2016/07/10 のログ
鬼灯 怜奈 > 「受けろと言われて受ける奴がいるもンかよッ!」

数多の爆発と同時に機体が交差。
沸き上がっていた観客らが息を飲む。
映像がクリアになる間のみだが、静寂が共有される奇特な現象が起こった。
一般的には、この手の特有の"圧"に耐えきれなくなった者から、途端にざわめき始めるもの。
しかしこのゲームセンターにおいてはランカー同士のバトルは稀のため、観客はその凄味に飲み込まれている。
秒にしてしまえば3秒もないものだが、人の一生のうち大半を喪失したような奇妙な感覚の一斉体験。
晴れた映像が現れた途端に、それは強制的に終わりを迎えた。
クリムゾンタイドの右腕部が吹き飛ぶ模様と共に。

「「「「おおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」」」

機体重量の差が挙動の初速の差を分ける。
迎撃に向けられた散弾は直撃ならず、無残にも残弾が枯渇する前にその役目を終えた。
人の剣戟ならばこれにて終幕。戦闘不能である。
しかしこれはタイタニックギア。電脳世界での一幕である。
機体が動けば終わりではない。

「貰ったァッ!」

右腕部を盾にした理由はここにあった。
左腕部に装着されたエネルギーブレードが煌々と、唸りを上げて振り抜かれる。

楊 烈龍 > 「――貰った!」

戦場を彩り、地獄へと変える爆風の最中、呂洞賓の剣がついにクリムゾンタイドの右腕を爆砕させる。
それと同時に、観客の歓声のざわめきがゲームセンター内に満ちる。
炎を纏った剣――実際のパーツとしてはレーザーブレード系統――それがクリムゾンタイドの剣を貫いたのだ。
呂洞賓は大地に降り立ち、剣を振りぬいた。
呂洞賓はミドルボディのクリムゾンタイドより素早く動ける。
それが勝敗を決した。自身の判断が功を奏した――

後は、もう一度この剣を振りぬき、さらにはビットで止めを刺せばいい。
相手の腕は落とした。この距離では、ショットガンよりも呂洞賓が早い。
こちらの勝ち――
だが、その考えは脆くも崩れ去った。

「ブレードだとおっ……!!?」

刹那、右腕を破砕させられたはずのクリムゾンタイドから、燦然たる輝きが満ちた。
見れば、相手の左腕に装着されていたエネルギーブレードが、呂洞賓を切り裂いていた。呂洞賓のボディが次々に爆砕していく。

そして――

「キ、キィ、アアアアアアア!!!」

天から幾つもの光の槍が呂洞賓目掛けて降り注いだ。
そう、このマップの仕掛け。ミサイルの後に来るのは衛星レーザー!
既に敗北していた呂洞賓の止めをそれらが差し、呂洞賓は粉々に砕け散った。

楊の筐体に、アラートが何度も鳴り響く。
大モニターに、呂洞賓の敗北を告げる表示がなされ、ここに勝敗は決した。

「……ば、莫迦な莫迦な莫迦なッ……!! こ、この僕が負けただと!?
 こ、こんな、こんな、学園の部活でやっているような女にか!?」

ひどく取り乱した様子で筐体から転がり出て、地に伏して叫ぶ。

「ありえない、ありえない……! ぼ、僕の呂洞賓は最強なはずなのに!」

生まれて初めて敗北を経験したかのような反応である。
その情けない様子に、普段楊を取り巻いている者たちも、引いてしまったような態度を次々に示している。

鬼灯 怜奈 > 「部活だどうだなんざ関係ねーな。」
「アタシがこいつをヤってるついでに部活があンだよ。」

その脇にずかずかと歩み。

「悔しいかよ。じゃあそりゃあすっげーイイコトじゃねェか。」
「次は負けねえって思うから、もっと強くなれるンだろ。」
「それとも、この程度の最強で終わるのか?」

空いた筐体の角に肘を置きながら。

「まあ、いつかかってきてもアタシは負けねーけどな。」
「アタシに勝てねェってンなら、もうあとはセコセコ部員として働いて、部長にでもなるしかねーな。ヘヘ。」

熱狂冷め止まない観客の声援に応えるように手を挙げ、ゲームセンターを去ってゆく。

楊 烈龍 > ――そして。
後日、TG部部室。

「やあ、鬼灯君。近々YCで大会をやるんだがね、出ては見ないか?
 終わった後に僕の家で食事でもどうか?
 次は必ず僕が勝つわけだ。その祝いということになると思うが……
 ああ、部長たちも読んでおこう。未来の部長の誕生祝いとしても良い」

楊はTG部の部員として、部室に居座っていた。
あれほどの屈辱を得ながら、彼は部員として活動していたのである。
部室の一室にやたらと豪華な調度を置いて自分のスペースにしながら、自分を負かした鬼灯に絡んでいた。
相変わらずの態度であったものの、敗北自体はしっかりと受け入れて、自らの家のように過ごしている。


あの時、ゲームセンターで負けた時――

「クッ……貴様のような女に何がわかる! 王者として定められた物の苦悩がわかるものか……!!」

ドンドンと床を叩く。
相手を見上げながら睨み、叫ぶ。
これほどの屈辱を得たのは初めてのことであった。

「……言われるまでもない。必ず再戦して打ち負かして見せよう。
 僕は遊戯界の帝王となる者――見ているがいい、次こそは必ず勝つ。
 それまで、覚えておくことだ……!!」

這いつくばっていたものの、立ち上がって、去りゆく相手に向かって叫ぶ。

「誰が、誰が部員などになるものか!! クソオオオッ……!!」

絶叫がゲームセンターに響き渡った。
“部長”がいるという部活。誰かの下につくことなど、できるはずもない――


そう叫んだ。
しかし、勝つには相手を知ることが重要だということで、部活に居座ってしまったのだった。
立ち直りは早かった。あの対戦の翌日に乗り込んできたのだから。

鬼灯 怜奈 > 「こんなはずじゃなかったんだけどなァ……。」

めんどくさげに応対しながら、窓の外を見やりながら思い耽る。
勝手に部の未来を賭けた件で追及されると弱い立場にあるため、入部については何も言えず。
まあ部員が増えて悪いことはないなと静かに自分を納得させるのであった。
次回へつづく。

ご案内:「部室棟」から鬼灯 怜奈さんが去りました。
ご案内:「部室棟」から楊 烈龍さんが去りました。