2015/08/02 のログ
焔誼迦具楽 >  
「あれ、驚かすつもりなんてなかったんだけど……。
 どうしたの、考え事?」

【サプライズは迦具楽の好むところだが、今回は珍しくそのつもりはなかった。
 首を傾げつつも、足を止めることはなく当たり前のように隣に座る】

「海水浴場が、どうかしたのかしら?」

【迦具楽は怪異だけあって、目も耳も人間より優れていた。
 とはいえ、全部聞き取れたわけでも、妄想中の顔を見れたわけでもないようだ】

東雲七生 > 「いやいやいや、そうそうそうそう!!
 考え事考え事考え事!!」

(首を横に振ったり縦に振ったり忙しい。
 夏の暑さでちょっと弾けた思春期の妄想を追い出しながら、ズレたサングラスを掛け直す。)

「別に海水浴場はどーもしないっ!
 ……それより、久し振りだな迦具楽!」

(無理やり話の路線を正して、
 無理やりさわやかな笑顔を作り上げて、貼り付けた。)

焔誼迦具楽 >  
「ふうん……?」

【訝しげに視線を滑らせる。
 さて、海水浴場がどーもしないならなんなのだろう。
 久し振りと言われれば軽く頷く。が】

「私はてっきり、水着の女の子でも思い浮かべてるのかと思った。
 ほら、この前のトトとか、私とか?」

【路線変更への努力もむなしく、自分が考え事+海水浴場という組み合わせで連想した内容をぶちまける。
 『私、セクシーだったでしょ』なんて冗談みたいなことを言っているが、少年も知っての通りなだらか平坦なのは変わらずである】

東雲七生 > 「んなぁっ……!?
 そ、そんな事ねーし!全然考えてねーし!!」

(真っ赤になって否定する。
 半分は嘘だが半分は本当だから冷静な対応が出来ない。
 少なくとも、名前の挙がった友人と目の前の少女の事は思い浮かべてはいなかった。
 だってなだらかなんだもの。)

「だから何でも無いって言って……

 ……セクシー? え? セクシー……??」

(一瞬セクシーって何だっけ、と考えさせられた。
 それほど目の前の少女とかけ離れている様な言葉に思えたのだ。
 世間では一応需要もあるらしいけれど。)

焔誼迦具楽 >  
「ふふん、もしかして図星だったのかしら?
 そうよね、七生も男の子――」

【ニヤついて瞳を覗き込もうとしていたが、続くリアクションに『うっ』と声を詰まらせた】

「……うん、言いたいことはわかるけど、わかるけど言わないで」

【顔をうつむかせ、膝を抱える。
 自分から言っておいて、いざ返されたものに予想以上のダメージを受けたらしい】

「私だって、私だって、好き好んでこんな体型でいたいわけじゃないもん……。
 でもこれ以外の姿になれないんだもん。アイツが全部わるいんだから。そうよ全部アイツが……」

【ブツブツと早口で怨みの篭った呟きが漏れていく。
 どうやら珍しく落ち込んだらしい】

東雲七生 > 「えっ、あれ?
 お、おーい、迦具楽ー?」

(何だか別の世界にトリップしている様子の少女を見て、
 恐る恐る声を掛ける。顔の前で手を振ってみたり。)

「ま、まあそんなに凹まなくてもいいんじゃねえか?
 だ、大丈夫大丈夫、きっとそういう体型が好きな奴だって居るでしょ──」

(婉曲に「自分はそうでない」と言っている様なものだったが。
 妙なところで素直さが足を引っ張る七生にその自覚は無かった。)

焔誼迦具楽 >  
「ふ、ふふふ――」

【慰め(?)の言葉を掛けられると、ギギギ、と嫌な金属音を立てながら、少年の顔を見る。
 その表情こそ笑っていたが、瞳はまったく笑っていない】

「……もしそれで慰めてるつもりなら、私は七生を食べても許されると思うの」

【普段より数段低い声で、唸るように言いつつ、少年へとさらに近くにじり寄っていく。
 両手を挙げて、まさに襲うぞーというような構えだ。避けられなければ飛び掛りそうな気配である】

東雲七生 > 「──あー」

(──これヤバいやつだ。
 金属音と共にこちらへ振り返る少女を見て、直感がそう告げる。
 目が笑ってないし、言葉も冗談の気配の欠片も窺えない。

 どうやらしらずしらずのうちに じらいをふみつけたようだ▼

 頭の中にそんなテロップが浮かぶ。)

「わ、わーっ!!
 落ち着け迦具楽!俺なんか食っても堅いだけで美味くないって!」

(両手を挙げこちらへ飛びかからんとする姿を宥めようと向かい合い、
 ふとその身体が視界に収まる。
 サングラス越しの目が、憐憫と同情の色とともにそっと伏せられた。)

焔誼迦具楽 >  
「あーっ! ああああ~~~っ!!」

【目を伏せられた! 自分を見て目を伏せられた!
 これはフェイタルなアタックであり、そりゃあ少女も言語を忘れる】

「うがぁーーっ!!」

【向かい合う少年を睨み、怒りに任せのしかかるように飛び掛った!
 とはいえ、今の重量は見た目相応。身体に飛びのられたとしても、たいした重みはないだろう】

東雲七生 > 「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

(理性を失った少女の動きを見切る。
 掴みかからんと掲げられた腕を、その手首を掴んで留める。
 本来ならこのまま腹に蹴りの一つでも入れる所だが、
 相手は人外とはいえ友人だ、そんな乱暴は──まあ時と場合による。
 この後理性を取り戻せなければそれも已む無しだろう。)

「お、おいっ! 迦具楽!
 聞こえるか、大丈夫か、まだ間に合う!まだ間に合うぞ!
 ちゃんと豆乳とかキャベツとか、あとから揚げとかちゃんと食うと大きくなるって、言ってたから!」

(なお七生の残念さは既に手遅れになっていた。
 最近暑かったからね、しょうがないね。)

焔誼迦具楽 >  
《ギ、ギギ、ギギギ!》

【掴んで止められれば、久し振りに金属音を漏らしつつ押し合い。
 まあ力もまた少女相応のままのため、本当に食べるつもりはなさそうだが。
 ――怒っているのはマジだろう】

「うギギ――七生を食べて大きくなってやるうぅぅ!」

【そしてそこに油を注いでいく手並みはさすがといった所で。
 わずかに涙ぐみながら、掴まれた腕を精一杯振り回す。
 油を注がれすぎてむしろ火勢が安定したのか、わずかに理性は戻りつつあるかもしれない。

 そんな心温まる、どころか燃え上がる人と人外のふれあいがされてるなか。
 女子寮のとある一室では一人の少女が何故か突然言い知れぬ怒りを覚えていたがそれは誰も知らない話である。
 いやもしかしたら、予想外の方向から怒気やら殺気やらが届くかもしれないが】

東雲七生 > 「くっ……迦具楽、一体どうしたって言うんだ……!」

(少女との押し合いは拮抗している。
 ──そう、拮抗している。男子だからと七生の優勢ではない。
 もしこれが足同士の押し合いなら余裕を持ってなお圧勝出来るだろうが、腕力同士では拮抗させるのが精いっぱいだ。)

「俺を食ってもそんな効能はありませーん!?」

(仮にあったとしても進んで食われる道理は無いと思う。
 だったらまだキャベツを食べてて貰った方がマシだというものだ。

 しかしその時別方面からの殺気を感じ取った。
 何故だろうか、今が夏休み中で良かったように思える。
 これで平常に授業を受けていたら毎日の様に午後は保健室行きだった気がしてならなかった。)

焔誼迦具楽 >  
「うう、うぅぅぅぅぅ~~!」

【涙目で睨み怒ってるやら悲しいやら悔しいやらわからない呻り声を上げると。
 へなへなと、急に脱力していった】

「……七生のバカ」

【力なく膝をつきうつむくと、拗ねたような声音で一言。
 そしてバッと勢い良く上げた顔は、目の端に涙を浮かべて頬を膨らませて少年を睨んでいた】

東雲七生 > 「……ぅぐっ」

(何故か涙目で呟かれた一言が一番の衝撃だった。
 一体自分の何が彼女をここまで打ちのめしたのか、それはさっぱり分からない。
 ただ体つきが自分の好みと違うなーって思っただけである。思っただけ。思っただけだって。)

「ま、まあ、元気出せよ。
 なんか俺が悪いことしちゃったみたいだし、謝るからさ?」

(困惑を胸に抱えたまま自分の頬を指で掻く。
 とりあえず今は、機嫌を直してもらうのが先決だろう。)

焔誼迦具楽 >  
「うー……」

【小さく呻りながら涙目の三白眼で睨みつつ、今度は膝をつき手をついた状態で接近する】

「……七生は、キライ?」

【そしてふと、不安げな表情を浮かべ気弱そうな上目遣いで聞いた。
 迦具楽の右手が、胸元で不安に耐えるようにきゅっと小さく握られている】

東雲七生 > 「へ?
 嫌いって……えっと、何が?迦具楽が?」

(突然の問いに、そしてその表情や仕草に戸惑う。
 そもそも目の前の少女は人智を超えた存在である事を知っているので、
 いきなりこんな風に崩れそうな印象を与えられても困ると言えば困る。)

「……別に、嫌いじゃねえよ。」

(ともかく不安を和らげようと、こちらを見る目を見つめて、
 ゆっくりと首を振った。)

焔誼迦具楽 >  
「……そっか。ならいいや」

【ほっとしたように、涙を拭いつつまたいつもの笑顔を浮かべる。
 迦具楽としては体型の事を聞いたのだが、予想外の答えに怒りも不安も飛んでくほど満足したらしい】

「あ、でも。私はさっきの七生の発言で、とーっても傷付いたのよ?
 だから許してあげる代わりにー……えーっと……」

【その満足感に任せて調子に乗り、一つ要求してやろう――と思ったのだが。
 わずかに瞳をさまよわせ、立てた人差し指がぐるぐると泳ぐ。
 要求が思い浮かばない――わけではなく。少しばかり頬を染めて、どうも迷っている様子だ】

東雲七生 > 「お、おう。」

(結局よく分からないが迦具楽の機嫌は戻ったらしい。
 これだから女子ってのはよく分からないんだ、とうんざりした気分で心中で呟く。
 もちろんそんな事を表情にでも出せばまた機嫌を損なわれるかもしれないので、あくまで顔には笑みを貼ったまま。)

「うぅっ、やっぱりそうなのか……?
 ならしょうがねえなあ、ジュースでも奢れば良いか?」

(要求をすぐに口にしない姿を見て、代わりに案を上げてみる。
 その内容はあまりにもあんまりなものだったが、男子同士の軽口の叩き合いなんてその程度で解決することが多いのだ。)

焔誼迦具楽 >  
「……う、うーん」

【代案を出されればますます悩むように唸って、一度二度と首を振ると】

「……えっと。
 あの、ね。……抱きついても、いい?」

【恥ずかしそうに頬を染め、先ほどとは違う意味で潤んだ瞳で見上げた】

東雲七生 > 「……は、い?」

(申し出に一瞬七生の周囲の空気が凍りつく。
 しかしすぐに解凍されて動き出す時間の中で、頭はすぐに回転を始めた。
 
 今抱き着いて良いかって言ったよな。
 そもそもなんで抱き着く必要があるんだ。
 たまったもんじゃないぞ、そんなの。
 けど実際気付付けたのは事実だし。
 前に背負った事もあるし、大して変わんないか──

 短い間に行われた脳内会議は一応の満場一致だった。
 悪いのは(納得はできないけど)俺なんだから、
 求められた事には応じるのが誠意ってものだろう──と。)

「……わ、わか、った。
 い、良いぜ。ほら──」

(硬い動きで頷くと、
 肩でも錆び付いてるんじゃないかと思うほどぎこちなく腕を広げる。)

焔誼迦具楽 >  
「――っ、うんっ!」

【了承を得られれば、ぱあっと顔を輝かせて少年の胸に飛び込む。
 胸板に頬を押し付けて背中に腕を回し、がっちりとホールド。
 服越しではあっても、互いの体温が伝わる状況だろう。
 しかし、そのわりには暑くはなく、やや涼しいくらいに感じられるだろう】

「んふふ、ふふ~っ」

【抱きつけば幸せそうな含み笑いがこぼれる。
 少年に触れている。体温が伝わる。それだけでなぜか、とても安心することができた。
 普段五月蝿いあの声も今は聞こえない。とても暖かく、安らげる心地だった】

東雲七生 > 「……。」

(こんなところ知り合いに見られたら、なんて考えるだけでも今すぐ時計塔から身を投げたくなる。
 そんな衝動を懸命に抑えながら、今はただ迦具楽の気が済むまで“されるがまま”で居るつもりだ。
 
 それにしても、やたら嬉しそうにしてるな、と自分に抱き着いている少女を冷静に観察する。
 普通じゃないのは重々承知しているが、それでもやっぱりおかしいヤツだ、という評価は変わらなかった。
 だからと言ってさっきも自分で言った様に、嫌いになるかと言われればそうでもない、が。)

「ほんと──面白いヤツばっか居るなあ。」

(俺の周りは、と呟く七生は意図的に「類友」という言葉を頭から追い出していた。)

焔誼迦具楽 >  
「んふっ、面白いのは七生の方でしょ?
 まー、だから好きなんだけど」

【はたから見ても一目でわかるほどにご機嫌な様子である。
 少年の内心なんて、迦具楽には知ったことではないのだ。
 ……いや、とても気にはなるのだけれど】

「ん~っ、七生の匂い――?」

【胸板に頬だけでなく鼻を押し付けて、自分の大好きな『美味しい』匂いを堪能しようとする。
 ……が。その匂いに違和感を感じて、怪訝そうな顔で少年を見上げる。
 匂いがわずかに変わっていたのだ。いやそれ自体は望むところである。
 なにせ迦具楽は、少年が美味しくなるのを待っているのだから、変化がなければ困るのだ。しかし】

「……匂いがちがう。
 七生、何かあった?」

【迦具楽が感じ取るのは魂の匂い、色。
 それに短期間で変化があったということは、影響を与える何かがあったということに他ならない。
 もしや先ほどの考え事とはこれに関しているのでは、とまっすぐに勘違いをしたままに、少年へと訊ねた】

東雲七生 > 「お?
 何だ何だ、匂いが違うって?

 あー、暑いから汗かいた所為じゃねえの?
 っていうか嗅ぐなよ、どさくさまぎれに何してんだよっ!」

(もちろん七生は人外の少女の目論みなど知らない。
 そして突然の問いに羞恥で顔を赤らめながらも見上げられた顔を見下ろした。
 非常に距離が近くて落ち着かないが、自分ばかり意識しても滑稽に見えそうなので一度深呼吸して落ち着きを取り戻しつつ。
 帰ったらシャツとっかえなきゃなー、なんて気楽に考えている。)

ご案内:「大時計塔」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に東雲七生さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に東雲七生さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
「……さっきの考え事」

【赤くなる少年の気持ちを察しきれない迦具楽は、そのまま伝わるように言葉を探す。
 見上げたまま視線を泳がせると、ぽつりと呟くように】

「七生、なにか悩み事とか、心配事とかあるんじゃない?」

【心配そうに眉を顰め、じっと赤い瞳で赤い瞳を見上げた】

東雲七生 > 「ああ、さっきの考え事?
 別に大した事じゃないよ、ちょっと気になってる事があってさ。悩みや心配って程でもないさ。」

(ホントホント、と笑みを浮かべる。
 そこには別段誤魔化しや隠そうとしているといった感情の動きは見えない。強いて言えば、『説明するのめんどくさい』程度である。
 そして少し困ったような顔をして、視線を泳がせ、
 溜息と共に口を開いて)

「まあ、しいて悩み事があるとすればトトのことかな。
 ……実は、こないだトトから告られてさぁ。」

(一人で抱え込んでいるのもそろそろ限界だった。
 かと言って今この場で相談するのも大差無い様には思えたのだが。)

焔誼迦具楽 >  
「そうなの……?」

【じっと観察すれば。なるほど確かに嘘をついているようには見えない。
 根っこが素直な少年だからか、面倒くさそうな様子は感じ取れたがそれだけだ。
 けれど、その後打ち明けられた悩み事には、目を丸くして驚いた】

「それっ、すごく大した事じゃない!
 うそっいつ!? それでどうしたのっ?」

【そして驚いたと思えば、瞳を輝かせる。
 怪異とはいえ、友人同士の好いた惚れたにはそりゃあ興奮せざるを得ない。
 抱きついたまま楽しそうに続きを促そうとする】

東雲七生 > 「それで、って……ええと、色々あって保留にして貰ってる。
 アイツにも言ったけど、あんまり“そういうこと”ってよく分かんねえからさ、
 それにちょっとまあ、ともかく保留にしてんの!」

(こんな話を別の異性に抱き着かれたままするのは何かが間違っている気がした。
 いや、気がするなんてレベルじゃない。明らかに間違ってる。
 とにかく、この話題を続けると自分の失恋についても語らなければならない事に気付いた七生は無理やり話を締め括った。)

「つーか迦具楽は!
 そういう浮いた話の一つか二つねーの!?」

(そして無理やり矛先を向ける。)

焔誼迦具楽 >  
「えー?
 保留かぁ……残念。残念?」

【面白そうな話だったのに、と、不満げな顔になり。
 しかし、もし二人が本当に恋仲になってしまっていたら、こうして甘えさせてもくれないのだろうか――なんて所に思考が至れば、少し安心もしてしまったのだが】

「うーん、私は七生が好きだからなあ。
 というか、あると思う? 産まれてまだ二ヶ月だし、人を食べる怪物なのよ?」

【照れも恥じらいもなく、当たり前の事のようにまた好きだという。
 しかし浮いた話はと聞かれれば、そんな話はさっぱりである。
 産まれてから会話をした異性はそもそも、目の前の少年以外にいないのだし】

東雲七生 > 「……ですよねえ~。
 いや、別にそんな化け物だなんだって卑下してないでさ。
 ちゃんとしてればそれなりに可愛いと思うぜ?」

(やれやれ、と言わんばかりに肩を落として首を振る。
 自分以外の異性とまともに口を利いた事が無いだなんて夢にも思っていない態度だ。
 きっと気にかけてくれてる奴は他にも居て、
 それなのに迦具楽がこんな態度だから壁を感じてしまっているんだろう。
 ……半ば本気で、そう思っている。)

「ったく、ホントにしゃーねーなっ!」

焔誼迦具楽 >  
「……うーん、卑下してるつもりはないんだけど。
 ちゃんとしてればって、見た目を可愛いって言われてもなあ。
 それ、クトに言ってあげたほうが喜ぶんじゃない?」

【迦具楽に卑下しているような気持ちはない。あるのは、しいて言うなら区別だろう。
 自分と人間を混同しないようにする区別だ。
 しかしそもそも普通は混同などしな―― ――迦具楽の外見は元になった焔誼玖杜のものである。
 そのため、自分の外見はあまり気に入っていない。先ほど怒ってしまったのも、好んで平坦になったわけでないというコンプレックスを刺激された所以である。まあ大方自業自得だったのだが。
 そのように。迦具楽は少年の言葉を外見への評価だと受け取ったようだ】

東雲七生 > 「んー……。」

(あんまり色よくない返事を受け取って渋面になる。
 だったら中身の方を可愛いと言えば良いのだろうか、
 そもそも風貌だけとはいえ異性に対して可愛いという事自体だいぶ勇気が要る事だというのに。
 そんな風に恨みがましい視線を送っていたが、溜息と共にそれを外す。)

「お前も焔誼も、それぞれ好い所があると思うからさ。
 別にお前らを比べる気は無いし、俺がそう思ったからそう言っただけだっつーの。ふん。」

(小さく鼻を鳴らしてそっぽを向いてみたりする。
 特に何の意味も、効果もないのは百も承知だけど。)

焔誼迦具楽 >  
「……そうなんだ。
 七生、『私のこと』可愛いって思ってくれてるんだ?」

【そっぽを向いてしまった少年の顔を、意外そうに見上げる。
 そしてそうだった、と。思い出す。
 目の前の少年は、自分が『玖杜』に似ていたから好意的に接してくれているわけじゃないのだ。
 きっかけはソレだったかもしれないが、今は迦具楽を『迦具楽』として見てくれているのだ】

「んふふ……♪」

【そう思い至ると、またころっと機嫌よく笑みがこぼれる】

「七生ぃ~♪」

【甘ったるい甘えた声で名前を呼びながら胸に頬ずりまでしだす始末である。
 迦具楽は今、とにかく嬉しくて幸せであった】

東雲七生 > 「………ぅ。

 あの、迦具楽サン。
 ……ご機嫌になられたところ申し訳ねーんだけど、そろそろ満足して頂けないっすかね…?」

(鈍くとも一応七生も男の端くれではある。
 長時間異性と密着し、そのうえ甘ったるい声まで聞かされては色々と落ち着かなくなってくる。

 静かに少女の名を呼び、その頭を軽く撫でて、それとなく離れて貰えないかと交渉してみた。
 本当に、本当に迦具楽がなだらかであったことに救われている気分だ。)

焔誼迦具楽 >  
「え~っ?
 むぅー仕方ないなぁ。
 じゃあ、離れるからもう一回頭撫でて?」

【背中に回していた手を放し、密着状態から少し距離を空けると、今度は控えめに頭頂部を向ける。
 撫でてもらったのが思いのほか気持ちよかったらしい】

東雲七生 > 「分かった分かった、撫でればいいんだな?
 まったく……でかいネコみてえ。」

(迦具楽が離れた事に内心ほっとしつつ、
 向けられた頭に優しく手を添えて、撫でる。
 特にこれと言って心得も何も無い、普段“される事の方が多い”撫で方である。)

焔誼迦具楽 >  
「んふっ。
 ネコみたいに可愛い、って受け取っておいてあげるっ」

【撫でられれば嬉しそうに声を漏らし。
 そのまま満足そうに離れていく】

「……七生に会えて良かった。
 たくさん甘えさせてもらったし、私はそろそろ探検に戻るわね」

【そのまま名残惜しそうにしつつも立ち上がると、その場でくるりと周り、屋上から学園を見下ろす。
 そして次の目的地を定めれば、時計塔を降りようと階段へ向かうだろう】

東雲七生 > 「はいはい、あんまり無茶な事はするんじゃねーぞ!
 俺もそろそろ帰るかなー、夕飯の弁当買ってこなきゃ。」

(よっこいせ、と掛け声とともに立ち上がる。
 見ればだいぶ陽も傾いていた、夕方のタイムセールに間に合うだろうか。)

「せっかくだし下まで一緒に行こうぜ、迦具楽。」

(どうせ降りるのなら、と階段へ向かう迦具楽の後を追いかけて。
 断られる事が無ければ、そのまま共に階段を下りて塔の下で別れるだろう。)

焔誼迦具楽 >  
「あ、うんっ!」

【一緒に行こうと声を掛けられれば、ぱあっと笑顔を咲かせるだろう。
 散々甘えて満足したのか、いつぞやみたく腕に抱きつくこともなく二人で降りて行き、塔の下で別れる。
 背を向けるその瞬間まで、とても嬉しそうに、楽しそうにしていたことだろう】

「……ふふんっ♪」

【そしてそのまま機嫌よく鼻歌を歌い。
 夕暮れの学園を探検し始めるのだった】

ご案内:「大時計塔」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > 屋上。夜景。
そこまで、まだ夜は深くない。

転落防止の柵に体重を預ける。
いつも通りのパーカー。

つま先が、考え事に連動するかのように床を叩く。
それは、ある種、貧乏ゆすりのそれにも似ている。

――どーしたもんかな。

顎を、柵に乗せ、遠くを眺めるかのように、息を吐いた。

ご案内:「大時計塔」にイヴェットさんが現れました。
渡辺慧 > どーしたものか。
とは言ったが。

出せる答えは決まっている。
それは誰であっても変わらないそれ。

――なら、まずはそこから離れよう。
建設的に、何があったか、把握しておくぐらいは問題ないだろう。

彼女は彼女であって。彼女ではない。
……あの羽根。
無邪気さ、は――。

イヴェット > 「──、」

かつ、かつとローファーを鳴らして屋上へ繋がる階段を駆け上がる。
夏休み期間の今日、人はいないと思って。

キイ、と大きく扉の軋む音がする。
扉の先には陽が沈んだばかりの空に、白いパーカー。
そして───深い溜息。
見知った姿に心配そうに、小さく声を掛ける。

「………悩み事ですか、」

キャスケットの鍔を持ち上げて、ひとつ。

渡辺慧 > ……ただ、一つ。
はい、わかりました、とポンといえば済む話なだけかもしれないが。
それは――。

ただの思考の波に、飲まれていたところに。
かけられた声に少しだけ肩を揺らす。

ゆったりとした速度で、顔を持ち上げ。
のんびりと振り向いた。

「……やぁ」
「今日も似合ってるね。帽子」

質問に、答えを返すわけでもなく。
ただ、そこには。いつも通りの――。

イヴェット > ゆらりと振り向く野良猫のような彼をぼんやりと見遣る。
飄々として、のんびりとした。

「……、ありがとう、ございます」
「───」

口を開きかけて、逡巡する。
彼の思考の海にざぶりと踏み込むのか。
砂をさくりと踏んで、水に浸かるべきか。
距離感を測りつつ、暫しの沈黙のあと。

振り向いた彼の双眸を、ヘリオトロープが捉える。

「…………その表情、」

普段とは何処か違う、其れを見て。

「似合ってないですよ」
「友達と、喧嘩でもしちゃいましたか」

困ったように笑った。

渡辺慧 > ――。

少しだけ、驚く。
……見かけはする。
話も、たまにする。

だが、彼女への印象は。
あの時、此処であった――。
ならば、当たり障りのない……。
(お人よし)

だから、少し苦笑した。

「――そんなに分かりやすかった?」
頬を、少しかく。
ばれてしまったからには、致し方ない、とでも言うように。
なればこそ、だからこそ、雰囲気は変えないように。

今度こそ。……いつも通りから、逸脱した。
分かりやすい、笑い方。
それを浮かべていることは、自分にもわかった。

イヴェット > ……、

ひどく、後悔する。
──余計だっただろうか。
もしかすれば、誰かを待っていたのだろうか。

けれど、思わず声を掛けてしまった。
飄々として、楽しげな印象の彼。
それが、どこか寂しげで、困ったような──。

苦笑する彼を見遣って、笑った。

「勘、です」
こてり、首を傾げた。
もしかしたら此れが女の勘、なのかもしれないし、
なんとなく、ただそれとなく思っただけなのかもしれない。

「イヴでよかったら、お話。聞きますよ」
出過ぎではないだろうか。なれなれしくはないだろうか。
──そんな思案を呑みこんで。
明るく、努めて明るく──笑った。

渡辺慧 > それこそ、分かりやすい、だ。
彼女が、それとなく。後悔したような――。

何を馬鹿な。あぁ。それを素直に表現できない、いや。
――頼れない、自分こそが。"後悔すべきなのだ。"

だから。
クック、と喉の奥で、笑い声を出して。
アァ――。

「ありがと」

――本当に、お人よしばっかりだ。

「なら――ちょっとだけ」
「話聞いてもらおうかな……」

彼女の、笑い方に呼応するかのように。
……多分。これは、それが。
明るく――笑った。

イヴェット > 俯く。
笑ってみたものの、迷惑だったじゃないだろうか。
もし彼の悩みが深い深い深海にあったら。

──人魚姫でもない、半分人間の自分に。
その深い深い悩みに手を伸ばすことは出来ないのではないか。
寧ろ、手を伸ばすのは他の女の子の仕事だったのではないだろうか。

……、
聞き慣れた彼の笑い声を聞く。
ゆらりと顔を上げて。

『───』

彼の言葉を聞けば、「よかった」、と。
胸を撫で下ろした。

「ええ、解決は出来ないかも、ですけど」
「話して、そこから解決策。見えるかもしれません」

彼の笑顔を前に。
安心したようにふう、とひとつ息を吐いた。

渡辺慧 > 「優しいね、全く」
「……いやはや、ほんとに」

話したところで、何を、というのも。
勿論わかっている。話して、どうにもならなくて。
そうして……そうしたら。
この優しい彼女は、気に病んでしまうのかもしれない。

だから、少し。
彼女から目線を離して。また、前を向く。
――これは、一つの独り言。
だから――。

「喧嘩って、わけじゃないんだけどさ」
「……俺も、よくわかってないんだけどさ」

そうやって前置きする。……だから、そんなに。
気にしなくてもいいのさ、とでも言うように。

「“友達”にさ。やってほしいことがあるって」
「言われたんだ」

イヴェット > 優しい、と云われれば。
照れたように俯いて「ありがとう」、と。

彼の目が別のものに移れば、それを追うように目を向ける。
暫しぼうっと目下を眺める。
電灯と、校舎と、それから生徒。
普段と何ら変わらぬ──普段よりは人の少ない学び舎。

「………、よく、わかってない?」
きょとん、と首を傾げて。
彼の意図をなんとなく察したようにこくりと小さく頷いて。

「──やってほしいこと?」
「お友達に、ですか」

渡辺慧 > 「そ」

彼女の存在を背後に感じながら。
よくわからないそれに、苦笑をこぼす。

――あぁ、本当に。自分でもよくわかっていないのだ。

「でもね。その、やってほしい事」

それが何かは言わない。

「……ちょろっと、俺には厳しいことでさ」

至って。全て。それを出来ない自分が。
何かを言わないことによって。自分が悪い。

「――なら、そうしたら」
「一体、どうなるんだろうかな、って」

曖昧模糊とした言葉。
深刻か、ただの、日常のもつれなのか。
それすら、よくわからずに。――いや、本当は分かっているのかもしれない。――

イヴェット > ……、こてり。
また不思議そうに首を傾げた。

ヘリオトロープの瞳が、少しだけ細まる。
どこか遠くを見るように。見えないものを見ようとするように。

「やってほしい事、……うん」

考える。言わないのならば言えないのだろう。

「やってほしいけど、出来ない事を………」

故に、考える。
頭の中で言葉一つ一つをパズルのようにはめ込んで。
元の絵柄を知らないパズルを完成させることは難しい、けれど。

「んー、と………、」
「イヴなら、頑張ってそれを出来るように頑張って」

悩む友達のために努力くらいは、出来る。

「それでも出来なかったら、」
「ごめんなさい、って、謝ります」
「出来ない事なら出来ないですって。友達なら、わかってくれると思います」

根拠も確証もどこにもない。
けれど、自分だったらどうするか。
それくらい言ったって、罰は当たらないだろう。

渡辺慧 > ――。

それは。
実に――当たり前の話だ。
……そんなの、当然の。

だけど、それを、自分のために、といって。
――だけど、そうじゃない。

本当は、もっと、汚い部分。

――それは、俺がやらないとなのか?
――なんで、彼女は、俺に……。

そうやって、ゆらゆらと漂って。
それを考えたことに対しても、自分で、後悔して。
動きたい気持ちだって、ある。
でも、何度言っても、自分のために、って。
――だけど。

でも。
それを、口に出せる――彼女の……これは、強さと言っていいのだろうか。

「……なぁ。俺は……」
……曖昧模糊に、状況を述べた。
だから、彼女は何も知らない。
言ったところでしょうがない。

「……そうだよな。……そうしたほうがいいよな」
だから、今度は、自分が。
当たり障りのない、それを吐いている。

イヴェット > ……、

彼女に。
彼の胸中は解らない。
実に当たり前で、実に当然の話。

されど、置いて行かれるようで。
置いて行かれるも、未だ、背中さえ見えていないけれど。

傷つけてしまっていないだろうか。

自分の不用意な言葉で、彼を傷つけていないか。
何の事情も知らないまま、落とした言葉。

ちくりちくりと刺す胸の痛み。
彼は自分で何か道を見つけていたのかもしれない。
それを、自分が邪魔をしてしまっているのかも。
それを問いたくても、臆病な自分は。
──だから。

黙って。
彼の言葉を待つ。一度自分は踏み込んだ。
だから、それ以上は自分から踏み入るべきじゃない。

「………、え?」
彼の言葉に、顔を上げて。
問われたのかもしれない。
聞き間違いかもしれない。

「……、どうか、しました?」
ずるり、と。
砂浜に──海水の混じった砂に足を取られる。
踏み込んでしまう。

渡辺慧 > 無防備に。
何かにイザナワれる様にして、そこに来た彼女。

――心の淵が、ふと。

「――“本当にダメな奴だよな”」

あぁ。…………こんなこと。
こんな、どうしようもない、事。
漏らすべきではない。
こんなもの、ただの、何かの懇願に捉えられても。
――いや、それは。正しく懇願なのかもしれない。

それをかき消すように、振りむく。
笑った。

「なんでもないよ」

それはもう、独り言ではない。

――違う。違う。
なんで、自分は。
こんなつもりではなかった。
お人よしの、ただ。優しい、それに。
なぜ自分は。

「ありがと。……うん。頑張ってみるよ」

だから、もう一度、笑った。
いつも通りに。

イヴェット > ざわり。
彼の一言が、どうしようもなく自分に突き刺さる。

……自分が、踏み越えた其れ。

「ダメなんかじゃ」

彼の何を知っている訳でもないのに。
寧ろ、知っていることの方が少ないのに。
何て自分はひどく、無責任なんだろう。
言うべきではない。
そんなことはわかっていた。わかっていたけど。

「ダメなんかじゃ、ううん、ダメじゃない」

笑う彼を見遣りながら、ぽたりと一筋涙が伝う。
何故零れているのかも解らない。
誰の為に泣いているのかもわからない。それでも。

「なんでもなかったら、イヴの前で」
「そういうことを言わないべきでした」
「そんなつらそうに、笑われたら」
「イヴ、口を出さずにいられなくなっちゃうじゃ、ないですか」

ぎゅうとスカートを握った。
ひゅうと吹く風がキャスケットをさらった。
まるで打ち寄せる波が砂をさらっていくように。
打ち寄せては、離れる。

ひどく無責任なことをしているのはわかっていた。
普段なら絶対にこんなにずかずかと入りこまない。
なのに、なぜだか。
不思議に、引き寄せられる。まるで────

「無理に笑わなくて、いいんですよ」
「しんどいって言っても、つらいって言っても」
「今なら、───」

さらりと金糸が揺れた。
キャスケットに押し込まれたそれは波のように。
ぴんと尖った耳も、幾らか赤くなって。


「……、今なら、イヴしかいませんから」
「イヴで、よかったら」
「もっと。──お話、聞かせてください」


ああ、言ってしまった。
本当ならこんなこと、云うつもりはなかったのに。
───こんなに深入りするつもり、なかったのに。

渡辺慧 > ――。

――――――。

「……お人よしめ」
再三の、心のつぶやきが。今度こそ表に出てしまった。
――だって。そうだろう。

こんな、炉端の石のような、自分のそれに。
放り出せばいいのだ。
自分なら、自分だって――きっと。
足を踏みとどまる。むしろ、彼女も、そうしようとしていたはずだ。

――あぁ、そうか。

……懇願が、届いてしまったのか。

「……………お人よしめ」

ぼんやりと。背を柵に押し付け乍ら。
空を仰ぐ。
――なんか、泣き顔。よく見るな、なんて。ふと遠い思考。

「それは、肯定できないよ」

もう一度、ダメな、なんて言おうとした。
だけれど、それでは。だから、言葉を変えて。

あぁ、今、自分は。
吐き出そうとしている。
踏みとどまろうとしている。

それを、肯定できない自分が。

「違うんだよ、イヴ」
「……それも、自分の為だから」

寄る瀬。決定的なそれを作ってはならない。
そうしないと、そうでもしないと。

「逃げられないじゃないか」
自由とは、逃避だ。
逃避とは――。
そんなの、ただの。
“劣等感”に過ぎない。

――既に、自分が。十分なそれを、吐き出してしまっていることには。
――あまり、気づけなかった。

「でもね」
「イヴ」
「…………ありがとう」

本音である、それを引き出して。
――だから、あんま。
泣かないでほしいな。

困った様に笑って。
嘯いて。――頬をかいた。

イヴェット > ……、

『────』

何か言葉を吐き出そうとして。
思ったことを伝えようとして。
彼の落としてしまった言葉が、ふと、耳に入る。

お人好し。
………、それもそうなのかもしれない。
自覚がない訳ではない。確かにお人好し。
でも、お人好しなら此処で食い下がるのだろうか。
────それなら、イヴェットなら、どうするのだろうか。

聞こえてしまった声を聞かなかったことに。

彼の寂しそうな笑顔を見なかったことに。

「………、イヴは、別にお人好しじゃないですから」
「『友達』が沈んでるように見えたら」
「──慧……さんがさっきみたいな表情してたら」
「他のお友達もたぶん、こうしていたと思います」

彼が空を仰げば、対照的に地に視線を落とす。
影も見えない。もう夜だ。

「ごめんなさい」
「余計なことだって、解っていても、」
「イヴはダメなので我慢できません」

吐き出せない彼を見て、言わない理由がある彼を見て。
『自分』の為に言葉を紡ぐ彼を見て。

「イヴは、それは悪いことじゃないと思います」

珍しくまっすぐと、言い淀むことなく。
当たり前のように、語る。

「逃げるのは悪いことじゃないと、思います」
「したくてもできない人がいるのに」
「意地を張って逃げられない人がいるのに、其れと違って」

ふわりと金糸を掻き上げて、耳に掛ける。
にこり、と笑いながらヘリオトロープの双眸を拭って。

「十分慧さんは、自分の為に出来てる」
「だからダメじゃない、って。言っちゃいます」

彼の言葉を、否定した。
彼の価値観でダメだとしても、彼女の中では真逆で。
逃げられない、『お人好し』の彼女が出来ないその逃避をやってのける彼を。
少しの尊敬の色の混じった視線で見遣って。

「………、えへへ」
「どういたしまして、慧さん」
「『友達』、ですから。当然、です」

彼を縛る影は、宵闇に溶けて見えなかった。