2015/09/04 のログ
■鏑木 ヤエ > 「やあ、どうも。
大丈夫に見えるんだったら中々高貴な皮肉屋さんですね」
(ゆらり、首を持ち上げれば鮮やかな橙の髪がちらりと視界の隅で踊った。
図書委員会の腕章をちらりと見遣れば小さく頭を下げた)
「あ、ああ。騒ぎすぎましたよね。すみません。
あの一番上の本がちょろっと気になったんですけど上手く取れなくてですね。
どうにも身長が低いもので」
(ぶかぶかのカーディガンから覗く指先が指し示すのは一冊の本。
妙に分厚い、ハードカバーの本)
「あれですあれあれ。殺人鬼のメソッドってヤツです。
タイトルからしてやえアレ絶対面白いと思うんですよね」
■谷蜂 檻葉 > 「あはは……。それだけ言えるなら、怪我もなさそうですね」
相手の、歯に衣を着せぬ物言いに苦笑しながら落ちた本を集める。
「いえ、ちょっと目についただけなのでお気にせず。
あ、それならその辺りにあそこ踏み台が……あれ? ない?
……もう、ちゃんと使ったら戻すよう立ち台そのものにも張り紙でもするべきかしら……。」
ヤエのように、背が低い者というのは学園に一般以上にいる。
体に異常があって小さかったり、もしくは年齢《見た目》と中身が釣り合わずに、など理由は様々だが。
そのため、据え置きの少し大きめの足台が置かれているのだが視線を回しても誰かが使ったままどこかに置き去ってしまったのか、それがない。
「ええと、すみませんいつもなら置いてあるんですけど……私が取っちゃいますね。 よ、っと。」
困った表情で頬をかきながら、軽く背伸びをして言われた本を取り出す。
そのまま、チラと表紙と裏面を確認しながら
「と、これであってますよね。 ……なんだろ、ミステリ?」
ヤエに差し出しながら、この本が一体どこのジャンルコーナーか視線を巡らせる。
■鏑木 ヤエ > 「どうも、ありがとうございますよトショイインさん」
(落とした本を掻き集める。
「あ゛ー重い」、と悪態を吐きながらしっかりと落とした分は拾う。
幸いどの本も折れた様子はなく胸を撫で下ろした)
「そんなもんですよ、立ち台に貼ったところで戻さねー連中は戻さねーですから。
横着しようとしたやえも悪いといえば悪いですし」
(差し出された本を「どうも」、と小さく呟きながら受け取る。
ぱらぱらと何ページか捲り、内容をぼんやりと確認していく。
最後に開いたのは目次のページ)
「ははん。
哲学書というか殺人鬼になるためには!みたいなそんな感じですかねえ。
面白そうといえば嘘になりますけどなかなか悪くはなさそうですよ。
4章。殺人鬼が犬を飼いたいといえばそれは殺人鬼に成り得るか」
(溜息を再び落とす。これで一週間と二日は幸せが逃げた)
「前言撤回です、そう面白くはなさそうですね」
■谷蜂 檻葉 > 「どういたしまして。」
慇懃無礼というよか、やはり『思うがままに言葉を発する子だな』と評価を下す。
では今彼女は不機嫌なのだろうか?と思うが表情からはイマイチ読み取れない。
「どちらも、気持ちは解りますけどね。 次から気をつけていただければいいですから。」
ヤエが本を開いている間に棚のテーマが判明する。
生き方、思想学系の本をまとめている場所のようだ。―――タイトルだけは面白そうなものが揃っているが、よくまぁこんなタイトルの、それもパッと目につかない本を見つけたものだと内心で嘆息する。 周りにある本もタイトルそのものがミステリめいている。
「……図書館に来たのは、暇つぶしかしら?」
しきりに”面白い”かどうかを重要視している発言から、そう尋ねる。
図書館の利用目的の大体は勉学・資料探し、もう半分くらいは暇つぶしだからという雑な理由でもあるけれど。
■鏑木 ヤエ > (檻葉の考察は大の正解である。
自分の気持ちに嘘がつけない。
そんな下らない異能を抱えた彼女は何時でも本心をそのまま口にする。
語る言葉はハイテンション、湛えた表情は無表情。それが鏑木彌重だ)
「ええ、暇つぶしですよ。
暇というほど暇をしていた訳じゃあないですが考えるのが好きなもので。
自分でネタが尽きるとこうやって探しにくる訳ですよ」
(捲る。
徐々に本のペ-ジを捲る速度は速くなる)
「オモシロくないモノもやえは嫌いじゃねーですけどね。
やえの思考回路じゃそいつは紛れもなく出てこないモンですから。
こいつだってそうです」
(手に持った本。
面白くないと言い放ったそれを興味深そうに見つめて)
「やえ、この本から学べること沢山ありそうですもん。
オモシロくないのはやえから見た視点でほかの人がオモシロいと感じることがありますし。
本は視界が広がるから好きなんですよね」
(「アンタはどーですか」、と。言葉はつがれた)
■谷蜂 檻葉 > 口早にペラペラと喋る少女の表情は変わらず、まるで急くようにする姿はどこか鬼気迫る物を感じる。
かといって、ソレ以上のことはないのだからどうというまでもないのだけれど。
(あぁ、なるほどね。 確かにそれなら色々と納得。)
本とは、知を綴ったものである。
知識であり知恵であり経験"知"を文章としてまとめ、綴られたソレは大なり小なりその人間の「世界」へ誘い、思いにせよ嘘にせよ体験にせよ、それはその人独自のものを読者は沿う事になる。
―――この無表情な口達者そのものも、随分と面白いとは思うけど。
自分はどうか、と聞かれて笑みを見せる。
「私も、そういう考えは好きかな。
自分とは違う視点から自分の見てきたものを見る、知る、考える……。
人と話すように、自分の世界を広げられる感覚は好き―――だけど」
ただ、この図書館に入り浸るような人間からすれば
「―――世界中の読みきれない本を読んで世界を広げる為に、面白い本から順番に読みたい。かな?」
面白くないものを読むのは、期待を外した時ぐらいで丁度いい。
ちょうど今、ヤエがそうであるように。
「折角だし、おすすめの本でも持ってきましょうか?」
元より最初に持ってきた本を返せば自分も帰る予定で、時間には余裕しかない。
■鏑木 ヤエ > (檻葉の言葉に小さく相槌を打つように頷く。
本というのは誰かの創作であったり誰かの意見だったり、はたまた誰かの人生を綴ったものである。
故に自分の出来る筈のない/出来ないであろう事象を追体験できる。想像できる。
そういった意味でも彼女の知識欲と好奇心を満たすには最適だった)
「ゼータクなものですね。
トショイインさんは美味しいモノから先に食べるタイプでしたか。海老フライとか。
それも中々に悪くないと思います。───、というよりもアタマがいいんですかね」
(こてん、と小さく首を傾げる。
視線は檻葉の表情を見遣ってみたり先刻の殺人鬼のメソッドに向けられたりと様々だ。
ふとした瞬間、その視線はぴたりと檻葉に向けられた)
「例えばですけれど。
トショイインさんは殺人鬼が人を愛することが出来ると思いますか」
(とんとん、と本を叩く。
ある一節に人を愛しすぎた殺人鬼、の話が掲載されているのがわかるかもしれない。
同時に、彼女が意見を求めていることも)
「あ、お勧めとかも知りたいですね。哲学関連がうれしいですよ」
■谷蜂 檻葉 > 「生活の知恵、よ。
ちゃんとしたご飯があるのに、わざわざお皿まで食べないだけ。」
くすくす笑って彼女の言の葉を噛みしめる。
否定はしたが、なるほど中々贅沢なことなのかもしれない。
と、笑いに弾む肩がピタリと止まる。
「え? ……殺人鬼が、ねぇ。」
彼女の手にある本の1テーマだろうか。
真なる答えがないものの類だろうから、つまるところ価値観を聞かれているの、だろうか?
「殺人鬼が、という前提とはズレるかもしれないけれど。
何を殺そうが、愛せるものは愛せるのではないかしら。思考の区切りをつける、というか。」
人が人を見る一面とは常に一部なのだから、引っ括めずともいいのではないだろうか。という、考え。
ある側面を殺すほど憎み、ある側面を狂おしいほどに愛する。
その結果、どう転ぶかはその人間の価値観次第、と。
「哲学関連、ねぇ。 あ、ちょっと待っててね。先にこの本返してくるわ。」
そう言って、ヤエの元に来る前に持っていた本を見せて奥の書架へ向かう。
やがてそう時間もかけずに戻ってきたその手には別の本が収まっていた。
「はい、これ。お待たせいたしました。」
そう言って差し出された本に書かれていたタイトルは
『犬の人の愛し方』
狗頭の異邦人が綴った、価値観の違う彼がこの世界の人間に恋に落ちた話。
エッセイであり、ちょっとした思想書だ。 数年前、小さな賞を取った本でもある。
■鏑木 ヤエ > 「なるほど」
(どこか納得がいったように頷く。ご飯があればお皿も食べない。
──、となればご飯がなければお皿を食べるか、と更に疑問は湧くが胸中に収めて)
「そうですねえ。
この場合は殺人鬼、じゃなくって極端に人間に踏み込まれるのを嫌う人、とか。
単純に人間嫌い、とかでもよかったかもしれませんがやえはあえて殺人鬼としてみました」
(ぴょこん、と人差し指を立てる。
まるでニュースキャスターか何かのように朗朗と言葉を紡いでいく)
「やえはですね。この言葉を読んで真っ先に思ったのが───
殺人鬼は本来何かを、まあニンゲンを殺すモノである彼らが何かを愛すことはできやがらないと思ったんです。
生かしてしまえばそれは殺人鬼──人を鬼のように殺すものではなくなってしまいますから。
その時点で殺人鬼になりきれてねーって訳ですね。
ただ奪うだけの存在。それが殺人鬼。
そんな殺人鬼が何かを愛そう、というのはとんだ戯言だと思うんですよね。
オモシロいジョークだって言い張るなら乾いた笑いを浮かべてやらねーこともないですが。
故にトショイインさんとやえの思考回路は全く別、というのがわかります」
(檻葉の手元の本をちらり、と見遣る。
ゆっくりと手を伸ばして受け取ればぱらぱらと数頁読み進める)
「恋愛のオハナシですか。やえは中々に好きですよ。
好きな人とかがいる訳でもねーもので勉強になるんですよねえ、こういうの」
(異界のモノの書いたこのセカイを綴った書。それは随分と興味深くて、)
「読みました?コレ。
もし読んでたら先に感想教えてもらっていいですかね」
■谷蜂 檻葉 > (なるほど、ね。)
『人を』『鬼のように』『殺すモノ』
なるほど確かに。
その形容詞ではこの定義にはそぐわない。 奪い去り、悲劇をもたらす悪人足る鬼に”成り切れない”というのはまた随分と面白い考え方をするものだ、と。やはり人の数だけ考えがあるということだろう。
鬼とは、鬼畜という言葉を代表するように冷酷非道・悪逆無比なイメージが多いが、
解らぬもの・強きもの といったより抽象的かつ無指向性な意味を持つ。
故に、私とは思考回路は全く別、ということが分かった。
「ええ、何度も読み返したわ。
……そう、ねぇ。一口で言えばびっくりするぐらい感情移入しづらい本、かな。」
それをオススメする神経は、図太い。
「本当に『異世界って異世界なんだな』……って、大筋はうんうん頷きながら読んでいけるんだけど、
肝心の要所要所がどうしても首を傾げてしまうの。
「なんでそんな事を考えるの?」って。
まぁ、それを考えるのが面白かったからお薦めしたんだけどね。
ページの最後に著者の住んでいた異世界について書かれた参考文献があるから、読み終えたらそれも合わせて読み直すとなおよし、って感じかな。 繰り返し読む暇つぶし本としては、かなりオススメよ。」
いい仕事をした。といった笑顔で、本を送り出すと鞄を肩にかけて
「それじゃ、私そろそろ帰るわね。 またね、ヤエさん。」
何度か言葉尻に見え隠れしていた一人称を呼んで、手を振る。
「トショイインのオリハって言えば、私しか居ないから、また縁があったらお話しましょうね。」
ヤエさんの感想でも聞かせてくれれば嬉しいかな。
そういって、檻葉はゆっくりと図書館を後にする―――。
ご案内:「図書館」から谷蜂 檻葉さんが去りました。
■鏑木 ヤエ > (「ほほう」、と値踏みするように息を洩らす。
感情移入がしにくい本、と聞けば嬉しそうに口角をほんの少しだけ持ち上げた)
「『何故』、っていうのはニンゲン、その他知的生物にのみ許された特権ですから。
それを存分に享受して存分に考えられるのであれば喜んで読んでみますよ。
ニンゲンと異邦人の視界の違い。見ている景色の違い。
それを美味しくいただけるのであればどんなにクソ面白くなくても最後まで読む自信はありますね」
(明確かつ非常に解りやすい違い。
人間の視点から見る異邦人の生活。感情。
異邦人から見た、恋い焦がれた人間の姿。そのどれもが活きのいい感情となって交錯する)
「参考文献もあるならば存分に時間は潰せそうです。
どうもゴシンセツにありがとうございました、ええと──オリハ。
是非にオハナシ、出来るの楽しみにしてますね」
(去りゆく背中を見送り、幾らか時間が経つまでずうっと本を読みふけっていることだろう。
参考文献についてをまた早口で図書委員に問いながら、高貴な暇つぶしの時間を十分に満喫するのだ)
ご案内:「図書館」から鏑木 ヤエさんが去りました。
ご案内:「図書館」に渡辺慧さんが現れました。
■渡辺慧 > 虫食い状態のような講義ノートを見て、一つため息をついた。
以前の数日感。講義をまともに受けていなかった為だ。
……いや、受けてはいる。受けてはいるのだが、思考を講義へ向けられていない、という方が正しい。
ふと、現実へ意識を戻し、聞こえた部分の必要そうな部分だけかき残し、そしてまた、物思いにふける。
勤勉であるなど、口が裂けても言えないが――。
この島へ来たこと、それを考えれば。
最低限。必要な事。
ほとんど誰もいない。
時間も時間だからか……そう遅くはない。
して、それもあるが、奥のスペースに座り。
“誰か”がいないことを確かめたうえで、ここでノートを開いている。
だったら、態々ここへ来なくても、よさそうな物なのに。
タブレットを左手で操作して、授業の内容、講義の内容。
それを映し出しながら、もうひとつ。
小さくため息をついた。
ご案内:「図書館」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
■谷蜂 檻葉 > 本日もまたお仕事――――ではなく。
谷蜂檻葉は仕事がなくとも図書館に入り浸る。
勉強、物思い、暇つぶし、雑談 ……最後のは、時と場合によりけりだけど。
おおよそ一日の何処かで図書館に寄ってから帰る。
だから、この日2人が再開したのは、ここでなくとも遠くないいつかに訪れる結果。
「―――あ、あの時の。」
極気軽に。
彼の想いの欠片も理解すること無く、椅子を引いて少年の前に彼女は座った。
「”渡辺君”だっけ……お久しぶり、だね。 自習?」
同じように講義用のノートを手元に鞄から取り出しながら、
タブレットを眺める俯いた頭に、にこやかに尋ねる。
■渡辺慧 > トントン、と指先がタブレットを叩く。
しかしそれは、何かを操作するための動作ではなく、ただの意味のない行動だ。
右手は――それを書き出すためのそれは、秒針、いや。
長針のリズムな如く、緩慢に動いていた。
その声を聴くまでは。
湧き上がるのは何かを、ここ最近で取り繕い終えた表情で抑えた。
――少なくとも、自分ではやれていると思っている。
緩慢乍ら、だが、だがどことなく。それを意識しているかのような動作で、目線だけで見やる。
「――……あぁ。……こないだの」
「久しぶりです……ね」
なんで、と。咄嗟に漏れ出た声は、聞こえていないことを願いながら。
■谷蜂 檻葉 > 「―――ん? なんか、元気ない?」
緩慢に応える少年に、首を傾げる。
最初の邂逅から今に至るまで、随分と憂鬱げな少年だな。なんて、困った表情を見せる。
図書委員以外の知り合いに此処で出会うと、ついこうして話しかけてしまうが彼には迷惑だっただろうか。
「あー……えっと、何の授業?」
距離感を掴むために、また尋ねる。
カウンセラーじゃないんだから、と内心苦笑しながらも。
彼から少しでも言葉を引き出せないかと問いを投げる。
■渡辺慧 > 「あー…………――っと」
隠しきれてなどいない、なんて。
今の言葉を聞けば容易に想定できる。
――身勝手乍ら、君のせいだろ、とまでも。
むしろ。……今後、これから。
彼女の事を考えるなら、そういう風に。至って。
路傍の石程の価値、いや、むしろいるだけで困らせるような印象を持ってもらえれば――それは一体、本当に誰のために。
だったら。やはり。
――なぜ、ここにいるんだろうか。
「……いえ、普段通りですよ」
以前と、まるで違う距離感。それを、意識して――意識して。
じくり、と。何かがにじんだ。
「数学です。……頭、良くないもので」
■谷蜂 檻葉 > なんというか。
酷く、この少年は面倒臭そうだ。
そう思った。
いや、思っ"て"いた。
冷静に考えて時計塔なんて不思議な場所で、寝顔を見ていたなんて言う理由で
刑を待つ重罪人のような顔で謝る男が面倒くさい何かがないなんて信じられない。
ただ、思った以上に面倒くさそうということで。
「そ、そう?なら、いいんだけど。」
あはは、と乾いた笑みを浮かべて頷いておく。
何に頷いているのか自分でもわからなくなりそうだけど。
「数学、かぁ。そっちは私も教えられるほどじゃないからなー……。」
むしろ、苦手な科目といって相違ない。
必死に勉強して―――あ、それなら。
無言で立ち上がり、立ち並ぶ書架へ足を運ぶ。
そう時間もかけずに、数冊の数学の参考書を手に戻ってきた。 それを、「はいこれ。」と。
必要以上の言葉をかけずに、彼の勉強道具の横に置く。
そして、無意識に彼の世話を焼いていることに、内心首を傾げて照れ笑いを浮かべる。
「―――あ、えっと。
それ、学校の勉強するなら役に立つよ……って。直接教えられないけど、お手伝いぐらいはね。」
言いながら、自分の勉強にもとりかかる。
復習だから、さしてつっかかるところもなくスラスラとシャーペンを走らせる。
■渡辺慧 > ある意味順調。そしてある意味――。
だが。
「あ、え、っと……」
「……ありがとう、ございます」
置かれた、その参考書を見て。
面喰ったかのように、小声で、だけれどなにかを和らげた声で礼をつぶやく。
――お人好し
と聞こえるかどうかの声で呟く。
自分を覚えていた時のそれと相違ない、何か。
「えっと……。……よく来るんですか。此処」
詳しいんですね。とつづけて。
ひどく、ぎこちないそれ。
よく来ることなど知っているし、聞く必要も。
むしろ、聞かない、これで、会話は終わり、ぐらいの方がいいそれ。
だけども。
視線を、参考書へ向け、それを広げながら。
■谷蜂 檻葉 > くすり、と笑ってリラックスしたように頬杖をついて復習を続ける。
「”お人好し”より、”お節介焼き”っていうほうがよく言われるかな。」
礼が言えるなら、悪くない。
心の中でプラス1ポイント。
「ま、どういたしまして。」
自分の行動が、誰かの感謝に繋がるのならそれはとても気分の良いものだ。
だから、こうして図書委員となって自分の利益と誰かの必要のためにお仕事をしていた訳で。
「んー、よく来るっていうか。だいぶ入り浸ってる。
今は腕章つけてないけど、私図書委員なの。 本をゆっくり読んでるのも好きだし―――」
さらさらと快活に動いていたシャーペンが止まる。
そういえば、宿題が出ていたのを忘れていた。
教科書を取り出してパラパラと捲り出す。
「―――君みたいに自習したり、静かな此処で本の匂いを嗅ぎながらのんびりしたりしてる。」
投げられたボールを、キャッチしてまた投げ返す。
「渡辺くんは、時計塔の方に良く行くのかな?」
■渡辺慧 > 知ってるよ。
その一言は言わない。
少なくとも、それを知れるぐらいには過ごした時間はあった。
トントン、と。再び指でタブレットを叩く。
「図書館の住人。……じゃあ俺はそれに紛れ込んだ異邦人かなんかですかね」
目線を向けるわけでもなく。ぼんやりと紡がれる言葉。
右手はペンを。先ほどと同じようにゆらり、と揺らめくように書き連ねている。
「――そう、ですね」
一際。目に見えずとも。その意図はなくとも――。
「……えぇ、良く行きます」
「――あぁ、っと。……その」
「こないだは、すみませんでした」
ビーンボール。いや、キャッチャーが不在なのだから、それは意味を持たず。
■谷蜂 檻葉 > 宿題と言っても、やはり復習のついでに行える程度のもので
さほど考えずともノートを見れば楽に解ける難易度でしかなかったようだ。
よし。と、頷いて再びシャーペンを走らせようとした所でその軌跡がブレる。
「―――、っ。 随分と、詩人さんなのね?」
噴き出しそうになるのを、グッと堪えて顔を上げる。
図書館に住んでるみたいね、とは言われたことはあってもその対になる言葉を聞くことはなかった。
杖をついていた手でこっそりと口を覆いながら、相手の様子を窺う。
が、視線の先にある少年は憂うような雰囲気で、陽炎の先にでも見えるかのようなぼんやりとした表情で笑みが固まる。
素面……とは、また違う。 なんだろう、心ここにあらずというか。
「あ。」
彼の心境についてペンを止めて考察していたところで、先に考えていたことを投げられて。
「そう、アレなんだけど。 その、もしかして君『浜辺』の事、知ってたりする……?」
少し顔を赤らめて、尋ねる。
■渡辺慧 > 「…………?」
距離感を置いても、紡がれる言葉にはさほど変わりはない。
だから、それに対する反応にも不思議そうな。
「そうでもないです。……そうなんですか?」
不思議そうな顔で、彼女を見上げた。
が。確かに、あの『浜辺』の事なら。
一緒に行った、あの時の事なら、知っている。
だけど、なぜ。なぜ、それを彼女の口から。
「――……なんッで」
つい、大きくなりかけた声を。ギリギリのそれで抑えた。
――違う。きっと違う。
「……えっ、と」
「……………なんのことですか」
――この彼女は、違う人、と言っても、差支えないはずなのだ。
■谷蜂 檻葉 > クスクス笑ったまま、首を小さく横に振る。
気にしないで、とも。 自分で言うことじゃないわよ。と忠告するようにも。
そうして、投げた問いに苦笑や赤面、はたまた笑われるかと身構えてはいたが。
「―――!?」
叫ぶような、何か衝動的に彼が吐き出しそうにした事にビクンと肩を跳ねさせる。
というか。
『なんで』とは、なんだ?
「い、いや、何のことってそんなリアクションしといて―――!」
思わず追求しそうになった所で、じゃあ自分で言うとして、言うのか?アレを?
静歌から聞いた、マジカル某を?
(……忘れてくれるならそれでいい……んだよね?)
そこまで思い至って、両手を合わせて頭を下げる。
「ごめん!……その、変なコト聞いちゃった。忘れてくれていいから、ね?」
だから、【そのまま忘れてくれ。】 と、そう伝える。
■渡辺慧 > 「…………――……ないんだよね」
「違うん、だよね」
言い聞かせるように……いや、違う。
むしろ、覚えているなら、いや……。
形容しがたい、自らのそれを表すかのように。
小声で呟く。わからない。
「……えっと、すいません」
「分からないです。……友達が、似たようなこと言ってたもので」
取り繕うかのように。しかしながら、少しだけ、分かった気もする。
なぜ、ここにいるのか。
しかし、それと同時に、理解できる。
ある意味。やっぱり、あの時に。
彼女は元の世界に帰ったのだろうとも。
また、顔を俯かせ、ペンを走らせる。
その進みは遅々としていたが。
「――で、浜辺がどうしたって」
■谷蜂 檻葉 > 「……?」
さっきから、なんだろう。
彼は私の何かを、知っているのか……?
私の、ではないかもしれないが。
何か、私の持っている欠片の一部を持っているのだろうか。
話題から離れるべきか、踏みとどまるべきか。
どうするか考えていた所で―――
「と、友達が……そう……。」
気のせいだったか、と。
(あぁ、やっぱり割合幅広く見られたのか。 死にたい。 穴を掘って埋まりたい。)
なんて、顔を真赤にして俯く。
「い、いや! なんでもないことにしておいて! ……はぁ、どうしたもんかなぁ……。」
静歌のフォローはやはりフォローになってないじゃないかと頭を抱える。
もしかして、クラスでも口にしないだけで内心浜辺で見たそれと見比べられてこっそりと嗤われてたり―――
「……謝罪なら」
嫌な想像で頭が茹だりそうだ。
「餡蜜、奢って。商店街の菓子屋さんの。」
そういう時は、なんだかんだ言って甘いモノが効く。
■渡辺慧 > 「……どうしたもんかな、と言いながら、なんでもないことにしておいて、とは。なかなか難しいことを言いますね」
つい。
先程から、もう。つい、としか言いようがない。
一番最初の、距離感を保つ、という部分は、ある意味……この敬語しか機能していないかのように思える。
「そう、顔を染められて気にするな、と言われましても」
「――……甘いもの好きなんですか」
この、自らが目指すべきものに反発するもの。
――自分勝手なもの。
分かるようで、分からない。
なにが、反発しているのか。
――心の中で、まだ、迷惑をかけるかもしれない、と頭を下げながら。
「……はい、それぐらいなら」
■谷蜂 檻葉 > 「こ、こっちの事情ってことよ! ……もう。」
拗ねたように口を尖らせ、サッとペンを走らせて宿題を終える。
「い・い・か・ら・き・に・し・な・い!
顔も、赤くなってなんかないし!いいから忘れなさいっ!」
ガーッと、まくし立てるように。
とはいえ大声になり過ぎないように器用に声量を絞りながら言いつける。
肩で息をしそうになるほど消耗しながら、
承諾に溜飲を下げ、ため息を付いて頷く。
「……人並みにはね。 でも、あんまり甘すぎるのは駄目。
どっちかといえば辛党よ。 渡辺君は甘党?パフェとか1人で最後まで美味しく食べれるタイプ?」
■渡辺慧 > 顔を上げずに――虫食い状の講義ノートを埋めていく。
頭に入らなければ意味がない。――そういう意味では、この作業は。
ある種、自分を落ち着かせるためだけのものなのかもしれない。
自らの、左手の袖を、口にあて。――先程彼女がしたような動作――
少し堪えた。
「忘れられるかどうかは、明日の俺にでも聞いてください」
お疲れ様です。
と、顔を笑みにしないまでも。
「そうですね。――苦いよりは、甘い方が好きですよ」
「それ。やったことがないから、正確には答えられませんけどね」