2016/12/28 のログ
■獅南蒼二 > 貴女が相変わらず笑みを零せば,獅南は僅かにうつむいて溜息を吐いた。
「…呆れるほど頑強なのか,それともそれが本心なのか。
前者なら評価できるが,後者なら哀れだな。」
小さくそうとだけ呟き,それから視線を上げて貴女へと向ける。
「ならば,今ここで,魔術学の明日のために意見を交わそう。
私を教師と思う必要は無い,忌憚のない意見を期待する。
知っているだろうが,私は全ての授業に万人を受け入れると決めた。
魔術学を軸として万人を平等に評価し,参画させると。」
貴女をまっすぐに見つめたまま,己の中に新たに芽生えた価値観を語る。
「この世界も同様だ,万人を受け入れ,平等に参画させるべきだろう。
そして,その軸を為すに足る力は魔術学を置いてほかに無い。
その実現こそが,私の進むべき道だ。」
そこまで言い切ってから,
「クローデット,明日の優秀な魔術師たる素質を持つお前は,どう考える?」
静かに問いかけた。
■クローデット > 獅南の小さな呟きに、クローデットの瞳が笑うことをやめた。
そして、「魔術学の明日のための意見交換」を提案されれば、その表情全体が真剣なものへと変わる。
「………。」
そうして、黙って獅南の話を聞いていたが…
「…ええ、授業については存じております。
一部だけとはいえ、異能を持っているというだけで生徒を受け入れていなかったことの方が、不自然だったのですから…あるべき形を取られただけでしょうね。
魔術学についても…集合知は裾野を広げれば広げるだけ頂きは高くなるのですから、何も、おかしなことは…ないかと」
そう、途切れ途切れに「建前」を語りだす。
段々、言葉に不自然な間が混じるようになっていく。
精神を読み取る魔術を妨害する「何か」をクローデットが身につけているため、内面で何が起こっているかを読み取るのは難しいだろうが…クローデットの眉間に、似合わぬ皺がわずかに刻まれた。
まだ、「本音」が語られることはない。
■獅南蒼二 > 貴女の真剣な表情に,獅南も小さく頷く。
それはわずか程も笑みを浮かべてはいない,魔術学者としての顔だった。
「一般論ではそうだろう。それがお前の本心だというのなら,お前と語るべきことは何もないな。
ここは学会でも授業でもないのだから,発言がお前の今後を左右することは無い。」
獅南は一切の魔術を使用していなかった。心理学の心得があるわけでもない。
だがそれでも,貴女の言葉に不自然さがあるのはすぐに分かるだろう。
獅南は畳みかけるように,言葉を続ける。
「先日,落第街では悲惨な事件が発生した。
あれこそが異能者の害悪だが,同時にそれは異能学の限界でもある。
もし,あの場に私とお前が居たならば,事件は未然に防ぐこともできたのではないか?」
一呼吸を置いて,
「これこそが私の発想の基本だ。全てを制御し得るのは魔術学を置いて他に無い。
魔術学が高度に発展し普及しさえすれば,世界は万人を受け入れながら,その秩序を取り戻すだろう。
これこそが,形を変えはしたが,私が目指す世界だ。」
全て言い切ってから,先ほどと同様に,
「…お前はどう考える?」
静かに,静かに問いかける。
■クローデット > 「………ご期待に添えず、申しわけありません………」
クローデットの眉間の皺が、少し深さを増す。
普段、建前を被せておけば滑らかに紡がれるクローデットの言葉が、不自然なほど滞る。
クローデットは、何かをこらえるかのようにこめかみを指で押さえた。
「…そう、ですわね…
あたくしは、今はあの事件の被害拡大を防ぎ得た手段を得るための、勉強にこちらに参っているのですし…。
………。」
クローデットが、何かをこらえるかのように、苦しげに目を閉じ…それから、少しだけ再度開いた。
もう、クローデットに獅南を正面から見返すことは出来ない。苦しげに、俯いて…
「………将来において…その理想は…とても、素晴らしいものだと思います………」
そう絞り出された声からは、いつもの甘やかさはすっかり消え失せていた。
■獅南蒼二 > 獅南の意図は貴女の本心を引き出すところにあった。
だが,貴女は建前を語る以上のことをせず,ただ苦しげに言葉を紡ぐ。
どのような要因が隠されているにせよ,尋常でないことは明らかだった。
「謝る必要は無い……だが,お前は一体,何を抱え込んでいるんだ?」
表情一つ変えずに,獅南は貴方にそうとだけ問いかけた。
■クローデット > 「………わたしは、ただ………
「大切な、人」の………」
胸元を手で押さえ、その身体を縮こめるように背を丸める。
伏せられた顔。苦しげに閉じられた瞳。なめらかな白磁の肌に覆われた額が、少しじっとりとしていた。
■獅南蒼二 > 貴女の言葉は不明瞭になりつつあったが,聞き取れないほどではなかった。
「……大切な人?」
聞こえた言葉を繰り返してから,小さく息を吐く。
このまま負荷をかけ続けて言葉を続けさせても良かったが,
「ゆっくりでいい,呼吸を止めるな,息を吐いて吸うだけだ。
……少し休もう。」
獅南はそれを選択しなかった。
■クローデット > 「………。」
クローデットが漏らした言葉を繰り返す獅南の声に、クローデットは反応しなかった。
ただ、深い呼吸を何度か繰り返す。
「………「休む」ということであれば…
ここほど、不釣り合いな場所も…そうは、ありませんわね…」
苦しげに目を伏せがちにし、言葉も途切れ途切れでありながらも…クローデットは、口元にかすかな笑みを刻んでみせた。
■獅南蒼二 > 貴女が落ち着いてくれば,再び,小さく息を吐いて…
「まったくだ……だが,お前の様子が尋常でないのでな。」
大丈夫か?と,貴女の方を見ながら苦笑を浮かべた。
貴女が微かにでも笑みを見せれば,小さくうなづいて…
「……で,何がどうすれば魔術学の討論中にそうなるんだ?」
…肩の力を抜いた語調で,問いかける。
■クローデット > 「………ご心配をおかけして、申しわけありません」
語調に呼吸の乱れはもう感じられない。だが、その声は静かに沈んでいて、やはり普段の甘さは全く伺えなかった。
「………どうして、でしょう…。
あまり、考えたことのないことを、尋ねられたからかもしれません」
「それだけでここまで動じてしまうなんて、知的作業を担う者として失格ですが」と、俯きがちに、吐息だけで微笑した。
その瞳は、疲れたように伏せられて、全く笑っていない。
■獅南蒼二 > 「………ふむ。」
余りにも弱り切った貴女の姿を哀れと思ったか,獅南は質問を畳みかけることはしなかった。
だが,一方で,内心に疑問も抱く。
“あまり考えたことのないこと”
獅南が語ったのはレコンキスタの理念と真っ向から対立する理想。
貴女の過去の言動を素直に信じて人物像を描くのならば,
あまり考えたことがない,というのは不自然だった。
…つまり,クローデットは理念や理想によって動いているわけではない,ということか。
「………“大切な人”…か。」
大きな溜息を吐いて,それから獅南は頭を掻いた。
■クローデット > 理念や理想が、現実に関係なく先立つことはあまりない。
クローデットの場合…いや、クローデットの「大切な人」の場合、その「現実」の段階で全てが止まってしまっているのだ。
「彼女達」の行動の根本は、それが分かっていれば読み解きの難しいものではなかった。
………偏見を、交えないのであれば。
「………今日は、これ以上の勉強は困難かと思われますので…あたくしは、失礼しようかと思います。
獅南先生は、どうぞ探究に励んで下さいませ」
獅南の呟きや溜息に、何の反応を返すこともなく。
俯きがちにした姿勢から深めに腰を折ると…クローデットは、禁書庫を立ち去ろうと獅南に背を向けた。
■獅南蒼二 > 全てを読み解いたわけではない。
だが獅南は少なくとも,己のアプローチが的外れであったことを自覚した。
そして,クローデットという少女の内面にのみ注目したのも失策だったと気付いた。
「…………そうか,ならば気を付けて帰ることだ。
今日はお前と話ができて良かったよ。」
だが,獅南は,あえて貴女を呼び止めようとはしなかった。
いくつかの可能性と,いくつかの確信。
それらを統合するにはまだ時間がかかりそうだった。
「………………。」
……残された獅南はどこか心配そうに,貴女の背を見送っていた。
■クローデット > 「………そう、言って頂けて恐縮ですわ。
それでは…失礼致します」
見送る言葉に、感じ入るかのようにゆったりとしたお辞儀を返して。
クローデットは禁書庫を後にしたのだった。
図書館の出入り口で、クローデットが倒れ…図書委員が慌てているうちにその姿が掻き消えてしまって騒ぎになるのは、また別の話である。
ご案内:「禁書庫」からクローデットさんが去りました。
■獅南蒼二 > 「………………。」
残された獅南は,しばらくその場で何事かを考えていた。
外の喧騒など気にも留めず,己の知識や経験から類例を探す。
「………面倒なことだな。」
やがて静かに立ち上がり,手元の魔導書を書架に戻した。
そして,禁書庫の奥,降霊術や呪術の魔導書を扱う書架へと……。
ご案内:「禁書庫」から獅南蒼二さんが去りました。