2015/07/11 のログ
南雲 海斗 > 「はっ、そうでした!えむのルフスお姉さんのお話は、流すんでしたっ!」

わたわた、うっかりです。取り敢えずぱっと離れます。

「ご、ごめんなさい、慧お兄さん……」

しょんぼり、ぺこり。悪いことをしちゃったら謝らないといけません……。

南雲 海斗 > 「あっ、えっとボクの実家の近くにそう言うのがあって、って……」

駄目です、えむのルフスお姉さんのお話は流さなきゃ、でした。

「……な、流しますっ!」

ぷいっ。取り敢えずそっぽ向いちゃいます。

渡辺慧 > あー。
言わんこっちゃない。

しょぼくれた少年の声がする。
まったく。

目の前の不敵なあ奴に睨みをくれ乍ら。
海斗少年の方へ向く。

……まぁ、少年だし、多少はいいか。

海斗少年の頭を少しだけ、乱暴な手つきで、ガシガシと撫でる。

「気にせんでもいいさねぇ。海斗は別に悪い事してないから、謝らんでもいいさ」

そう言って、なんとなく。少しだけ柔らかく笑った。

「……あと流石にルフスにも悪いから少しは話聞いてあげてね」

なんとなくちょっと不憫になった。

ルフス・ドラコ > 「この屋上に立ち入ってからそれほど経っていないというのに」
「俺がルールと語る悪辣非道な少年によって、海斗さんが高等なプレイを覚えさせられている…?」
流されたことに対してコメントする少女。堪えていないとでも言うのか。

「まあ、この場で悪い子は私だけなので、海斗さんが悪くないのは確かなのですが。」
「いい子ですしアイスも買いますし。」

南雲 海斗 > 「ふぁ……」

わしわし、と撫でられるのがちょっと気持ちいいです。お父さんを思い出します。

「あ、じゃあ、えむのルフスお姉さんの質問にも答えないとですね……。
えっと、ボクの実家の近くにそう言う所があって、ボクが無意識にテレポートを使っちゃったときに、どんなものか調べるために連れていって貰ったんです!」

渡辺慧 > 「研究所ねぇ」
自分にとって。
「……ここに来てから、異能関係で、ってぐらいだがねぇ」
――さて。

ルフスの言葉に振り返りながら。

「君も懲りないよね」
はふはふ、とでも言いながら息を吐き。

「さて、悪い子、ねぇ……」

やっぱり。
よくわからない、と言うのが今の現状だ。
「君もアイスいるかい?」

ルフス・ドラコ > 「なるほど。お二人とも、ありがとうございます。
しかし、無意識に使ってもそれほど問題にならなそうなのはやはり優秀な能力だと思います」
「……まあ、十年も経つと色々変わるものなんでしょう、たぶん。アイスの銘柄もずいぶん変わってましたし」

「私も欲しいですお兄さん、と言いたいところなんですが…
たとえ頂いても、ここを上っている間に溶けてしまうのですよね」
途中で立ち止まって食べるつもりは無いのだろう。

渡辺慧 > ……。
やたら素直よねこの子。
心配です。

「に、しても。テレポートかぁ」
限定的、ではあるが。
瞬時に移動、という意味で、かなりの異能のように思うが……。
その辺の評価は、自分でできるほどの知識を秘めているわけではないからいかんとも。
「それの制御、か。順調なのかい?」

南雲 海斗 > 「えへへ、ありがとうございますっ!」

この異能、あんまり褒められたことがなかったのです。お父さんは凄く褒めてくれましたけれど。

「今のところは、制御は大丈夫です!ただ、発動にちょっと時間がかかっちゃって……」

渡辺慧 > 「十年?」

離れて、また来た。と。

「気のせいか、君の方がお姉さんなきもしないでもないけど」
「しかしながら、そういうなら」

「偶然にでも期待してておくれ」
どうせ、自分はまたここに登る。
溶けていないアイスは、果たして。

渡辺慧 > 「あの見つめる動作か」
テレポート先を強く連想しないと、と言う事だろうか。
stand by me
その字面から、連想するのは、場所ではなく、人なんだろうけども。
「これからに期待、か。ガンバレ少年」

ルフス・ドラコ > 「発動に、時間……先ほどの言い方だと、集中するのにかかる時間ということだと思いますけれど」
慧お兄さんを指さしながら。
「練習を多くするのが一番の近道ではないでしょうか?そちらのテキトーなお兄さんなどで」
お兄さんは転移の事故原因になりそうな能力とかなさそうですし、という理由らしく。

「そんなことはありませんよ、私はハーゲンダッツのバニラをそこそこに愛する一般的な女子校生です」
「ぴちぴち、です」
その表現が良くないのではなかろうか、いやしかし十年の格差はここ二ヶ月ほどでは如何ともしがたく。

南雲 海斗 > 「はい、ちょっとしっかり見つめて、集中しないと飛べないのです……」

これのタイムラグをなくせば……とお父さんが言っていたのを思い出します。
そうすれば、究極の縮地?になるとかなんとか……

「あ、じゃあじゃあ、慧お兄さん、たまに練習に付き合ってくれますか?」

じっ。せっかくだし、知ってる人と一緒に練習したいのです。

渡辺慧 > 「俺?」

適任は他にいるだろうに。
という声音は、出さず。

「会えたらな」
その時は練習でも、アイスでも。
……まぁ、気分次第だろう。

そのピチピチ。
という言葉。
「み」
そじっぽい、と言いかけた口を頑張ってつぐんだ。
つぐんだ。噤みました。

「俺はストロベリーで」

南雲 海斗 > 「はい、ご縁があればっ!」

広いこの学校でまた会えるかはわからないけど、楽しみなのです!

「……ボクはグリーンティーで」

グリーンティーのハーゲンダッツ、美味しいのです。

ルフス・ドラコ > 「わあ慧お兄さんパイントだなんて太っ腹」
噤まなければ……
いや、噤んだとしても
いや、もうその発想に至った時点で――
「太っ腹―」
少女は笑っている。
有りもしない、今は出せるはずもない牙がズラリと並んだような、笑い―

渡辺慧 > 「俺はよくここにいるから」

――まぁ、それはそういう意味だろう。
いい目印にはなる。なにせ、実に大きい時計塔だ。

「だけど、夜の外出は程々にな?」

そして渋いなこの子。

渡辺慧 > 「ア」

「アハハハハハハハハ」
普段の笑い声とは違う、それはもう寒々とした空笑い。

「……はい。パイントですね。はい。俺は物わかりがイインダ」

南雲 海斗 > 「は、はいっ!」

よくここにいる。
それはつまり、ここに来れば慧お兄さんにも会いやすい、って事ですよね!

「あ、きょ、今日はちょっと夜のお散歩で……あ、ボクは一個でいいですよっ!」

ルフス・ドラコ > 「ふふ、ふふふ」
ああ、その言葉が聞きたかったと言わんばかりの満足気な笑い。
「私もよくここにきますから、きっと必然的にお会いすることになるんでしょうね」

「人を待つ間だけですから、きっと短い期間でしょうけれど」
「悪くない楽しみになりそうです」
言うと、少女は足を億劫そうに動かして、屋上から階下への扉に近づいていく。
「さて、と、それじゃあ今晩は私は帰ることにしますから」

「あとは若いお二人でごゆっくり」
こればかりは先んじて帰れねば言えないから、と先程からずっと機を伺っていた――

ご案内:「大時計塔」からルフス・ドラコさんが去りました。
渡辺慧 > 「うん。そういう遠慮のなさは実にいい」

未だにあの笑顔に――まぁ、ビビってるというわけでもないし。
ワザとに近いあれでもあるから、これ言ったらやばいな。
と言う思考は胸に秘め。

「そーかい。……じゃ、また。ここで」
ここ以外でも。まぁ、会えたなら……それはまた。
きっと。実に楽しい事だろう。

南雲 海斗 > 「あ、はい、さようなら、えむのルフスお姉さん!」

ぶんぶんと手を振ってお見送りです。えむのルフスお姉さんとも、またお話出来るかな?

渡辺慧 > 「あれ言いたいがためにあいつ早く帰ったな」

その思考は何となくわからないでもない。自分でもやる。
きっとやる。

しかしながら。
「まぁ、またな」

そう言って……ノリで言えば、自らに似た。
そして、パワーで言えば、自らより上で。
そして――。

片手をひらりひらり、見送った。

渡辺慧 > 「さて。俺も……行くかな」

ぐぅ、と。大きく伸びをする。
地面に置いてあった缶コーヒーを拾い上げ。
まだ残っていることに眉をしかめた後。
一気に煽った。

「……一人で帰れるか? 海斗」

南雲 海斗 > 「あ、はい、大丈夫です!慧お兄さん、ありがとうございましたっ!」

ぺこり。楽しい時間を過ごせたのは、慧お兄さんのおかげでもあるはず。
しっかりとお礼しないと。

渡辺慧 > 「こちらこそ、ありがとう」

シシシ、と猫のように笑って。
ならいいか、と呟くと。
同じように片手をひらりひらり、と振りながらその場を歩いていく。

「じゃーな。海斗」

南雲 海斗 > 「はい、さようならです、慧お兄さん!」

ぺこっと頭を下げてお見送りです。
年長の人は、しっかり礼をしてお見送りしないといけないのです。

渡辺慧 > さて。
この素直な少年は、正しくここで生活できるだろうか。
……ま、この少年なら大丈夫だろう、多分。

楽しげに、へたくそな鼻歌を鳴らしながら、屋上の扉をくぐると。

「ゲ」

――元々の、悩み。
忘れてたなぁ。
なんて、肩を落として。

ご案内:「大時計塔」から渡辺慧さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から南雲 海斗さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に折神 直さんが現れました。
折神 直 > 独り。
時計塔の上で、男が目を瞑ったまま、両手を広げている。

折神 直 > ボクは、もしかしたら世界で一番懊悩を繰り返している人間なのかもしれない。
何故こんな試練を、ボクに与えたもうのか。
前世で何の罪を犯せば、こんなにも強固な愛という檻の中に幽閉されて、
恋という炎に足元からじわじわと焼かれていかなければならないのだろうか。

不可解だ。とても納得できるものじゃない。

折神 直 > 全ての人間がこんな情愛という炎に耐えながら日々を笑顔で過ごしているのだとしたら、
ボクは彼や彼女達を心の底から尊敬をして、両手を上に向けて救いを乞うだろう。
真夏の太陽の光よりも強くボクの心を焦らす、この確かな性愛に、ボクは身も心も黒く焼けただれ続けている。
痛みは日に日に増し、動悸は閾値を超えてもはや轟音という無音と化している。
心臓の鼓動の感覚は生物の寿命を決めると言われている。緩やかな鼓動には緩やかな一生を、早鐘の鼓動には瞬きのような一生を。
だとするならば、無音にすら聞こえる連打を胸に宿すボクは誰よりも早く死ぬべき存在なのかもしれない。
ボクはもしかしたら、この世で最初にこの病に冒された、悲しき先駆者なのかもしれない。
病名:恋。根治は不可能。特効薬もないだろう。あとは死を待つだけの、悲しき感冒者。それがボクだ。
薬で散らすことも出来ないボクは、痛みを和らげるためだけに彼の姿を思い描く。
もうこれはボクの短い人生で何度と、何十度と、何百度と繰り返されてきたボクの創作活動だ。
本物の彼がそう易々と手に入るなんて幸福、ボクは信じていないし、きっとそんなものは訪れないことも知っている。
だからこそ、ボクは無聊を慰める意味でも、脳内に彼の姿を思い描き、少しでもこの胸の痛みを抑えようと必死に抗っているのだ。
健気、といえばそうかもしれない。徒労、と言われても否定は出来ない。
だが、それくらいしかボクには出来ず、それすらも出来ないくらいに、ボクはただ日々の中で黒く焦がれている。
求めても求めても手に入らず、近寄ることすら許されない愛しの誰かを、空想の中で再現することすらも、ボクにはできていない。
細きに拘り、いつも肝心な部分に辿りつけない。何度も何度も作りなおして、何度も何度も繰り返しても、一向に『彼の姿』は完成しないのだ。
頭の先から順番に創りだしても、いつも途中で頓挫する。まるで砂上の楼閣のように、瞬きをする程度の不用意さでも、容易にそれは崩れるのだ。
悲しさ。そして虚しさだけがうず高く愛という寒風に晒されながら塵芥のような屍体を晒す。

折神 直 > 悲しさ。そして虚しさだけがうず高く愛という寒風に晒されながら塵芥のような屍体を晒す。
それでもボクは、今日も少しずつ脳内で、彼の姿を形作っていく。
頭の先。
そう、毛髪から、その一つ一つから、丁寧に。

キミがもし、キミの姿を保っていられなくなったとしても。
ボクだけは覚えているように。

人間の毛髪の本数は10万本と言われている。もしかして彼は他人よりは少しだけ多いかもしれないね。どうだろう、尋ねてもいいかな。
他人より太く強い毛髪と毛根を持つキミの男らしさは、その一房一房にも現れているのかな。
その髪の束に、引いては一毛に至るまで、全て平等に万感の愛を与えてあげたい。
キミの髪の毛の一本に至るまで、変わらぬ愛を注げることを僕は証明したい。
そして毛髪の先までもがキミという体から生えたキミの体のパーツの一部だということを実感したい。
その毛先の一つ一つがキミの体の末端であり、なおかつキミの体の一部であることが僕には堪らなく愛おしい。
細部までキミのディティールについて細かく拘り、キミを創りたもうた主に感謝したいくらいだ。
きっと神様もキミの造形には一種の自信に満ちあふれているんじゃないかなとボクも思うよ。
喜んでいいのか憐れむべきであるのか、キミは我らが主が創られた人間という作品の最高傑作であると言わざるをえない。
そんな最高傑作であるキミの美は毛髪だけじゃない、キミの細部は眉にも、そして睫毛にも宿っている。
近くに寄ればキミの産毛の一本一本まで視ることが出来るのだろうか。
そこまでの距離に近づいてしまうこと自体が、僕にとっては恐れ多く、名状しがたい悦びに打ち据えられるというのに、
その距離から眺めるキミの身体の造りの美に触れてしまえば、ボクはこの世に意識を留めておくことはもはや不可能かもしれない。
でもキミの肌や細胞の一つ一つを最後に現世で刻む脳の楔として打ち込まれていれば、それこそがボクの墓標になり得るかもしれない。
ボクの瞳がキミの耳を目に止める。
百の言葉で囁やけば、万の言葉で慈しめば、キミが少しでも笑ってくれるのであれば、ボクはキミの耳のそばに家を建てよう。
そしてキミから貰える愛情だけを糧に、その家に静かに暮らしていこうと思う。
キミの耳の形は百秒を過ぎても、千秒を過ぎたとしても、けして見飽きることはないだろう。
見飽きるどころか見るたびに新しい造形の妙を発見することが出来る自信にすら満ち溢れている。
しかもそれが、これも贅沢なことに左右に別の表情を残している。こんなに贅沢なことがあるだろうか。
右耳に愛を囁きかけることと、左耳に愛を囁きかけることが、同じ愛情の効果を齎すのか、知りたくて知りたくて仕方がない。
キミの右脳に働きかけるのと、キミの左脳に働きかけるのであれば、どちらの方が愛のバイパスを通しやすいだろうか。でも、ボクはそんな不埒な考えを改める。
キミの左右、どちらかだけを愛するということに、ボク自身が耐えられる気がしない。
キミが左右にわかれたのだとしたら、キミの左右とも愛することを、今ここで時計塔に誓おうと思う。
耳から目を離してなお、キミの顔に一番近い他人であるボクは、これ以上キミの眼球や唇を間近で見ていて、意識どころか理性を保てるとも思えない。
キミの眼球に舌を這わせ、内側へと滑り込ませてキミの涙の味を知りたいんだ。悲しみに味があるとするならば、それすらもボクの一部として喰らい尽くしたいんだ。
誰にも触れられたことのない眼球の裏にボクの舌が入り込んだとき、キミはどんな声を上げるのかな。
侵入を許したことのない、これからも侵入されるとは思っていないキミの内側からは、どんな味が伝わってくるのかな。
キミの眼筋が細かい血流で脈動するのを舌先で感じたい。粘膜と粘膜の接触でボクの舌がキミの涙で孕んでしまわないことだけを祈るよ。
そしてボクは行儀のいい子供だ。大人であると自分では思ってはいないし、胸を張ってそんなことが言える大人ではないけれど、遊んだ玩具を片付けるくらいは出来る。
本当は舌の奥のやんちゃな歯でキミの目を奪い取り嚥下し、喉で味わいたいと思っているけれど、それは贅沢な話だ。
キミがもしボクのために片方はボクに差し出すために代替の効かせようと臓器を二つずつ宿してくれたのだとしても、ボクは丁重に断り、巣に掛かる愛だけを食べて腹を膨らすよ。
甘露たるキミの悲しみの雫だけで飢えを凌ぎ、寂寥を癒やすことにしようと思う。
慎ましやかなボクの行儀のいい舌はそれ以上の訪問をせずに静かに戸を締めるだろうね。
だが少しだけわがままなボクの舌はキミの鼻梁をゆっくりと下るだろう。これは仕方がないことだ。
キミの鼻梁はボクの鼻が撫でるには余りにも通りやすい道であると言わざるをえない。
重力という協力者を得てボクの顔面がキミの顔面を撫ぜるのを、誰が咎めて罰と呼ぶだろうか。
もしそれが罪だというのであれば、この世に存在する全ての人間の首には縄が掛かり、
愛という名の死罪によって十三段の階段を登らなければならないだろうと思う。
キミの鼻梁を下るボクの鼻梁はやがて二つの唇の肉へと達する。
その二つの不埒な存在は、ボクにとっては直視すらも憚られる。触れるなんてとんでもない。
そこはまさに聖域であり、淫らなボクが踏み込んでいい領域ではない。
いつかその領域がボクの領域を犯すその日まで、求めていい道理も理屈も一つすら存在しない。
貞淑なボクの唇はキミの鼻梁から粛々と離れ、少し寂しげにため息を漏らすだろう。
妄りに邪魔をしたその軌跡に失礼と言葉を残して、まるで夜鷹のように朝には飛び去っていくのだ。
一夜限りの契りだからこそ燃え上がるように、僅かだけの戯れであるからこそ、児戯は愉しいのだ。
キミの聖域を通過して、キミの顎先から喉へとボクの欲望は移って行く。ゆっくりとその旅路の一つ一つを思い出しながら、ボクは少しずつ未知なる道を進んでいく。
キミの形を確かめるように、顎先から顎にかけてのラインを指で静かに確かめていく。
何千何万と繰り返して、虚空にすらキミの顔のラインを描けるように。
もしキミが何らかの理由でこの世から居なくなってしまっても、キミの形をボクの指だけは絶対に覚えているから。
顎から喉へと続くその線はもはや造形の美などという言葉では言い表せることはない。
その脈動するキミの動脈の音にすら、耳を澄ませたいと思う。キミの愛しき顔に瑞々しさや活力を与えてくれるその美しき河川の水音に、静かに。
膨らむキミの喉の頂は、キミにとっての急所の一つだ。突けば、そして噛み千切ればキミが死を迎える無防備な部分をボクに差し出しているという事実が、一種倒錯的な感情を呼び起こす。
生殺与奪を握っている、そして握らせてくれているという信頼がボクの矮小な庇護欲を呼び起こし、
絶対に自分だけはこれを傷つけず、そして傷をつけるのであれば自分でありたいという独占欲まで喚起してくれる。
キミの喉は、本当にいけない子だ。キミの身体の中で五番目に罪作りな部位であると言える。ボクが太鼓判を押すよ。
キミのその隆起や鼓動に、ボクの中の悪い部分が、低音の唸りを上げて表出しようとしてきている。イケナイ兆候だ。けして推奨されるものではない。
指先がキミの首をぐるりと取り囲み、折神直の細い指がキミの生殺をぐるりと取り囲む。きつくもせず、緩めもしない。キミの首の半径に合わせて作られたのではないかとさえ思うボクの細い指が、キミの生命を優しく愛撫する。
欲望が、走り始める。ボクの理性の静止を振り切って、ひとりでに愉快なステップを踏み始める。
首筋から鎖骨を経由して、いたずらな指先がくるりくるりと白々しいダンスを踊り始める。
キミというダンスフィールドにボクの指が軽やかに踊り、淫らな足跡をつけていく。キミの厚い胸板の上へと踊り出ようとした瞬間――。

折神 直 > ぱたり、ぱたり。と。
ボクの鼻筋から、時計塔のはるか眼下に。
ボクの生命の証たる鮮血が滴り落ちていることに気づく。

やはり。
ここまでだ。
……いや、これは、或いは上出来と言えるかもしれない。

ここまで来た。
キミの顔は、少しだけ再現することが出来た。
記憶の中の楔として、キミの姿をボクの中に投影することが出来た。
こうやって少しずつ、キミに焦がれ、求めていき、形を作っていくことこそが。
もしかしたら、ボクの胸を熱くして、悩ませている物への正しき処方箋なのだとしたら。
牛歩のような歩みでも、少しずつキミに近づいて行きたいと、そう思うよ。

ボクは。
――世界で一番、慎み深い恋をしている。

ご案内:「大時計塔」から折神 直さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にラヴィニアさんが現れました。
ラヴィニア > 血の匂いがした気がして、一瞬あたりを見回す。
しかしすぐに自分が支える相手に視線を戻した。
今のはこの相手からだろう、と思考を断ち切る。
なにせ心臓が破裂させられて一ヶ月しか経っていない。
本来なら当然即死のところを、本人の強力な治癒能力と大量に注ぎ込んだ回復魔法で蘇生。
全治二ヶ月の診断の、その半分だ。血の匂いもするだろう。

時計塔の最上で、黒いヴェールで顔を覆った修道服の少女が、同じく白い布で顔を隠した白衣と緋袴の女に肩を貸している。
公安委員会外事課別室・第九特別教室。
シビュラシステム及びアリアンロッド。

ラヴィニア > 「……やはりあまりよろしくない気がしますけれど」

強化されている身体ゆえ、重いという理由を持ったわけではないが、そう零して担任を見上げる。
入院中の身を本人に指示されて無理やり運んできたとはいえ、こんなことをしていては完治が遅れるだけだ。
風が強い。

「ここも…………?いや、今はよかろう。
とりあえずこの辺りでいい」

相手は話を聞いてもいないらしい。
ヴェールの下で眉を立てつつ、一応のように続ける。

「検知された門のことでしたら、生活委員会に通達済み。彼の方々がすでにことにあたっていらっしゃいます。
どちらにしても我々にはああいう場合の動員力はありませんし」

ラヴィニア > 公安委員会は全体としてあくまで情報機関的な組織だ。
調査課に限らずその職務は情報収集とその評価・分析にある。
だから、やはり一定規模以上の実働は他委員会の手で行われる事が多い。

外事課は文字通り外の出来事をその対象とする。
外……島の外。
外……世の外。
実際には、島外からの干渉に対しては特集情報課が存在するため、外事課の仕事は異界の担当である。
自然、連携が強いのは生活委員会になる。
外事課が手に入れた情報の提供先は大抵そこだ。勿論、公安委員会は全ての情報を提供しないが。

ラヴィニア > 青ざめた顔を布の下に押し込めた担任。神託巫女のコードネームで呼ばれる者。
彼女がザデルハイメス追撃時に反撃の呪殺を受けて緊急入院したため、
島全体に関わりうる危険度の高い門の検知を行う第九教室の機能は半減と言っていい状態にあった。

意識が戻ったの自体がここ数日のこと。
それまでに第九教室自体は門の開閉についての監視を続けており、
必要な情報は生活委員会に提供している。
勿論、生活委員会側にも対策用の部署が存在するから、そちらの手に入れた情報とすりあわされる形で使われ、
そして必要に応じて生活委員会が出動しているであろう。

だからわざわざ意識不明から回復したばかりの彼女が無理に出歩く必要はないのだが、

「…………シビュラシステム? どうかいたしましたか?」

当然ながらお互い本名では呼ばない。

ラヴィニア > 返事がない。
“アリアンロッド”が問う相手は、すでに沈黙へと没入しはじめている。

機密にはなるが、学園のデータ上の名称記載は“次開予刻(トゥモローネバーダイ)”。
領域限定型の予知異能だが、ごく短い未来に対して発動した場合は広範囲・高確度の探知能力とイコールになる。
“アリアンロッド”も第九教室にいる以上は探知の術を習熟しているが、ほぼリアルタイムで最大半径15kmは困難だ。

だから色々と言いたいことはあっても、口を閉ざした。
だらん、と相手の体から力が抜けるため、あわててしっかりと支えなおす。

ふと見上げると、白布から覗く口元に赤い血が筋を作っている。

ラヴィニア > 巫女の左手がゆっくりと持ち上がり、唇からわ空気のわずかな震えほどの声が漏れ出る。
彼女には何かが、たくさんの何かが見えているのだろう。

見えない“アリアンロッド”は、ロザリオを手にした。
治療用の祓魔術は習得している。でなければまさか重体の人間をここまで運んできたりはしない。

「――――……ぁ…………お」

震えが、声になる。

ラヴィニア > 「うぅううるぉおおおおおお…………」

洞穴を吹き抜けるような音がまずやってきて。
そしてようやく言葉という形をとる。


「…………音楽、教師、と、少女……違う。
量子、の鱗…………迷妄の国の……違う。
第二法則…………森の人……違う。
スカイウォーカー…………違、う……ごほっ」

“アリアンロッド”はつぶやき続ける相手を見上げ、手に持った布でその口元を軽く拭う。

ラヴィニア > 「イノミナンドゥム、黒きもの妖蛆の主と……これも、ちが、う……な。
異星の客と、自動的存在…………泡の浮かぶ水……違う。
…………燃える、獅子……エンペロイダー……違う。
イスラエルの魔神……? 違う、ふたつも、ちがう…………
水…………いや、遠いな……海か。見えない……」

時に声がしゅーしゅーと風音のように鳴り、また声に戻る。

「少彦名の………………いや、これも、違うな。」

呟いている相手を支えたまま、“アリアンロッド”は周囲に視線を走らせた。
ただ鉄筋があるだけ。
高層に吹く風が、二人の衣をばさばさとまくり上げる。
とはいえ、顔についた布は変わらない。
隠蔽魔術の施されたそれは、そもそも隠しきれていない布面積やその意味合いにかかわらず、
他人から該当の個人として捉えられなくなる認識阻害だ。

ラヴィニア > 油断なくともいえ、ただ手持ち無沙汰だっただけともいえ、周囲へ視線を流していくアリアンロッド。
そんな動きを一切気にすることなく、託宣者は声を続ける。

「…………幕の降りた……劇……に、遅れた猟犬…………いや、こっちでは、ないか」



「なら」

“アリアンロッド”は視線を上に戻した。
なんとなくだが、わかる。
領域予知は周辺学園地区を通り、そして外縁に向かったのだろう。
第九教室の予知は転移荒野外縁についての反応をキャッチしている。
だから最終的にはそこが残り、
そこに行き着いて――――

「これが……いや、違う、もうひとt……」

覗きこんだ唇から声が途切れた。

ラヴィニア > 「…………シビュラシステム?」

返事はあった。

「『そこまでだ。』」

支える相手が軽くなった気がして、アリアンロッドはしかしそのまま動かなかった。

「『探しだしてどうするんだ?成り行きに任せてみろよ。
  階段を上がったり下がったりするのはお前たちじゃないんだ』」

巫女の口から言葉が漏れる。
返事はあった。誰に?

ラヴィニア > ヒュウヒュウと風のような音が口から漏れて、続けていつもの彼女の声がした。

「おまえ、は…………
 『にしてもな……そうか、鳴鳴か……あいつは惜しいな』」

「シビュラシステム……貴女…………」

探知。予知。
離れた場所を知る事。
離れた時刻を識る事。

それらは求めた先に己を“繋げる”ということに他ならない。
あるいはそれらを教えてくれる何者かに。
だからそれは託宣であるだろう。

「『ま、アイツはアイツのあるべき形として望む道があるからな。
  利用しこそすれ、指図する権利もないだろうよ』」

「貴女…………まさか…………ッッ」

支える体から、声が別に出ている。