2016/08/20 のログ
ご案内:「禁書庫」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
谷蜂 檻葉 > 8月20日

人気の隙間を縫う夕暮れ時。
貸出や返却に出入りする中に、同じ腕章を付けた人々がゾロゾロと図書館に集合してくる。

幾らかの奇異の視線を集めながらも彼ら―――図書委員は通常書架、その先。『禁書庫』に足を向けていた。



やがて、十数を超える人数が集まるとひときわ背の低い男子生徒がチョコチョコと看板を持ってくる。
その『これより集中整理業務につき立ち入り禁止』 の立て札を置くと椅子に座って監視を始め、それを皮切りに彼らは禁書庫へと足を踏み入れた―――




中では直ぐにテキパキと人が動き出す。
その先頭に立つようにして檻葉はプリントを手に指示を出していた。

「ええと、それでは事前の分担の通りA、B、Cは先生と一緒に奥から。Dは中央の掃除具入れから両サイドに向けて清掃開始。E配属の人は私が順に指示をだすのでこちらに集まって下さい。」

こうして、禁書庫での大掃除が始まる。

ご案内:「禁書庫」に加賀智 成臣さんが現れました。
加賀智 成臣 > 人々は指示に従い、散らばるように書庫の中を駈けずり始める。
その中で、ひときわ背の大きい、しかしひょろりと細い男は覇気なく立ち尽くしていた。

「……………。」

なぜだか、普段より更に暗い雰囲気を醸し出しながら、ふらふらと檻葉の元へ歩いて行く。
猫背だが、それでもデカい。

「……えぇと。僕は何をすれば……?」

その男、加賀智は頭をこりこりと掻きながら指示を仰ぐ。

谷蜂 檻葉 > 此処に来る前から事前に連絡は済んでおり、最終確認程度のこととは言え臨時の指揮官役を任された檻葉の元には加賀智だけでなく他の生徒達も何人か集まっていた。

「ではこの4段目から5段目の装丁の再確認だけ終えたら…… あ、加賀智君。ちょっと待っててね。」

加賀智が、ふらりと近づいた時も既に鏡写しかと疑うほどソックリな二人の女生徒に何かの指示を出していた。
ユニゾンで応答が聞こえ、輪唱のように質問が飛ぶ。

「…うん、はい、では一度そこまで終わったらB班と合流して大丈夫です。赤いジャケットの男子が詳しい追加の指示をくれますから彼に従って下さい。 そう、その人。 宜しくお願いしますね。

 ―――ん、おまたせ加賀智君。 それじゃ早速だけど私達は少し皆とは別行動よ。ついてきて。」


そう言って笑顔で挨拶を投げれば、即座に踵を返すとどんどん奥へと歩き始めてしまう。
進んで左奥、どこか陰気な雰囲気のするわずかにカビ臭い書架へと進んでいく。

加賀智 成臣 > 「あ、はい。………………。」

素直に待つ。檻葉が指示を出している間、微動だにしない。曲がった電柱のようだ。
双子だろうか?そんな生徒も居たのか。と友達の少ない加賀智は思った。

「……あ…わかりました…。…で、こっちがその、例の。」

のそのそと檻葉の背中を追いかける。
カビ臭さと多少の埃に喉を痛めながらも、咳などは抑えこんで付いて行った。

辺りを見回せば、どうにも陰気で薄暗い雰囲気。
なるほど、妙な本が多そうな雰囲気がある。もっとも、禁書庫にあるのは大体が妙な本だが。

谷蜂 檻葉 > 「ん、お察しの通りね。
 此処がつまり… 『ちょっとだけ危険性がある禁書』 …って事。

 先に移動だけして此処に集めてあるの。 棚そのものに結構厳重な魔術があって―――
 っていうのは、加賀智君は興味なかったか。

 それじゃコレ付けて、あとこれも。」

少しばかり喋り足りなそうな顔を見せたが、周りを見て諦めたのか加賀智に『防毒マスク』と『厚手のゴム手袋』を渡す。
ただの防具のようにも見えるが、何やら気味の悪い模様も見える。

「それと、資料が一部見つかったみたいで殆ど燃えるとかそういう危険性は無いのは解ったの。
 でも、ジャージに着替えておく? 一応期待してたみたいだから持ってきてるんだけど……。」

テキパキと加賀智の腕を取るのその上にドサドサと置いては最後に真っ黒いジャージを取り出すとぐっと掲げてみせた。

加賀智 成臣 > 「……………。」

危険性のある禁書を収めた書庫。

そう改めて言われ、再び辺りを見回す。
その情報を得れば、先ほど見たただのカビ臭い書庫とは、また違った不気味な雰囲気を感じる。
言葉の魔力とは恐ろしいものだ。

「いえ、参考になります。はい。
 ………この模様は…防護魔術か何か、ですか?」

防毒マスクとゴム手袋を受け取り、しげしげと眺める。
本来なら大して必要はないが、周りが付けている中一人だけ付けないのは申し訳ない。

「あ、そうですか。……ジャージ…良いんですか?汚れるかもしれませんけど……
 じゃあ、その……お借り、します。」

おずおずと自信なさげにジャージを受け取り、着替え始める。
サイズは合うだろうか……?

谷蜂 檻葉 > そんな禁書庫に置いて、どうにも普段通りに見える彼女はさてどんな事を考えているのか。
受付で見るそれと変わらない笑顔で加賀智の言葉に頷いた。

「そう、主に『魔除け』の呪術をばっちり刻印した図書委員禁書対応部隊特別仕様……なんてね♪
 
 付けておいてもらえればアクシデントも”直撃”だけは避けられるわ。
 加賀智君なら手袋は本当に手袋以上の意味もないのかもしれないけど、しっかり付けておいてね。」


ちなみに奥に向かった委員の多くはつけているが、出入り口側に残っている生徒で付けているのは一部だけだったりもする。
いわゆる『命綱』としての保険の意味合いの強い装備らしい。

「勿論、先生に聞いてサイズも合ってるはずよ。
  全部準備ができたら始めていきましょうか。 数が数だからテキパキやらないと終わらないわ。」

そう言って、檻葉は足台を引きずってくると最上段から3冊早速取り出しはじめる。

加賀智 成臣 > こんな状況であっても平常運転。場慣れなのか、楽天的なだけなのか。
まあどちらにせよ、やるべきことをやるということに変わりはない。そう思いつつ、ジャージに着替えた。

「あ、はい。分かりました。……いえ、他の人が付けてるのに僕だけ付けないっていうのは……こう……
 ………申し訳ないというか。」

めんどくさい男。
ともかく、そんな『命綱』を身に着けて、檻葉の行動を見守る。

「…はい、合ってます…。ありがとうございます。
 …………ふぅ。はい、お願いします。準備は大丈夫ですから。」

少し、気を引き締める。
ここでポカをしたら、他の大多数に迷惑がかかってしまう。
数人程度で一部だけ掃除するのかと思ったら違ったので、自殺チャレンジは控えなければならない。
……友人との約束のためにも。

谷蜂 檻葉 > 「よし、じゃあまずコレとコレ。

 『裏表紙側から読むと呪いが発動しない』タイプよ。こっち側(裏)からパラっと確認してみて、何もなければOK。

 こっちのは既に『封印済み』よ。 全ページの右下に赤いマークが有るか確認してみて頂戴。
 薄れかかっているのがあったらこっちのカゴに入れておいてほしいの。

 それと最後の軽く糊付けされてあるページは開かないでね。説明書きのとおりなら呪いをぶち撒けることになるらしいから。」


さくさく説明すると再び登ってプリントを見比べながら再び本を手に取る。
……どうやら、この流れで精査していくらしい。

加賀智の手渡された禁書―――その呪いも、脅威も解らない。
ただ、『安全装置が付いているらしい』という事だけが貴方の持ちうる情報だ。

加賀智 成臣 > 「……………。」

ぱらりぱらりと、言われたとおりにチェックをしていく。
裏表紙から、ぱらりと開く。……何も起こらない。つまり、これでいいということだろう。
本を閉じ、横に置いておく。

「………。」

封印済みの禁書もチェック。パラパラ漫画のように、軽くぺらぺらとめくって確認する。
確認した。

「…………。
 谷蜂さん。あの、これ。1ページだけ、赤いマークが虫に食われてるんですが。」

そう言って、開いてみせる。右下が、千切れたように欠けていた。
確かにこれは、虫に食われている。

谷蜂 檻葉 > 「ん、いきなりハズ、 れ ――――?」

加賀智がその禁書の虫食いを見つけた時、檻葉は足台に乗ってまた最上段に手を伸ばしていた。
脚立ほどの高さではないが、数段あるソレによって檻葉は1m強の高さを追加で得ている。


その位置から、ため息混じりに加賀智に目を向け……そして、差し出された『禁書の1ページ』を直視した。

加賀智は、確認のつもりだったのだろう。
しかしマスク越しに見るソレと何ら気負わずに向けた『直』の場合と、起きる出来事は明確な差異があった。


―――間違いなく、檻葉の油断が原因で


彼女は、即座に失神したようにグラリと足台の上から崩れ落ちる。

無防備なソレは棒倒しにも似て、床へ吸い込まれるように頭が落ちていく。

加賀智 成臣 > 「……………あ。」

ぐらりと、目の前の人体が傾いた。
それはそうだ。禁書は『見られて効果を発揮する』ものなのだから。
それを直視させたらどうなるかなど、少し頭をひねれば分かって然るべきだった。

一瞬呆然として、次の一瞬に弾かれるように立ち上がって、檻葉の体を受け止めに行く。
……間に合うかどうかはわからない。だが、兎にも角にもそれは…
どうしようもなく、加賀智の無知が引き起こしたものだ。

そんなことがあってはならない。自分のせいで誰かが不幸になることなどあってはならない。
あってはならないのだ。

谷蜂 檻葉 > 一度倒れるまではゆっくりと。
そして角度がつき始めれば急激に。

彼女を救うには2つの段階がある。


まず、50kg強の『肉袋』を2m半の高さから投げ渡されてそれを受け止めるだけの膂力があるか。

……そしてそれが不可能である時、自らの身体をクッションにするだけの勇気があるかどうか、だ。



その重さに耐え切れずに突き放せば、変わらぬ速度で彼女は地面にその頭蓋を叩きつけることになるだろう。

運命の瞬間はもうすぐ目の前に―――

加賀智 成臣 > 「………っ!」

無理だ。
自分の力では、この女性を受け止められるだけの力はない。
どうしよう。どうするか。……加賀智は、迷わずもう一つの選択をしていた。

もともと、命を捨てるつもりでここに来たのだ。今更打撲だの、怪我だの、どうでもいい。
『そんなもの』より、目の前の女性の命だ。比べるのもおこがましいほど、そちらが重要だ。

檻葉の落下する場所へ、体を滑り込ませる。
妙な体勢で動いてしまったために足をひねったが、『どうでもいい』。
このまま落ちれば、肋の一本は行くだろうか。『重要なことではない』。
後で怒られるだろう。心象は最悪になるだろう。『気にするべきことじゃない』。

自分の身を捨てて誰かを助けられれば、自分がどうなろうと知ったことではない。
その考えがまとまらぬうちに、クッションとして受け止める体勢は整っていた。

谷蜂 檻葉 > 鈍い、砂袋を叩いたような重い音が響く。

―――そう。無事に加賀智は間に合い、
当然のごとく彼女の文字通り全体重を無遠慮に掛けられたフライング・ボディプレスをもろに受けた。

重力加速度を加えたソレは実に華奢な貴方の身体を偉大なる大地との板挟みに押さえつけ、反動すら起こさずに叩き込む。


常人であれば、呼吸すらままならない衝撃が加賀智の身体を襲った。


「……―――――。」

そして、その原因たる少女はすぐには目を覚ましはしなかった。


この一連の出来事に、数名の生徒が二人の様子に気がつくと走り寄って『大丈夫か、何が起きた。』と、声をかける。

加賀智 成臣 > 「…………。」

ごきっ、と体の中で衝撃と音が響いた。
この感覚は、脆い肋が2本ほど折れただろうか。呼吸が出来ない。
後頭部も、檻葉の落下の衝撃で床にしたたか打ち付けられた。
気絶しない程度の衝撃というのは、実にたちの悪いものだ。そう思いながら、檻葉の様子を見る。

「…………あ"…げぼっ。」

気を失った檻葉に、あの……と声をかけようとした瞬間、口から血が溢れてきた。
折れた肋が肺に刺さったかもしれない。急いで血を飲み込もうとする。
こんなことなら、もう少し骨を強くしておけばよかったな。そうとりとめもなく思った。

「……あ"、の……谷蜂さんが、禁書を目に……
 すみません、ごほ、僕のせいで……大丈夫、でしょうか……」

生徒たちに説明して、檻葉への処置を頼む。
自分の処置は頼まない。そんなことより、檻葉の体を優先すべきだろう。

谷蜂 檻葉 > アクシデント、というのは彼らも理解していた。

そして加賀智がそれを助けたのだろう、とも。
しかし直後の僅かながらもの喀血と、口を開くごとに微かに口の端から滴り落ちる赤黒い血の色にまた何人かが即座に動いた。

中には、加賀智の事を人伝程度に聞いていたものも居るのだろう。
彼の言葉に頷くと禁書を回収して奥の―――専門に解呪を行う生徒もいる方向へ走り去った。


『息はしているし、魔力の反応もそうおかしくはない。
 恐らく”急性のショック症状”のようなものだと思う ……命に別条はない筈だ。』

加賀智の目を見て男子生徒はそう言い、やがて少し遅れてやってきた女生徒の持ってきた担架に加賀智を載せる。


『他は作業を続けてくれ。今いる奴らで……と、君。保健室に先に連絡入れてくれ!

 よし、一度休憩室に運ぶぞ。 ―――1,2の3!!』


檻葉も、加賀智が担架で持ち上げられるのと一緒に別の担架に載せられると運びだされる。

加賀智 成臣 > 「……………そう、ですか……げほ、ごほっ!
 ……よかった…。」

その生命の灯火を少しずつ弱らせながらなお、誰かの命が救われたことに安堵する。
おそらくは、加賀智は既に狂っているのだろう。
……そう思わせるような、凄惨な光景が広がっていた。

「……すみません。……すみません、谷鉢さん……」

虚ろな目で担架に乗せられ、ぶつぶつと呟くように謝りつづける。
正直言って、異様な光景である。
その間にも、その生命の灯火は揺らぎ続け……いつの間にか、ふっと消え失せた。

「…………。」

谷蜂 檻葉 > 『……ああ、大丈夫さ。きっとな。』


献身、のように見える。
加賀智のソレが、一見して尊いものだと。その男子生徒にはそう見えた。


『………すいません、通ります! 急病人です!!』


しかしソレと同時に、彼は不気味さも持ち合わせていた。
不死がどうこう、というわけではなく。 ”その結果完成された精神性”についてだ。


『――――通ります!!』


加賀智を見る視線は、幾つもの種類があった。
ただその多くは、良いものとは間違いなく言えるものではないのも確かだった。




こうして二人は、休憩室を経由して保健室に運ばれた。

ご案内:「禁書庫」から谷蜂 檻葉さんが去りました。
ご案内:「禁書庫」から加賀智 成臣さんが去りました。
ご案内:「図書館」に滝川 浩一さんが現れました。
ご案内:「図書館」から滝川 浩一さんが去りました。