2015/09/07 のログ
リビドー > 「ははっ、随分と地雷の処理に慣れているね。
 とは言え真面目に描いてそれなのだから、致し方あるまい。
 趣味なら兎も角、商業ともなれば相応の完成や文章能力、物語の転がし方が要るからな……」

 熱意が見えれば思わず苦笑を零し、どうしようもなく産まれてしまった地雷に軽い痛悼を見せた。
 あまりの止め具合が逆に興味を引いたものの、ここは引いておこう。

「そうかい? 
 手の届きやすく親しみやすい娯楽であり読み物であると考えれれば、愛されている事にも納得が行く気もするとも。
 文章の構築や物語の作り方と言った技量的な事は置いておくにしても、分かりやすく親しみやすい文章として、
 共感を抱かせ感情を移入させてくれたり、欲望をダイレクトに満たしてくれるんじゃないかな。
 難しい本と呼ばれるような文学は、実際がどうあれそのステイタスに二の足を踏んでしまう気持ちも分からなくはないとも。
 ボクが今さっき言ったことと少々矛盾する気もするが、身近で分かりやすい文章ってのも悪い事ではないからな」

 何処か無邪気にも見える微笑みを見せ、本を受け取る。

「ふむ。"文学メイドの怪事件簿。"
 ……大分興味を惹かれるね。表紙のキャラクターもちょっと変わったタッチで書かれているし、そこも興味深い。
 よし、借りて行くとしよう。」

 表紙に目を落とす。
 ゲスい笑みを見る前に、そう告げる。
 ……顔を上げてその笑みの一端を見ればちょっとだけ苦笑を見せたが、取り下げる気は無さそうだ。

椚 真 > 「そりゃもう。目に見える地雷は踏まないと気が済まないもんで。
本当に面白い作品ってのは、表紙しょぼくてもすり減ってるようなやつでしょ。
でも本当に偶にッすけど地雷っぽくても面白いのあったりするから侮れないんスけどね。」

他人と同じ道は通りたくないらしい。
と言っても教師の言う面白い作品等、本当に一握りくらいしかなく。
面白い本を読むではなく、面白い本を探すと言う趣旨になってしまっている事は否めない。
それも理解はしているのか、拳を握って力説。こんな楽しみ方もありますよと言いたいらしい。

「…ぁー、ウン。言ってる事は間違いなく合ってると思いますし
バッチリ共感も出来ますけどね。俺ァ本を眺めて、そこまで発想出来ませんわ。
流石リビセンセとしか言いようが、ねェっす。」

生徒と言っても差し支えの無い幼さすら感じさせる笑みから繰り出される
深い上に長くて、しかも理解も出来るとか言う反応に困る発言。
ははは、と乾いた笑いで深い掘り下げは控える事にした。

「――…嗚呼。勿論ノークレームノーリターンでオナシャス。
それはそうとリビセンセ。一つ聞きたい事あるんすけど……歳って幾つなんすか?」

取り下げる気が無ければお約束レベルの保険も掛けておく念の押しよう。
それからさっきの笑みといい、普段は中々聞く事の出来ない疑問をいい機会と言わんばかりに口にしては首を傾げた。

リビドー > 「成る程。手に取られれば確かに磨り減るか。
 全く以ってその通りだとも。"実績"は目に見えるものだ。……本を読んでいる身ではあるが、その発想には至れなかったな。」

 言われてみれば、貸し出される本としてはその通りだ。
 借りて読まれれば読まれるほど痛み、磨り減る。それは確かな実績であり、優れた本である事を示す要素だ。
 人に置き換えて言うのであれば、鍛え抜かれ使い込まれた歴戦の肉体と同義と思案出来る。
 少なくとも、リビドーはそう思案した。

 ……気付けなかった理由を考えれば少し黙る。
 本への接し方かと思案した所で我に返り、発されていた言葉を思い返して答える。

「確かに埋もれた名作を見つけた時の喜びは"ひとしお"だ。思わぬ発見を見出す喜びと言うのかな。それはちょっと分かる気がするぜ。
 哲学ってのはそう云う側面もあるからな……と、ああ、考え過ぎるのは良くも悪くも、性格柄みたいなものだよ。
 流石と言って貰えるのは有難いが、裏目に出る事だって少なくない。」

 笑みを見せてから困ったような顔を浮かべる。
 喜び同時に軽い謙遜を置いた具合だ。
 
「そうするとも。どちらにしても最後まで呼んで見せるさ。
 ……ん、ボクの年? 書類上では25で通してあるよ。
 具体的な年齢がちょっと分からなかったから、とりあえずさ。……若く見られて困ってしまうよ。」

 参ったね、と付け加えてから冗談めかし笑ってみせる。
 一見すれば、まんざらにでもないような笑顔に見える。

「さて、図書室で立ち話もそろそろ怒られてしまいそうだ。
 カウンターの方から龍もかくやのオーラが向けられている気がするとも。
 この本も読みたいし、帰るとしようかな。」

椚 真 > 「本屋で新品買うのも楽しいッすけどね。
図書館は図書館で楽しみ方があるッつーか。こういう楽しみ方も悪くないッしょ。」

自分なんかより遥かに学があり、知恵が回って優秀な彼に発想に至れなかったと言われると少しだけ得意気に、うんうんと小さく頷く。
時間にすれば決して長くはないけれども確かに開いた沈黙の間に、また小難しく考えてるに違いない、と軽く顔を顰めたけれども。

「物語も文学も好きッすけど哲学系だけは駄目ッすわ。
考えなしとは流石に言わないッすけど直感で生きてる俺みたいなのには性が合わなくてですね…。
何か面白いのあれば教えて下さいよ。」

そっち方面は如何にも詳しそうだなと思えば一つの提案。
食わず嫌いになってしまっているのは否めないので苦手な物は克服したいとは思ってはいるらしい。

「感想はまた気が向いた時にでもお願いしやすわ。
……実年齢は不明ッすか。…書類上は年下、と。…そうは見えないンすけどね。」

もう少し口調とかくだけてもいいものかと眉根を寄せながら考え込むが、結局の所現状維持に留まった。
事実、何とも若そうに見える笑顔は無駄に眩しくて多少悔しいのか、恨めしげに唇を尖らせて。

「んじゃ折角ですし俺も途中までご一緒させて貰いますわ。
図書委員も敵に回したくないですしねェ…。」

すっかり存在を彼方に追いやって忘れていた向けられている凄まじいオーラを思い出せば
背中に走る寒気。苦笑いを浮かべれば、それこそ何食わぬ顔で貸出処理を終えて、共にその場を後にするのだろう。

対極的な二人の雑談はもうしばらく続く模様――。

ご案内:「図書館」から椚 真さんが去りました。
リビドー > 「違いない。
 少なくとも、誰が何を読んでいるか。自分以外がどの様な世界に触れているかは実に分かりやすい。」

 購入・蒐集するだけでなくもう少し図書館に触れようか。
 そんな想いを馳せながら頷く彼を見る。

「哲学はまぁ、癖者だからな……。
 無理に触れるものでもないが、何かオススメがあれば回してみるよ。
 哲学に触れているノベルから入るのもありかもしれないな……」

 哲学の癖者はそれに携わる以上、よく理解している。
 故に考える事こそ推奨すれど、哲学そのものを積極的に勧める事はあまりない。

「ああ。悪いね、聞いてくれたのに。
 ま、その位で扱って貰って構わないとも。結構ガキだぜ、ボクも。
 ……ああ、一緒に行くとしようか。お互いに借りてから行くとしよう。」

 本を借り、椚と共にこの場を去る。

 余談では在るが、あらかじめ読書の顛末を此処に記しておこう――

 "文学メイドの怪事件簿"。

 ――リビドー曰く、"ミステリーの皮を被った単純娯楽小説"。
 勢いに任せたカタルシスこそあるものの雑味が多く推理要素は殆ど無い。
 ミステリーとして読んだらこりゃ地雷だなとぼやいた、とか。
 僅かに残る推理要素もコメディとキャラクターの濃さでぶっ飛んでいる。

 一度読んだ時にはしてやられたと思ったものの、
 ミステリーではないと思い読み直せば中々のものだったとのこと。

ご案内:「図書館」からリビドーさんが去りました。
ご案内:「図書館」に茨森 譲莉さんが現れました。
茨森 譲莉 > 新入生であるアタシが、真っ先にやるべき事は何か。
それは、校内の地理の把握だ。この常世学園という場所は、とにもかくにも広い。
地図を広げて校内を歩き回っていたが、一向にその広大な校舎の全容は見えてこない。
クラスメイトに案内を頼めればいいのだが、生憎そこまでのコミュ力は持ち合わせていなかった。

―――そしてまた、新しいドアが目の前に現れる。
手元で開いている地図……といっても、スマートフォンのアプリだ。
それを見ると、どうやらここは図書館らしい。

正直そろそろ疲れたし、暫く本を読んで過ごすのも悪くないかもしれない。
そう考えて、アタシはその目の前のドアを開いて、図書館に足を踏み入れた。

茨森 譲莉 > 図書館の中に入れば紙の香りがアタシの鼻をくすぐる。
たっぷりとその空気を吸いこんでから、アタシはその図書館を見回した。

「―――すごい。」

思わず口からそんな声が漏れた事を、アタシは知らない。
そこに並んでいるのは、巨大な書架の数々だ。
並べられた机には数人の生徒が腰掛けている。
よくよく見れば電源も完備されているらしく、パソコンを持ち込む事も出来るようだ。
愛用のモバイルノートを持ってこなかった事を内心で後悔しつつ、アタシはその本の森に足を踏み入れた。

これだけ本があれば、モバイルノートが無くとも悲鳴を上げるアタシの足が休憩する時間くらいは稼げるだろう。

適当に本を手に取り、パラパラと捲っては本棚に戻していく。

茨森 譲莉 > 本は少なくとも嫌いじゃない。正直、好きでもない。
でも、図書館という場所は好きだ。何しろ、人と関わらなくていい。

これだけ本があったら目当ての本を探すのは無理だろうし、そもそもそんな本は無い。
だから私は、図書委員の今週のオススメと
手書きのポップが飾られている所に置かれていた本を手に取った。

こんな妙な学校でも、図書委員会はちゃんとあるんだな。
同時に、これだけバカみたいな量があったら仕事はさぞ大変なんだろうな。
そこからさらに思考を進めて、よし、絶対に図書委員会にはならないようにしよう。
―――と心に誓いながら、その巨大な書架の数々の間を、これまた大量に並べられた机のほうへと歩いて行く。

そもそも、この学園の委員会というのは普通に委員会活動をしているのだろうか。
この図書館を含めて、何もかもが常識外れのこの学園の事を思ったアタシの口からは、
ただただ、ため息が漏れ出た。

茨森 譲莉 > 然程混雑しているという事も無いが、アタシはあえて隣に人が居る席を選んで座る。
読んでる最中に「お隣宜しいですか?」なんて言われた日には、間違いなく舌打ちの一つ二つはしてしまうからだ。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。というのは全くもって意味が違う。
違うが、常に不意打ちを警戒しながら安息できない時間を過ごすくらいならば。

「……お隣、失礼しまぁーす。」

まるで蚊の鳴くような声でこっそりこっそりとその席についた人に声をかけると、
宣言した通りにその隣の席の椅子を引いて、そこに腰掛ける。
夏はあけたばかりの秋先といえど、図書室は若干肌寒い。
鞄からひざ掛けを取り出しながら、小さく音を立てて、アタシは本を捲りはじめた。

―――蚊の鳴くような声というのは『蚊の羽音のようにか細い声』という意味らしいけど、
蚊の羽音のような声は確かにか細くとも、十二分にうざいんじゃなかろうか。

ご案内:「図書館」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (男がその席を選んだのは、たまたま書架から手近だったからだ。
 美術系の書籍が並ぶ棚から、二、三冊の理論書を抜き取って閲覧席に向かう。
 赤毛の少女が本を読み始めたばかりの、その隣)

「失敬」

(お隣いいですか、とか、失礼します、など尋ねるでもなく、低く小さな声がただ一言。
 むやみにひょろ長い腕の四本指が、少女の視界の端に映り込むやも知れない。
 慣れた様子で、音もなく椅子を引いて席に着く)

茨森 譲莉 > 『失敬』という小さく、低い声が、アタシの脳を揺さぶった。
片隣に人が居て、これだけ席が空いているにも関わらず、あえてそこに座るのは一体どんな変人か。
視線を少しだけ向けたアタシの視界に、奇妙なものが映った。

人、というには、些か長すぎる腕、そして、4本しかない指。
腕については、個人差はあるとスルーするとして、4本しかない指は一体如何なる産物だろう。
アタシに思い当たるのは、それでも尚ファンタジーではあるが、テレビで見た指を詰めるというヤツだ。
治安がいいように見せかけて、この学園は思った以上に恐ろしい場所なんだろうか。

そんな恐ろしい人間が隣に座ったのかもしれない、一体どんな顔をしているんだろうか。
どうしても気になったアタシは、本から視線を逸らし、その男の顔を見た。

「………い、異邦人。」

小さく、アタシの口からそんな声が漏れて、慌てて口を押えた。
それでも尚、見まごう筈もない垂れ下がった猟犬の耳にどうしても視線が吸い込まれてしまう。

ヨキ > (隣にはみ出すとか、音を立てるとか、そういった迷惑な存在感はほとんどない。
 人が居ようと居なかろうと、近くが空いていたから座っただけ、というのが当人の理屈らしい)

(机上に積んだのは、絵画論やら、現代美術の解説書といった専門書である。
 何の気なしに本を開こうとして――隣からの声に、ふと顔を上げる。薄く垂れた、猟犬の耳が揺れる)

「……ん?」

(波打つ黒髪の下。スクエアフレームの黒縁眼鏡の奥に、金色の瞳。
 いやに大きく見える唇の隙間に、尖った牙が覗く。
 彫りの深い日本人めいた顔立ちをして、それにしては何かが違う……
 顔の筋肉の動きが、人間とは少し違うような)

(所作は人間と何も変わらないのに、どこか言いようのない違和感のある顔のつくり。
 日本人からすればどう見てもコスプレにしか見えないようなローブ姿で、にこりと穏やかに笑い掛ける)

「ああ、うん。こんにちは。
 異邦人を近くで見るのは、初めてかな」

(少女の先に座っていた生徒がこちらへ顔をちらと上げるが、すぐに読書に戻ってしまう。
 どうやらこの男を知っていて、然して二人の会話を気にすることもないらしい)

茨森 譲莉 > 男の手元で開かれているのは、どうやら現代の美術書らしい。
本がアタシの領域を犯す事が無い事を考えると、それなりに常識を弁えている人間である。
という事は容易に想像がついた。
しかし、そんな美術書の数々の内容に目を通す事はなく、
アタシの視線はその顔に吸い込まれる。具体的にどう、とは言い難い違和感。
例えるならば、醤油に1滴だけソースが混じったような違和感を感じながらも、
アタシは、咄嗟に出た『異邦人』という言葉で傷つけたかもしれないと考えて、小さく頭を下げた。

「……あ、いえ、その。……失礼、しました。」

頭を下げれば、視線が下がる。
今度はその男のローブ姿が目に入った。
垂れ下がる耳、不気味に輝く牙、そして、
何とも言えない違和感を感じるその顔に気を取られていたが、
その服装も、おおよそアタシの居た場所で見られるようなものではない。
まるでファンタジー映画から抜け出て来たような、そんなローブだ。

「はい、異邦人を見るのは初めて、です。」

確認するような男の問いかけに、反射的にそんな言葉が口から漏れ出た。
そんな事より、アタシとしてはどうしても確認したい事がある。

「……えっと、アタシの事、食べたりはしませんか?」

異邦人には人を食べるモノも居ると聞いた事がある。
キラキラとチラつく凶器、どうしても視界に入る尖った牙を見ながら、
アタシはそんな事は無いと思いつつも、その目の前の男に向けて質問を投げかけた。

ヨキ > (相手の謝罪に、気を害した様子はない。いや、とだけ短く笑って、首を振る。
 彼女の疑問がそのまま表れたような視線の動きにも、見られるままにしていた。
 自分を食べたりはしないか、という問いに、ふっと笑む)

「ふむ、そうだな。
 君が落第したり、万引きをしたり……そういうときには、食べてしまうかも」

(意味深に薄く笑って答えたのが――やがて愉快げに、小さく笑い出す)

「ふッ……ふふふ。なんてな。安心したまえ。
 君のことを食べはしないから。

 名前はヨキ。美術の先生だ。
 昨日の夕食は、ごはんと味噌汁と、ピーマンの肉詰めと、なすの揚げ浸しと、冷奴と、白身魚の天ぷら、……
 そういうものばかりを食べてる。

 新入生かね?心配になるのも仕方ないさ」

(献立の品数がいやに多い。痩躯に見えて、よほどの大食らいらしい。
 再び笑って、小首を傾げる)

茨森 譲莉 > 「食べてしまうかも」という言葉に、身体が縮こまる。
ああ、噂は本当だったんだ、異邦人は人を食べるんだ。
万引きはともかく、落第はあるかもしれない、アタシは勉強が得意なほうではないし。
常世学園、なんて恐ろしい所なんだろう。必死に勉強して餌にならないように―――。

そう目をぐるぐると回していると、目の前の男は小さく笑いだした。
……それも、なんだか愉快そうに。

「か、からかったんですか?
 あぁ……良かった、一瞬本気で心配したわ。」

思わず、口から安堵の息と共にそんな言葉が漏れた。
普段なら、そんな冗談を本気にしてぐるぐると目を回すなんて失態を犯す事は無い。
ちらりと、その男の風貌をもう一度見る。間違いなく、この変人染みたビジュアルが悪い。
こんな恰好で言われたら、指から死の魔法が出せるんだと言われても冗談に聞こえないだろう。

「先生だったんですね、アタ…私は篠森譲莉です。
 はい、つい先日常世学園に編入したばかりで。
 本当、変な事を聞いてしまってすみませんでした。」

そう改めて頭を下げて、僅かに警戒心を緩めた。
この変な服装は、芸術家特有のアレなのだろうか。
それとも、異邦人特有の衣装なんだろうか。改めてその服をじろじろと眺める。

「随分と沢山食べるんですね。
 アタシもピーマンの肉詰めは好きですよ。」

アタシは男の笑みに苦笑いを返しながら、
未だにドキドキと高鳴る胸のあたりを手で押さえる。決して、恋ではない。
冷静になれば、その男、どうやらヨキ先生と言うらしい。
ヨキ先生の近くに詰まれていた美術書が気になった。

「……授業の準備ですか?」

ヨキ先生と同じく、アタシも小首を傾げる。
図書館というのは、本来ならば人と関わる事の少ない場所だ。
でも、なんとなく心が乱されたからだろう。
先ほどまで読んでいた本は、既に閉じられていた。

内容もすっかり忘れてしまったが、なんとなく面白かった事だけは覚えている。
帰るときには借りて行ってもいいかもしれない。

ヨキ > 「やあ、済まん。そんなに心配をさせてしまったか、悪かったな。
 こう見えて、君ら日本人と暮らしはそう変わらないさ。
 テレビを観れば、マンガも読むし、スマートフォンでゲームだってする」

(人差し指を動かして、スマートフォンを操作する仕草。
 椅子に横向きに座り直し、身体を相手に向ける)

「茨森君。ああ、どうぞよろしく。
 気にすることはない。地球の人間にとっても、異邦人にとってもここは異世界のようなものさ。
 逆に異邦の者たちが不慣れから粗相をしてしまっても、大らかに許してやってほしいと思う」

(身体に沿った細身の衣服の、広い袖口を軽く持ち上げてみせる。
 奇妙なディテールではあるが、その布地や仕立てはきちんとしているらしい)

「ヨキは獣人といって……犬と人間の中間、のようなものだからな。
 人間の身体で、犬のように早く強く動くには、とてもカロリーが要るのさ。
 燃えるのが早いから、こんな凝った服をいつまでも着ていられる」

(ピーマンの肉詰めが好きと聞いて、仲間を見つけたかのように喜んで笑う。
 閉じて積まれた本を一瞥して、うん、と頷く)

「半分はそう。もう半分は、趣味。
 趣味と実益を兼ねて先生をやらせてもらってるようなものさ。

 君は……茨森君は、異能を得てこの学校に?」