2015/07/20 のログ
ご案内:「大時計塔」にクゥティシスさんが現れました。
クゥティシス > (また、此処にいる)
(此処に来る時はいつも何かヒントを求めていた)
(今は―)

「……別、に。迷ってるわけでも…うぅん」

(何とも歯切れの悪い言葉が漏れる)
(確かにどうすればいいのか分からない部分はある)
(彼と顔を合わせて何を話せばいいのだろう?)

「…そもそも、まともに話出来る自信ないよぉ」

(風に揺れていた耳と尻尾が頼りなさげに萎れる)

ご案内:「大時計塔」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > さて。
いつも通り――。
いや、いつも通りというわけでもない。
ただ、会えるとしたら、此処なのだろう。

それを知って……いや、分かっていた。
会って何をするかは、自分で決めたこともある。
そして、あのカフェテラスで、話したことでもある。

なら、やることは簡単なのだ。

だから、階段を上る足取りは重くはない。
軽くもなく。ただ、普通に。

普通に……屋上へやってくるのだ。
いつも通りの格好をした、少年は。

クゥティシス > (足音に、萎れていた耳と尻尾がぴくんと上を向く)
(間違う筈もない。この、足音は―)

「―ぁ、う」

(振り返り、入り口の扉を開けるであろう彼を想像して両脇に下ろした拳を握る)
(何を、言えばいいのだろう。どうすればいいのだろう)
(そんな気持ちだけが逸り、上手く言葉になってくれなくて)

(結局、彼がこの屋上へと辿りつくまで、何の準備も出来なかった)
(あの日貸してくれたパーカーを纏ったまま、入り口の前でうつむいていて)

渡辺慧 > そうして、開け放った扉の先には。
予想通り、ではない。
しかし予想外、でもない。

ただ、そうだ。
この時の気持ちを有体に言うならば。

「よかった」
そう言って、何を安堵したか。
ふと……少しばかり張っていた、肩の力を緩めて。
笑って。
力の抜けた顔で笑って。

「クゥ」
彼女の名前を呼んだ。

クゥティシス > (―名を、呼ばれた)
(思わず顔を上げればそこには彼の笑顔)

「ぁ、っと」

(まともに見ていられなくて、顔を逸らしてしまった)
(どうして彼の顔が見られないのかは分からない)
(恥ずかしいのか、それとも―)

「え、えと。その。……はい」

(顔を逸らしたままで)
(何か言おうと思ったがやっぱり上手く言えなくて、ただ、返事を)

(続く言葉は出てこない)
(自分はこんなにも混乱しているというのに、なぜ彼は笑っていられるのだろう)
(分からない、分からない)

渡辺慧 > 会えたなら、ただ一言、言うことがあった。
そう――会えたなら、だ。

あの時も考えた様に。
もしかしたら……もう会えない/会わない可能性だってあったかもしれない。
それは彼女が考えることで、決めることだ。
だけれども。やっぱり、それは、寂しくあるのだ。

考えるならそれだけ。
会えたから――それだけ。

だから、一言。

「ごめんなさい」
そんな風に。
空気に合わないようなビシリとした謝罪。
頭をきっちり、ぴんと下げて。

――だけど、声はどことなく笑っていて。

クゥティシス > (―ぴくん、と耳が動く)
(思わず振り返り、頭を下げる彼の姿を見て)
(息が、詰まる)

「あ、あのっ!クゥこそ…ご、ごめんなさいっ!」
「ケイは何も、悪くなくて!偶然、あそこにいただけで…!!」
「なのに酷いこと言っちゃって…!」
「だから、あのっ!その…!!!」

(喉の奥でつっかえていた言葉があふれ出した)
(言いたかったこと、言わなければならなかったこと)
(それらを全て吐き出して、自分も彼に倣って思い切り頭を下げた)

(会いたくないなんてことはなかった)
(もう一度、あって話をしたかった)
(だから、此処に来たのだ)
(此処にいることが、彼と会いたいという気持ちの何よりの現れで)

渡辺慧 > 「違うよクゥ」

何も悪くない、例えばそういう見方もあるだろう。
それを思いながら顔を上げる。
頭を下げてる彼女を見る。

「俺が、悪かった、と思うから謝ったんだ」
「君は悪くない」
「……いや、君も悪いのかもしれないけど」
「俺も悪かった」

だから、と。
そう続けて。

「仲直り……いや」
喧嘩……というのもまた違う気がする。
喧嘩ではなく……なんといえばいいか。

あぁ――簡単な言葉があった。

「また会えたね」
もしかしたら、本当は。
それだけで。

いいのかもしれない。

クゥティシス > (彼の言葉に顔を上げる)
(不幸なすれ違いがあって)
(お互いに悪いところがあって)
(だから、互いに謝りたくて此処に来た)
(それなら―)

「…うんっ!!」

(胸中に渦巻いていた靄が、彼の言葉一つで綺麗に霧散する)
(後に覗いていたのは―晴れやかな笑顔)

(互いに謝りたいなんてことは、言い換えてしまえば、また会いたいと。それだけでしかないのだ)
(そこで交わす言葉など二の次で、とにかく、会いたかったのだ)

「また、会えた!会えたよ!」

(大きく頷き、駆けだした)
(今はこの身体は犬ではないけれど)
(心はあの時と同じ)
(この人の腕の中に、飛び込みたくて)

渡辺慧 > 「お、っとと……」

少しばかり。
驚きを表現しながらも、その小柄な。
まるで、あの時の犬の姿を連想させる――そう、あの時とは、逆だ。――


あの時は後ろからで。
今度は正面から。

あの時は彼女を思わせる犬の姿で。
今度は犬を思わせる彼女の姿で。

あの時の自分は座っていて。
だから今度、受け止めるのは、足で、その場に立っている自分。
だからその姿を、胸で受け止めた。

少しだけ手の置き場に迷うものの……。

「あー…………は」

ちょっとばかしの緊張。
――まぁ致し方ない。これだけ密着することなどそうはない。
ちょっとばかしの苦笑。
――まぁ致し方ない。彼女の行動が直線すぎて。

片手だけ彼女の背中側に回し、もう片方は。
あの犬の姿、頭を撫でた時のように。
ゆっくりと撫でつけた。

クゥティシス > 「クゥもね、あれでケイとばいばいなんて嫌だったから」
「だから、此処に来たの」
「また、会いたかったから!」

(頭を優しく撫でられ、小さく、くぐもった息が漏れる)
(彼の手から伝わる温もりと、彼の胸で響く鼓動)
(その二つが、伝えてくれる)
(彼が今、こんなにも近くにいてくれることを)

「ありがと、ケイ。またクゥと話してくれて」
「あのね、他の人だったら…多分、もっかい会いたいって思わなかったよ」
「ケイとこうして此処で話す時間が好きだから…それは、絶対終わりにしたくなかったから」
「この時間は…この街で、絶対に信じられるものだったから」

(揺らいでいた心を何度も繋ぎとめてくれたこの時間を、失いたくはなかった)
(だから、あれから何度も此処へ足を運んでいたのだ)
(言葉にしてみて、自分の想いを再確認する)

「クゥはね、此処が…ここでケイと過ごす時間が好きなんだなって。やっとわかったよ」

(胸の中で小さくそう呟いて)
(この時間は、誰にも邪魔されないものだと思いたくて)
(彼自身はこの時間が終わってしまえば何処かへ行ってしまうけれど)
(それでも、彼が此処にいる時間は自分の物だと)
(そう示したくて)
(彼の胸板に頬を摺り寄せる)

渡辺慧 > やっぱり、あの犬の姿の時と……あんまり変わらないのかもしれない。
あの仕草はクゥの物で、目の前の彼女の物で。
感じられる、両方のくすぐったさも、彼女からの物だった、ということなのだろう。

「そこまで言われると照れるねぇ」

本当に照れているのか。それはどうか……いつもながら。
適当な言葉を話し、適当に紡ぐせいか。
どにもあいまいになっている気がする。

だからふと、上を仰ぎ見ながら、優しく撫でつけながら。

「あぁ……」

彼女の言う。
此処での時間。
曖昧で、ゆるやかで、不思議な時間。
幻想的なのか、神秘的なのか、隔絶的なのか。
どう表現すればいいものかわからないけれども。

――自分でも、そう思っていたじゃないか。

「俺も、好きだよ、此処での時間」
「……だから」

「またここに、来たんだろうねぇ」

やっぱり、上を仰ぎ見ながら。
その声音に、くすぐったげな雰囲気を残して。
胸にある、そのくすぐったさを――それは両方の意味で。――ぼんやりとした言葉に変えて。

クゥティシス > 「…うん」
(腕の中で、頷いた)
(曖昧な、ぼんやりとした言葉)
(けれども、今はそれでいいのだ)

「へへ…嬉しい」

(彼がこの時間が「好きだ」と。そう言ってくれたことが何よりもうれしい)
(この街に来てから、自分を友人だと言ってくれた人はいても)
(自分と過ごす時間が「好きだ」と)
(そう言ってくれた人は、彼しかいない)

(この街で、初めて誰かに必要とされた気がして)
(尻尾が機嫌よさげに揺れる)

「ね、ケイ。…このパーカー……クゥが貰ってもいい?」

(あの時投げてくれたパーカーを羽織ったまま)
(顔を上げ、上目づかいに慧の顔を見つめる)

渡辺慧 > 「そっか」

いつも通りの……そんな笑い方で。
片腕を離し。
少し体を離して、彼女の顔を覗き込みながら。
もう片手で、頭をポンポン……と。

――あぁ、随分近いな。

そう思いながらも、それの是非を問わず流されている……いや。
嫌と思わない自分も……感化でもされたか。

くすぐったさは離れた。
だけど、此処は。
まだ彼女との時間は続いている。

のんびりまた、上を仰ぎ見ると。
――いつもの場所。
――いつもの姿勢。

そこに向かって歩き出しながら。

「いーよ。……好きにしちゃって」

彼女を横目で振り向くと、目を細めて笑った。

クゥティシス > (彼の隣で歩を進める)
(一歩の距離が違うから、彼と比べて少し早足)
(空いた手で彼のパーカーの裾を掴みながら、ついていく)

「ん。じゃあ貰っちゃう」

(サイズなんかあっていない)
(掌が隠れた袖を口元に当て、くん、と鼻を鳴らして)

「これね、ケイの匂いするの」
「だから…ちょっと。ううん、結構……いや、だいぶ、落ち着く」

(へへ、とはにかんだ笑いを慧に向けて)
(だぼだぼのパーカー。彼にとっては何てことのないものなのかもしれないけれど)
(今の自分にとっては、何よりも大事なものだ)

「…今度、クゥも何かケイにあげるね?」
「貰ってばっかりじゃ悪いし」
「何か欲しい物…ある?」
「この服とか、いる?」

(ん、と自分が着ている服をつまんで引っ張って見せる)

渡辺慧 > 「匂い?」
「……匂い」

裾をつまむその姿を微笑ましいものを見る目で。
匂い、と言われると。
前と同じように……少しだけ恥ずかしい気持ちになりながら。
だけれども……なにか。ひどく分かりやすい繋がりにも見えて。

そういえば。
ひどく、近づいたその時に、無意識のうちに思った物を。
「クゥの匂いも、なんか落ち着くな」
なんて口走りながら。

だけど。
「……服は、いいよ」

だけど。
「その代りに」

だけど。
「その髪」

だけど。
以前、思った、その内容を。
「日が当たった時に見たいかな」

それで、充分。
とばかりに、に。と横を見て、笑いかけ。
いつもの場所に……いつも通りに座った。

クゥティシス > 「ほんと?だったら、クゥの匂いもつけたげる」
(慧の言葉に嬉し気に身体を摺り寄せる)
(深い意味のない、獣染みたその行動)
(傍から見ればどう映るかなど、考える余裕はないようで)

「…そんなので、いいの?」
(首を傾げる)
(そういえば確かに日の当たる時間に彼と会ったことはない)
(ないけれど―)

「日が当たったら、何か違うの?」
(彼のお願いの意図を測り兼ねて重ねて問う)
(慧が腰を下ろしたその隣にちょこん、と座り)

「でも、いいよ」
「ケイがそうしたいっていうなら、それでいいよ」
(彼が答える前に、笑顔で頷く)
(彼が何を望もうと、きっと自分はこう言っていただろう)
(誰かに望まれるなら)
(誰かに必要とされるなら)
(その人に望まれる姿でありたい)

(この世界で、この街で)
(誰かとの絆をつなぎとめる術など、彼女は知らない)

渡辺慧 > 「…………ぅぁー……」

その行動は、此処に最初から住んでいた人とは違う、と示すような。
少し、いや。少しではなく。

柔らかな匂い。柔らかな体温。
犬の姿とは違う、先程までの思考から外れたせいか。
余計に、その姿を感じてしまう。

「……クゥー」
何かを言おうとして。
……だけど、それを止める言葉も無粋な気がして。

「わからない」
「だから……」
「見たいのかな」

多分ね。

でも、彼女の……その応える姿に。
機微には疎い。
疎いんだ、自分は。
……だから、考える。
だから想像する。

想像して、出た答えは。
……正直、自分でもわからない、その答え。
どうすればいいかわからないその答え。

だから。
「クゥ。じゃあ……君がいましたいことをしてほしい、かな」
今、それが、自己満足として。
欲しいもの、かもしれない。

ただの自己満足だ。
自己満足に過ぎないが……。
いつだって、そうやってきた。
「……あぁでも。程々にしてね?」

クゥティシス > (―ぴくん、と耳が揺れる)
(自分が、したいこと)

「クゥが…クゥが、やりたいこと」
(言われて、考えてみて、思考が止まる)
(いろんなことが浮かんでは消える)
(やりたいこと―)
(今、やりたいこと)

(ぎゅ、と膝を抱えた掌に力を込めて)
(顔をあげ、星空を見据えて口を開く)

「クゥ、ね。…仲直り、したいの。…ううん、もう一回話したい人がいるの」
「友達…だと、思ってた人」
「ううん、クゥはまだ友達だと思ってる」
「だから…もう一度、会いたいの」

(途切れ途切れに言葉を紡ぐ)
(断片的な言葉が意味することはとても不明瞭)
(だけれども、彼女が瞳に宿した想いはとても真摯なもので)

「…でも、一人で会って…受け止められるかどうかわかんない」
「だからね、支えて欲しいの」
「クゥがその人の言葉に、想いに耐えられなかったら」
「その時は…また、此処で。ケイのそばで…休んでも、いいかな」

(不安げな視線を慧へと向ける)
(一歩を踏み出したいけれど、その勇気が持てなくて)
(だからせめて、帰る場所が欲しかった)
(休める場所を、落ち着ける場所を…与えて欲しい)

渡辺慧 > 「…………」
何があったかはわからない。
……きっと、この、ここの。

時計塔からの、外の世界とでも言うべきか。
そこで、きっと。

いつでも、言ってることだ。
自分はろくなことは話せない。
誰の気を軽くすることだって、自分の自己満足。
何を与えてるのかわからない。だからいつだって、適当な。

だけど、せめて。
……自分に、居場所を求めてくれたような、そんな気がする。
この少女には、少しばかりは、何かやってあげたいと。

「……その時はね」

自らの、胡坐をかいた、その膝を叩く。

「此処でも開けとくから」

犬の姿の時のように。

いや。
「……そうじゃなくても」
「また、俺はここに来るから」

不安げな顔を。
ちょっとだけ、自らの人差し指で撫でる様に、つついた。

クゥティシス > (頬をつつかれれば、スイッチが入ったかの様に)
(不安気な空気は霧散し、晴れやかな笑顔が浮かぶ)

「うん。ありがと、ケイ」

(喜色満面。嬉しくて走り出したい気持ちをぐっと堪えて)
(その身をもう一度、慧の身体にこすり付けた)
(彼が用意してくれたこの場所は、自分のものだと)
(誰が気づくわけでなくとも、印をつけておきたくて)

「これで…ちょっと、勇気出たよ」
「ケイが居てくれるなら、多分ドラコにも会いに行ける」
「…大丈夫、大丈夫」

(自分に言い聞かせるように、うんうんと頷いて)
(胸中に不安が無いと言えば嘘になるけれど)
(この場所がある限り、大丈夫)
(倒れそうになったら、支えて貰えるから)

渡辺慧 > くすぐったさは、胸に登る。
……なぜか、もう一度。
胸に飛び込んできた時の感覚を追いたくなったような。

それが、雰囲気によるものだろうか。

それを確かめる気はない。
ここが、一つの――。

だから、その気は、ない。
でも、この空気を好きだと言える自分は。
そこまで、嫌じゃなかった。

ぴくりと。
身体を震わせる。時計塔に吹いた風。
そのせいではなかった。
自らにすり寄る、クゥの存在。
そのせいかと思ったけど、そうでもなかった。

「――ドラコ?」
どこかで、聞いた名だ。
どこか、じゃない。……つい最近で。

「ルフス・ドラコ?」
この名前が、目の前の彼女にどんな思いをさせるのか。
それをあまり考えられずに。

クゥティシス > 「―!!」

(まさか彼の口からその名前が出てくると思っていなかった)
(ルフス・ドラコ)
(全てを拒絶していた自分に、人と過ごす時間の温もりを教えてくれた人)
(追われていた自分を、助けてくれた人)

「―しって、る…の?」
「教えて!どこで、どこで会ったの!?」
「怪我とか、してない!?」

「クゥの、こと…何か、言ってた…?」

(つい、矢継ぎ早に質問を浴びせてしまう)
(彼女は今どこに居るのか)
(何をしているのか)
(自分に対し、何を想っているのか―)

(知りたいことが、多すぎる)

「教えて、ケイ…。ドラコは、何処に居たの…?」

渡辺慧 > 「……」
やってしまった。
失態。やっぱり、ゆっくりいうべきだった。
本当に、こういうところの、自分は。

「クゥ」
頭を、再び撫でつける。

「ゆっくり、言うから」
「落ち着いてね」

――あ、そうか。

――彼女も、もしかして。

――クゥを。

――だから、ここに……?
推測しかない。
推測でしかない。
分からないけど……もしかしたら。

「クゥ」
「君に、近いうちに。あいにくるって」

「ここにも、彼女はいたんだ」

クゥティシス > 「――」

(ごくり、と喉がなった)
(は、は、と乾いた呼吸音が空気を揺らす)
(彼女が―此処に居た)
(自分を、探していた)

「そ、れ…って」

(会いたかった人と、会える)
(会いたかった人が、自分を探している)

(これだけなら)
(先ほどまでの慧と自分の関係と同じ筈なのに)
(どうしようもなく、胸が締め付けられる)

「……っ、…っ」

(声にならない呻き声にも似た音を漏らし、ぎゅ、と慧のパーカーの裾を握り締める)
(喜ばしいことの筈なのに。それなのに、どうしてこんなにも不安になるのだろう)
(自分を探すドラコの背後に立ち込める暗雲が見える)
(伸ばされた手を握れば、そのまま連れ去られてしまいそうな―)


「…ごめん、ケイ。ちょっとだけ……もう、少しだけ、このままで居させて」
{ちょっと……ちょっとだけ、怖いの」
「ダメ、だね。何があっても…信じたいから、受け入れるって」
「ドラコが何を想ってても、受け入れるって。そう、決めてたのに」
「怖いんだ…」

(パーカーを握る手に力を込めて)
(彼女は暫く―その手を離すことが出来なかった)

(吹き抜ける夜風が、彼女の胸中に立ち込める暗雲を晴らしてくれることはない)
(嵐を告げる雨雲となるのか―)
(それとも―)

(今はまだ、その先を知る術はどこにもないのだった)

渡辺慧 > 「……うん」

この両手は伸ばさない。
いや、きっと……伸ばした方がいいのかもしれないが。
それでも伸ばさない。
だから、その言葉通りに、そのそばにいる。

自己満足……そうだ。
自己満足だ。だから、何もできない。

自分が何をやるか。
やれない。
いや、やれる。

それを教えてくれるものは、クゥだけなのかもしれないが。
それを、彼女本人に求めるのはきっと。
何もかもが間違いで。

だから、せめて。
その手を。
自らの片手で包むぐらいの事は……。

そうしないと、自らも不安になってしまいそうで。

「うん―――」

言える言葉は、それしか。
……今はきっと、それしか、思いつかなかった。

ご案内:「大時計塔」から渡辺慧さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からクゥティシスさんが去りました。