2015/07/17 のログ
『伴奏者』 > 手を引かれて、ストップがかかって踏みとどまった。
ヴァイオリンと弓のどちらが壊れても取り返しのつかないことになる。控えめに言って人類の損失だ。
二度見しても飛んでる。飛んでるよな。なんだこいつは。控えめに言って不審者だ。

「助かったぞ。どこの誰だか知らないがいい反応だ」
「前のやつはクライスラーの書き下ろしだ。後の方は『ロンドンデリーの歌』」
「タイトルに心当たりがなくたってどこかで聞いてる可能性はある。耳に残るからな」

「――――ん。待て、聞いてたのか!? 歌の方はからっきしなんだぞ俺は!!」

鼻歌を聴かれたような気まずさだ。歌がまずい自覚があるだけによけいに具合が悪い。

アーヴィング > えらっそうな女だなオイ…
まあウチの国でも芸術家なんてやつぁどっかぶっ飛んでるもんって相場が決まってたが…
(女性らしい姿から男らしいにも程がある言葉遣いが飛び出せば面食らったように目をしばたたかせて)

おう、安心しろ
俺はホラ、あれだ、なんつった?マレビト?とか言う奴だから聞いた事もねー曲だし、歌の内容もからっきしだからな
(慌てる姿がツボに入ってしまったのか妙に面白く
 クカカカ、と大口を開けて下品な笑い声を漏らして)

んでもよ、遠くに居ても、風の音に紛れず俺の耳に届いた
そういうのいい演奏だっつーんだろうよ
なんつーか…吹き抜けてく風みてーな曲だってのは判るぜ?
(だろ?と笑いかけ
 手首を握ったままな事に気付くと気まずげにすらせず、ぽいと投げ出すように手を離して)

『伴奏者』 > 「褒め言葉として受けとっておく。いい女だぞ。ここまで持ち直すまでずいぶん苦労させられた」
「ドイツとかオランダとかそっち系かと思ったが、違うのか? まあいい。遠いところからよく来たな。ゆっくりしていけ」

マレビト。外の世界からやってくる招かれざる客人たち。たしかそんな意味の言葉だ。

「よかねえよ! いい歌ってのはアレだ、意味がわからなくたって響くもんだろうが」
「いいかよく聞け。俺なんかのよりずっといい音源がわんさとある。『ダニーボーイ』だ。さっきの歌は。調べてみろ」
「お前がいるとわかってたら歌わなかった。20世紀の歌手にいいのがたくさんある。後生だからそっちを聞いてくれ」

曲の好みは第一印象で大きく変わる。ヘタな奏者にぶち当たってそれっきりってこともある。それは不幸なことだ。
手を放されて、後ずさりした。今度驚かされたら足を滑らせて落ちる自信があるぞ。

「こっち来いよ。あと一曲だけやるつもりだった。飛んでると気が散るんだ。名前は?」

アーヴィング > 自分で言うかよ…やっべ有り難味がすっげー勢いで下がってんぞお前…
(自分で良い女だと言われてしまえば、うわぁ…と眉を潜め、呆れたような声を漏らし)

あー伝わんね?ええっと、チープな言い方すっとアレだ
異世界人っつーやつだ
(苦いものを噛み潰したような顔でそう言いなおす
 地球の人間からすると「俺は宇宙人だ」と名乗るような馬鹿らしさを伴う表現である)

ああ?興味ねーよんなもん
音楽っつーのはアレだ、ノリだよノリ
好きなんだろ?音楽やんのがよ、そういうノリの良さに気ィ引かれたんであって調べてまで聞きてーもんじゃねーよ
(自分がいいと思った物をそういう言い方をされてしまうとどうにも癪に障る
 俺がいいっつってんだからいーじゃねーかという乱暴な理由で不機嫌そうに唇を尖らせて)

おう、じゃあ聞かせて貰うかな
俺はアーヴィング・ヴァン・オルブライト、騎士だ
(そう告げると時計塔のふちに片膝を立てて座り膝に頬杖を突いて見上げる
 どう見ても路上でたむろってるチンピラスタイルだが、騎士だ)

『伴奏者』 > 「ほっとけ。自称異世界人ってのも大概だろうが。しかも騎士さまかよ。すげえな」

「言うまでもないな。そのために生きてる。入口が大事なんだよ。免疫がないなら余計にな」
「わかった。言い方を変える。気に入ったやつがあればどんどん聞いてみろ。知らない世界が開けてくるぞ」

予定変更だ。自然体で演れる腕に馴染んだ奴がいい。

「奇神萱(くしがみかや)だ。そう呼ばれてる」

『ガエターノ・プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット』で締めることにする。
『前奏曲とアレグロ』みたくプニャーニの名がついてはいるが、こっちも紛れもなくクライスラーの作品だ。
人騒がせなおっさんが書いたやつで『テンポ・ディ・メヌエット』といえば、それだけで通じる。

経験則だが、ひとりでも聴衆がいた方が身が入るのだ。
聴衆には多くを求めない。七面倒な解説もいらない。楽しんでくれればそれでいい。
奏者自身は別だ。自分の耳が許さない音を弾いてはいけない。瑞々しく清冽な緊張感に打たれて背筋が伸びる。

毅然として優雅に。あらん限りの生気(ヴィルトゥ)を込めて。
高貴典雅の劇団たる我ら。在りし日の名に恥じない旋律を全島に向けて掻き鳴らす。

アーヴィング > ……あっれ、こっちじゃ珍しくねーんじゃねーの?異世界人
そんな名乗るだけで胡散くせー珍獣扱いなのかよオイ
(少なくとも昨日会った男女と財団とかいう奴らは当たり前のように受け入れてたんだけどな…と顎に手をやり悩み始める)

あー、知らない世界っつったらこの息してる空気含めてなんもかも目新しいけどなぁ…
まーそこまで言うなら聞いてやんよ
こっちで音源何に入ってのかすらしらねーけど
(ちなみに故郷では握りこぶし大の推奨の立方体を装置にセットして震わせるとスピーカーが共振を起こして…というスタイルだった)

へーへー、カヤね、覚えとくよ
(ぱたぱたと手を振り応え
 演奏が始まれば大人しく聞く事にする
 ふちから垂らした脚がぶらぶらと揺れてリズムを取るが、音がしないので許されるだろう
 
 そうして始まった演奏は…なんと表現したものか
 少年期の半ばに至る前に騎士となったアーヴィングにはろくな教養がない
 あるのは騎士としての生き方と戦闘技術くらいだ
 だから音楽を評価する語彙も、それを認識する判断基準すら持たない
 だからその音楽の良し悪しなど判ろうはずもない

 ただ、伸びやかに、切々と、澄んだ音色ながら上品に収まらずに高らかに主張するような旋律が心地良いと感じるだけだ
 演奏に入った彼女は先ほどまでの粗野な雰囲気は消え
 凜と研ぎ澄ませた、そう、剣を構えた騎士にも通じる気を放っていた

 揺れる脚はいつしか止まり、目を閉じて音の吹く風に身を任せ、聞き入る)

『伴奏者』 > クライスラーの愛すべき小品のひとつ。メヌエットの速さで。
あえて言うが、古典派のメヌエットそのものではない。そこにはモダニズムの介在する余地がある。

歌うように目くるめく旋律は、楽器の制約を越えて極上の歌劇を連想させる。
これは歓喜の歌だ。奏者は技巧と情熱の限りを尽くして、歌う代わりに奏でるのだ。
人間の声では決して届かない、誰よりも美しく澄んだ声で。
そこには悔恨も挫折も悲哀の影すらもなく、異界から響くピアノの伴奏まで喜悦に染まりきっていた。

拍手も喝采も今はいらない。これは『伴奏者』からの餞別代りだ。
『劇団』のことは一旦忘れることにする。俺はもう好きにするから、お前らも勝手にすればいい。
助けがいるなら、時々は呼んでくれても構わない。
梧桐律を待っても無駄だ。あいつは来られないからな。奇神萱を代わりに寄越す。
それでいいだろ?


余韻を残して弓を上げた。まずまずだ。
歴史に名を残した偉大なるヴィルトゥオーソには遠く及ばないが、今持っている全てを注いだ自信はある。
頬が火照っている感じがする。顔が真っ赤になってるに違いない。毎度毎度これだからな。まったく。

「アンコールはなしだ。代わりと言ったら何だが、前に録ったやつを流してるからそっちを聴いてくれ」
「隠し撮りされた動画なんかもあるぞ。名前で調べればぞろぞろ出てくる…」
「とにかく、今日はここまでだ。俺は帰る。帰らせてくれアーヴィング。ご清聴どうも。またな」

こちらの用事は済んだ。長居する理由もない。飯に誘われる前に退散しておこう。商売道具を片付けて塔を下りていった。

アーヴィング > いらねーよ、テメェの演奏の過去に興味はねえ
どうせ今のに比べりゃ劣るだろうよ
(あるとすれば次、そこまで口にするのは流石に野暮だろう
 ああなるほど、彼女は求道者だろう
 ただ純粋に理想を体現するだけに何かをなす
 手を伸ばしても届くか定かではない高みに馬鹿みたいに突き進む人間だろう
 そういう馬鹿は、嫌いではない)

俺ぁ学がねーからよ、音色の妙がどうだってまだるっこしい言い回しは知らねーけどよ
テメェはあれだ…おう、風の舞い手だ
(カエルーンの言葉でそれは天衣無縫、あるがままに魅せるものをいう
 異国どころか異世界の、伝わるはずもない言葉を乱暴に押し付け、その背にぶつけ
 ぞんざいな、しかし一種の経緯を込めた拍手でもって去っていく姿を見送った)

ご案内:「大時計塔」から『伴奏者』さんが去りました。
アーヴィング > やーおもしれぇ奴が居るもんだなぁこっちの世界ってのは
……つーかヨミの奴といい…こっちの女ってアレがスタンダードなのか…?
(遭遇したサンプルは二つ
 しかしその二つが同一の…女の見た目で言動や振る舞いは男という偶然で重なりようがない個性を持っているとすると…
 恐ろしい結論に達しそうになり、身震いを起こす
 女っていうのはもっと…守ってやらないといけない存在ではなかっただろうか?騎士物語的に考えて)

ま、いいか
(考えても仕方のない事は考えるだけ無駄だ
 レガリアの賢王、フェリック・ル・ケブレスのありがたい言葉だ
 どうせこの世界で暮らす以上は心配事が当たるかどうかなど自然と知れる事
 さっさと思考を打ち切り放り投げると、時計塔のふちからゆっくりと体を傾け
 頭を下に垂直に落下を開始
 目の前を高速で流れていく壁面を蹴りつけ横向きのベクトルを得るとそのまま飛行魔法を発動し、赤い航跡を残して空へと消えた)

ご案内:「大時計塔」からアーヴィングさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に蒼穹さんが現れました。
蒼穹 > (時間は、真昼間だった。)
(強いて言い直すなら、2時の、一番暑さが真っ盛りな時間帯だった。)

(馬鹿と煙は―――。)
(等と言う言葉は結構知られるフレーズである。)

(別段馬鹿でも何でもないと思っているが、ほかの人から見れば、こうやってわざわざ立ち入り禁止の場所にやって来て、)
(それから立入禁止の危険とされる場所を上がって行く姿はどう見えるのだろうか?)

(無論、己はそんな事を気にする事もなく、ただただ上へ上へと上がって行くのみ。)
うー…あっづぅー…。
(暑いと言いながらも時計塔を上るという運動をしているのだが。)

(階段を登れば太陽に近づく。であれば、登れば登るほどに熱くなるのだろうか…?)

(何にしても暑いなぁ、とふと途中まで登って足を止める。)

(魔術で飛んでも良いと言えば良いのだが、それをやったら変な目で見られないかと思考する。)
(魔術文明が栄えたこの世界では、皆が皆空を飛ぶのも当たり前だと思ったら違う。)
(割と皆歩いている。無論、飛ぶ奴もいるが大体羽が生えてて如何にも飛びますよアピールしている。)

(…どうしたものだろう、と何故かそこで生じたどうでも良い疑問を考えながら、またゆったりと上って行く。)

蒼穹 > うええ…あっづぅー…。
何か持ってくりゃよかったかなぁ…。
(ジュースの一つでも、なんて思いながらもゆったりゆったり登って行く。)

(急いては事をし損じるとは言ったもので、ここで焦って歩いたりしたら余計に暑くなるに違いない。)
(いや別に暑さくらい大した問題ではないのだが、)
(やはり人間の身に人間の心である以上は、人間に適した温度でないと不快である。)

(まして、北極の民でも太陽の民でもないのだし。)

(トン、トン、トンと音がすれば長い長い階段は漸く中間地点を突破。)

(今更だが飛ぶか飛ばないかの問題以前に転移すれば良かったと思うわけだが。)
(こういう場所と言うのは上りきった達成感と共に眺めるのが一番なのではないだろうか。)

(ふぅ、と一息。薄いながらも汗をかいたような、そんな気がする。)

蒼穹 > (そもそも。)
(暑さで頭が冴える者などいるはずがない。)

(というか、暑いとイライラするのが誰であってもそうなのだろう。)
(特に、この辺り独特の所謂蒸し暑いという物は、非常に宜しくない。)

(結局のところ、やっぱり登って行く過程で痺れを切らしては踵を返す。)

(すっぱりとこっちからあっちへの距離をぶち壊して、壊れた距離の中に一歩踏み込む。)

(そのまま、何処へやらワームホールめいた転移をするわけだが、きっと誰も見ていない。)

ご案内:「大時計塔」から蒼穹さんが去りました。