2016/01/20 のログ
フィアドラ > 「あ、ありがとうございます。尻尾も鱗もこっちに来てから初めて褒められました!」

嬉しいです。尻尾が勝手に揺れちゃいます。
でも他の子の尻尾の方がきれいかもしれません。特に柔らかそうな尻尾には正直憧れます。

「な、直せるんですか!?凄いです<トショイイン>…。」

壊れたものを直すっていう考えが無かったです。
物って壊れても直せるんだ…知らなかったです。

「そうなんですか?<トショイイン>は本を貸したり、うるさい人や本を大事にしない人許さないのが
仕事だと思ってました。」

それならもしかしたら許してくれるかもしれません。
いや、許してくれなくても謝るのがほんとです。

「…謝ってきます。」

謝らないと、本を傷つけてごめんなさいって言わないと。
勇気を振り絞って<トショイイン>に話しかけます。

「あの、すいませんこの本を落としてそれでキズが…」

<トショイイン>に事情を説明すると。
<トショイイン>は優しく笑いながら本を受け取ってくれました。

『はい、どうも。次からは気を付けてね。』

何故かどうもと言われてしましました。しかも、全く怒っていない様子で。
すぐに仕事に戻っていきます。
あまりにあっけなく終わってしまって何か変な感じです。

ヨキ > 「はじめて褒められたって?はは、みんなきっと照れくさいんだ。
 君と仲良くなっていくうちに、君の良いところをたくさん褒めてくれるようになるよ」

頷いて、言葉を続ける。

「そう。もしも君が転んで、その尻尾が擦り剥けちゃったとして。
 自分で手当てするなり、治してくれる人に見せるなり、どうしたらいいか考えがつくだろう?

 それと同じで……ものに詳しくなると、そいつをどう直したらいちばん良いかが判るようになるんだ」

図書委員のもとへ向かうフィアドラを、遠目から見守る。
会話の内容までは聞こえないが、そのやり取りが穏やかに、それでいて速やかに終わったことが知れる。

壊れた本を手に図書委員が仕事へ戻ってゆくのと入れ違いに、フィアドラへと歩み寄る。

「……どうだったね。
 『豚箱』には連れて行かれそうか?」

そうはならないことを知りながら、小首を傾げて尋ねる。

フィアドラ > 「そうなんですか?じゃあいっぱいほめて貰えるようにみんなともっと仲良くならなくちゃですね。」

そう言えば友達には賢いって言われたことがありました。
褒めてくれるぐらいの仲になったら友達なんでしょうか?

「うーん?うん?なるほど?分かったようなー気がします。」

あまりピンと来ません。ケガをしてもすぐ治っちゃいますし。
そもそも尻尾をケガしたこともなかったです。
でもきっと分からないと世間知らずだと思われるので知ったかぶりをしました。

「いえ…笑顔で次は気を付けてって言われました。次はって。」

つまり、また来ても良いってことです。
私は本を落としたのに…。

「実は<トショイイン>はそこまで怖くないんですか?」

ヨキ > 「そう。友だちは何人居たって悪いことはない。
 良いことも、悲しいことも、何でも言い合えるようになったら友だちだ」

自分の言葉にピンと来なかったらしいフィアドラの様子には、すぐに気付く。
空ぶったな、と自覚したのが判る表情だが、口では何も言わなかった。

図書委員の言葉に戸惑う相手に、大らかに頷く。

「そうか。次は……か。
 良かったな、ちゃんと許してもらえたではないか」

まるで獄卒のような図書委員の印象に、くすくすと笑い出す。

「もちろん。
 図書委員が怖くなるのは、図書館と、本と、本を読む人をわざと傷付けられたときだけだ。

 君のようにきちんと反省する人には、ちゃんと優しくしてくれる。
 次からは傷付けないように大事に使うこと、君はそれだけでいいんだ」

フィアドラ > 「私が思ってたよりも友達って難しそうですね…何でも言い合えるようになったらですか…。」

うん、今度友達にあったら私の種族についても話しましょう。
隠しては無いんですけど、言ってもないので…話さなきゃです。
そしたら本当の友達です。

「ちょっと<トショイイン>について誤解していたみたいです。
 本当はいい人なんですね!」

もうこれで<トショイイン>は怖くありません。

「はい、<トショイイン>を怖くしないように気を付けます!」

そう言ってさっきとりあえず机の上に置いた本を綺麗に置きなおしました。
倒れないくらいの高さに分けてこれで倒れて落ちることはありません。

「ふう、とりあえずはこれで安心です。」

ヨキ > 「それで良し。のちのち判るようになるよ。
 友だちのことも、図書館の使い方も」

友だちについて考え込むフィアドラに応えながら、机まで戻る。
行きしなにお目当てだったらしい雑誌を見つけて手に取る。A5版の文芸雑誌だ。
フィアドラの隣に腰掛けて、積まれた本の山々を見遣る。可愛らしい絵本。

「ふふ。それ、全部いっぺんに読むつもりか?
 少しずつ持ってくれば、本は倒れないし、他の人たちの読む分がなくなることもないのに。
 本棚と席を行ったり来たりするのは、少し面倒だがね」

さながら秘密の耳寄り情報でも打ち明けるような口ぶりだった。

「持てる分だけ持ちたくなる気持ちは、ヨキも判る」

フィアドラ > 「のちのちですか?早くわかるようになりたいです!」

その為にも文字を読めるようになって、色々勉強しなくちゃです。
そう、意気込んで本を読もうと手に取りました。

「確かに!他の人が読みたいかもしれませんし無理です。それじゃあ返してきます。」

えーと、これとこれ!何となく気になった本を一冊残して後の本を
本棚に返しに行きます。
今度は倒さないように二回にわけて戻しに行きます。

「うん、面倒でも一冊ずつ取った方がいいんですね。」

図書館に来た人の為にも<トショイイン>を怒らせないためにもヨキ先生はそうしているのでしょう。
それよりも今は本です。
表紙には下半身が魚の女の人が載っています。
体のいくつかの部分が鱗に覆われてるのが私と同じだったので気になったのです。

「えーとに、ん、ぎょ、ひーめ。」

小さくタイトルを読みました。

ヨキ > 「その意気だ。この先が楽しみな子に出会えて、ヨキも嬉しい。
 きっと立派な大人になれるよ」

自分の言葉に素直に聞き入るフィアドラの様子を見ながら、ぺらぺらと雑誌を捲ってゆく。
手はページを繰っているが、目は小さな子どもを見守るかのように相手をちらちらと見ている。

彼女が手元に残した絵本に、手を止める。

「人魚姫か」

雑誌を机に置いて、テーブルに肘を載せる。

「君が読むところ、ヨキも聞きたいな」

微笑んで、小声で乞う。

フィアドラ > 「本当ですか?立派な大人!?先生やヨキ先生みたいな大人ですか?
はやくなって『先生はぁー大人だからな。』って言いたいです!」

先生の真似をします。ヨキ先生じゃなくて先生の真似です。似てないです…。
色々とこの世界のことを教えてくれる先生やヨキ先生みたいな大人になりたいです。

「この絵の亜人さん尻尾とか鱗がついてたりして私にちょっと近いかもって思ってて、初めて読むので楽しみです。」

尻尾をゆっくり揺らしながら読み初めます。
表紙をめくって本を立ててヨキ先生の方に向けました。
そしてヨキ先生の犬の耳に聞こえるよう小声で話しはじめます。

「えーと、むかしむかしあるところに人魚のお姫さまがいました。
人魚姫は人間が好きで時々人間を見に行ってました。
私もこの世界に来てから人間が好きなのでやっぱり近いかもです!」

自分がお話の主役になったみたいで嬉しくなりながら読んでいきます。

「えーと、ある嵐の夜に王子様は船から落ちてしまいました。
そこで、えーと、王子様を人魚姫が助けたのです!ところで王子様ってなんですか?」

姫はなにか知っています。この前タイトルだけ見て何か聞きました。

ヨキ > 「はは!ヨキは立派ではない、ただの大人だよ。
 フィアドラ君の『先生』は、よっぽどいい人なのだな?
 君に好かれていることがよく判る」

向けられた絵本へと身体ごと向き直った。
行儀よく座り直して、耳を傾ける。

人魚姫に自分を重ねるフィアドラに、こちらも物語の主役が目の前で直接話してくれているかのような気分らしい。
にこやかに聞き入っていると、突然の質問にぱちぱちと瞬きした。

「おうじさま?」

不意を突かれて、少し考える。

「王子様というのは……王様の子どものことだよ。そのお話の中で、いちばんえらい人のね」

フィアドラが人間社会についてどこまで把握しているか測るように、その顔を見る。

フィアドラ > 立派な大人とただの大人は何が違うんでしょう?
いつまで子どもでいつから大人なのかも分からない私には難しいです。

「はい、先生はいい人ですよ!多分クラスのみんなも好きです!」

言葉をしゃべれない子にも同じように優しいのです。

「王様の子ども…じゃあお姫さまと兄弟なんですね。
じゃあ人魚姫と王子様と兄弟なんですかね?」

うーん、違う気がします。
もしかしたら王様がいっぱいいるのかも…
いや、一番偉い人が二人もいたらおかしいです。
首をひねって考えますが答えは出ません。

「それじゃあ続きを…浜辺に上げてもらった王子は人魚姫が助けたのに
 王子さまはその時たまたま来た別の姫が助けたのだと思いました。
 もう!このお姫様はどうして自分が助けたんじゃないって言わないんですか!ずるいです!」

人魚姫の気持ちは分かります。多分足の鱗が人間と違うからびっくりさせると思ったんでしょう。
もしかしたら一回、誰かと話そうとして驚かせた後なのかもしれません。
そうだとしたらそれこそ…。

「人魚姫は魔女に人間になれる薬をもらいに行きました。魔女は人魚姫の声と交換に薬をくれると言ったので
 人魚はその声と交換に人間になれる薬をもらったのです。人間になれる薬…。先生はもし人間になれる薬があったら欲しいですか?
 私は声と交換じゃなくて元に戻れるなら欲しいです。」

声と交換してしまったら大変です。私はまだ文字を書けないので全然なにも出来なくなります。
購買だっていけません。

ヨキ > 「ヨキも負けていられないな。
 いい先生の話を聞くと、ヨキも頑張ろうって思えるんだ」

『王子様』について混乱するフィアドラに、どうだろうなあ、とわざとらしくはぐらかす。
が、続けてすぐに口を開くのは、このヨキという教師の、黙っていられない嘘を吐けないという性質のためだった。

「その王子様は、陸の王様の子どもだよ。
 人魚姫は、海の王様の子ども」

耳打ちするみたいにぼそぼそと言い添えた。
物語の続きに、すぐに口を閉じる。

知った話が、目の前のフィアドラが情緒たっぷりに読み上げてひときわ楽しくなる。
『人間になれる薬』については、腕を組んで考え込む。

「ヨキは二本足で歩くし、人間の食べ物を食べるし、人魚姫ほど人間の暮らしに苦労する訳ではないからな。
 どうせなら女の子とか、トカゲとか、グラウンドに生えてるでっかい木とか……
 そういう、思いもよらなかったようなものに変われる薬の方が欲しいかな。
 勿論、すぐ元のヨキに戻れるような効き目でね」

フィアドラと挿絵の人魚姫とを、交互に見る。

「ヨキたちはそんな風に『声と交換は嫌だ』と言ってしまうけれど、
 人魚姫はそうしてでも人間になりたかったんだ。
 それほど王子様のことが好きだったんだな」

フィアドラ > 「なるほど、色んな所に王様がいるんですね。」

分かりやすい説明に頷きます。兄弟なのに人魚と人間はおかしいと思いました。

「確かに私もあんまり困らないですね。うーん、でっかい木とか男の子とか鳥になるのも楽しそうですね!」

鳥みたいに空が飛べたらきっと気持ちいでしょう
それでもちょっとだけ手袋を付けたこの腕を見るとほんの少し。
人間になってみたくなります。

「王子様と人魚姫は友達でも兄弟でもないのにですか?
あったばっかりの二人なのに良く分かりません…。」

私が世間知らずだからでしょうかなんでこんなに人魚姫は王子様が好きなのかわかりません。
とても難しい話です。

「魔女にもらった薬を飲むと人魚姫は人間になって浜辺にたおれていました。
 そこに王子さまが通りかかって人魚姫を起こしました。
 王子様が何を訪ねても人魚姫は声が出ないので答えることが出来ません。
 困った王子さまは人魚姫をお城に連れて帰りました。」

お城で人魚姫と王子様が一緒にいる挿絵が描かれています。
王子様と一緒にいる人魚姫はとても楽しそうでこっちまで嬉しくなってきてしまいます。

「人魚姫は王子様と一緒にいてとても楽しかったのですがある日、王子様は隣のお姫様と
 結婚するという話を知りました。人魚姫が悲しくて海を見て鳴いていると人魚姫のお姉さんが
 来て王子さまが人魚姫以外の人と結婚すると人魚姫は泡になって消えてしまう。
 それが嫌なら王子さまの心臓にナイフを刺して殺せば元の人魚に戻れると…。」

何だか嫌な感じです。
それにそんな大事なことは先に言っておくべきだと思います。

ヨキ > 朗読の横での問答に、そうそう、と何度も頷く。
読み聞かせが途切れても、会話を丸ごと楽しむように。

「人魚姫にはきっとヨキたちには判らない、何か感じるところがあったのではないかな。
 ヨキもフィアドラ君も、口では言わなくとも頭の中で沢山のことを考えてるだろう?
 そんな風に、人魚姫も自分で考えて考えて、王子様のことが好きだ、と思ったとか」

記述の少ない物語に、手前勝手な肉付けを施してゆく。
ヨキ自身、そこまで一人の人間に思いを寄せることを理解していない顔だった。

「自分が消えるか、王子様を殺すかだなんて、残酷なやり口だよな。
 力が強かったり、異能や魔法が使えても、どうにもならない。

 ……さて、人魚姫はどんな選択をしたのだろうね。
 あるいは、フィアドラ君ならどうしようと思うだろう?」

尋ねながら、先へ進むように促す。

そうして、言葉を重ねながら絵本を読み進めてゆくのだろう。
小声での朗読と問答とは、ひどく静かに盛り上がったに違いない――

フィアドラ > 「そうなんでしょうか?そうかもしれません。」

挿絵に書かれた人魚姫は王子といるとき凄く嬉しそうだったからそうなのかもしれません。
きっと書いては無いけど何か頭の中であったのです。

「私は、私なら王子に手紙を書きます。文字を覚えて手紙を書いて。
 私が助けたことを王子に伝えて…。」

そこまで言ったところで何かアナウンスが流れます。
どうやらそろそろ、図書館が閉まるらしいです。

「えーとえーと、そうやって王子様と結婚します。そうすればどっちも助かります!」

急ぎ足で言うと最後の選択の所で本を閉じて早歩きで本を返しに行きます。
次のページがどうなってるのか知らないままに本を元の場所に差し込んで。

「ヨキ先生!早く!早く出ないと<トショイイン>が怖くなりますよ!」

大きな声を出して<トショイイン>に睨まれながら去っていきました。

ご案内:「図書館」からフィアドラさんが去りました。
ヨキ > 話す間に、頭上で流れるアナウンスに顔を上げる。

「……おや。そろそろ終わりの時間か」

慌て出すフィアドラに反して、勝手知ったる様子で悠長に立ち上がる。
読まずにおいた雑誌を棚に戻し、フィアドラの後をついてゆく。

「これ、フィアドラ君。
 そうそう慌てんでも、委員らは鬼になぞなりはせんよ……

 ……無理か。慣れるにはしばらく要りそうだな」

独りごちて、閉館の支度に勤しむ図書委員たちに手を挙げて挨拶する。
歩いて図書館を後にし、追いついた先でまた二人して歩き出す。

「ふふ、楽しかったよ。ありがとう。
 最後のページ、見逃してしまったな?

 だがヨキの『人魚姫』は、君の結末を選ぶことにしよう。
 これ以上ないハッピーエンドだ」

笑う。絵本をもうすっかり結末まで読み終えたかのように、満足げに。

ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。