2018/06/30 のログ
ご案内:「屋上」に宵町 彼岸さんが現れました。
■宵町 彼岸 >
外の景色が見たい。
そんな風に思ったのは何時ぶりだろう。
気が付けば季節はいつの間にやら夏。
……駄目な研究者にありがちだが
研究室と自室、時折教室に足を運ぶ以外全くの出不精になりつつある。
「……あっつぅぃ」
この国の夏はそれはもうなんと言うか、特に肌に絡む。
張り付く様な熱気はまるで蒸気を当てられ続けているかのようでとても不快だ。
少しでも高い所に行けば多少は涼しくなるかもしれない。
半分止まった思考の片隅に浮かんだ期待に自然と足は屋上へと向かっていた。
「……んやぁ?」
この時間はあまり人がいないものだけれど
生憎今日は先客がいるらしい。
何処かノスタルジックな雰囲気を纏った彼女は
半色から群青色に染まりつつある空の元、
それはそれはお似合いのご様子で空を眺めていて……
「……駄目だ、頭働かなぃ」
何か感じたような気もするが暑さに勝てない。勝つ気がない。
その横を通り抜け、フェンスに体を預けるようにずるずると座り込む。
「……」
そうして屋上を吹き抜ける風の音に耳を澄ませながら真上を見上げた。
輝き始めた月と星……この国で見るのは何度目になるだろう。
■鈴ヶ森 綾 > 夕暮れの屋上で聞こえる音は、通り抜ける風と、それに吹かれて遠くから届く葉擦れの音、
そして少々気の早い蝉の鳴き声だけ。
そこに不意に違う種類の音が加わったものだから、ついとそちらへ視線を向ける。
見ればそこには少々不健康そうな女性の姿。
コロコロと口の中で飴玉を転がしながらその様子を暫く目で追っていたが、
近づいてきたので小さく会釈をして、ベンチに座る自分のそばを通り過ぎるのをただ見送った。
それからまた彼女が訪れる前の体勢に戻ろうとしたが、視界の端で白い塊、白衣の女性がずるずると崩れ落ちたのが見えた。
「……もし?どこか具合でも悪いのですか?」
無視しても良かったが、ベンチを離れて彼女に近づくと、傍らから見下ろす形で空を見上げる彼女の顔を覗き込んだ。
■宵町 彼岸 >
とりあえず次に考えるのは冷気系の魔術にしよう。
もう周りが凍るようなやつ。ほっといても際限なく広がる嘆きの川みたいなやつ。
……普段から周りが凍るような言動なのはまぁおいといて。
そんな物騒なことを考えていたことを察したのか
思考を遮るように投げかけられたやたら夕日の似合う先客の声。
そちらにゆっくりと顔を向けると無表情なままじー……と見つめる。
自分で言うのもなんだけれどこんな遺体系()な(不審)人物に
わざわざ声をかけに来てくれるとは
良いヒトなのかもしれない。たぶん。
「だすとーとみあぜぁらいど(これは失礼)…あ―……」
うん、見分けは相変わらずつかない。
とりあえず台詞的に初対面っぽい。
「ん―……
主に頭と性格が悪いです……
日本暑すぎなぁぃ?なんでみんな平気なのぉ?」
それはもう実感と深い深い悲しみの籠った声だった。
■鈴ヶ森 綾 > 白衣を着ているので教員かと思ったが、間近でよく見ると彼女はだいぶ若く感じられた。
それに加えて、遠目ではまったく分からなかったが、なかなかに整った顔立ち。
悪くない。実に悪くない。
メガネのレンズ越しに小さく目を細めてそのような品定めをしていると、彼女の口から聞き慣れない言葉が飛び出す。
「だす…何ですって?」
見上げる視線と見下ろす視線を交じらわせる。相手が一旦言葉を区切ると小さく首を傾げてその反応を待った。
「今日はそれ程でもないと思いますけど。」
日中、12時から14時辺りのピーク時はそれなりだったが、今はもう暑さに喘ぐほどの事ではない。
律儀に返してしまったが、どうも彼女の言うことには軽い混乱が見られる。
「…ちょっと失礼。」
顔にかかる長髪をするりと横に分けて、手のひらを額に触れさせようとする。
よくある熱を計る動作である。
■宵町 彼岸 >
「……ああ、気にしないでほしぃなぁ。
ボクが変なのは今に始まったことじゃないからぁ。
冗談でもいえば涼しくなるかなぁって思ったんだけどぉ」
戸惑っているような雰囲気が漂う。
表情を判別できないので確信は持てないが
少なくともそれなりに普通のラインを持っている相手らしい。
「そうでもなかったぁ?」
此方を観察する姿を見るに相手を見るのに慣れているといった印象。
服も隅々まで気を使われているように見える事から
恐らくみられることにも気を配っているタイプ。
かといって派手好きなわけでもない……。
むしろ意図して目立たないようにしている節もある。
癖のような思考もとぎれとぎれでまとまらない。
強いて言うなら……この声は中々好みだ。
けれどそれが紡ぐ内容に関しては……
「それ、ほどでも、な……ぃ……?」
脳が理解を拒んでいるのが自分でもわかる。
これ以上暑くなるという現実を認めたくない。
去年も一時期記憶がないくらい暑いのは苦手。
熱いのは平気でも暑いのはだめだ。
……要は堪え性がないともいう。
普段は意識していない故に崩れている服も、
今は暑さに耐えかねた結果、傍目にも危うい程崩してしまっている。
「んぁー……」
ぼぅっとした表情のまま伸ばされる腕を少しだけ遅れて目で追う。
額に延ばされる腕にピクリと少しだけ腕は反応するものの
その動きは実に緩慢で、生気を感じさせないもの。
まるで死人のような動きに反して体温は少し暖かく
……肌で触れればちょうど心地よく感じる程度の体温。
そういう風にできているのだから当然だけれど。
■鈴ヶ森 綾 > 「…わかりました。気にしない事にします。」
その言葉のどこからどこまでが冗談だったのか、それすら分からなかったが、
彼女に対して特に気分を害したような様子を見せることもなく、表情と口調はあくまでも柔らかく。
「…ん。」
小さくそのような音が喉の奥から漏れ出たのは、こちらに向けられた視線に何かを感じての事。
それは、察するに自分のやっている事と同じ、要するに観察。
胡乱げな様子に反して鋭く見透かされているようで決していい気分ではない。それが小さな音を漏らさせた。
「えぇ。今日は風もあるので。6月としては過ごしやすい日かと。ふぅん…特に熱はないみたいですね。」
額に触れてみたが特別熱いというわけではない。精々が微熱といった程度。
発熱、熱中症で意識が朦朧としているのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
本人の言葉通り、この人は元々こういう人なのだろうか。
まぁ、それならそれでいい。
行き掛けの駄賃として少し頂くものを頂いたとしても大過なかろう。
触れさせた手のひらからじんわりと、彼女の生気、生きるのに必要なエネルギーが漏れ出す。
位置が位置なので軽い頭痛程度は味わうかもしれないが、そんな事は自分の感知するところではない。
■宵町 彼岸 >
「んふぅ。ありがとねぇ」
ふと漏れた何処かなまめかしい声に微笑し目を閉じ耳を傾ける。
傍目からは体温を楽しんでいるようにも見えるかもしれない。
思わず漏れたようなそれに幾分か感情のようなものを感じ取るが
必要に迫られない限りそういった感覚を読み取ろうとするタイプでもない。
「――ぁ」
触れた場所とわずかな頭痛。
嗚呼、こういう類の相手か。とぼんやりと思う。
確かに今の自分は良いカモだろう。
普通此処までボーっとしている相手ならば気が付かない。
仮に気が付いたところで気のせいで通せばいい。
一方でやりすぎずリスクの少ない範囲で済ませようという慎重さも持ち合わせている。
……判断が早く躊躇わない。
「(手慣れてるねぇ)」
不思議と違和感は感じなかった。
ここまで逢魔ヶ刻の似合う相手。
ある意味予定調和とすら言えるだろう。
「ああ、そうそう」
初めての明瞭な言葉とともにゆっくりと見上げる。
ここにきてようやく視線が焦点を結んだ。
熱に浮かされた様な表情のまま
気だるげに、けれど実に無邪気な表情を浮かべ、
「……変に流れたらごめんねぇ?」
――笑った。
軽くのつもりがまるで堰があふれるかのよう。
常人なら軽く何度も死ぬ程度流れているであろう
奔流じみた”ソレ”を気にかけるでもなく、ただ空模様を告げるように。
■鈴ヶ森 綾 > 「いえ、別に何もしていませんから。」
実際あくまでも上辺だけの態度。単に相手が望むように応えただけのこと。
「流れ?」
流れ込む命の力、こちらとしても何も死ぬまで吸い上げる気はない。
と言うより、これだけの接触ではそれは難しい。だがそれが急変する。
小川のせせらぎから嵐の中の濁流へと。
その勢いもさることながら、流れ込んでくる量が尋常ではない。
「…さっき、気にしないって言いましたけど。それ、撤回します。良ければ名前を伺っても?」
その奔流を感じてから一呼吸置いて、触れさせたときと同じようにするりと額から手が離れる。
その動作も言葉も、あくまでも平静を装ったのは、妖物としての矜持といったところだろうか。
しかし実情がどうかは、本人のみぞ知るところだ。
「ああ、そうそう。良ければこれ、お食べになります?少しは気分が晴れるかも。」
そう言って相手に差し出したのは飴玉の包み。黄色い色のレモン味。
自分の口の中のものはつい先程無くなってしまった。すなわち、帰る頃合いだ。
■宵町 彼岸 >
「みんなボクの事変っていうんだよねぇ……
よく判んないよ。ボクからすればみんなの方がよくわかんないのにぃ
ね、君にとってヒトってなーにぃ?」
何も起こっていないかのように能天気にすら見えるような口調で言葉を紡ぐ。
ゆっくりと手を放したのはただ単に生命力が異常に豊かなのか
それとも意図的に流したのか判断が付かないといったところだろうか。
とは言えこちらも相手が何もないような雰囲気を崩さない以上、
そこはこれ以上の反応が無ければ判断しにくいものがある。
手練れであると判っただけでも自分にしては珍しい。
「名前?あ―……なま、ぇ?
なんだっけ、ボクの、名前……」
焦点を結んだのもつかの間、
尋ねられた問いかけに首をかしげてまた頼りない雰囲気に戻る。
うーんと首をひねりながら思い出そうとする様は
真面目に自分の名前を思い出そうとしている様子。
「あ、見つけた。カナタ、だよぉ。
……んぅ?くれるの?」
ポケットを探り生徒手帳を見つけるとそれを読み上げて
差し出された飴を見ると小さく首を傾げた後、小さく口を開けて固まる。
そのままじっと顔を見つめるあたり、自分で食べる気が最初から無い。
■鈴ヶ森 綾 > 「なんだか前後が…まぁいいわ。ヒトねぇ…近しい隣人、かしら。」
あまりに突飛な質問に少し目を丸くさせたが、特に考えるでもなくそう応じる。
それは彼女の質問の意図からは外れた答えではなかったもしれないが。
「えぇ、名前を。……?」
名前を、そう尋ねたがなかなか答えが返ってこない。
まさかとは思うが、自分の名前を答えられない?
その様子は演技とも思えず、やはり彼女は随分特殊な人なのだろう。
しかしその後の相手の行動は、それ以上にこちらを困惑させる事になる。
「カナタさん、ね。私は鈴ヶ森綾。まあ、覚えておいてくれたら嬉しいわ。」
名乗りはしたが、この様子では意味があるかは微妙なところか。
こちらは飴玉の包みを差し出し、相手は口を開けて固まる。
その状態のまま数秒を過ごし、ようやく事態を飲み込む。
今度はこちらが軽い頭痛を覚えながらも、飴玉の包みを剥いて彼女に咥えさせてやる。
しかしこれでは殆ど幼児だ。
それにきちんと対応してしまった自分も、ずいぶんと面倒見のいいことだと内心愚痴るのだった。
「それじゃ、私はこれで。どうぞごゆっくり。」
飴を与え終わると踵を返し、そのまま振り返る事無く屋上の出口へと歩いていった。
■宵町 彼岸 >
「ん、れもんあじ。
これ結構好きかもぉ
青春の味っていうらしいよねぇこれ……」
口の中にそっと運ばれた飴を味わいながら
半分独り言のような調子で呟き、童女のような笑みを浮かべる。
最早面倒なことは今更どうでもよくなっていた。
今はこの味を楽しむことだけ考えたい。
気にしだすとまた暑さに気が付いてしまう。
「ん、また会ったとき、顔が判らなかったらごめんねぇ?
名前はちゃんと、憶えてるからぁ。」
口元から離れていく白魚のような手を眺め
相変わらずの舌足らずな口調で少し申し訳なさそうに謝罪を言葉にしながら
去っていくその背中に手を振りにこやかに見送る。
若干子供っぽさに呆れたような雰囲気が漂っていたような気もするが
それは実際に此方が子供なのだから仕方がない。
「……交通事故みたいなもの、なのかなぁ」
きれーだからいいやぁ」
その姿が見えなくなった後、ぼそりと呟く。
見上げた空にはもう沢山の星が瞬いていて
その何れも本当ならばお互いに気が付く事すらもないのだろう。
けれどこうして偶然にでも交わった事が面白いと感じられたあたり、
きっとそこそこあのヒトの事が気に入っているんだろうなぁとぼんやり想う。
「また、ねぇ」
そう口にすると、くるりと丸くなり、目を瞑る。
そうして警備員が来るか、はたまた朝が来るか
いずれにせよ邪魔が入るまでの間、夜空と建物の冷たさを楽しんでいた。
ご案内:「屋上」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「屋上」から宵町 彼岸さんが去りました。