2016/06/29 のログ
ご案内:「休憩室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 放課後、休憩室のテーブルに頬杖を突いて大学ノートをぼんやりと見つめているヨキの姿がある。
鞄のほか、傍らに唯一置かれた防護魔術を記した本は、図書館の蔵書ではないらしい。

ノートに自筆で書かれているのは、物質に結界魔術を付与するための術式だ。

「……………………、」

その構文は、初学者を名乗るヨキにしては複雑で正確だった。

まるで回路図めいた式――枝分かれする単語を結ぶのは、
およそこの地球上のどこにも見られない文字体系からなる三字だ。

魔術を知る者が読み解くならば、それはおよそ十数語ほどの効果を含む、
いわゆるショートカットのために書かれた一語であることが見て取れるだろう。

ノートのいくつもの見開きに渡ってびっしりと細やかな字で書かれた構文は、
あの獅南蒼二が教えるシステマチックな魔術体系の精緻さとは程遠い。

もっと曖昧で、あやふやで、ファジーで、不可思議な不文律。

つまり――“魔力持つ者”のための文法だ。

「……一応は、見ないでも書けるんだな……」

魔力のスイッチさえあれば即座に発動する術式を眺めながら、ぽつりと呟く。
自分自身でさえ、意外そうな顔をしていた。

ご案内:「休憩室」に獅南蒼二さんが現れました。
ヨキ > 奥底に仕舞われていたままの知識は、一度アクセスすればするするといちどきに手に取れた。
効果の足し算、効率の引き算、威力の掛け算、範囲の割り算……。

さながら保健のテストで点数を取る、体育の苦手な子どものように、
遂に魔術の構文へ手をつけたヨキの文法はそれほどの密度があった。

変わらずどこか腑抜けたような顔のまま、ひとり息をつく。

獅南蒼二 > 生徒であり同志でもあるクローデットに貸し出したID。
それをどのように使うのか,履歴を眺めに来たのが1つ。
そして金属の腐食に関する研究論文を探しに来たのが1つ。
さらに授業で利用した魔導書を返却しにきたのが1つ。
本来なら真っ直ぐ研究室へ戻るつもりだったのだが,
窓越しに知り合いの姿を見れば,ふらりと休憩室へと足を踏み入れる。

「思いの外に勤勉だな,学生共にも見習わせたいくらいだ。」

貴方の後ろを通り過ぎながらそうとだけ呟いて,
獅南は自動販売機の前に立つ。数枚のコインを入れてから珈琲のボタンを押し…

「……何か飲むか?」

…視線も向けずにそう聞いた。ここには彼の他には貴方しか居ない。

ヨキ > 深く瞬きを一度。
振り返らずとも、嗚呼、と察する。
犬ほどに鋭敏な嗅覚で、しかし人間ほどには距離があった。

背後を通り過ぎる獅南に、ノートから顔を上げて背凭れに寄り掛かる。
小さく軋んだ音を立てさせながら、相手を見た。

「そりゃあ、勤勉にもなる。何しろこちらは命が懸かってるんだから」

学ばなければ死ぬ。
口調は軽いが、冗談でも何でもない。

飲み物を尋ねられると、間髪入れずに答える。

「その……緑茶がいい。500ミリのペットボトルのやつ」

振り返って自販機を示しながら、呟く。

「…………。相変わらず不味そうな顔をしているな、お前は。
 寝食はちゃんと摂っているのか」

ヨキの方こそ、人に摂生を説くほど顔色のよい男ではないのだが。

腹の音がした。

獅南蒼二 > 緑茶か,と小さく頷いてボタンを押す。
取り出し口から先に緑茶のペットボトルを取り出せば,
貴方に向かってそれをひょいと放り投げて…

「それもそうだ…学生にもそのくらいの理由を与えてやるべきかな。
 尤も,アンタに“命”という概念がどこまで通じるのか,私も手探りだよ。」

ククク,と楽しげに笑うが,冗談は何一つ言っていない。
この白衣の男は,貴方の出自を貴方の口から聞いている。
……それが真実である保証はないが,偽りであるとも思えなかった。

そして貴方のノートに書き込まれた術式は,
獅南の目にも意外なほど正確で,感覚的ながら堅実な構成に映った。
僅かに目を細めつつも,ヨキの言葉に小さく頷いて…

「ははは,昔から私は,物事に集中すると周りが見えなくなるらしい。
 ……食事だけは摂っているよ。良い出前の蕎麦屋を見つけたからな。」

貴方の腹の音は,獅南にも確かに聞こえていた。だが貴方の事情を知っているわけではない。
だからこそ獅南は苦笑交じりに肩を竦めて,

「人の事を言えるような状態か?」

と笑う。

ヨキ > 「ご馳走様ですセンセイ」

笑ってペットボトルを受け取り、財布から取り出した代金分の小銭を獅南の白衣のポケットに突っ込む。
開栓してぐびぐびと煽る様子は、よほど喉が渇いていたらしい。

「単位が取れぬ代わり、命を取ってゆくようにでもするか?
 はは、止めてくれよ。学園の評判と存続に関わってしまう。

 ……さあ、ヨキだって“ちょっと頑丈なくらいの”人間には変わりないぜ。
 取られてしまえば、おしまいだ」

過日の地下闘技場で垣間見せた、獅南に大火傷を負わされた黒紫の怪人と同じ口でにやりと笑う。
そうして獅南の視線が自分の大学ノートに落とされると、僅かに気恥ずかしげな顔をした。

「お前らしいよ。そう言いつつも、ヨキの方も以前は随分とあれこれ没頭しがちだったが。
 ……蕎麦屋?ほう。安い、早い、美味い、というやつか」

腹の音を笑われると、目を細めて苦笑いする。

「………………」

多弁なヨキが、一度言い淀んでから獅南に向き直る。

「食ってるさ。食ってるが――腹が、膨れなくて、」

すぐに目を逸らす。顔を見ていられないとでも言うように。

「……だめだな。
 お前がヨキを殺したいと思うくらい、
 ヨキもお前を食ってやりたくて仕方ないんだ」

獅南蒼二 > ポケットに手を入れたのなら,その中に煙草と,それから重い金属の何かが入っていると分かるだろう。
尤もそれは意外な事でも何でもないかも知れないが。

「卒業するまでに何人が生き残るか見物だな。
 ……といっても,それでは意味が無い。
 やはり授業の外に理由があるか無いか,そこが最大の違いになるか…。」

今のアンタのようにな,と肩を組めつつ,缶コーヒーのタブを開ける。

「さて,どうだろうな?私の推論でしかないが…
 …首を飛ばすのは難しくないだろうが,命をとるのは難しいと,そうとらえているよ。」

悪びれることもせずそう言ってのけて,2つ離れた席に腰を下ろした。
珈琲を半分ほど飲み,小さく息を吐いて…

「あぁ,店主は変わっているが………ほぉ,それは……。」

…貴方の言葉とその表情,貴方が目を逸らす仕草までも,
獅南はその疲れ果てながらも淀みの無い瞳で,真っ直ぐに見据える。
貴方の言葉が語られれば,獅南は,小さく肩を竦めてから…

「……光栄だな。」

…この上なく楽しそうに,笑った。