2016/01/23 のログ
ご案内:「図書館」に高坂 傷さんが現れました。
高坂 傷 > カタン。パタンと。
不規則な音と共に、本を入れ替える音が図書館の静謐の中に転がっていく。
あおの僅かな音は、囁くような喋り声や人の呼吸の隙間に落ちて、
誰も気にすることはない。
元々、そこにあったものを元に戻しているだけだ。
誰がやっても変わらない仕事を、誰かがやっているというだけで、
それを褒めようと思う者は少ない。

男はまたその日も本を並べ替え、正しい順番へと戻していく。

高坂 傷 > 巻数の書かれた本は数順に。
同種の本は先に出た音順に。
違うのであれば見栄え良く、最初に誰かが本を抜く前の状態へ。
頭のなかの図と合わせるように、丁寧に本を入れ替えていく。

高坂 傷 > この図書館には、山程の本が存在している。

旧来の意味でのあらゆるジャンルの書物だけでなく、
それ自体が魔力を有する魔術書や禁書などまでをも、
申請こそ行わねばならないが閲覧することが出来る。
異世界から流れ着いたものもあれば、
この島で著されたものもある。

この常世学園に存在する生徒がそうであるのと同じだと、
一冊の本を手にとって男は考えた。

高坂 傷 > それは、今しがた整理をした棚の端に無造作に置いてあった本だ。
本来はこの場所に置くべき本ではない、ジャンル違いの本だ。
心ない誰かが閲覧の後手近な棚にぽんと放り投げたのだろう。
それ自体は特に珍しいことではない。

男は息を吐いてページを捲る。
細かな文字が並び、ところどころに白黒の写真が載った本だった。
背表紙に覚えがあった通り、常世学園の歴史について書かれた本の、
中抜された一冊だった。

高坂 傷 > 何かしらのレポートに使ったのだろうか。
あるいは、過去に起こった事実を確認するために閲覧したのだろうか。
どちらであろうが構わないが、元の場所に戻すべきではあるなと思いながら、
本棚に軽く背中を預けてそのページを捲る。

本棚と本棚の狭い隙間に佇む影のように、
静かに声も漏らさずに本の内容を眺める。

高坂 傷 > 建物の写真とそれが建つに至った経緯、
そしてその経過を記したのであろうそれを、
目を細くして読み進める。

写真を指でなぞる。
その建物のここからの距離を思いながら、
実物の形を思い浮かべる。

頭のなかで。
……それを『逆再生』する。

少しずつ建物を解体して、更地に戻していく。
建物が徐々に組み上がる写真を、逆順に再生すれば丁度そうなる。

高坂 傷 > 更地へと戻ったそこを思い浮かべ、
静かに本を閉じた。

大きく息を吸い、吐く。
粘着く口内から絞り出すように音を出して囁く。

「……まだどの建物もあるんだろうな」

つくづく。
その感傷が嫌にもなる。
それでいて、この本の森から一切出ようとも思わない自分の性質が、
酷く嫌悪感を齎す。
僅かに、顔に一筋入った傷が痛んだような気がした。

高坂 傷 > 本を閉じて、その本を元あった場所へと戻そうと、
本棚の隙間をすり抜けて歩いて行った。

ご案内:「図書館」から高坂 傷さんが去りました。