2015/08/03 のログ
渡辺慧 > ――。

肯定、されてしまった。
……それを。

肯定されたいわけじゃない。
――いや、むしろ。それを口に出したということは、きっと。

――否定されたかったんだ。
ダメなものは、ダメだと。
お前は、ただ。――そうやって生きるしかないんだと。
そうして、そうやって。自分の自由を得る。
何て、卑屈だ。

上を見上げたまま、少し、手のひらに、爪が当たる。

何かが沸き起こる。……それが、どういった性質の感情か。
それすら理解できないまま。

「…………、それを、お人好しというんだ」

彼女が、自分をそういうなら。
自分は、彼女をそう言ってやろう。

――まるで真逆。

尊敬の、そんなものには気づかずに。
少しの尊敬の色の混じった声で呟いて。

……彼女の言葉は。
そう、確実に。
一つの枷――糧――となった。

――それは、いいことなんだろうか。

「イヴ」
「……今度お礼させろ」

提案ではなく。
お人好しな彼女には、こう言わないと。
恐らく――。

「友達って、言ってくれるなら、さ」

イヴェット > これでいい、と。

彼女は笑った。
──あくまで。

あくまでそれを否定するのは彼女の役割ではない。
そして、彼女には出来ないこと。

……、それ以上に踏み込んで。
それ以上に彼の内側に足を踏み入れるのは。
深海に飛び込んで、溺れた王子様に人工呼吸をするのは、人魚姫の役割。
それをなぞるならば、童話の通り泡になってしまうだろうから。

だから、それ以上は踏み込まない。
自分は彼の物語のお姫様ではない。
───『友達』。彼のことが好きな女の子が他にもいる、とは噂で聞いていた。

……、だから。
自分がするのは『ここまで』だ。

「イヴはね」
「お人好しでもなんでもないんです」
「慧さんだって、『友達』の為に悩んでたじゃ、ないですか」

悪戯気に笑う。
同じだ、と。最初に彼が思い悩んでいたのも同じ。
───『友達思い』なだけだ、と。

「お礼?」
「イヴ、お礼されるようなこ───」

そこまで口に出して、思いとどまる。
彼が、この彼が珍しく「させろ」、と。
それならば───

「喜んで。イヴ、楽しみにしてますから」

髪をふわりと揺らして。
ゆったりと彼に背を向ける。

渡辺慧 > シシシ。

あぁ、いつも通り。
さりとて、何が解決したというわけでもない。
やること/やらないこと、それ自体は、まだ。
残っている。

――あぁ、だけど。今は、いい。

にじみ出たそれは、夜の黒に流れた。

背を向けた彼女と、対になるように。
前を向く。

「うん」
「楽しみに、しててくれ」

それに届くように、笑いながらそう言った。

あぁ、考え事がまた一つ、増えてしまった。
――でも、きっと。

きっとそれは――。

この、距離感は。
きっと、これ以上は縮まらないものであり。
あぁ、これ以上踏み入ってもらっても。
それじゃ。――かっこわるいだろう?――
自分は、炉端の石。語り部にもならない、それ。

――だからこそ。

「またね」

――『友達』ってのは、そういうものなんじゃないかねぇ。

声に出さず。
――やっぱり。

もう一度、その、いつも通りの顔で。
笑った。

イヴェット > さて。

彼を取り巻く大海原に石は投じられただろうか。
自分の意思が少しでも彼に届いただろうか。
───彼の中に、少しでも波紋を立てられただろうか。

……、悪くは、ないかもしれません。

胸中でぼんやりと思案する。
屹度彼を深海から引き上げるのは自分ではない。
だから、

「絶対ですから、ね」
「忘れてたー、なんて言われたらイヴ、」
「……、どうしよう。ショックかもしれません」

これでいいんだ。

初めからこの距離感は決まっていたのかもしれない。
近くて、ひどく遠い。
それでいて、誰かがずっと先に踏み込むのを見ないふりして。
だから、『友達』なんだろう。

───彼は人気者だから。
違う。彼は、………──

故に。

「お礼、決まったら何時でも連絡、してくださいね」
「じゃあ、また」

ひょい、と片手を上げた。
金糸をゆるゆらりと揺らしながら、階段を駆け下りた。

……、どこか、すっきりとした表情で。

ご案内:「大時計塔」からイヴェットさんが去りました。
渡辺慧 > 立ち去る彼女を背中で見送る。
――足音が聞こえなくなるまで。

自由と謳いながら、実質。
その世界は、ひどく狭い。

――だから、そこには、自分だけ。

浮かんでいるのか、沈んでいるのか。

――彼女は、そこでいい、と言ってくれた。
分からないが。……分からない。

彼女が、羽根でも生やしていたなら――。

「なんてね」
独り言のようにつぶやき。

風が吹く。

被っていた、フードが、風に揺られて……脱げた。

それを、どこか。遠い世界のような感覚で味わいながら――。

――しばらくの間。……ただ、そこで。

ご案内:「大時計塔」から渡辺慧さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にオリハさんが現れました。
オリハ > 「友達……"友達" ねぇ?」

誰もが居なくなった時計塔の最上部。

さらに、その上。  空中に腰を掛けるようにして少女が眼下を見下ろしていた。



「その『自由』で、一体どこまで逃げ切れるのかしら?」


蠱惑的な笑みを浮かべ、氷のような瞳を曲げ。 粒子となって解けて消えた。

ご案内:「大時計塔」からオリハさんが去りました。