2018/05/19 のログ
ご案内:「休憩室」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 「…ふぅ」

休日の午後。
自販機で買ったノンカフェインのお茶に口をつけて、蘭は一つ息を吐いた。
大学入試対策の講義の演習課題を1つこなして、気分転換中である。

ご案内:「休憩室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 獅南が図書館や禁書庫で過ごす時間は一般的な教師に比べて桁違いに長い。
それ故,この休憩室に足を運ぶことも決して少なくはない。
以前とある司書から注意されたこともあり,書架のある部屋では煙草を咥えなくなったから…

「…………。」

…誰もいなければここで煙草に火を付けているところだった。
禁煙?魔術の火で煙が出なければいいだろう?とかそんな感じである。

流石に生徒の前でそんなことをするわけにもいかないので,缶コーヒーで我慢することにする。
相変わらず,顔色が優れないのだが…きっと貴女にとってそれはもう見慣れたこの教師の姿でしかないはずだ。

美澄 蘭 > (英語は大分感覚掴めてきたから…そろそろ個別の対策も考えてみてもいいかしら)

先ほどこなしていた演習はどうやら英語だったらしい。
趣味なり実用なりで親しむ家庭に育ったので、元々得意科目ではあるのだ。

(今度課題提出する時に、先生に相談してみようかしら…)

飲み物を両手で抱えるように持ちながら思案していると、方面は違うが世話になった教師が、見慣れた顔色で休憩室に入ってくるのが見えた。

「あ、獅南先生。こんにちは。最近は気温が安定しなくて大変ですよね」

「今年もそろそろ冷却術式の出番かな、なんて考えちゃいます」と、まだまだ少女らしく細いソプラノでそう声をかける。

獅南蒼二 > 「ん…あぁ,相変わらず熱心だな。」

貴女がここに何をしに来たのか,それを示すようなものは何もない。
しかし,少なくとも無為に時間を潰しに来るような生徒ではないと,分かっている。

「外の気温など気にもしていなかった…が,お前の技術と魔力量なら,使わない手は無いだろう。」

コーヒーを開けて,半分ほど一気に飲む。
その味や香りを楽しむというよりかは,カフェインを補給しているかのように見えるだろう。

「………そうか,そういう時期か。」

どういう意図で言ったのか,獅南は小さく呟いた。
単純に気温のことと捉えるのが普通だろうが,獅南はそんなことに興味を向ける人物ではない。

この男も,一応は教師だ。多くの生徒の卒業を見送った経験がある。
魔術学に関する分野ばかりではあったが,進路について相談に乗ったことも無いではない。

美澄 蘭 > 「やりたいことも、やるべきことも尽きませんから」

そう語る少女の声は朗らかで、少なくとも現時点では「やるべきこと」をそこまで苦だと感じていないことが伺える。
努力を気負わず出来ることは、一種の才能だろう。

「私、暑さにあまり強くないので…勉強の能率が下がるくらいなら、魔術に頼った方がいいと思ってるんです」

カフェインを補給するかのようにコーヒーを流し込む獅南と対照的に、水分を愛おしむように細々とお茶で喉を潤す蘭。

「…ここまで来ると、夏ももうすぐですかね…時間が経つのって、意識しないとあっという間です」

そう語る女子生徒はどこかくすぐったそうな笑みをこぼす。
獅南の言葉を気温なり季節なりで解釈してしまったのかもしれないが、「時間の経過」そのものに思うところのあるこの少女は、獅南の真の意図への射程を持ちうる言葉を返した。

獅南蒼二 > 貴女の言葉に,獅南は小さく頷いた。
それきり,獅南は貴女の努力について言及しようとはしなかった。
自然な呼吸と同様に為されている努力と研鑽に,敢えて言葉をかけるべきではないと,そう知っている。

「あぁ,同じ時間を消費するのなら,効率よく消費するべきだろう。」

貴女の言葉には小さく頷いて,それからコーヒーの残りを飲み干す。

「私にとっては,夏が来ようと今年が終わろうと,何も変わることはないが…
 …お前たちはそうも言っていられんからな。」

しかし,貴女のことだから,もうきっと見通しも立っているのだろう。
そこに何の言葉を挟むつもりもない。
だからこそ,他愛のない冗談のように,獅南はそうとだけ言った。

美澄 蘭 > 自分がしたくて、するべきだと思ってしていること。
その「承認」は、小さな頷き1つで十分だった。

「要らない我慢って、誰のためにもなりませんしね」

そう言って肩をすくめ、はにかみ気味の苦笑を浮かべる。
自分の身体の脆弱性に対するほんの少しの自虐と、それを自分なりに受け止め、対処する力を得たことで得られたささやかな自尊感情。

「研究者って、日頃から新しいことに挑戦し続けるお仕事ですもんね…その意味では私の目標も似たようなものですけど、アプローチの仕方が違うのかな」

獅南の推測通りと言うべきか、この少女は既に何らかの目標を立て、それに向けて進むという意識をしっかりと持っているようだった。
そんな風に言って、その表情に少しだけいたずらっぽさを滲ませる。

「それなりに高いところを目指してはいますけど、自分がやりたいことも出来るだけ我慢しないつもりでいます。
自分を抑えて後悔する方が、辛いと思うので」

細い声なりに、真っ直ぐな語り口だった。

獅南蒼二 > 「新しいことに挑戦…などと言えば聞こえは良いのだがな。
 過去の全てを知らなければ,それが新しいかどうかさえ分からん。
 新しいと思い込んだものが,かつての偉人を劣化させた模造だった,なんて,笑えんからな。」

肩を竦め,小さく笑う。
無論本当に全てを知っているわけではないが,この男ほど,知識という武器を多く携えた魔術学者は,そう居ないだろう。

「…目標,か。」

その言葉に,満足気に頷いて…

「好きにするといい。どうせ,その責任を取るのは未来のお前なのだからな。」

…皮肉めいた言葉とともに,缶をひょいと投げ捨て,貴女に背を向ける。
背中を押すでもなく,釘を刺すでもなく,ただあるがままに,その姿を認めて。

ご案内:「休憩室」から獅南蒼二さんが去りました。