2016/01/22 のログ
ご案内:「図書館」に高坂 傷さんが現れました。
高坂 傷 > 図書室。

一つずつ男が丁寧に本を抜き、
そして別の場所に差し込んで行く。
本自体が痛まないようにそれらがぶつからないように、
手間を惜しまずかつ迅速に。

高坂 傷 > 何かに照らしあわせている様子も、
何かを確かめながら差し込む様子もない。
だが動きに淀みも迷いもない。
まるで元あった場所にただ戻しているかのような、
当たり前のことを行うような動作で本を入れ替えていく。

動きは仕事のように速くも、
趣味のように遅くもない。

高坂 傷 > 一つの区画が終われば、次の区画へと移る。
この広い図書館で、それを一日にして成す事はできない。
その間にも一冊の本は持ちだされ、貸し出され、歯抜けになる。

まるで賽の河原で石を積み上げるような、
そんな行動にも似たそれを、文句も愚痴もこぼさず、ただ続ける。
図書館は広い。
大図書館と呼ばれるそこを、そうやって手作業で均すのは、
貸出客がほぼゼロだったとしても数日、数週間では不可能だろう。
ただ、そんなことはお構いなしなのか、男は次の本棚を整理し始める。

高坂 傷 > 他人のため、
公共のためという信念は、動作から感じられない。
ただ行いたいから行うという独善的な意志が行動に篭っている。
それでいて仕事に熱量を感じないのは、
必要以上に本を丁寧に扱う動きに表れている。
何か期限を設けられて行っているわけではないことが、
焦りのない無表情からも読み取れた。

高坂 傷 > 綺麗に背表紙を整えた棚から手を離すと、
一人の少女が近寄ってくる。

どうにもその少女は自分の並べ終えた棚の本が、
目的の本だったらしい。
視線でその意思を伺うと、少女は頷いたので
今しがた並べ終えた本の中から目的の二冊を取る。
手渡すと少女はありがとうと言葉を返した。

歯抜けになった本棚の隙間を見上げ、
一度頷くと次の棚へと視線を移す。
並べることに興味があっても、
並べ終えることには興味がないように。

高坂 傷 > この仕事を。仕事と呼べるのか分からない程度の動作を。
昨日も、一昨日も、その前も、その数日前も。
そして明日も、明後日も、明々後日も、その先まで。
青年は『続け続けている』。

一人が貸出をすれば歯抜けになり、
そして心ない利用者であれば正しく同じ場所に戻さず、
心ある相手であっても正確に同じ場所かどうか分からないそれを、
一つ残らず記憶をして、一つ残らず元に戻そうとする。
それが彼の仕事であり、生きがいであり、図書委員としての生業であるように。

棚から一冊本を抜く。
また一つ、歯抜けが出来た。

高坂 傷 > その歯抜けの位置も記憶して、
近くの机に座り、青年はその本を読み始める。
初めて読む本ではないが、どこか満足気に、
そして何故か慈しむように。知識の森で知識の木に触れること自体が楽しそうに。

そうして今日も、図書館の日が暮れていく。

ご案内:「図書館」から高坂 傷さんが去りました。