2015/09/19 のログ
蓋盛 椎月 > 「ありゃそうだっけ。
 ん? なんだそれ照れるなあ。もしかして口説かれてる?」
うひひ、とおかしそうに笑う。

「お、よく覚えてるねー。さすが優等生。
 ……んー、実は知り合いが関わってる可能性があってねー。
 一応、知識はちゃんと頭に入れておこうと思って」

気持ちよさそうに揉まれながら、
少し迷った素振りを見せた末にそう口にする。

「ホント? 美少年に肩揉んでもらって手伝ってまでもらえるなんて
 図書館って場所は天国だなあ~、ありがとね」

開いていた新聞を閉じて、机の上に。

「それに……
 《レコンキスタ》の思想って、そう他人事でもないんだよね」

わかるでしょ? とでも言いたげに、背中越しに視線を向ける。

奥野晴明 銀貨 > 「先生は口説いても本気にはしてくださいませんからね。
 それに先生は口説く側のほうがお好きでしょう」

心なしか手に力を込めながら肩を揉み続ける。

「いえ、大したことじゃないのでお気になさらず。
 お知り合いですか。それはたとえば……この学園の教師、とか?」

どこまで知っているのかはまるで読めない抑揚のない声でそう尋ねる。相変わらず表情は薄い笑みをたたえたままだ。

「思想。他人事ではないと。
 ……”異能者を徹底的に排斥し世界秩序を回復すること”の部分でしょうか?」

片方の手で開いた本の一説、≪レコンキスタ≫を解説したその一文を細く白い指でなぞって見せる。

蓋盛 椎月 > 「はは、先生を遊び人みたいに言うものじゃない。
 ……ま、確かに本気になった試しはないけど。
 それはそれとして、口説かれるのも結構楽しいものだよ」

問いには、「さて、そういう可能性もあるかもね」と玉虫色の返事。

「んー……ちょっとどうとでも取れる言葉すぎたかな。
 えーとね。
 世界秩序を保つのに、異能者を排除すべき――だなんてのはバカげてるけど。
 異能者ってのは、実際“やっかい”なものなんだよ。
 誰だって一度はそう考えたことがあるはずなんだ。

 この学園で過去の歴史を紐解いたり、異能について学ぶたびに
 異能というものがいかに理不尽か、ってのは嫌でもわかっちゃう。
 それが即テロリズムに傾倒するとまでは言わないけど……
 うかつな教え方をすれば、そういう危険思想に近づけさせてしまう可能性は大いにあるんだ。
 だから、この機会にちゃんと勉強しなおしとくのは悪くないとも思った」

穏やかで丁寧な口調で、そう説明して――
「うわー教師っぽいこと言ってしまった」と頭を抱えた。
ふう、と一呼吸して。

「銀貨くんはさ……、どう思う?
 異能って、この世界に必要なのかな?」

銀貨と似たような静かな笑みを浮かべたまま、そう囁くように尋ねた。

奥野晴明 銀貨 > 「そうですか、楽しいのなら結構。口説かれたいときは言ってください。
 なんでも甘い声で囁きましょう」

ふ、と苦みを帯びた笑みで口元をゆがめる。
はっきりした返事が返ってこないのならば、自分には知られたくないことなのだろう。
その話題には特に追求せず、蓋盛の教師っぽい説明を黙々と聞いた。
先生っぽい先生も嫌いではないですよ、よくお似合いですと本気とも冗談ともつかない前置きから口を開く。

「なるほど、そこでしたか。
 少なくとも僕らみたいな『たちばな学級』の面々はその異能の厄介性に振り回されていますからわかります。
 たぶん中にはその厄介なものをきれいさっぱり消し去ってしまいたいという子もいるでしょう。
 意図せず異能を向けられて被害にあった学生や教師だって少なくはない。

 厄介なものとの付き合い方、適切な距離の取り方は確かに学ぶべきことです。
 そこで間違ったアプローチを教えられたら排斥しなければどうにもならないという極端な思想に至るのも自明かと。
 それで勉強しなおして、成果はでましたか?うかつではない、冴えた教え方がみつかりました?」

小首を傾げて相手に尋ねる。逆に質問された内容には少しだけ考えた後視線を蓋盛の後頭部にじっと当てた。

「僕個人の能力だけでいえば……不要ですね。
 はっきり言って僕の異能はこの世界に対して何の価値ももたらすことがないといえます。

 もし、仮に異能を消し去る異能があったのなら迷わず使うつもりではありますが……
 ただ、たぶんすでに僕の内にある異能というものが僕個人から切り離せるだけの小ささで収まってはいない。
 悪性の腫瘍や病理を切り離すようにたとえ異能を切り離せたとしても、
 もう体の一部のようになってしまったそれを失ってしまったら
 今ある”奥野晴明 銀貨”という存在とは別の存在になってしまうような気がするのです。

 たぶん、僕が”奥野晴明 銀貨”になるに至る過程で自身の発現した異能が重要な要素になってしまっているから。

 異能がなくとも世界は確かにあり続けるでしょう。
 けれど、一度それに依って立っている存在がいたら彼らにとっては必要なものじゃないでしょうか。
 そしてたぶん、世界変容が引き起こされたあの時から、世界自身の選択として異能という要素が含むことを許された、ということも言えるのではないかと考えています。


 それに、異能がなかったらたぶん、たちばな学級の皆とも先生とも出会えなかったでしょうし。

 自分の考えを話すって苦しいし恥ずかしいですね。いやだな、妙な考えだって笑われそうです」

ちっとも恥ずかしそうなそぶりも見せずそう静かに答えた。

蓋盛 椎月 > 「そうだね。便利な“良い異能”も、御しきれない“悪い異能”も、
 強すぎる力はときに異能者を傀儡にしてしまう。
 冴えた教え方は――あいにくとそう簡単には見つからないな」

ゆるゆると首を横に振る。
続く銀貨の問いへの答えを、缶コーヒーに手を添えて静かに聴く。

「丁寧に教えてくれてありがとう。
 そうだね。異能というのはどれだけ唐突で不条理な覚醒(めざ)めかたをしていたとしても……
 定着してしまえばそれはその人自身となる。
 切り離せないものなのさ。人にとっての過去や記憶と同じで。

 もし、異能がなかったら――なんてことを考えてもしかたないんだ。
 あたしたちの観測できる人生に、世界に、イフはない。
 異能なんてこの世界にいらない、なんて声高に叫ぶのは……
 子供が駄々をこねるのとまったく変わりやしない。
 だって、“ある”んだもの。この世界には」

机に肘をつく。

「けど……それがわからない人たちがいる。
 仕方ないのにね」

かすかな憂いを帯びた声でそう言って……
振り返って銀貨を向く。目を細めた、優しげで穏やかな表情。

「ふふ……あたしも銀貨くんと会えてよかったって思ってるよ。
 あたし、もっと銀貨くんの話、聞きたいな」

銀貨を見つめたまま、そっと彼の手を取った。

奥野晴明 銀貨 > 「冴えた教え方を見つけるには、まだ我々は異能について深く学んでいない。
 教示するというのはなかなかに難しいですね。それが答えの出ていないものなら尚更」

揉んでいた蓋盛の肩から手を下ろす。その指先はどこか名残惜しげに見えた。

「別の世界線へ移動できるならばともかく、この世界はとっくに異能を含むことを了承してしまった。
 ならばその世界で無かったことにできないのならば、次に考えるべき建設的な行いは異能を”失くすこと”ではなく”どう内包したまま共存すべきか”でしょう。

 それがどんなに許しがたいことでも、覆水盆に返らず。変容してしまったものを元に戻すことは難しい」

蓋盛の憂いの色に紫の目を細める。彼女の気苦労の原因をわずかを知ることができたような気がして。
振り向いた蓋盛の表情と触れられた手をじっと見つめる。銀貨の体温は低く、その手は冷たかった。
白さが目立つその手で、蓋盛の掌を指でなぞる。皺を追うように人差し指が彼女の手を這う。

「……話をするなら、今度、付き合ってもらえません?
 それとも、生徒とはそんなことできませんか」

いいや、この人はできるはずだ。だってほかの人にだって容易く許すのだから。
確信しているはずなのになぜか念を押すようにそう聞いてみる。

蓋盛 椎月 > 「正しいと言い切れることなんて存在しないからね。
 教導の末に《レコンキスタ》のような極端な思想に走ってしまうなら
 それはしかたのないことかもしれない。
 ――でも、せめて、多くの選択肢を与えてあげたいものだね」

石膏を思わせる銀貨の冷たい手を、温めるようとするかのように両方の手で包み込む。
そうして、座ったまま愛おしげにその手に頬を寄せた。

「構わないよ。きみがそう望むのなら……。
 あたしは、スキな子のことはもっと知りたいから」

蕩かすような甘い声でそう囁いて、ほほえみかけた。

奥野晴明 銀貨 > じぃと無機質な紫の双眸が蓋盛を見つめる。つるりとしたガラスのような瞳。
彼女の甘ったるい囁きに少しも表情は変わらなかった。強張ることもはにかむこともなく。

蓋盛の両の手から、その包み込まれるような温かさから逃げるように手を引いた。

「……では今度、改めて連絡します。
 そろそろ僕は失礼します。先生も休憩は適度にとってくださいね」

薄い微笑を保ったまま、蓋盛の背から離れ静かに去ってゆこうとする。

『きみがそう望むのなら……。』
望まれたら、きっと誰でも許すのでしょう?

もしあのままあの場にとどまっていたらきっとそう口走っていたかもしれない。
無意識に自分の唇を指で押さえながら廊下の角を曲がり、それきり彼の姿は見えなかった。

ご案内:「図書館」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。
蓋盛 椎月 > 「ああ、それじゃ」

小さく手を振って、去る様を静かに見送る。
再び机へと向かう。

「…………」

薄い笑みを貼り付けたまま、
資料を開くでも片付けるでもなく、
しばらくの間、ただ無言のまま
缶コーヒーの縁を指でなぞっていた……。

ご案内:「図書館」から蓋盛 椎月さんが去りました。
ご案内:「図書館」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
谷蜂 檻葉 > たまには。


……いや、大体の場合。

谷蜂檻葉は暇な時間を図書館で過ごしている。

携帯ゲーム機や、ネット利用の娯楽に手を出していない彼女にとって
一番いい環境で『読書』という趣味に没頭できるから、
他の思いつきがない限り仕事でなくても図書館にやってきている。

その入り浸りっぷりが理由で、図書委員に勧誘されたのだけれど。


そういうわけで。

今日も趣味の読書を、存分に堪能して机の前にマイナーもマイナーなシリーズ物の小説が読破されたものとそうでないもので二つの山となって積まれている。

日が落ちる直前となった今では、もう読破されていない山が少し残るばかりであったけれど。

谷蜂 檻葉 > 館内に並ぶ読書用のテーブルの一角を占拠するようにして読みふける内に、

(……これと同時期に出たのって、どんな本なんだろう。)

ふとそんなことを考え始めた。


今読んでいる本は、面白かった。

『旧時代』の都内に住む男が、ひょんな事から”よろず屋”を始めて酷く複雑な心を持つ20世紀末の人々と関わり、その出来事を綴る。 ―――という内容で、あとがきを信じるのであればノンフィクションに、少しだけ色を足した小説。 と、いうことらしい。

その真相については、激動の時代を過ぎた情報の海の底に沈み、今はもう知る術はない。




「人の考える方と、それによって起きる同じ過程を踏む別の結果」
についてよく考えさせられる内容だと思う。
主人公の心理描写も、同じように複雑で、けれど読み進める内にその迷路のような複雑さに囚われるように虜になる……そんな作品だと思う。 のだけれど。

(評価は、賞に入らないギリギリぐらいなのよね。)

好きな作品が当時の世間に認められないのであれば、その頃に認められた作品とは一体どんなものなのだろうか。

谷蜂 檻葉 > そう思い立つと、章の間に差し掛かり意識の隙間が出来たことも相まって酷く気になってくる。

栞を挟むと、本を前にして携帯を取り出し、慣れない手つきでゆっくりと検索していく。


検索のワードを入れ替えながら、ぽつぽつと画面を叩いて、
ああでもないこうでもないと呟きながら、当時の世情とベストセラーの本を探す。

谷蜂 檻葉 > 出てくるページは、おおよそが21世紀初頭の大事件への前触れ―――ふと興味を持って開いても、後付じみた内容に溜息を付いて”戻る”を押す《ブラウザバック》するばかりだったが―――についてや、当時の事件についてで日本の娯楽本についてなんて、隅の隅に追いやられているばかりだった。



そうして、随分と長い時間をかけて見つけた時代の流れと選ばれる本について纏めたページで
意気揚々とクリックして出てきたのは『404 – NotFound』の文字。

ホームページ自体は生きていたが、【お問い合わせ】をクリックする気力もなくなっていた。



「……復活の時代、か。」

力なくブラウザは落としたが、徒労だと解るまでの道筋に置かれた言葉が、心に少し引っかかった。

谷蜂 檻葉 > 本―――最終巻の一冊前。

大量の伏線が撒かれたその最終章を、この他に飛んだ意識のまま読もうとは思わず、
最終巻と共に纏めて後で借りるために読破済みの本を片していく。



【私】は、魔術や異能の側の存在だけれど。
それらがなかった時代とは、一体どんな世界を見ていたのだろうか……?


視線を回しても、大半が学生で数十年……【当時】を知りそうな人間というのは見当たらなかった。

(居ても、きっと遠目に眺めて思いを馳せるだけだろうけど。)

くすりと笑いながら、出入りする生徒を眺める。

谷蜂 檻葉 > 借りる人、返す人。

来る人、帰る人。


少々の時間を人間観察に費やしていたが、
やがて長針がカチンと少し大きめの音を立てて頂点に達したあたりで取りやめる。


(本当に、色んな人が居るわね)


それだけの時間をかけて出てきた感想は、随分と陳腐だったが、改めて見ることに専念するからこそ見えるものがある。

制限のない「学園都市」にやってくる中で、図書館を始めとした”公共施設”には主に正規の学生しかやってこない。   ―――来ないのだが、若年層が多いとはいえ、年齢から見た目まで随分とバラバラで、やはり『一つの社会』としての形がそこにはあった。

”学生”か”教職員”か。

たったそれだけの区分しか存在しないこの場所に、これだけの人がいる。
そして、その多くが異能か魔術を―――”新時代”の力を持っている。



これがない世界とは、一体どんな世界だったのだろう……?

谷蜂 檻葉 > 「……よし。」

『それはまた今度』  ということで。

読みかけの本を持って、カウンターに向かう。
1巻も持って行って同居人に勧めようと思う。 彼女なら、この時代に何を想うのだろうか?


ついでの楽しみを胸に、帰路につく―――

ご案内:「図書館」から谷蜂 檻葉さんが去りました。