2017/07/02 のログ
ご案内:「禁書庫」に暁 名無さんが現れました。
■暁 名無 > ──禁書庫。
図書委員を除く一般生徒の立ち入りが禁じられているこの場所に、日曜にも関わらず俺は来ていた。
理由は2つ。単純に調べものと、生徒からの依頼めいたお願いが舞い込んできたからだ。
曰く、1週間前に図書室に行った友人が戻ってこないらしい。
そんなことは風紀や公安や、とにかく仕事熱心な奴らに任せりゃ良いだろうと思ったし、実際にそう言ったのだが。
なおも食い下がる生徒らに、とりあえず話だけでもと聞いてみれば。
「なるほどなあ……確かにこりゃ俺に来るわなぁ。」
煙草の灯ほどの大きさの明かりに照らされた先。
天井まで届きそうな書架に挟まれ、薄暗い袋小路になっているエリアに、“それ”は居た。
■暁 名無 > 書架に、そして無数の本に囲まれる様にして巣食っていたそれ。
絶え間なく動く触覚、錆びた機械のような音を立てて軋む関節。
ガチガチと打ち鳴らされる咢、そして巨大な複眼。
そこに居たのは、一匹の大きな──虫だった。
ただ、頭と手足を除いた胴体部分が人間のものであることがどこまでも不気味だった。
「だから禁書庫は一般生徒立ち入り禁止だっつってんだ、馬鹿たれ。」
溜息混じりに吐き捨てるも、相手の耳には届いていないらしい。
ただただこちらを威嚇して咢を打ち鳴らしている。雀蜂にも似た仕草だが、翅は無いから蟻に近い。
おそらくだが、俺に探して貰いたいと依頼があった生徒とは、こいつの事だろう。
「……さて俺に求められてるのは連れ帰る方かねえ、元に戻す方かねえ。
多分両方だろうな……ったく、休日だってのに教職ってのはホントブラックだ。」
■暁 名無 > 「まあ、この場合……んーと、図書館から引っ張り出せば元に戻る、か。
もっとも時間の猶予はあんまりない、と。ふーむ。」
周囲の本棚に目を向けながら誰に言うわけでもなく呟く。
きっとあの生徒は。禁書庫から脱走していた虫に憑かれたのだろう。
意識を半分虫に乗っ取られ、ふらふらと禁書庫の奥へ奥へと連れてこられて今に至る。
状況としては、そんな感じである事を予想。
「あるいは興味本位で禁書庫に踏み込んだところを憑かれたか、か。
まあどっちにしろ──いや、前者なら不可抗力ではある、か。
俺の講義取ってたら一回授業で取り上げてるからそうはいかねえが。」
如何せん顔が虫のそれだ。見覚えがあるかどうかなんてとんと判らない。
まあ今やることはさっさとこいつを図書館から引きずり出して──
「って!あっぶね!」
おもむろに相手は酸を吐き掛けてきた。
間一髪躱して、床に付着して白い煙が上がるのを横目に、思いの外手間取りそうだと頬を汗が伝う。
■暁 名無 > ──それから一時間後。
どうにか生徒を気絶させることに成功した俺は、書架に背を預けて呼吸を整えていた。
思いの外長引くとは思っていたが、まさか一時間も掛かるとは思わなんだ。
しかもズボンの裾と右腕の袖が相当ワイルドになってしまっている。くそっ、気に入ってたのに。
「はぁはぁ……あー、くそっ。割に合わねー」
悪態を吐いて煙草に手を伸ばせば、そういえばここは図書室の中だ。
もちろん禁煙だろう。重ね重ねクソとしか言えない。
■暁 名無 > さて、呼吸も整ったところでこれから生徒を引き摺ってこの区域から脱出しなければならない。
昔の──“今”の俺なら朝飯前、とやってのけてしまうだろうがあいつほどの体力は俺には無い。
「でも、やらなきゃなんねーんでしょ知ってる。」
渋々生徒の制服の襟首を引っ掴むと、ずるずる引き摺ってその場を去り始める。
こいつを気絶させる際に、周囲の書架からこちらを窺っていた虫たちもついでに始末したため魔力もガス欠気味だ。
全身を覆う気怠さが自然と足を重くする。
それでもずりずりとアリ頭を引き摺って引き摺って、引き摺り続けてようやく禁書庫の出口へとたどり着けば。
『先生ぇ~~!!』
俺に依頼をしてきた生徒たちが、半べそで出迎えてくれた。
頼んだは良いが心配になったなら最初から頼むんじゃない。ったく。
けれどまあ、生徒からの頼まれごとを請け負うのも、そう悪くは無いとも思える出来事だった。
ご案内:「禁書庫」から暁 名無さんが去りました。