2017/03/21 のログ
■獅南蒼二 > 顔色が悪いのは普段通りでもあるのだが,今は少しだけ事情が異なる。
こうして魔導書と向き合っている時間の長さだけでなく,
いまだに治りきらず残る身体の傷がこの男から血の気を失せさせていた。
尤も,表情や素振りには一切それを出していないので,ぱっと見破るのは難しいだろうが…
「良い反応だ,そして正しい反応だろうな…
…まったく,これは本当に,人間業ではないよ。」
このドレスを作るために,一体どれだけの時間を費やしたのだろうか。
とてもではないが,真似ができるようなものには見えない。
「転入生か…なるほどな。
私は魔術学の教師をしている獅南だ。興味があれば授業を覗きに来るといい。
尤も,付いてこれるかどうかはお前の努力と研鑽次第だが。」
貴女が丁寧に名乗り,そして頭を下げるものだから,この魔術教師もまた名を名乗ってそうとだけ告げた。
脅しにも聞こえるような言葉だが,もしかしたら聞いたことがあるかもしれない。
嫌味なクソ教師が担当するアホほど難しくて記録的な落第者数をたたき出すような魔術の授業があるということを。
■和元月香 > 「まぁそれを読んじゃう先生も凄いと思いますけどね!」
(読めなくはないけど…これ貧血で死ぬんじゃね?)
“飽き”の限界が無い月香は、軽口を叩きながらもそんな事を考えてしまう。
「獅南先生、ですか。よろしくお願いしますねー。
魔術…ですか。はは…是非お願いします。
…白衣なもんですから、魔術…科学とかそういうのの科目かななんて思ってました」
ローブを着ていた治癒魔術学の姿を思い出しながら、月香は呑気にそう宣う。
…なんかちょっと嫌な予感がするけど、気のせいという事にしておこう。気のせいだ!
そして、教師の名前とその脅し文句。
…何か聞き覚えがある。クラスメイトが悲鳴にも似た愚痴を吐いていたような…。
「えーっと、ぼ、凡人…なんだっけ?」
記憶から捻り出すために、つい呟いてしまう。
■獅南蒼二 > 「まだ禁書庫の中の蔵書には手を出していない。
それこそ,何日かかるか分からんからな。」
…死ぬ前に(ソファで)寝るから大丈夫です。多分,きっと。
「確かにそうだな……だが,魔術だからといってローブに三角帽子ではあまりにも古典的だろう?
それに,魔術学は古典魔法を再現するだけの学問ではないからな。」
もっとも,ポリシーがあって白衣なわけではなく,単に楽だからそうなっているだけである。
楽しげに笑っていたが,貴女が凡人…と言いかければ,肩をすくめて…
「そういえば“凡人教室”と,そんな風に呼ぶ生徒も居るらしいな?
生徒も凡人だが,私も見ての通り,魔術の才能など無い凡人だ。
だが,凡人でも(死ぬ気で)努力と研鑽を重ねれば優れた魔術師になれる。
……私はただ,そう考えているだけなんだがなぁ。」
なかなか理解されんもんだな?なんて,皮肉めいた言葉。
■和元月香 > 「あぁー、禁書庫って奥のヤバそうなとこですよね。
あそこ分かってるでしょうけど気をつけた方がいいですよ、私も迷って痛い目見ました!」
ちょっと心配そうな月香。
教師だから大丈夫だろうが、色んな意味で心配なのだ。
本気で倒れないか、とか自分みたいにストーカー魔術書にうっかり取りつかれちゃわないか、とかそういう意味で。
「…そうですね!ちょっと意外でしたけどなるほどよく分かりました!」
獅南の説明に、納得したように大きく頷く。
つくづく見た目で判断しちゃいけない、と念もこめて。
「ですよね!!!」
そして何やら副声音が聞こえた言葉には更に大きく頷いた。
(…それは身を持って体験した!マジで…)
魔術の適性が大抵ある、と言えど多少使いこなせて満足していたら生きられない場所だってあった。
それこそ700年掛けて完璧に使いこなすぐらいの努力を重ねてきた月香は、彼の話に強く強く頷いた。
…だけど彼が重ねてきたであろう苦悩には到底敵わない筈だ、と内心自分を嘲りながらも。
「そいつ、何か結構な問題児で異能使って時々授業荒らしたりするんですよ。
この学園にはそれこそ人殺す問題児もいる訳ですから、見逃されてるんですけど
全く困ったもんですよあの野郎」
何かの憂さ晴らしにも見えなくもないけれど、
そのクラスメイトの荒れぶりを見て「なにやってんだこいつ」と呆れていた月香はついつい愚痴を吐いた。
■獅南蒼二 > 「ははは,最初はだれでもそうだろう。なに,50回も迷えばそのうち慣れる。」
どうやら心配には及ばないようだ。この男,外見に似合わずだいぶクレイジーである。
どの辺がかというと,上の発言が冗談ではなく本気だったりするあたりだろう。
きっと倒れてもただでは起き上がらないし,ストーカー魔術書も隅から隅まで読み漁ることだろう。
「……ん?」
貴女があまりにも強く同意するものだから,獅南はむしろ逆に不思議そうな声を漏らす。
一般的に魔術とは才能が無ければ上手くは使いこなせない,そう思われているだろう。
貴女の世界では,そうではないのか…などと内心で想像の翼をはばたかせるも,無論,貴女の異能という答えに至るはずもない。
貴女の顔を,改めてまっすぐに見つめて……僅かに目を細める。
「…その歳で,不幸にも才能の鼻をへし折られた経験でもあるのか?」
的外れではあったが,少なくとも年齢に注目した点のみにおいては,当たらずしも遠からずといったところか。
「そう思うのならお前のその手で縛り上げてやればいい。
自信が無いわけではないのだろう?方法が分からなければ学ぶことだ…。
そのほうが,ここで毒を吐くよりよほど建設的ではないか?」
貴女を試すように,獅南は楽しげに笑いながらそう告げる。
■和元月香 > 「ご、50回も迷うんですかッ!?」
…思わず声が裏返った。
いやたかだか50回でお前が何驚いとるんや、と天からのツッコミが聞こえなくもないが。
(あんな場所で50回も迷うなんて…何か命の危機を感じたし)
…つまりこういう理由。
命だいじに、を合言葉にして生きる月香は意外とチキンである。
「その才能からどう伸ばすか、で結構苦労したといいますかそんな感じですかねー」
(いや、苦しんでないし苦労って言えないかな?)
…けらけらと笑いながらも、そう結論を出す。
じゃあ何だろうか、と適当に流してから獅南の指摘はあながち間違ってないと軽く笑って。
「へへ、すみません。つい。
…縛りあげる、かぁ…。あれ使うか…いや死ぬか」
笑って謝りながらも、楽しそうに持ち掛けられたその案には結構マジであった。
トラウマなどを抉り出す、例の“漆黒のスライム”を思い浮かべてしまった事からかなり苛ついている。
その目には修羅場をくぐりぬけてきた故の殺気。
たかだかクラスメイトには向ける目では無い、大袈裟すぎである。
■獅南蒼二 > 「有益で貴重なものだけを探し出そうとしても上手くいかんだろう。
貴重なものも危険なものもゴミも全て読んでしまえば良い。」
宝箱も地雷も全部踏んでいくスタイル。
こうしてダメージを受けながら着実にレベルを上げていくわけである。
まさしく努力と研鑽の化身だが,やっていることはやっぱりクレイジーだった。
「ほぉ……妙なものだ,お前くらいの歳では自分の才能に気付くことさえ難しいだろうに。
もっとも,外見の年齢など当てにならん場所だからな,お前が私より年上でも驚きはしないよ。」
ここで教師をしていれば感覚もおかしくなるというものだ。
そしてその冗談は,貴女の瞳に宿る殺気を目の当たりにして,確信めいたものへと変容する。
「………お前がもし,他者に無い強大な力を持っているのだとすれば。
それによって他者を理不尽に害するのは控えるべきだろう。
魔術学によってそれを明確に制御し,躾をするための鞭として使う程度に落とし込むことだ。」
獅南は冷静にそうとだけ言って,肩をすくめた。
■和元月香 > 「…あなた早死しますよ」
冷静というか真顔で告げる。
…そんな生き方をしていれば、いつか身が滅ぶ。冗談抜きで。
(…まぁそれがこの人の生き方なら…仕方無い、のか?んー…)
…変なもやもやを胸に感じた。
俗に言うやるせない、というやつだろうか。
改めて見て、目の前の獅南にはそんな事を感じて少し、目を細めた。
「これでも私、長生き…な、なが、長生きしてますんでね!」
そう一丁前に冗談めかしちょっとばかし小ぶりな胸を張る月香。
別に隠している訳じゃないが、大っぴらにする気も無いのでそれだけ言っておく。
そして自分の体から漏れ出た殺気に気づいて「やばい」と我に返って。
普通の子供のようにちょっとだけしゅんとして、目の前の教師の話を聞く。
「…あー…、えと、つい癖?で。
理不尽に強いるのは、しませんけど。
自分がされたら嫌なんで、気をつけます。
でもあいつはちょっとだけ痛い目見てもらう事にします」
ちょっとした怒り=殺気みたいな方程式が出来上がっている月香はさぞかしすまなさそうに言ってから矢先、爽やかに笑った。
■獅南蒼二 > 「私もそう思うが,無為に長生きをしてもな……。」
同様にこちらも真顔であった。
貴女はまだ知らないだろうけれど,この男の人生はまさに魔術学一色に染まっている。
そこから手を引いて長生きをすることなど,思いもよらぬことだった。
救われ難い性質なのは間違いない。
「やはりそうか…まぁ,若作りの天才だとでも思っておこう。
失礼極まりない言い方だろうが,だからと言って私を殺すなよ?」
冗談交じりに楽し気な笑みを浮かべて,
貴女が殺気を隠すその瞬間までしっかりと見届けた。
「ははは,お前に目を付けられるとは,その異能者もとんだ不幸だな。
…まぁ,どうなるのか楽しみにしておこう。面白い結果になったら,また聞かせてもらえるか?」
楽しげに笑いつつも,机に並んでいる本に手を翳してから,パン。と手を叩いた。
それに呼応するように,全ての本がバンッと閉じる。
■和元月香 > 「長~く生きて世界を見るってのもいいもんですよー。
人生はまだまだ長いんですから、ちょっとぐらい肩の力抜いても罰は当たりませんぜ?」
軽くのんきな口調だったが、確信したような、そんな口ぶり。
口出ししてしまうようだが、それもいいもんだぞと珍しく母のような優しげな眼差しを一瞬だけ向ける。
「殺しませんよー!私無闇に人殺して風紀とか公安のお世話になりたくないですしー」
それにある風紀委員の人とも約束しましたし、と締め括る。
ちょっとだけ不満げだったが、何やら楽しそうな表情だ。
「お任せ下さいですよ!まぁ軽くちびらせはしてやりましょうかね」
悪巧みするようにひひひっと愉しげに笑ってから、パタンと独りでに魔術書が閉じられるのには「わぉー」と何やら目を輝かせて。
「…じゃあわたしはこれにて失礼しまーす。
一つ言っときますけど、先生こそ何殺すか何かは知りませんけど、自分を殺さないように気をつけて」
ずらりと並んだ、大量の魔術書。
その執念からしてあながち間違いでは無いかもなぁ、と軽く区切りをつけて。
食えないような、無邪気なような笑みを浮かべて手を振ってから、
異世界の本が並ぶブースへと、月香は姿を消した。
ご案内:「図書館」から和元月香さんが去りました。
■獅南蒼二 > 「……まったく,知ったような口を聞く奴だ。」
貴女の言葉とその眼差しに,白衣の男はほんの僅かに怯んだ。
口をついて出たのは苦笑交じりの苦言だったが,それから長い溜息を吐く。
「無闇にでなければやる,ということだろう?
まったく,本当に厄介な奴だ……まぁ,健闘を祈るよ。」
言いつつ,再び手を翳して本を全て元の位置へと戻す。
この男の物体操作はこうして図書館で大量の本を扱う時のために洗練されたようなものだ。
一つ一つ,決して間違えることなく元の位置へと戻っていく。
「安心しろ,それならもう経験済みだ。」
貴女が去っていけば,残されるのは何も載っていない長机と,それから顔色の悪い白衣の男。
■獅南蒼二 > それから30分間,図書館には世にも珍しく奇妙な光景が広がることになる。
「……………。」
長机に腰掛けた獅南は,魔導書でも,専門書でもなく,
雑誌コーナーから手に入れたバイクの雑誌を読んでいた。
彼なりに“肩の力を抜いた”のだろう。
表情こそ険しいままだが,どこか楽しそうにさえ見えるかもしれない。
ご案内:「図書館」から獅南蒼二さんが去りました。