしてしまう。

暁 名無 > 「ソ、……ソウ、……ゥ、スル」

流石に複数の生徒に指摘されれば動かざるを得ない。
元の姿に戻れたらとりあえずベッド上の片付けをするしかない。
幸い明日から授業は無いし、時間は今まで以上に取れるだろうし──めんどくせえ……。

『とりあえず、だ。さっさと名刺か何か掘り出して……と。確かこの辺に……。』

生徒が資料に目を取られている間にごそごそと資料の山を掘り返す。
ここまで来るとわざわざ名前を報せる必要もない気がするが、そこはそれだ。
なお周囲に散乱する資料は、ジャンルも統一されていない。魔術や異能、異邦人に関することから人体構造、動植物に関する図鑑まであらゆる本が図書館から持ち込まれている。俺が気の向くままに、物色しては読んできた資料だ。

神代 理央 > 何やら資料の山を掘り始めた兎を眺めながら「寝床でも作っているのだろうか」と呑気な思考が脳内を走る。
尤も、そんな思考は直ぐに脇に追いやられてしまう。幅広いジャンルで取り揃えられた資料の山は、このベッドの主がそれだけ広範囲に渡って高度な知識を有する事を示しているからだ。
試しに一冊、異能について記された本を手にとって眺めてみたが、ちんぷんかんぷんも良いところだ。
自分の専門分野は政治と思想問題(とはいえ、付け焼き刃も良いところだが)であり、眺めていた資料も数秒で投げ出してしまい、そっと元の場所に戻す事になった。

「…お前の飼い主は随分と博識なんだな。ところで、寝床は出来上がったか?」

自分の知識不足をしみじみと痛感しつつ、寝床を作っているのだろうと思い込んでいた兎に視線を向ける。

暁 名無 > 無論俺とてこの資料の全てを把握、読解してるわけではない。
多少なりと難解だと思う部分はある。けれども、どうも知らない事を知るのが好きな性分らしい。
だから本来、教師という仕事は向いていないわけだが、まあそれはそれ。

『……あったあった。ほれ、俺の名前くらい憶えて帰れよ。』

資料の山の中から『暁 名無』と描かれたネームプレートを引っ張り出して生徒へと掲げる。
たったこれだけの事をするのに、何だか酷く疲れた気がして欠伸が漏れ出た。

神代 理央 > 此方に掲げられたネームプレートをしげしげと眺める。
掲げられたネームプレートは学園の教職員を示すもの。成る程、この資料の山の理解度も教師なら納得だ。

「暁 名無…これがお前のご主人様か?分かった、暁先生に会った時には、ペットを一人にさせないように言っておくよ。あと、部屋の片付けもな」

自分の記憶に間違いが無ければ、幻想生物の生態学や動植物学を担当する教師だった筈。保健室の一角に住んでいる、とまことしやかな噂を耳にしたことはあるが、このベッドの有様を見ればその噂は真実だったのだと納得せざるを得ない。
眼前の兎がその暁名無本人だとは露程も思わず、微妙に勘違いしたままうんうんと頷いた。

「…それじゃあ、そろそろ俺はお暇するとしよう。お前も、俺みたいな面倒な奴に絡まれたくなかったら、ベッドで大人しくしておくことだな」

気付けば予定より随分と長居してしまった。
流石に人のペット(と思い込んでいる)にベタベタ触るのも躊躇われるし、此処で見た資料を見て勤勉意欲も沸いてきた。
図書室に寄ってから自宅で勉強に励もうと決心し、最後に兎に微笑みかけると踵を返して保健室を後にする。
幻想生物の生態学を履修してみようかと、頭の片隅で考えながら―

暁 名無 > こくこく、と生徒の言葉に頷く。
名前を覚えて貰えたという事は、今後話をする機会も生まれるかもしれない。
その時に改めて今回の礼は伝えるとしよう。
俺はそう決意しつつ、立ち去る後ろ姿を見送った。


『行ったか──?』

保健室から遠ざかる足音を確認しつつ、俺はベッドの上に突っ伏す。
訓練施設での事故から、今この時まで。時間はそんなに経っていない筈だが、不慣れな体で様々な事をした疲れがドッと押し寄せてきた。
このまま少し眠って、もし目が覚めた時に姿が元に戻って射なければその時に改めて今後について考えよう。

『ふわぁぁ……んまあ、後学の為に少しばかりこの姿で生活するのも悪くは無いか。』

自分が望んだわけではない姿で生活する。
それはある少女が抱える悩みで、その悩みは自分には考えも及ばない物だった。
むしろこれは良い機会かもしれない、と自分の失敗を極力認めない方向で前向きに考える事にする俺である。

ご案内:「保健室」から神代 理央さんが去りました。
ご案内:「保健室」から暁 名無さんが去りました。