2017/05/03 のログ
ご案内:「図書館」にメイジーさんが現れました。
メイジー > 結局この街は、自分の居場所ではなかったのだ。
心の片隅でくすぶっていた疑念が、今や確信に変わりつつある。
これが異邦人の哀しみなのだと理解した。

この身はひとつの異物にすぎない。
異界の扉をくぐり抜けてやってきた、招かれざる客人だ。

煤煙と機械油、数知れぬ世の悲惨が染みついた蒸気都市とは異なる世界。
水は清く、大気は澄んで、底抜けに青い空には、夜にもなれば幾億の星が瞬く。
人の心は優しく、苦役を強いられ、幼くして命尽きる子供たちのいない都市。
詩人の思い描いた理想世界のような場所に、この身が根付く余地などなかったのだ。

そう、理解している。

「…………………さて……」

メイジー > 主人のもとにはもう帰れない。
こちらに来てから築いたささやかな蓄えを取り崩しながら、行く当てもなく彷徨っていた。
図書館にやってきたのは―――何かしていないと不安に押し潰されそうだったから。

「…………『イレイス』……」

竹村浩二のもう一つの名前。もう一つの顔。
学園の記録に残された足跡をひとつずつ辿っていく。
この身は、かの善良なる人物に刃を振るった。
救いようもない、動かしがたい事実だけが残ってしまった。
胸の奥がちくちくと痛む。良心が悲鳴をあげて、癒えぬ生傷の疼きが止まらない。

メイジー > 蒸気都市のレッドコートが使っていた、どんな兵装にも似ていない機械鎧。
未知の技術で作られたパワードスーツを維持するには、何らかの組織だった支援が必要になるはずだ。
あの主人にも、語られざる秘密があったのかもしれない。
この身に課せられた務めについて、ついに黙して語らなかった様に。

「……Goin' the way that the rest of them did」

おお、ライムハウスの子らよ。
他の子供らが言った道を、お前も辿ってゆくのだ。
無惨にも壊れた蕾。親のいない孤児よ。

奇妙に明るい旋律に、世の悲惨を煮詰めて作った様な歌詞。
故郷の流行り歌を我知らず口ずさむたび、気が重くなっていく。

メイジー > 『イレイス』を名乗る人物の、一貫性のない目撃情報を一つずつ追っていく。
彼はこの身の成すことを見咎めては憤りを示した。
一種の夜警に過ぎなかったのか。
それとも、何か目的のようなものがあったのだろうか。
今となってはよくわからない。確かめにいくこともできない。
対峙してしまった経緯も、心のつかえがはっきりと思いだすことを妨げている様だ。

「………Haunting and taunting, you're just kind of wild…」

呪詛と嘲笑。そなたこそは野生なるもの。

これは異邦人を憐れむ歌だ。
別天地に魅せられながら、その一員として迎えられることのない者たちの哀しみを語る言葉だ。

ご案内:「図書館」に和元月香さんが現れました。
和元月香 > カラリ。

きっと静かであったろう図書館には、よく響いた音だろう。
扉を開いて、不思議そうに首をかしげながら和元月香は姿を現した。 

(…歌声?英語、かね…?聞いた事無い歌…、だなぁ…)

可憐な女性が歌っているせいだけではない切なさが月香にも伝わってくる。

勿論、月香がそれに心を痛める事は無いが。

メイジー > おお、ライムハウスの哀歌よ。これぞライムハウスの憂鬱よ。
かの真なる哀歌を忘れられそうにない。
そなたの手に輝く指輪、そして故国のために流す涙よ。

「………That is the story of old Chinatown」

気が紛れることはなかった。楽になれたわけでもなかった。
けれど歌わずにいられなかったのだ。故国に連なる縁(よすが)の歌を。

数ある報道の中には、『イレイス』の姿を捉えた写真もあった。
彼の活動はこの身が学園都市を訪れる前から始まっている。
鋼の鎧に身を包んで、幾多の夜を駆けたのだろう。

この身に課せられた務めと同じく、都市の安寧を破る悪逆を討つ為に。

物音に顔をあげる。

「………図書館では静粛に、と申しましたか。存じております」
「このメイジーとしたことが、気の緩みにございましょう。どうかお許し下さいませ」

仕事着に身を包んでいなくとも、穏やかに淑やかに謝罪の意を示す。

和元月香 > 目が見えずとも、哀しげに歌い続ける相手に少し眉をひそめる。
しかし、至極丁寧に謝られ、思わず狼狽えた。

「え、えぇと、お気になさらず?
あんまり人も居ないし、歌うぐらいなら大丈夫だと思う…。

あーっと、綺麗な歌声だね。なんて歌?」

しかしそれも一瞬。
持ち前の人当たりの良さを発揮して、朗らかな笑みと共に歩み寄る。

(…メカクレっ娘だけど美少女と見た)

ちょっと下心も含ませて、月香は彼女への気軽な会話を試みた。

メイジー > 「お恥ずかしい。身共には過ぎたお言葉にございます」

気恥ずかしさに頬が火照っていくのを感じて、はにかんでしまう。

「……ライムハウス・ブルース。石灰置き場の哀歌、と申します」
「身共のふるさとには……恵まれぬ子供が多くございましたもので」
「寄る辺なき身の上の、行く末にたどるさだめを憐れむ歌にございます」

人に聞かせるような歌ではない。
誰かがいると知っていれば……もとい、無意識に歌ってしまったものは仕方ない。

「どこかで聞いて、覚えてしまったのでございましょう」
「流行の歌はあまり存じませんが……」

『イレイス』の全てを知った、とは言いがたいものの、それなりに区切りはついたというべきか。
調べものを片付けはじめる。

和元月香 > (みど…?あぁ、一人称かー。めずらしー)

ちょっと変わった一人称に軽く驚愕しながも、
特に気にはせず頬を染めるその女性に頬が緩む。

「…なるほどねぇ。うん、いかにも哀歌って感じだった」

少し重く感じる歌の意味にも、少しも声のトーンを落とさず軽く言う。
不謹慎に感じるかもしれないが、通常運転だ。

「…そっか。
そんな歌を歌いながらする調べもの、ねぇ…」

柔らかな口調だったが、感情の読み取れないような声で月香は目を細めた。
普通は積極的に相手の深い所に関わりにいったりはしないが、
月香はひしひしと目の前の女性から危うさを感じていた。