2017/05/04 のログ
ご案内:「図書館」に和元月香さんが現れました。
メイジー > 「特にかかわりはございません。ただ……」

ただ、何だというのか。
少し前までは機械鎧の暴漢としか見えなかった『イレイス』の写真に触れる。

「身共は何も存じませんでした」
「………人知れず、戦う人もいるのだと」

気にもかけなかった。
当たり前の光景。穏やかな日々の裏側で、何が行なわれていようとも。
心健やかに優しいあの人が、一体何をしていたのかも。

「ならば」
「語られずにいたことを、少しでも多くのことを」
「……秘密を暴いてしまう様で、心苦しくもございますが」
「たしかめて、然るべきかと」

情報端末の画面に表示された、霧の夜の怪事件の記事を閉じる。

和元月香 > 「普通の調べものとかを、そんな哀しい歌を歌いながらするはずがないでしょーが」

何故かむくれたように唇を尖らせて、
机の上の書物にさりげなく視線を走らせる。

(…新聞、とか記事の類い…)

相手の話を、黙って聞く。
寂しげな声色にも表情を変えず。
やがて、にこりと人好きのする笑みを浮かべて語りかけた。

「…大事な人なのかな、その人。
優しいんだねぇ、君」

いきなりに感じるかもしれないだろう。
だが月香は素直に、そう感じた。

メイジー > 「さようでございましょうか。身共には、何とも……」

多弁に過ぎたかもしれない。
見ず知らずの生徒に、余計なことを話してしまった。そういう自覚は持っている。
けれど、それが何だというのだろう。
何から何まで秘密にしていた結果がこの有様だ。

「大切な……ええ、大恩ある方にございます。命の恩人、とも申しましょうか」

忘れかけていたこと。
都市上空に転移して、止めどなく墜ちていく身体を抱きとめられた感覚が蘇る。
胸の痛みに耐えながら、控えめに首を振った。

「……それはやはり、過ぎたお言葉にございます」
「恩に報いることも叶わず、取り返しのつかないことをいたしました」

過ちを犯したのだと、口にできなかった。
怖ろしいことだ。身も竦むような、とてもとても怖ろしいことだ。
変に重たい話になってしまって、申し訳なさそうな顔をする。

「……このメイジーとしたことが、とんだお耳汚しを」
「人はそれぞれに秘密を持つもの。御身にもございましょうか」
「誰にも知らせず、胸のうちにだけ仕舞っていることが」

和元月香 > 「命の恩人…。そりゃあ大切だねぇ」

今までその恩人とやらに身を尽くして恩返ししてきたのだろうか。
月香は少しだけ、羨ましくなった。

(いい子だなぁ、本当に。
…そんなに、罪の意識に苦しむことなんて無いのになぁ)

「んーん。優しいよ、君。
そっか、取り返しのつかない事を、しちゃったんか…」

彼女にとっても予想外だったのだろう。
沈む表情を、心配そうに見守る。
そして、“秘密”という言葉には表情を変えずとも笑って告げる。

「うん、秘密は誰にでもあるね。
でもそれを全部隠し続けたりするのはあんま良くないんじゃないんかなぁ。

自分的にもしんどいだろうし、いざという時本当にひとりぼっちになっちゃうからね」

軽い口調。
月香は秘密を隠し続けてしんどくなったりはしないが。

「君がこれからどうするかで、変わってくると思うよ。
多分、君なら大丈夫。今からその人を“諦めない”方がいい。

私部外者だし、脇からはどうとでも言えるんだよねー。不快だったなら謝るよ」

へへ、と苦笑する。

メイジー > 「たとえて申しますならば」

「身共が転移者と呼ばれる者のひとりであること」
「悪徳栄える蒸気都市には、人を喰らう怪物が夜な夜な彷徨っていたこと」
「神よ女王陛下を護りたまえ。外務大臣ホールドハースト卿にお仕えしていたこと」
「故国への帰還叶わず、手がかりすら見つけられずにいること」
「当代きっての碩学がひとり、こちら側へ転移していること」
「世界を分かつグレートゲームは形を変えて、今この時にも続いていること」

などなど。
口走ってみると成程気分がいくぶん軽くなった。

「問われずとも語る機会というのは、なかなか無いものでございまして」
「戯れ言と聞き捨てて頂けましょうか。人の秘密とは、得てしてつまらぬもの」
「当人のほかには、どうでもよいことでございますので」

軽い話しぶりにつられてか、胸のつかえが取れたような顔をした。

「もったいないことでございます」
「……メイジー・フェアバンクスと申します。帰参叶いました折には、身共をお訪ね下さいませ」
「日頃はあまりお客様もございませんが、このメイジー、心よりおもてなしをいたしますので」

和元月香 > 「………お、おう…」

矢継ぎ早に明かされた秘密に目をぱちくりと瞬かせるしかない月香。
…刺激に満ちた人生を送っているらしい事は分かったが。

「いや、君の事を知れて中々に嬉しかったよ。
…まぁ、君が忘れろっつーなら私は忘れます!」

にっ、と快活に笑う。

「ん、遊びに行かせてもらうわ!
…私は和元月香、ピチピチの17歳!!
よろしく!」

ピチピチなのは体だけだが。
さりげなくポーズを取って自己紹介。

ご案内:「図書館」に和元月香さんが現れました。
メイジー > 「元々、身共は蒸気都市よりさらに遠く隔たった土地の生まれにございまして」
「異邦人でありつづけるのは、終生変わらぬこの身のさだめかもしれません」
「この地は、身共のような蒸気都市の市民にとって楽園にも等しい場所」
「いつかは往来が生まれればと願いますが……遠い未来のお話にございましょうか」

情報端末の電源を落とし、手荷物とともに手帳を仕舞いこむ。
あとは本人を見つけて直接当たるべきだ。そういう助言を受けたのだと理解した。

「和元様。当地ではすこし珍しい響きのように感じます」
「同い年……くらいになりましょうか。以後、どうぞお見知りおきを」
「身共はお暇を頂きます。またどこかで。ごめん下さいませ」

新聞記事を選り抜いたスクラップのような大判の冊子を重ねて棚に戻しに行く。
姿が見えなくなる前、丁寧に一礼して立ち去った。

ご案内:「図書館」からメイジーさんが去りました。
和元月香 > 「…ん、んん?」
(終世変わらぬ…?)

どういう事、とは尋ねない。
怪訝な顔をするに留めておく。

「あー。珍しいかも。良く言えば一応由緒正しい家系なもんで。

…ん、じゃーね」

そうして図書室を出ていくメイジーは咎めず、
あっさりとその背中に手を振って見送る。
…しかし、扉が閉まるなり新聞のコーナーへ入り。
さっき仕舞われたばかりの、新聞だけを抜き取りぱらりと癖のついた面を見る。

「…ふ~ん」

悪人を狩る、緑のヒーロー。
大体は、見当がついた。

(…つまり、メイジーの“大事な人”がこいつって事ね)

詮索は、あまりしたくない。
月香はふわぁ、とあくびをして新聞を畳んだ。

そのまま、図書室の奥へと消える__。

ご案内:「図書館」から和元月香さんが去りました。