2016/08/27 のログ
セシル > 「…色々なやり方があるのだな…」

書架の中の、それらしい魔術書を手に取って、軽く眺めては戻す作業を繰り返す。
おなじみ(?)の身体に香油を塗って帚にまたがるだとか、魔術的な翼を背に持つとか…はては、重力を操作して宙に浮くというものまで。
「空中で立ち回る手段を得るための魔術」と一言で言っても、意外と種類があるようである。

(帚にまたがっては剣が振るえんし、重力の操作は戦いながら制御出来る気がせんな…
まずは、翼を持つ術の使い方について調べてみるか)

そう考え、魔術的な翼を背に持つという術についての記述がある魔術書を、手に取ってみた。

ご案内:「図書館」にデーダインさんが現れました。
デーダイン > 「お困りの―――様だな!」

翼を得る魔法についての本、セシルがそれを手に取って少し、
真っ正面向いて仮面にマントの不審者が、どっから来たのやら不明だが、
セシルへと暑苦しい声を掛けた。
何時からか、セシルがこれでもないそれでもないと、書物を持って戻す様を見ていたのかもしれない。

「翼が欲しい!空を飛びたい!
重力に縛られし憐れなる翼無き人間は誰しも一度はそのような望みを持つものよッ!!

さて、その前にこんばんは。夏休みだと言うのにここ、
図書館にて熱心に勉強に頭を悩ませているのは良い事だ。ウム。」

そしてちょっと遅れて挨拶。軽く一礼して腕組みしながらうむうむと頷いた。
デーダインは言葉通り、関心気味の声で朗らかである。

セシル > 魔術書をぱらぱらとめくって、該当の術式の解説部分に行き着く。

「…なになに…?
『「光の翼」は領域魔術に分類される飛行術である』…
『翼に見えるものは飛行方向などを定める舵のようなものであり、実際にはこの術の行使者の周辺に発生する、術者を浮遊させる魔術的領域が飛行の要である』…

………???」

押し殺した声で、たどたどしく記述を読み上げている。
体育会系たるセシル一人では理解が厳しいようだ。
…と、そこにかけられる暑苦しい声。
そちらを見ると………不審人物。
いや、その姿は以前周知されていた気がする。「不審人物に見えるがれっきとした教師なので風紀上問題がなければ通常の身分の所持者として扱うように」みたいな感じで。

「………デーダイン先生、でしたか。こんばんは。

先日、改めて課題を突きつけられることがありましてね…全く手はないわけではないのですが、もう少しどうにかしたいと思いまして」

淡々と、中性的な低い胸声で答えるセシル。「不審者」という感想は飲み込む事にした模様。
なお、淡い色合いは光っぽさを感じなくもないが、別にセシルの魔術適性がそっちの属性にあるとかそういったことはない。あえて言うなら内面くらいだろう。

…「気」の質とかは隠していないし隠す気もないので、魔術に長けていて冷静な判断力を備えていれば、セシルの肉体の性別は丸分かりのはず、である。

デーダイン > 「ウム。デーダインだ。ダイン先生、若しくはダイン様と呼ぶが良い!」

誰がどうみても不審者である。
基本的に何も知らない人が見れば100人に100人は不審者であると答えるだろう風貌、
それがデーダイン先生である。
因みに、その言動はちょっと風紀上に問題があるけど別の話。

「光の翼…!ロマンだなッ!ウーム、しかしながらその書物によれば、
残念ながら光の翼で飛んでいるのではなく、魔法で発生したエリアが飛行能力を与えている…
つまるところ、光の翼はどっち向いて飛ぶかーみたいなのを見せる飾りで、
言わば「そこにいれば飛べる結界」みたいなものを作っているから飛べる!
と言う事だそうだ。
残念ながら羽ばたいているわけではなく、浮いてるだけだな。」

手袋の人差し指を立ててクックックと先の読み上げられた記述を分かりやすく解説。

「ふむふむふむ。成程…いや、夏休みなのに自主的に課題を見つけるとは中々!
それで、課題とはなんだね、少年よッ!」

デーダインはセシルに内在する光について反応していないようだ。
もとより、内面要素に光!英雄!勇者!神性!等、強烈さがなければあまり反応しない。
それどころか、性別もまるっきり誤魔化されている。

セシル > 「…それでは、ダイン先生と」

相変わらず冷静な対応で。様付けをする気にはならなかったらしい。
…が、魔術修得に際してロマンを重視しているらしい、どこか子どもっぽい要素のある外見不審者の様子にわずかに苦笑いを零した。

「いえ、術式として扱いやすければ浪漫は二の次で構わんのですが…
そもそも、「結界」を自分で構成するとなるとピンとこないものでして。
私は剣士で、あまり魔術を理論立てて学んでいないものですから。

課題は…まあ、私が「ヒト」の剣士である、というところから推測していただければ」

課題について聞かれれば、そのように濁す。立場柄、弱点を大っぴらに公言するのも良くない気がして。
…調べ物の中身と曖昧な言い方からの推測は、「推測」の名に値しないほど容易ではあるが。

「ああ、あと、私は………」
(…どうしたものかな)

意外と誤魔化されて「しまう」存在が多いなぁ、などと思いながらも、性別についての言明に戸惑う。
なんというか、こう、この相手に「肉体は女性である」と言いきるのにほのかな抵抗を覚えてしまったのだ。

まあ、名前を伝えれば、教師であれば知るのに不自由はしないはずである。
「気」の類はもちろんだが、声も、「意図して作っている」のは聞く者が聞くなり、身体の働きに対する観察力に優れる者であれば割と察するのは難しくないはずなのだから。

デーダイン > 「……だろうな。」

因みに、様付けする物好きな生徒はほぼ居ないので安心して大丈夫である。

「ふむ。
……そうか、貴様は生徒であるからして、何でもかんでもこれ!と魔術を使えるワケではないのだな。
その上に剣士でヒトか…うむむ、なるほど。」

「私はヒトでもなければ剣士でもない故に、それこそピンと来ないッ!
しかし、……そうだな、恐らく察しは付いたぞ。あんまり言わんほうが良さそうだが。」

ピコーン、と閃きの効果音がどこから鳴り響く。これは音の魔法である。
本質はデーダインの声と同じ性質のもの。
概ねの事柄から考えて、高い所への攻撃、若しくは剣で届かない所への攻撃を思索していたのではないだろうか。
という結論に至る。

「そうだな…もっとも簡単なもので言えば…私は四大元素魔法における風の魔法をお勧めしよう!
もっと高位の重力魔法や広域魔法を使えれば良いのだが…風の魔法は、素養さえあれば、他よりも大分とっつきやすいぞ!
色々と応用も効く。ただまあ、間に合わせ程度にしかパワーが出ない事が弱点だが…。」

そして推察の答え合わせもしないまま、先生の見解。
余計な世話かもしれないが、こうして話した以上、何らかの形でアドバイスは言いたい、
それがデーダインの教師根性。

「―――ム、そうだったな!貴様の名前を聞いていなかった!
これも何かの縁!少年!貴様の名前を教えるが良いッ!」

無念。彼女、ことセシルが少年でなく少女と言いだす機会を、
大袈裟なポージングと圧倒的勘違いで封殺するデーダイン。
察しが悪いったらありはしない、声も気質もヒントはあるのだが、一向にセシルが女性だと察しないのである。

セシル > 「自覚がおありなんですか」と言葉のデッドボールを投げない程度の理性はある。
とりあえず、課題の方の反応に答える。

「ええ…元素魔術の基礎の基礎と、「魔法剣」程度です。
理論的な話も、さほど得意ではありませんし。

…この制服を着る立場もありますので、そうして頂けますと有難いです」

そう言って、頷く。
見た目不審者で中身も子どもっぽいが、教師としての倫理観はしっかりしているらしい。
なるほど、わざわざ「通常の身分の所持者として扱うように」という通達があるわけだ。

「…ああ…確かに、元素魔術の出力を上げれば、そのような事も不可能ではありませんね。
姿勢制御が他の術式より困難そうなのが課題ですが…試す価値はありそうですか」

そんなわけで、相手のアドバイスもきっちり参考にはするのだった。
…そして、勘違い継続のまま名前を聞かれれば、

「………セシル・ラフフェザーと言います。こちらでは1年生です。
元の世界でも学生で、そちらはもう少しで卒業だったのですが」

と、苦笑混じりに答える。
苦笑の意味は…客観的には説明するまでもないだろう。目の前の相手にはそうではないかもしれないが。

デーダイン > 「魔法剣!元素魔法!だがそれだけ使えれば充分である。
…風紀委員なんだなあ…そうそう、もしも先生を捕まえる時は優しく頼むぞ。」

デーダインは、変態でアホでどうしようもない奴だが、真っ当な教師である。
ちゃんと生徒の面倒は見るし、こうして悩める生徒には話しかけに行くのだ。
グッと立つ手袋の親指。何故か捕まる未来がある様だ。

「うむ。とりあえず風魔法でバランスの取り方でも学ぶと言い。
少々消費が厄介だが…風の属性は他に比べてもまだ軽いからな。」

デーダインの中では四大元素属性では、風<水<地<火の順で消費が重いとしている。

「しかし、魔法剣があるだろう。そっちを試してみるのはどうだ。
私もこうして教師をしている身!飛ぶ斬撃!伸びる一閃!剣より走る雷!等と言う物も幾多と見てきた。
いや、私はそっちの学問は専門ではないので、何が出来るとかはよくわからんがな…。
そう言う事が出来れば、わざわざこう言うのに頼る事もあるまい?」

ぽむぽむ、と飛行系魔術の本を手袋で叩いて問い掛ける。
そもそも、人がわざわざ飛ぶと言う事は、戦闘においてはメリットよりデメリットが多いのである。
地面に突っ立ったまま剣の届かない範囲を切り裂いたりできれば、それが一番。

「ふむ、セシル・ラフフェザーだな!覚えたぞ!

おや、異邦人だったのか…それは残念だったな。卒業式はもう終わってしまったろう…。」

ここにきても、まだ察しが付かないデーダイン。
やはりその苦笑いの意味も分からないらしく。セシルの来歴について聞く。

セシル > 「…そんなものですか…。

それと、捕まるような事はなさらないで下さい」

「それだけ使えれば十分」という言葉には、実感のないように首を捻るが、流石に「捕まる」予告発言には躊躇いなくつっこまざるを得なかった。
まあ、その職権がある立場だし、躊躇いは不要だろう。

「確かに、人の身体を浮かすほどの「風」となれば相当な密度が必要になるでしょうからね。
戦うだけの余力が残らなければ意味がありませんが…まずは試すこと、でしょうか」

思案がちに、顎に手を当てながら。…手の当て方がやはり男性的である。

戦闘に元素魔術をほとんど持ち込まないので自覚が希薄だが、セシルの属性適性はあえて言うなら風が一番高い。効率は多少良くなるだろう。

「ああ…そういった手段も全くないわけではないんですが、もう少し、パターンを増やしたいと思っていまして。
遠距離となれば、どうしても大味になってしまいますし…身体を張った介入も出来ませんから」

「地面に足がついていない」ということが剣術にどのような影響を及ぼすか、分からないセシルではない。
それでも、「身体がそこにあるかないか」に意味がある場面もある。
…少なくとも、先日の件はそういう状況だった。

「もし講義でお世話になる事があれば、よろしくお願いします」

ここではきっちりデーダインに頭を下げるセシル。
生徒と教師、という立場は重んじるのだ。
来歴について話を振られれば、困ったような笑みを少し零して。

「卒業式はまあ、帰れれば何とかなると思うのですが。
…それよりも、元の世界に随分と心配事を置いてきてしまったのが辛いですね」

「心配事」の悩みを明らかにはしないが、その表情の陰りには、それなりの重みを感じる事が出来るだろう。

デーダイン > 「嫌だいッッ!セクハラは教師の特権なんだいッッ!!

―――とな、こういうの、最近冗談でもアカンらしい。困った困った…まったく、頭のお堅い連中だ。」

フッ、とカッコつけた笑い声を聞こえる様に出しながら仮面を抑え、
ヤレヤレと仮面が緩く左右に振れるデーダイン。
どうやら捕まる理由はこういうことである。

「何、「風」だ、とひとくくりに考えるのではない。四大元素魔法の風は、「空気」も包括しているのだ。
風を操るだけでは難しいかもしれんが、空気の方からアプローチしてみるのもよかろう。
何事も実践よ。そうだ!アレコレ考える前に、やってみることが大切だな。
…もっとも、魔術をもっと学び、重力魔法や有翼飛行を取得するのも手だがな。」

これらの魔法は、先程セシルがピンと来ないと言っていた結界を作る魔法と同じく、
元素魔法よりは少し難易度が高い所にある。

「ム…そうか。
……風紀委員だものな、確かに、そういった身体を張る介入、というのも必要なことは間間あるだろう。
……とはいえ!
貴様はあまりガタイが良いとは言えんッ!先生として忠告しておくが、あまりそんな細っこい体で無茶な事はするなよ!」

ビシ、と手袋の指先でセシルを指さす。
相変わらずその細身について触れど女性である事には気付かない様だ。

「ウム。こちらこそよろしく頼もう!お気づきだろうが、先生は魔術学を担当している。
あとは実習系もな。宣伝するようで何だが、夏休み明けに始まる学期の生徒募集中だ!」

小さく会釈を返すデーダイン。

「そうかね。

それは………難しい問題だ!
この学園に異世界から訪れる者は、多くが元居た世界に未練を残すッ!
親しい友人!愛した恋人!温かな家族!!
しかし!
…先生はそれに気の利いた言葉を言ってやれんのだ。すまんな。
話して少しでも気が晴れるなら聞かせてもらおう。そうでなければ、…忘れようか。ウム。」

こういう時こそ、教師として何か言うべきだが、解決策もない故、何も言えないデーダインは、
率直にそれを音に出す。
そこに踏み込んでいいかどうかは、相手次第とばかり。

セシル > 「まさに権力の差を利用するから「ハラスメント」であると、研修で教わりましたが」

真顔…いや、切れ長の瞳がいつにも増して鋭い。
まあ、セシルは「男ではない」し、そもそも男だからといってそういった「冗談」を楽しめるかというと個人差がある。

「空気を操る………ですか。

…まあ、重力だとか領域だとかと向き合うよりは遥かに扱いやすそうです。
攻撃に限らん元素魔術の入門書など、あれば良いのですが…」

とりあえず、飛行手段としては風の魔術の応用を試すつもりのようだ。
良いテキストがないかと、書架を見回す。

「ええ…修行中の身では、常に盤石とはいきませんから。

………忠告、感謝いたします」

指を指されながら、「細い身体で無理をするな」と親切にも忠告されれば、苦笑が漏れた。
…性別に気付かずにこれなら、やはり教師としての資質は本物だな、とも思う。

「ええ…助言、本当に参考になりました。
…考えておきますよ」

宣伝には穏やかにそう答えるが、実際のところ、今年は魔術方面の講義を増やす余裕はあまりない。
異邦人のセシルには、一般教養がそれなりに大変なのだ。…化学とか、化学とか、化学とか。

「………そうですね、こうした公の場では、あまり。
同じような悩みを抱えるのは、私だけではないでしょうから」

こちらに来て間もない頃、とある女生徒から受けた「忠告」の件もあって、セシルは家族の事などをあまり他人に話さなくなっていた。
…無論、こちらの生活に慣れてきて、「自分だけではない」ということがよく見えるようになったのも大きい。
…が、その陰を払うように鷹揚に笑うと。

「まあ、故郷でもこちらでも、私に恋人が出来るなど、想像出来ませんがね」

と、見た目王子様にもかかわらず…いや、セシルの性別に気付けば「だからこそ」と思い得るのかもしれないが…のたまった。

デーダイン > 「痛い痛い痛い。目が痛い。セシル・ラフフェザーよ。やめないか。
貴様そういうのいかんのか、分かった、悪かったから。もう言わないから。」

致命打。
まして女性であるセシルに対して、あの発言は致命的な失言という以外なかった。
ぐぬぬと音に出しながら半歩くらい後退するデーダイン

「うむ。そちらからな。

ふむッ!クックック!かなり簡単なものであるが、こう言うの等どうだろう…。
あー…どこにあったか。
失礼。」

図書館に置いてあるよくあるコンピューターを使うデーダイン。
これでどの本が何処に置いてあるか、大まかに把握できるのである。
便利な時代になったものだ。

「ホレ、来てみろ。
例えばコレなんかどうだ。
それとコレだな、入門書ともなれば、かなりレベルが低いものしかないのだが…。
どうだろう。」

公用語で描かれてる、小学生に向けたくらい易しい言語と解説の本を3つくらい紹介。
どれもこれも、実生活に役立つ事を基本としているものばかり。
けれど、人を浮かせるとかそこまでハードなものはなさそうだ。
例えばキャンプで役立つ火の魔法、喉が渇いた時に役立つ水の魔法…とか、そのレベル。

「ハッハッハ。別に貴様の授業なんぞ取らんわ!と突っぱねても良いんだぞ。
貴様は真面目故そう言う事は言わなさそうだがな。」

「なんだ、そうか。残念だな。まぁいいッ!また今度の機会があったら、気が向けば聞かせてくれたまえよ。」

結局、セシルの悩みが何だったのかは分からず仕舞い。
曇った表情は、笑った顔に塗り替えられたが。

「ハッハッハ…そうかね?
見た目はカッコ良いジャンルではないが…貴様はそう、美しいジャンルだしな。
礼儀も正しいしな。そして何より勤勉だ!」

さて、なんでセシルは恋人が出来ないんだろう?

「ウム…まぁ、あれだな。
気になるヤツが居ればまずはアピールすることだ。
それから、そうそう、貴様はどうせアレだ、奥手というやつなんだろう!
若しくは、アレだ…恋よりも仕事が優先!みたいな。
分かるぞ!!」

全く分かってないデーダイン。
声が凄いドヤドヤしい口調。

「たまには積極的に他人にプッシュする事だな。これ大事。」

勘違いも甚だしいまま、恋に関する非常に余計なアドバイスを垂れるのであった。

セシル > 「………私だけでなく、個人的に縁を結ばれていない方全てにお控え下さいね」

半歩下がるデーダインの様子を見て、呆れたように息をつきながらそう言って、ようやく視線を和らげるセシル。
セシルの出自は考えようによっては「良家のお嬢様」なので、課されたハードルがめちゃめちゃ高かった。

「………助かります。
訓練施設の方は大分慣れたのですが、この手の「端末」は不慣れなものですから」

調べてくれるデーダインには、素直にそう礼を述べる。
感情はそこまで引きずらないタイプらしい。
そして、提示された入門書を確認して…

「…もう少し、難度が高くても問題無いと思います。
そこに提示されるレベルであれば、それなりに扱えますので」

だそうである。魔術の資質は、こちらの世界基準で見れば悪く無さそうだ。

「いえ、余裕があれば覗いてみたいと思っていますよ。
ダイン先生の教師としてのありようと、魔術の知識は信頼に足ると思っておりますので」

そう言う笑顔は朗らかそのもの。これで嘘だったらなかなかの役者である。

「…そうですね、心のありようが変わったら、あるいは」

「気が向いたら聞かせてくれ」という言葉には、曖昧な返事を返す。
…しかし、そこには否定のニュアンスはなかった。

「奥手というか…そもそも、自分が「どんな者」を愛するのかも分からんのに、恋をしようもないでしょう?」

非常にドヤドヤしいデーダインのアドバイスに、そう苦笑いで答える。
恋以前の問題らしい。

「故郷でも、まともに結婚出来ると思っておりませんでしたから…考えた事がほとんどありませんでした。
先生の仰る通り、仕事や学業に邁進していれば特に困る事もありませんから、余計に。

………一生懸命アドバイスして下さるところ、申しわけないのですが」

王子様のごとき容姿のセシルに、何でもない風にこう言わせてしまう来歴に、何があるのか。
…いや、性別の誤解が解ければ謎の半分くらいは解決するだろうが。

デーダイン > 「ウッ………やだやだぁ!!私はセクハラするんだー!!!
一生セクハラ出来ないなら私は死ぬ!死んでやる!!!

………すまんな。私は教師生活でのファッショナブルなセクハラに命を懸けている故、それは約束できん!」

半泣きボイスで駄々をこねるデーダイン。情けないったらありゃしない。
しかし、ここは誠実らしい。悪い意味で。これからも省みず高らかにセクハラをする宣言。
セシルの言葉を拒否するのだった。

「ム…はっはあ。なるほど。異邦人であるが故だろうな。
こういうのが発達していない世界から来たのだな。

おや、そうか、…少し待てよ。貴様は魔法で何が出来るんだね…?」

セシルの魔法のレベルを測りかねるデーダイン。
どこまで出来るか、それは予想よりも高かった。

「いやはや、気の利いた事を言ってくれて嬉しいものだ。
訪れるならば、歓迎するさ、それ相応の授業を以ってな!」

やけに自信たっぷりなのもデーダインの特徴。

「ああ、それくらいでいいのだ。気が向いたら、だからな。」

頷くデーダイン。無理強いして聞く気もない。
言いたければ言えば良いし、言いたくなければ言わなければいい。
聞いたところで、デーダインは先の言葉通り、気の利いた言葉を与えられないのだから。

「……なんか、アレだな。恋の永遠迷宮に迷い込んでしまったみたいな理屈だ。」

仮面頭部を手袋で抱えるデーダイン。

「な、なんとまぁ…。ははぁ…そうか。余計な世話だったな。

う、うむ…すまんかったよ。」

これは余計なアドバイスだった様だ。
誤り唸って黙るデーダイン。

セシル > 「………な、何と下らんことに………!」

「恋も性欲もよく分からない」セシルだからこそ、余計にそう思うのだった。
思わず言葉が漏れる。
その後、気持ちを切り替えて再び瞳を鋭く細めた後、

「…とにかく、その発言は風紀委員への宣戦布告と受け取りましょう。
未遂にすら至らん状況で拘束しては職権の濫用に当たりますから、むやみやたらに声をかけるつもりはありませんが」

と、「実際に見つけたら容赦しない」宣告を下すのだった。

「ええ…その分、魔術は人口に膾炙しておりましたが。

魔法剣による剣への魔力、属性の付与と…焚き火に近いくらいの火を起こしたり、煮炊きにはあと一歩足りないくらいの水を生み出したりくらいでしょうか。
風も一応習いましたが、ごくごく小さな竜巻を一つ、数秒発生させる程度ですね。今のところは。生活で役立てる発想がなくて、さほど鍛錬しておりませんでしたから」

改めて確認されれば、魔術のレベルをそれなりに細かく申告するセシル。
魔法剣は付与出来る属性の範囲が広く、意外と汎用性が高かったりする。

「…楽しみにしています。「授業を」」

そう言って笑うが、何故か「授業を」を気持ち強調した。

「………まあ、故郷の事情も絡んできますので、説明は難しいですね」

デーダインが仮面頭部を抱えるのを見て、苦笑しながら。

「…いえ、私も変なところに反応してしまいましたから。
これで「セクハラ」と言いだしたら流石に不条理でしょう」

「こちらこそ申しわけありませんでした」と、少し弱く笑って頭を下げた。

デーダイン > 「下らんだと?!貴様ァっ…!貴様は分かっておらんようだな。
セクシュアハラスメントが如何に素晴らしいか!
冗談半分で大人し~感じの女子生徒にからかう程度にセクハラ行為を行うことが如何に楽しいか!
フーハッハッハッハ!!」

大笑いする教師の屑。ここは、図書館である。
周りからの視線も集めかねないが、「なんだデーダインか」と周りは一瞥して無関心。

「うん、やめようか!まぁ風紀沙汰になっても先生は大丈夫だけど…。
まぁいい、では改めてお願いしようか、捕まえる時は優しくしてくれ。」

この懇願。
やっぱりデーダインは情けない。

「む、むむ…。なんだ!それならもう実践クラスじゃないか。
とりわけ魔法がそれくらいに熟練しているなら、読本は必要ないかもしれん。
が、とりあえず…フム。

少し待ってくれ…ウーン、これはどうだろうか。」

聞いた話、結構な腕前である。
こうして新たに調べ出されるのは、四大元素魔法の中級の応用版である。
残念ながら内容は生活のものオンリーではない。
風の刃や大渦の魔法など、結構戦闘向きの内容だ。
生活のはオマケ程度に乗っている。

「ああうん、そうだな。授業をな。うん。」

色んなところで信頼を失っているから、仕方ないのかもしれない。

「良いのだ、皆複雑な都合がある。と、一口に言うのは容易いが、
実際の説明は難しい物だ…。」

気難しそうな声。
実際、生徒一人一人に、特に異邦人なんかはそれぞれの事情があるのだから。

「ハッハッハ、安心してくれたまえ!先生は可愛い女の子が大好きなのであって、
何をどうまかり間違ったとしても、絶対に男にセクハラなぞせんからなッ!!」

いやいや、と緩く揺れる仮面。
ところでこの発言、セシルの性別からすればどう考えてもセクハラなのだが…。

セシル > 「…理解出来ませんし、心理学者でもありませんので理解する必要を感じませんね」

呆れたように半眼で溜息をつきながらそう返す。
セシル的には心理学案件らしい。

「抵抗を受けなければ、実力行使の必要はなくなりますね」

視線も言葉も、教師の懇願に対して、あまりにもな冷たさだった。
まあ、流れ的には仕方がない。

「故郷では、私くらいの魔術の使い手は普通でしたよ。
魔術の素養にとても恵まれた家族がおりましたので、私もあえて魔術を志そうとは考えなかったくらいです」

デーダインの評価に、意外そうに目を大きくする。
「魔術が人口に膾炙していた世界」出身を名乗るだけあって、世界を跨いで相対評価すると位置がかなり変わるようだ。

「ふむ…なるほど…。
でも、「風の魔術で飛行する」と考えると、このくらいの水準は必要でしょうね」

「これにしましょう」と、頷く。
差し出されれば、素直に受け取って後で貸出手続きに入る事だろう。

「ええ、「授業を」」

また強調した。どれだけ信頼が削れているのだろうか。

「いや、話せばそこまで大した事ではないんですが…
悩みとも絡んでしまうので、少し」

問題は事情の複雑さよりも、悩みと絡んでしまう事であるらしい。
その理由を語って、困ったような笑みを浮かべる。
………が、「セクハラ」について断言されれば、再び半眼で、一言。

「………私、男ではありませんが」

「女だ」と言いきらないのは、恋愛に対する立ち位置も相まって自覚が薄いためだが。
それでも、言いたい事は言外の意味も含めて十分に伝わるだろう。

今度こそ。流石に。

デーダイン > 「…お堅いッ!」

デーダイン、途方に暮れた。

「私は誇り高き暗黒神。抵抗せず拘束されるなどありえんわ!
ってわけで捕まる時は散々暴れて余罪を増やすからな!」

ヤケクソ気味に怒るデーダイン。

「やはり世界が違うと基準も違うのだな。
地球では、そもそも魔法が使えないところから始まる事も多いんだ。
特に純系の人間はな。」

地球の事情について語る。

「そうか、少し難しいとおもうが…貴様ならできるだろう。」

一言満足気に頷く。

「分かったから、分かったから。
悪かったって。貴様の前ではもう言わないから。」

宥めかける手袋の動き。
結構後悔しているのか声もあんまり暑苦しくない。
ちょっと必死。

「…そうか、いや、大丈夫だ。気が向いたら、でいいからな。ウム。」

深く思い詰める事はないと。


「―――えっ?」

セシルは男ではない。
それは、今までのデーダインの狼藉に対する死刑宣告でしかなかった。
まっさかー、なんて笑い飛ばさないのは、セシルの冗談の通じない真面目な気質を知っているからだ。

「なんていうか…こう…すまんかった。」

ぺっこーんと頭を下げるデーダイン。

「…反省する。困りごとも解決したようだし、それでは。」

気まずい。
とても気まずい。
バサッとマントを翻し、図書館の何処かへソソクサと姿を消してしまった。

ご案内:「図書館」からデーダインさんが去りました。
セシル > 「先生の誇りは、魔術への探究では埋まらんのですか…
誇らしげに余罪を増やす宣言をしないで下さい」

デーダインの言葉に、悩ましげに頭を抱える。
容赦の余地はないな、とも思った。ダイン先生南無。

「ああ、私の故郷でも魔術は習って覚えるものですよ。
こちらの世界に比べれば、大分ハードルは低いのでしょうが…実際、魔術に縁のなさそうな学生も多く見かけますからね」

地球の事情を改めて聞いて、頷く。
魔術に疎い知り合いも、何だかんだでそれなりにいるのだ。

「ありがとうございます…頑張ってみます」

中級の魔術書を受け取って、礼を述べる。
悩みを吐くよう急かさない姿勢には、穏やかに対応して

「お気遣いありがとうございます。焦るつもりはありませんので、御心配なく」

と、軽く頭を下げてみせる。
…が、どうやらカミングアウトが、セクハラに対するセシルの強硬姿勢に動揺していたデーダインにとどめを刺したらしい。やたら深々と頭を下げられた。

「………今後は、お気をつけ下さいね。
この学園には、多様な存在がいるのですから」

呆れたように息をつきながらも、そう応じる。…と、気まずそうにデーダインがマントを翻すのを見て、

「魔術のご教授は、またお願いします」

と、図書館で目立たない程度に声を張ってデーダインの背中に投げかけた。

その後、セシルはデーダインに提示された魔術書の貸出手続きをし、少し勉強してから図書館を去ったのだった。

ご案内:「図書館」からセシルさんが去りました。