2016/05/21 のログ
ご案内:「図書館」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
ご案内:「図書館」にルギウス先生さんが現れました。
谷蜂 檻葉 > 「―――夏に向けての読書推進図書選抜ねぇ。」

梅雨も近い、爽やかな昼過ぎの図書館。
乾いた風が窓辺から吹き抜けて、心地良い静寂が此処にはあった。


「個人的な趣味で選んでいいものでもないし……読書を始めるために、かぁ。」


一人、図書館の壁に貼られたポスターの前で腕を組んで考えこむ。
図書委員に課せられた、来る夏。

図書館の利用者数の取り込みに向けてデカデカとした文字で『おすすめ本』の募集の張り紙が貼りだされていた。

斯くして、その一員である谷蜂もまたその内容について吟味すべく図書館で思索にふけるのだが、見ての通り中々に難航しているようだった。 周囲からの視線にも気づかないように、ポスターの前で、うんうんと唸る。

ルギウス先生 > 「おやおや、熱心な生徒がいるのは珍しいですねぇ」

静寂なんて知ったことではない、とばかりに声を上げるのはどこにでも現れる胡散臭い人。
いま、禁書区画から出てきませんでしたか。

「ふむ、読書ですか」

谷蜂 檻葉 > ふと、後ろからかけられる声に肩を震わせる。


「―――ひゃっ!? え…あ、ルギウス先生? ど、どうも……。」

ルギウス。
『得体のしれない教諭ランキング』上位保持者。

『まずこの人どこの担当持ってたっけ?』と言われること請け合いながらも教授陣の一人としてしっかりと認知されている、そんな人。


(話しかけられた……!)


勿論、谷蜂の認知もどっこいどっこいであり。
愛想笑いの裏ではややテンパッて汗顔であり、そのまま不躾にジロジロとルギウスの様子を視線で確認する。


「ええ、夏は涼みに来る人も結構な数居ますから、ソレに向けて委員会で『初心者向け』の本を探そうって……。 ルギウス先生は、読書はお好きですか?」

ルギウス先生 > 「そんなに畏まらなくてもいいですよ。
 私はただの隣人です」

笑顔を振りまいて、やさしく返事をする。
ポスターをまじまじと。描いた人物像を選定するように覗き込んだが、檻葉の方に向き直り。

「ええ、読書はよくします。
 シェイクスピアやゲーテは、愛読書ですよ。
 生憎と初心者向けとするのは敷居が高いですけれどね」

谷蜂 檻葉 > 「隣人……ハハ…そ、そうですかね……。」

ポスターを眺める横顔を見ながら、首を傾げる。

『こんな人が隣人だったら、間違いなく夜間に防犯カメラを設置する必要がありそうね。』

勿論、顔には出さない。
見えているかはともかくとして、だ。

ニコニコと楽しげな―――というよりはどこかニヤついた、愉しげな笑みを浮かべる彼の雰囲気はどうにも人を選ぶ。 谷蜂は…… 選んでいる最中だ。


「シェイクスピア……古典文学がお好きなんですか?

 私がよく読むのは《大変容後》に出版された本なのであまり詳しくはないのですが、演劇の題材に多く取り上げられていた、とか?」

ルギウス先生 > 「そんな『夜間に防犯カメラ設置が必要だなぁ』なんて顔をしないでくdださい。
 聖書を由来にした例えなんですから」

サングラス越しに檻葉を見つめる。
生まれる前から現在までを、全て見透かすように じっくりと。

「ええ、演劇を見るのが趣味でしてね。
 そうなると元ネタが気になるじゃないですか。
 ルーツを知りたいと、知識欲を刺激されるのはよくある事だと思いますしねぇ」

ふむ と思案するそぶりを見せる。

「有名作品の漫画化 なんていうのは、敷居がだいぶ低いと思いますよ」

谷蜂 檻葉 > 的確に心象を覗かれたような発言に、心臓が跳ねる。

何だこの人。

「あ、えーと……  そ、そうですよね。
 元ネタというか、最初というか、オリジナルっていうか―――

 『気になる』って気持ちが、読書につながりますよね!」

ちなみに西暦2,000年から長きを経た常世島でも電子書籍化はしっかりとされている。
貸出のタブレットから現存しない一部の書籍は、写本だけでなく自由に見ることが出来る。

「メディア化、ですか。 最近話題の……っていうと、今年はまだ目立ったものはないかな?
 『太平洋の海底遺跡で起きた、混乱と狂気のパニックホラー』!!

 ―――って、年明けに少し話題になった映画とか先生は見ました? あの元の本つい昨日入荷したんですけれど……」

ルギウス先生 > 「ええ、後は文字という性質上 異世界の方や人外の方は足を運びにくいのかもしれませんねぇ。
 そう、気になる、知りたい……もっとも、表層はスマホやパソコンでさっくり調べられる時代ではありますが」

ふふ と笑う。
その笑いが何を意味しているのかは、わからない。

「ええ、パニックホラーというよりはアクション巨編の色が濃かったですがねぇ。
 ラストシーンの手前は好みがわかれると思いますよ。
 小型船で大きな敵を……と、貴女が見ていないのならネタバレはよろしくないですねえ」

割としっかり見ていたらしい。
俗な人。

「ああ、あの本を入荷したのですか。
 後で目を通しておきましょう……禁書区画ですか?」

それガチでダメなやつ。

谷蜂 檻葉 > 「一応”そういった人向け”のスペースは設置されてるんですけれど、どうしても学習スペースみたいになっちゃうんですよね。学生さんぐらいしか使わなくて。 

あ、でも定期的に『朗読会』に参加してくれる人もいるんですよ。 異邦人街から結構人が来て―――再来週にもあるので、お暇があれば是非来て下さいね♪」


「……見たんですか。 ああいや、私も見たんですけどね……。」

まさに『意外』という表情で呟く。
事前評判はそこそこ、役者はよし、ストーリーもまぁよし。
ただし中身はやや熱血アクション寄りで悲喜交交な感想多数―――と、色んな意味で『話題になった』一作だった。 ちなみに友人と観に行った谷蜂は元の本と雰囲気が違う!と憤慨しながら結局ラストシーンで満足して帰った。

「普通の小説区画ですっ!


 禁書区画には遺跡で見つかったっていう、『人皮張りの魔術書』の類があるとか無いとか噂はありますけど……入るなら、ちゃんと許可書を貰ってから行って下さいね? ……って先生は大丈夫ですよね。 ごめんなさい、禁書区画に入る人達って本当にルールを守らない人が多くって……勝手に入るのは自己責任ってだけじゃなくて周りにも迷惑がかかるっていうのを解ってくれない人が多いんですよね。 講義の中で魔術書の危険性については色々と周知されているっていうのに――――」

ルギウス先生 > 「仕方がないでしょうねぇ。ゲストにとっては郷に従わなければ、得られるものも得られないのですから。
 ええ、都合があえば是非に」

神職者であるからだろうか、その声は非常に落ち着いていて聞き取りやすい。

「舞台鑑賞に限らず、その辺りは見ていますよ。
 流行にのれていないと、説法や若い方の相手は大変なんです。
 それこそ過去の名作を例えに出してもわからないでしょう?
 記憶になかったり知らないんですから」

本人の感想は まぁ、そんなところでしょう だった。
クリーチャー造詣には満足していたらしい。

「復活してから日が浅いというのもありますが……ここは良かれ悪しかれ才能をもった方が多い。
 失敗の経験が少ない方や切羽詰まっている方は『俺は大丈夫』『成功すれば問題ない』という方も多いのです。
 
 加えると、魔術とは……人間を超える業なんですから。
 人の迷惑より己の欲求に傾くのは道理ですよ」

谷蜂 檻葉 > 「なるほど……それなら、ルギウス先生の為にも色々と流行のメディア化した作品でも集めてみましょうかね? 『明日からお説教に使える流行の訓話作品』―――みたいな。」

年がいっても、島にとどまって生活している人間も多い。
世界を交えて流行が切り替わるこの島では、話題の変遷もとにかく早い。

……もしかしたら、意外と人気が出るかもしれない。 と、クスクスと笑いながら提案する。


「才能を持った人、……そうですね。

 先生が言うのであれば、そうなのかもしれないです。」

『元より』人在らざる身では、ただの推量でしか無いが。
なんとなく、実感できる言葉に感じ入る。

自分もまた、他に比べて力のある者として驕らないようにしよう。と、肝に銘じて息をついた。


「先生のおかげで、アイディアが掴めました。 有難うございます。

 ところで私これからお昼食べに行くんですけれど、ルギウス先生も一緒に行きませんか?」

ルギウス先生 > 「説教は切欠で、聞いた人がご自分で回答を導き出さないと―――と、これも説教ですかねえ。
 いやいや、どうも職業病のようです。
 しかしバリエーションが増えるのは喜ばしいことですねぇ」

張り付いたまま動かない笑みのまま、提案を肯定する。

「ええ、『人でない』方も同じです。
 特に後天的に“そう”なった方や望んで人を捨てた方なんかは顕著かもしれませんねぇ
 ああ、後は…… 何かが欠けている方 が」

含みを持たせたような喋り方。
そして終始笑顔から顔は動かなかった。

「デートのお誘いは大変、ありがたいのですがねぇ。
 これから古い友人と会う約束がありまして。
 学生街でカウンセリングの真似事をしていますので、後日によければ遊びにきてください。
 美味しいお茶をご馳走しますよ」

優雅に一礼し、そのまま足音もなく歩いて出て行った。

ご案内:「図書館」からルギウス先生さんが去りました。
谷蜂 檻葉 > 「そうですか……ええ、それじゃあ、また。」

去っていくルギウスを、入口近くまで見送って再び図書館に踵を返す。




そして、一度だけ遠ざかるルギウスに視線を向けて





「―――やっぱり、変な人。」



妖精使いから道を踏み外した『妖精憑き』。

後天的な『ヒトデナシ』。

記憶の殻を被った、『谷蜂檻葉の成り損ない』は笑みを浮かべて肩を竦めた。

ご案内:「図書館」から谷蜂 檻葉さんが去りました。
ご案内:「図書館」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 休日。午前中にピアノをみっちり弾き込んだ午後。
蘭は、借りた本を返しに図書館を訪れていた。

去年母からもらった誕生日プレゼントである日傘を閉じて、図書館に入ると、まずはまっすぐ返却カウンターに向かう。

「ありがとうございました」

そう言って、滞りなく本を返した。

美澄 蘭 > 文化人類学の、「女性の生き方」に的を絞った民族誌といった格好の書物で、《大変容》前の古いものだ。もしかしたら、祖父すら生まれていないかもしれない。
だが、だからこそ、異能や魔術が「幻想」であると、少なくともインテリの人々が信じていた頃の世界の捉え方が、様々な習俗の女性達の姿を通して伝わってくるのが、興味深かった。
興味深いので、掘り下げてみたくはあるが………今の蘭にはやることがある。

そんなわけで、書架の列に、若干名残惜しそうに目をやりながらも、自習スペースに向かう。

美澄 蘭 > そんなわけで、午後は徹底的に自習だ。主に確率物理学の。
確率物理学の担当教員のオフィスアワーは週の前半。それまでに、「分からない点」「理解が曖昧な点」をまとめておかなくてはならない。
「何が分からないのか」を知るためには、一定の理解が必要だ。

「よし…と」

通路にほど近い机に陣取って腰掛けると、確率物理学のテキスト、ノート、そして筆記用具を取り出す。

美澄 蘭 > 古典的な物理学の基礎を学ぶ物理基礎と、そこからミクロの単位で発展を進めてきた現代物理学の一分野を並行して学ぶのだから、まあ控えめにいって正気ではない。
しかも、その「正気でなさ」は、確率物理学を学ぶきっかけの恩師お墨付きだ。

(…なんていうか、勉強の順番が悪いだけだけど、獅南先生の魔術学の方が、まだついていける気するものね…)

正直、今期は諦めてまた来期、というのも考えなくはない。
………ないが、この時期に早々に諦めるのも、癪だ。

華奢で、控えめで、お淑やかそうに見えながら。
その実、蘭の負けず嫌いさ、我の強さは、折り紙付きである。

美澄 蘭 > テキストやノートを、時折眉間に皺を寄せながら集中して見つめ、自分なりに自習用ノートに再構成し…その過程で、分からないところがあればオフィスアワーのためにメモをしておく。

「女の子らしい女の子」というのは、元々は誰よりも真面目な努力家なのだ。
それは、蘭に限ったことではなく、大勢の女子学生に言えることだ。

美澄 蘭 > しかし。
ある者は、「女の子らしさ」ゆえに優秀さを妬む周囲の恨み言に圧殺され。
またある者は、「女の子らしさ」ゆえに「優秀な娘は愛されない」という脅迫に負け。
少しずつ、努力を放棄させられたり、才能を伸ばせなくなっていってしまうのである。

その点、時に恨み言に囲まれ、それが「力」を伴う経験を経てさえ、蘭が折れていないのは、家族を中心とした強固な支えはもちろんのこと、当人の我の強さ、負けず嫌いさあってのことである。
ここで「負けず嫌い」を発揮する対象となるのは、他ならぬ自分自身だ。

だから、いくら履修ミスとはいえ新年度が始まって二ヶ月足らずで講義を投げ出すのは、蘭にとってはとてつもない…いわば、未知の敗北なのだ。
黙々とテキストとノートに向き合い、紙上に鋭い視線を投げ掛けるその様相は、一種の求道者に見えなくもない…かもしれない。

美澄 蘭 > 蘭の家族—一人っ子の蘭にとって、それは全員保護者たる大人達である—は、蘭の努力を、未来を余すところなく祝福してくれた。
上を目指す志向を言祝ぎ続けてくれた。

しかし、だからこそ。
蘭には、「限界」というものがよく分からない。努力を続けていれば、大体のことは理解出来たり、先に進めるものだと信じているからだ。
きっと、努力が出来なくなるその時が「限界」なのだろう、と、漠然と思ってはいるのだが。

(…やっぱり、この辺変な感じがする…)

狐につままれたような気分を味わいながらも、自分なりに確率物理学のノートをまとめていく蘭。