2015/08/03 のログ
■渡辺慧 > ――。
肯定、されてしまった。
……それを。
肯定されたいわけじゃない。
――いや、むしろ。それを口に出したということは、きっと。
――否定されたかったんだ。
ダメなものは、ダメだと。
お前は、ただ。――そうやって生きるしかないんだと。
そうして、そうやって。自分の自由を得る。
何て、卑屈だ。
上を見上げたまま、少し、手のひらに、爪が当たる。
何かが沸き起こる。……それが、どういった性質の感情か。
それすら理解できないまま。
「…………、それを、お人好しというんだ」
彼女が、自分をそういうなら。
自分は、彼女をそう言ってやろう。
――まるで真逆。
尊敬の、そんなものには気づかずに。
少しの尊敬の色の混じった声で呟いて。
……彼女の言葉は。
そう、確実に。
一つの枷――糧――となった。
――それは、いいことなんだろうか。
「イヴ」
「……今度お礼させろ」
提案ではなく。
お人好しな彼女には、こう言わないと。
恐らく――。
「友達って、言ってくれるなら、さ」
■イヴェット > これでいい、と。
彼女は笑った。
──あくまで。
あくまでそれを否定するのは彼女の役割ではない。
そして、彼女には出来ないこと。
……、それ以上に踏み込んで。
それ以上に彼の内側に足を踏み入れるのは。
深海に飛び込んで、溺れた王子様に人工呼吸をするのは、人魚姫の役割。
それをなぞるならば、童話の通り泡になってしまうだろうから。
だから、それ以上は踏み込まない。
自分は彼の物語のお姫様ではない。
───『友達』。彼のことが好きな女の子が他にもいる、とは噂で聞いていた。
……、だから。
自分がするのは『ここまで』だ。
「イヴはね」
「お人好しでもなんでもないんです」
「慧さんだって、『友達』の為に悩んでたじゃ、ないですか」
悪戯気に笑う。
同じだ、と。最初に彼が思い悩んでいたのも同じ。
───『友達思い』なだけだ、と。
「お礼?」
「イヴ、お礼されるようなこ───」
そこまで口に出して、思いとどまる。
彼が、この彼が珍しく「させろ」、と。
それならば───
「喜んで。イヴ、楽しみにしてますから」
髪をふわりと揺らして。
ゆったりと彼に背を向ける。
■渡辺慧 > シシシ。
あぁ、いつも通り。
さりとて、何が解決したというわけでもない。
やること/やらないこと、それ自体は、まだ。
残っている。
――あぁ、だけど。今は、いい。
にじみ出たそれは、夜の黒に流れた。
背を向けた彼女と、対になるように。
前を向く。
「うん」
「楽しみに、しててくれ」
それに届くように、笑いながらそう言った。
あぁ、考え事がまた一つ、増えてしまった。
――でも、きっと。
きっとそれは――。
この、距離感は。
きっと、これ以上は縮まらないものであり。
あぁ、これ以上踏み入ってもらっても。
それじゃ。――かっこわるいだろう?――
自分は、炉端の石。語り部にもならない、それ。
――だからこそ。
「またね」
――『友達』ってのは、そういうものなんじゃないかねぇ。
声に出さず。
――やっぱり。
もう一度、その、いつも通りの顔で。
笑った。
■イヴェット > さて。
彼を取り巻く大海原に石は投じられただろうか。
自分の意思が少しでも彼に届いただろうか。
───彼の中に、少しでも波紋を立てられただろうか。
……、悪くは、ないかもしれません。
胸中でぼんやりと思案する。
屹度彼を深海から引き上げるのは自分ではない。
だから、
「絶対ですから、ね」
「忘れてたー、なんて言われたらイヴ、」
「……、どうしよう。ショックかもしれません」
これでいいんだ。
初めからこの距離感は決まっていたのかもしれない。
近くて、ひどく遠い。
それでいて、誰かがずっと先に踏み込むのを見ないふりして。
だから、『友達』なんだろう。
───彼は人気者だから。
違う。彼は、………──
故に。
「お礼、決まったら何時でも連絡、してくださいね」
「じゃあ、また」
ひょい、と片手を上げた。
金糸をゆるゆらりと揺らしながら、階段を駆け下りた。
……、どこか、すっきりとした表情で。
ご案内:「大時計塔」からイヴェットさんが去りました。
■渡辺慧 > 立ち去る彼女を背中で見送る。
――足音が聞こえなくなるまで。
自由と謳いながら、実質。
その世界は、ひどく狭い。
――だから、そこには、自分だけ。
浮かんでいるのか、沈んでいるのか。
――彼女は、そこでいい、と言ってくれた。
分からないが。……分からない。
彼女が、羽根でも生やしていたなら――。
「なんてね」
独り言のようにつぶやき。
風が吹く。
被っていた、フードが、風に揺られて……脱げた。
それを、どこか。遠い世界のような感覚で味わいながら――。
――しばらくの間。……ただ、そこで。
ご案内:「大時計塔」から渡辺慧さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にオリハさんが現れました。
■オリハ > 「友達……"友達" ねぇ?」
誰もが居なくなった時計塔の最上部。
さらに、その上。 空中に腰を掛けるようにして少女が眼下を見下ろしていた。
「その『自由』で、一体どこまで逃げ切れるのかしら?」
蠱惑的な笑みを浮かべ、氷のような瞳を曲げ。 粒子となって解けて消えた。
ご案内:「大時計塔」からオリハさんが去りました。