2016/07/07 のログ
クローデット > 返却を終え、早速魔術の探究に戻ろうと身を翻すと、返却の順番待ちが出来ていた。
そこにいたのは、季節外れのジャンパーコートに身を包んだ、目つきの悪い男子学生。
抱えているのは、西洋魔術の教本が多いようだ。

「勉強熱心ですわね」

すれ違い様、たおやかな微笑を湛えながら、柔らかく女性らしい…ささやきめいた声でそう声をかける。
静かな図書館とはいえ、その学生以外の人間が聞き取るには優れた聴力が必要であろう。

伊織 六郎 > ぼんやりと順番待ち していたのだが。
声をかけられて初めて相手を確りと見るに至った。

一目見て分かる、只者の格好ではない。
制服を自分以上にガン無視したこのえーと何ていうの?
ゴシック?そんな感じの?

で、更に年上っぽくなんか上品な……お、お嬢様ってヤツっぽい。

「…………ぁ? いやあ、そっち程、じゃあねえ
 あー、いやそっち様程じゃあねえです?

 え、だ、誰すか?」

露骨にオタついた返事は、どう話せばいいのか良く分からなくなったせい。
明らかに上流階級の相手を前に、底辺生活者がどういう対応をすればいいのか分からない。

クローデット > 今は戦闘モードではないので、クローデットの服装は「クラロリ」を少しシンプルにしたようなものと考えれば近いだろう。
もちろん、安い縫製のものなどクローデットは着ないが、目の前で露骨に対応に困るこの男子学生にはファッション分類も、縫製の善し悪しもよく分からないだろうことは想像出来た。
たおやかな笑みが、少しだけ悪戯っぽく、くすりと口の端を上に上げる。

「勉学において、大事なのは「今までどれだけ身につけて来たか」以上に、「これからどれだけ身につけるか」だと思われませんか?」

そう語る口調は、淑やかさを保ちながらもどこか楽しげだ。
無論、「これからどれだけ身につけるか」において過去の蓄積は無視出来ないが、それはそれである。

「…申し遅れました。あたくし、クローデット・ルナンと申しますわ。
こちらには、魔術の探究のために留学して参りましたの。

…よろしければ、あなたのお名前をお伺いしても?」

そう言って、花の綻ぶような柔らかく品のある微笑とともに、ことりと、軽く首を傾げてみせた。そこには、お世辞にも育ちが良いとは見えない相手を蔑む意図は見えない。

それはそうだろう。クローデットが蔑む対象は「下層階級の者」ではなく、「異能者(バケモノ)」、「異邦人(ヨソモノ)」、そして、それらに融和的な「裏切り者」なのだから。

伊織 六郎 > どうしよう、ガチのお嬢様っぽいぞ。
なんか高そうな服も着ている、3枚で幾らとかのやっすいシャツを着ている自分とは存在レベルが違うお嬢様やぞ。

気圧されたように一歩下がりつつ、引きつった顔でなんとか、なんとか愛想笑いを浮かべて返す。

「ぁー、そうっすねえ。
 やってきたコトも大事すけど、更に積めるもんがないと先がねえっすから。

 そーいうハナシだと、無料でこんな本読めるのはありがてーこって……」

一応、これでも本人は丁寧に喋っているつもり、なのであるが、相手にどう思われるかは分からない。

「オレぁ、伊織っつー……まぁその辺に居る学生すわー。
 ウゼぇ異能とかに振り回されるのがイヤでまぁ、対策とか、魔術とか魔法とかそっちのために……

 あと、生活のために、島に最近きた感じすね。」

名前を拒む理由など全くないので、こちらも名乗る。
どうも、多分、普通の  あー 普通のお嬢様なんだろう、という認識でいるようだ。

クローデット > (…わざわざ後ずさらなくてもよろしいのに)

あまりに可哀想なので、相手の極端な反応に笑い出したい衝動をこらえる。あまりない感覚だ。

「無償なのもそうですけれど、学問的価値の高い古書が多数保管されているのも、あたくし達のように探究に励む者には有難いことですわね」

たおやかに、にこやかにそう返して頷く。
相手のヤンキー敬語?べらんめえ口調?に対して不快感を感じている様子は見せない。
………いや、何もしないうちから勝手に威圧されている相手が面白くて不快感どころではない。

「伊織様、ですね。

………そうですか、異能に振り回されていらっしゃるのですか。
詳しいことは存じ上げませんけれど…大変苦労されたのでしょうね」

名乗りと、島に来た経緯を聞いて、伏し目がちに、どこか重々しく頷いてみせる。
「異能に振り回されるのがイヤ」という言葉を聞いて、何か思うところがあるのか、伏し目がちになる少し前、それとは違う形で目が細められただろう。
それでも、口元の微笑は崩れなかったが。

伊織 六郎 > 「ごめん、様とかちょっと無理っす。
 呼び捨てでもさんでもいいんで、様はマジで無理っす。

 オレから様付けはオッケーだけど、伊織様とか背筋がゾワゾワするんで勘弁してくれマジでいやマジで。」

引きつった顔がやっと、普通に……普通に目つきの悪い顔になっただけで、あんまり緩和されてないが。

カウンターで返却手続きしつつ、手を横に振って、ついでに首も横に振った。
様とかマジ無理。

「あー、そうっすねー。
 レアなモンが保存されてるのもありがてーっすなあ。

 ふつー、こういう貴重なもんってあんま簡単に見せてもらえないっすよなー。」

確かに、この島は魔術や魔法や、異能や、そういったものに手が届きやすい。
何の頼りも無い自分でもこうして勉強が出来る位には、気軽い。

で、何かちょっと今、睨まれたような気がして、こちらも怪訝な顔になった。

「多分、もっと苦労とかしてるヤツぁ居るんだろーけど、も。
 そこそこ面倒っつーか、周りに迷惑かける場合もあるっつーか……

 ぁー、別にクローデット様、さん?に、文句を言いたいわけじゃねえっすけど、なんかスンマセン。」

相手に問う前に、つい、愚痴っぽくなったのを謝罪した。

クローデット > 扇子でやや慌ただしく口元を隠す。それから、くすくすと笑い声が漏れた。色々無理だった模様。
それが落ち着いて、改めて跳ね扇子を閉じてたおやかな笑みを浮かべると

「…失礼致しました。それでは、伊織「さん」と」

と、軽く頭を下げた。
顔の引きつりが解けたのはいいが、その過程が面白過ぎた。

「禁書庫にはもっと貴重で高度なものがございますけれど…流石に、こちらは気軽に開放、とは参りませんわね。
…それでも、手続きを踏んで認められれば、この島の外よりはよほど容易に閲覧が可能ですが」

たおやかな姿勢を崩さず、平然と。この留学生、手続き慣れしているらしい。
…と、愚痴っぽくなったのを謝罪されれば、緩やかに首を横に振り。

「…苦労の軽重を天秤にかけて比較する行いは、誰も救いませんわ。
伊織さんご自身のためにも…他の方のためにも、おやめになって下さいな」

それから、柔らかく笑んで。
唇の前に、人差し指を立てて「内緒」のジェスチャーをしながら、小声で。

「…この学園の講師と治療士を兼ねていらっしゃる先生で…望まぬ異能を「治療」される方がいらっしゃいます。
治療室をお持ちのようですから…もしご興味がおありでしたら、ご相談に赴かれてはいかがですか?」

そう、過去に特別講義を受講し、それなりに交流のある講師のことを教えた。

伊織 六郎 > 「あぁ、うんそれで……別に謝るこっちゃねーっすけど。」

何かがウケたようだが、自分的には何がヒットしたのか分からない。
が、笑いが取れたのならちょっとは気が楽になった。

というか扇子で口元を隠す仕草とか、リアルではじめて見た。
テレビとかはマジだったんだ!
ちょっとした感動すら覚えてしまった。

「そんな大層なモンだと、オレにゃ理解できねーかもしれねっすね。
 我流のちょっと使える程度くれーのモンなんで、オレ……さっきの本も割りと難しいもんあったっすわ。」

誰かに師事したわけでもない魔法、魔術など、素人同然のレベル1に毛が生えた程度のものだろう。
例えば、目の前の本職っぽい人には遠く及ばないはず。

で……

「そりゃーごもっとも。
 救われねーのは良くねーっすね、へへへ。


 …………マジすか、そんな先生様が居るのかよ、ここ。」

最後に教えてもらったハナシに、ちょっと、いや、かなり食いついた。

クローデット > 「…伊織さんが真面目に対応して下さっているのですから、それに応えるのが礼儀というものでしょう?」

その観点からすると、ウケてしまったのはクローデット的に無しということらしい。
一方で、伊織がリアルで初めて見た「お嬢様仕草」に感動を覚えているのには頓着しないクローデットだった。

それにしても、普段羽根扇子で笑みを隠すのは「悪意」を隠すためなのに。
「礼を失するけれども抑えられない振る舞い」を隠すために使ったのは………あまり、記憶にない。

「我流よりは、体系の中で理解する方が探究の道は深まりましょうね。
魔術の理論を学ぶ講義は、履修されていらっしゃいますか?」

いかにも本職のクローデットとしては、学ぶ意欲があるのは悪いことではない。
女性らしくも楽しげな笑みで、そのように尋ねた。

「ええ…浅田 扁鵲(へんじゃく)先生という方なのですけれど。
千里眼、怪力、サイコキネシス、予知能力などを治療した記録を、論文にもしていらっしゃいますのよ。
…伊織さんの異能は存じ上げませんけれど…悩みがおありでしたら、相談には乗って下さるかと存じますわ」

知己のある講師のことを教えたら、思った以上に食いつきが良かった。
柔らかく品のある微笑を湛え、具体的に、その名前を教えてやる。

伊織 六郎 > 「そんなもんっすかねー。
 さーせん、オレがあんまり意識できてねえっす、クローデットさんみてーなお嬢様と話すの初めてなんすわ。」

そもそも人とあまり喋れない孤高のボッチ系ヤンキーという救えない生命体の伊織。
クローデットみたいな人は特にテンパる相手であった。
今もちょっとしどろもどろなトコロもある。

「まぁ、そーっすよねー。
 一応、履修してるっすよ、ほんと島に来るまでど素人だったんで、初級講座からっすけど。

 西洋魔術の……えーと確か。」

口にしたのはほんとうに入門講座的な講義だが、ちゃんと、授業も取っている。
一応、そーいう授業はちゃんと出ている。
頭悪いんでイッパイイッパイすねー と、頭を搔きつつ苦笑いだけど。

「なんかすげー名前っすね、浅田はふつーっすけど。
 なるほど、ちょっと論文も探してみるっすわ、ありがとーふごぜえます。

 あー、オレん異能は……そんな大したモンじゃねーっす。
 あれっすよ、あんま使えないのにデメリット大きい、いわゆるハズレ的なヤツ。」

浅田 扁鵲。
あさだ へんじゃく という名前を取り出したスマホのメモに入れておいた。

丁度図書館に居るのだし、探してみるのもいいだろう、と。

異能については…… まぁ、苦笑いが深くなった。

クローデット > 「礼には礼を、というのは「お嬢様」に限ったことでもないと思いますけれど…
この学園には多様な方がいらっしゃいますから、良い「異文化交流」になるかもしれませんわね?」

ふふ、と花のほころぶような笑みを零しながら。
男性相手に動揺を誘って優位な立場を握ることを狙ってみることがないとは言えないクローデットだが、流石にこの場で初対面の貧相な(失礼)年下の学生相手にそんなことはしない。

「初級から、ですか。
「学問に王道無し」ですから、良い心がけかと存じますわ。
…詰まるようなことがあったら、先生などの助力も積極的に得るようになさると良いでしょうね」

入門講座の名前を挙げられれば、寧ろその笑みが人の良さを帯びた。
初学者が正道で学びの道を上がっていくのは良いことだからだ。好感度が上がった、というやつだろうか。

「ええ…気にしていらっしゃるようですから、先生を呼ばれる時は「浅田先生」と呼ぶようになさって下さいね」

「すげー名前」という感想には、少し気遣わしげに伏し目がちにしながら、そう伝える。
伊織は、「振り」ととっても、素直な忠告ととっても構わないだろう。
…そして、自らの異能を、苦笑いを込めて語る伊織に対して。

「………異能は、必ずしもその方にとって都合の良いものばかりではない、とは伺いますけれど。
「ハズレ」とまで仰るのは…その、よほどのことなのでしょうね」

そう言って、どこか申し訳なさそうに視線を下げた。

伊織 六郎 > 「なんか異世界から来た人とか居るっすよね。
 普通にツノとか生えててちょっとスゲえかったっすわ。」

こんなん、こんなんツノ生えててた、指で宙に図を描く伊織はちょっと楽しそうだった。
死んだ魚のような目にも若干だけ、この時は光が戻っていた。

あと、クローデットの綺麗な笑みにちょっと目をそらした。
眩しかったので。

「分からん講義出てもしゃーねーっすからね。

 基礎が分からんと……ああ、先生が割と親切なのも、この島に来て良かったことかもしんねーっすね。」

良くしてくれてるっすわー と、少しだけ、楽しそうに笑った。

「へいへい、先生にはちゃんとしとかねーと大変すから。
 ちゃんとそー呼びますよ。

 異能はー……まあ、こんなもん要らんかったなぁ、とか……
 いや、初対面で言うこっちゃねーっすね、さーせん。

 んじゃオレ、そろそろその論文探してみるっすわ。

 ありがとーございました、クローデットさん。」

また愚痴りそうになったところで、気付いた自分からハナシを切った。
折角教えてもらったことであるし、早速、探しに行くと視線を図書館の本棚の群れへと向けて。

クローデット > 「角ももちろんですけれど…獣の要素を身体に備えた方々もいらっしゃいますわね」

比較的邪気のない様子で異邦人を見た時の驚きを語る伊織の様子に、こちらも楽しそうに笑みを零す。
「不思議なことに」、表情の作為は、さほど必要なかった。
なので、伊織の動揺は、クローデットの中ではどこまでも「事故」扱いである。

「それを聞いて、安心致しましたわ」

「振り」には乗らないらしい伊織の言葉に、柔らかく笑んで。
いや、フルネームを紹介して、本人の意向を伝えたことで「振り」の責任を負わされたらたまったものではないが。

「………この世界は、ままならぬことばかりですわね」

少年の愚痴の気配は、伏し目がちにしながらもしっかりと拾い。
それでも、本棚の群れに伊織が向かおうとすれば。

「東洋医学の専門誌に掲載されたものですから、書架から探すのは楽ではないと存じますわ。
蔵書検索の端末を、利用された方がよろしいかと」

間に合えば呼び止めて、蔵書検索の端末を指差すだろう。

伊織 六郎 > 「ほんと、うまくいかねー世界っすねー……

 ぁ、そんじゃ検索してみますわ。何か、色々ありがとうーっす。
 そんじゃあお疲れっした。」

検索端末、なるほどと頷く。
何か色々とお世話になったお嬢様のことはしっかりと頭に焼きついた。

思わぬところでいい人に巡り合ったものであった、と伊織はこの出会いを幸運とした。

クローデットに頷くと、軽く手を振って、端末の方へと歩いていった。

ご案内:「図書館」から伊織 六郎さんが去りました。
クローデット > 「ええ、それでは、また。
あなたの「探究」を、ささやかながら応援致しますわ」

友好的な態度を崩さないまま、端末の方に歩き去る伊織を見送る。
まっすぐ帰って「試作品」の様子を見るつもりだったが…異能者(バケモノ)と「つい」、「何故か」話し込んでしまった。

(…望まず「異能者(バケモノ)」となった者…
その者が「治療」等を受けて異能を失った場合、「ヒト」として扱ってやるべきなのかしら?)

しかし、その疑念がクローデットの脳裏に浮かんだのは、わずか一瞬。

《だめ》
《考えないで》

音のない「声」、認識出来ない「声」が、その疑念を遮ったのだ。
疑念が立ち消えてしまえば…それらの全ては、クローデットの中で「なかったこと」になる。

(…次の行程に移るべき時間はまだ先ですけれど…早めに帰って、様子を見なければなりませんわね)

クローデットは、やや足早に図書館を去った。

ご案内:「図書館」からクローデットさんが去りました。