2017/01/02 のログ
ご案内:「図書館」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > 夜、優しい灯りに照らされた図書館は暖房で消しきれない寒さを各所に残している。


「……三が日は家にいようって思ってたけど―――っと。」


彼女は、呼び立てられたわけではない。
ただ委員会として掃除を分担して回す日にちとしてこの日が割り当てられていただけだ。


「はぁ、とりあえず一通り終わりかな。
 禁書庫は掃除なんて要らないし……っ、て!
 そう言えば入学生用の資料、まだ白紙じゃなかったっけ!? やば、もう書き出しとかないと終わらないって!」


いつものように、セカセカと館内をうろつきながら仕事を見つけては片付けていく。

谷蜂檻葉 > そう、何も変わらないのだ。

何も。 彼女に何の変化もない。 変化はない。 彼女が認める範囲には、無い。


「…………。」

年明けにわざわざ図書館に足を運ぶものは少ない。

何故なら大抵は年末の内に長期間貸出の手続きを終えるなり、
まず本を読む暇もなく充実した生活を送るなり、本島に戻るなりとそれぞれの過ごし方を選んでいるからだ。


「………………。」

カタカタと、パソコンを打鍵する音が無人の図書館に響く。

谷蜂檻葉 > 『新入生にオススメ、他に差をつけるスタートダッシュ参考書10選!』

『中弛みを避ける復習問題集。”運命を変える《買える》20の手助け”』

『お勧め!異邦グルメ!! 本島では味わえない【ここだけ】の味』


カタカタと、3つの表題を付けたテーマ文章を書き伸ばしていく。
夏頃から小種を出しては居たが、実際に着手するのがだいぶ遅くなってしまった。

「もっと早くやっておけば」と、思うのだけれど書き方を学ぶために読む本に飲み込まれて、
色々と読みふけってしまうのが檻葉という読書中毒である。 その分、書き出してからは快調に進んでいく。

谷蜂檻葉 > カタカタと快調にビートを刻む卓上でガサリ、と机の上で紙袋が大きな音を立てる。

中には、来る途中で見つけた駄菓子屋で買ったミニ・アン・ドーナツ。
少し手が汚れるのは一緒に100円で買ったウェットティッシュでカバー。

口寂しさを、しっとりした餡とフワフワのドーナツで埋めながら檻葉の手は止まらない。


―――打鍵も、時折紙袋に潜る手も。

ご案内:「図書館」にルギウス先生さんが現れました。
ルギウス先生 > 「誰か居ますかぁ?
 ああ、隠れてる場合はその旨をお願いしますねぇ?
 地獄の果てまでも探して見つけ出しますから」

隠れている場合、絶対に返事をしないであろう呼びかけを入り口付近から行う。
使用許可は下りているのだろうが、まぁ時間も時間なので念のための見回りである。

谷蜂檻葉 > ギシ、と音の聞こえそうなほど急激に彼女と時間が止まる。


「――――――。」


元々、『1月2日に掃除をして欲しい』という分担で時間指定はなく、好きにくればよかった。

だから、なんとなく。

そう、”そんな気分”だったので彼女は図書館に特に人が来ない夜を選んだ。
夕食の時間からやや過ぎるような、絶対に人が来ない時間なのは偶然であり、サイコロを振るような選択だったのだ。


「………だ、誰もいませんから帰って大丈夫ですよー。 私が、委員会のお仕事してるだけですからー。」

だから、少し声が震えたのは体調の不良の問題であり、
会う前から追い返すのは、自分以外いない図書館を探し回る手間を省くための声かけである。

ルギウス先生 > 「ああ、そうでしたか。
 誰も居ないのであれば――――」

入り口付近から返事が聞こえた。
そのまま扉を閉める音。

「―――さぞ、お仕事も順調でしょうねぇ?」

続く声は真後ろから。
ひょっとしたら耳元で囁くように喋ったのかもしれない。

谷蜂檻葉 > 微かな音と風が押し出される音で扉が閉まっていくのは解っても、
かの『怪教師』ルギウスの声は障害物なく聞こえてくる。 詰まる所、


(うわ、アイツ入ってきやがった。解ってたけど。)

溜息一つ。内心で毒づく間もなく。


『―――さぞ、お仕事も順調でしょうねぇ?』

「~~~~っ、ひゃあああアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!?」

そっと、耳元で穏やかでネットリとした声調で囁かれる。
一瞬で全身の肌が粟立ち、心臓が跳ね、脳内に警鐘が鳴り響き、拳が飛ぶ。

―――裏拳が飛ぶ。

椅子を弾き飛ばすように立ち上がると同時に、つま先を支点にしてギュルンと回転して【しっかりと安定した重し】から伝わる遠心力がルギウスの顔のある位置を弾き飛ばさんと薙ぎ払う。

ルギウス先生 > 「おうふっ!?」

裏拳は実に綺麗に顔面に入る。
録画していればお手本にできるレベルの行動であった。

「まさかの行動でした。
 いやはや、私でなければ失明していたかもしれませんねぇ」

中指でヒビが入ったサングラスを位置を直す。
声をあげたが微動だにしていないのは、どういうことか。

「しかし、【威力が上がりました】ねぇ。
 そちらに鞍替えですか?」

谷蜂檻葉 > ボグ、と酷く的確に肉を打つ音が響き、拳にフィードバックが帰ってくる。

……ようやくそこで落ち着けたのは、脳が理不尽への溜飲を下げたのと現実的感覚が彼女を引き戻したからである。
さもなければ後2,3発は硬かった。


「ちょ、ルギウス先生何急に後ろに立ってるんですか変態ですか止めて下さい気持ち悪いッ!!
 すっっごい今ゾワッとしたので金輪際しないでくださいよ!? 次やったらグーでいきますからね!?」

バクバクと跳ねる心臓を抑えて、机に背を向けて0の距離を密にする。


「……く、鞍替えってなんですか。
 私は清く正しく文系・引篭(インドア)・本中毒(ビブロフィリア)・魔術師(ウィザード)ですよ!
 文句があるなら焼きますよ。 そのやたら長い髪の毛とか……髪の毛とか。」

パーマにしてさしあげましょうか。 とヒュンヒュンと腰を据えたジャブが飛ぶ。

ルギウス先生 > 「驚かすのは私の趣味です。
 変態とか気持ち悪いはよく言われますので、褒め言葉として認識しています。
 あと、もうグーでいってますよ?」

あー はいはい と距離をとる。

「ええ、正しく文系・引篭(インドア)・本中毒(ビブロフィリア)だと思いますよ。
 魔術師(ウィザード)かと問われれば、先ほどの裏拳はもう見事な格闘タイプかと」

髪の毛に言及されれば、嫌そうに顔を顰めた。
口元はずっと笑顔だけれど。

「トリートメントが大変なんですから、勘弁してくださいよ。
 で、進捗はどうですか?」

谷蜂檻葉 > 「……知ってますよ解ってたけど言わなきゃ気がすまないだけです!」

あぁ、もう! と。
彼女が苛立っている時に良くする腰に手を当てたポーズで吐き捨てる。

――首の下から膝の上まで、起伏の多さが際立つ。 怒りに燃える彼女は、気づいていないが。


「教科《カリキュラム》のおかげですよ!
 ……もう、護身術を使わせるような真似をしないで下さい。
 今年の『闘魔混合運用術Ⅱ』取ったら冗談抜きで顔をローストしますよ。 治せはしますけど。」

物騒なことを言いながら、もう一度大きなため息。


「……おかげさまで順調でしたよ、先生が来るまでは。」


よいしょ、と体を屈めて倒れた椅子を引き起こしてまた座り直す。
ぎいぃ、と少し大きく軋んだのは古いからだ。きっと。

ルギウス先生 > 「いざ という時に使えない護身術なんて危険なだけです。
 そういう意味では、きちんと身についているようで何よりですねぇ」

うんうん と頷く。

「御心配なく、治癒術に置いて本気を出した私の右に出る方は極々少数だと自負しております。
 死んでも治せますよ」

自身が死んでも問題ない。
乗っ取ってしまうから。

「ところで……しばらく見ない間に、随分とグラマラスになられましたねぇ?」

会話をするつもりなのか、近くの椅子に腰掛ける。
特に軋むような音は発しなかった。

谷蜂檻葉 > 「先生の場合は『死んでも死にそうにない』の間違いじゃないですか?」

いや本当に。

そんな胡乱げな表情で睨みつけてから再び執筆に戻ろうとキーボードに伸ばした手が再び止まる。
耳まで赤く、羞恥と憤怒で頭に血が上って比較的色白な肌が朱に染まっていく。


「……~~~っ、け、喧嘩を、売りたい、というのでしたら、そう言って下さって、結ッ構、ですのよ……?」

その背には気炎を纏い、声は先ほどとは違う地震のように底から響いてくる。

ただ、重ねてきた不摂生な食生活と楽をするのに特化した魔術適正の結果緩まったお腹やら、
丸みを帯びた顎周りで、随分とその威圧感は軽減されてしまうのだけれど。

ルギウス先生 > 「はっはっはっ オススメの死に方は睡眠薬です。
 苦しくないですからね」

実際は殺せば死ぬ。
体はだが。

「嫌ですねぇ、これでもオブラートに包んだんですよ?
 喧嘩を売るつもりならもっと別の言い回しをしていますよ?
 そうですねぇ、それでは別の伝え方をしましょうか。
 『体のラインが随分と丸みを帯びましたねぇ』とかいかがでしょう?」

怒気も何処吹く風。
実に涼しげな顔をして……いつの間にやら、手にはケーキが入っていそうな箱。
サイズ的に二人分。

谷蜂檻葉 > 言葉では突っかかったものの、拳は握って収めていたが
おおよそ、丸みの 「ま」が聞こえたところぐらいで――――


「―――疾ッッ!!!」

ビュビュン、と拳が二度空を切る音。
次いで音もなく呼応した風の妖精が飛ばした空気弾が顔面と胸元目掛けて飛ぶ。

指導教官が見ていれば

『整っていない態勢からこの速さの拳を二度も!?』

『無詠唱の召喚魔術《サモン・スペル》だと!?』

とでも驚愕実況でもしてくれただろうが今は二人きりである。乙女パゥワー(当社比2倍)で飛んだ拳は、鋭い。


ケーキの箱は、撃った後に気づく。
取り落とそうとでもすれば、しっかりと回収するだろう。

ルギウス先生 > 高速で飛んできた風の拳。
余裕綽々の態度でそれを眺めていたこの男は。

「おうふっ!?」

防ぐつもりが端からなかったのでしっかりと喰らう。
首だけがかくんと、倒れた。
体は微動だにせずに、箱を取り落とすことも無かった。

「お見事ですねぇ。
 やはり、そちらに鞍替えなさってはいかがです?
 カロリーも消費できますし」

サングラスはズレたままだが、そのまま何事もなかったかのように箱をテーブルに置いて開く。
中身は生チョコレートたっぷりのザッハトルテ。
オレンジピールがアクセントとして乗っている。

「よろしければ、いかがです?
 自信作ですよ」

谷蜂檻葉 > 「ぜぇ……ハァ……よ、余計なお世話すぎるんですよ!! セクハラで訴えますよ!?」

この短時間で一気に体力を使ってなんだか息切れを起こしている彼女に長時間運動は酷だろう。
出力に対して、燃費が悪すぎである。

そしてスマホを取り出して机の上にセットしながら、
イライラとパソコンの方に向き直って今度こそ作業の続きを


そう、思ったのだけれど。


「………。」

視線が、ケーキに留まる。
数瞬の迷いが表情に現れ、キッとルギウスを睨みつけた後。


「ま、まぁ。慰謝料代わりに貰います。……その、自信作というのでしたら、勿体無いですし。」


いともたやすく頬が緩んだ。
現金というべきか、誘惑に弱すぎるというか。

ルギウス先生 > 「裁判が怖くてセクハラができるものですか」

言い切った。
ついでに、サングラスの位置を直す。
割れてはいないものの、もうバッキバキである。

「では、お好きな方をどうぞ?
 健康面でのみ言うならば、少し調整なさった方がよろしいかと思いますが……。
 まぁ、よく言いますからねぇ ダイエットは明日から と」

谷蜂檻葉 > 「……その口、歯抜けにすれば止まりますかね。」

にっこりと、微笑んだままに意味が凍る。
冗談なような口調だが、目は圧倒的にマジである。コイツはやるよ、マジでやる。


其処から先はケーキを摘んでは書き、ルギウスの茶々にキレてはグーが飛び、
グーが飛んだあとはスタミナ切れを起こし、ヘバッた檻葉をルギウスが煽る……そんな静かな夜に騒がしい一時を過ごした。



無事、この日の原稿は大して進まなかった。

ご案内:「図書館」から谷蜂檻葉さんが去りました。
ルギウス先生 > 「御安心ください、その時は直接脳内に話しかけますので」

遊ぶ為に手段を選ばない男。
そしてそれを実行できるのが最大の問題点である。

飛んできたグーを一切避けなかったが、サングラスだけがボロボロになっていくばかりである。

なお、ザッハトルテは自信作というとおり 絶品の味だったそうです。
紅茶もついてきたとか。

ご案内:「図書館」からルギウス先生さんが去りました。