2016/08/08 のログ
ご案内:「大時計塔」に加賀智 成臣さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」にレイチェルさんが現れました。
加賀智 成臣 > 「………。」

時計塔で、眼下を見下ろしながら足をぶらぶらする青年。
今彼は、柵も何もない時計塔の窓の縁に座っている。通常なら危ないどころではないのだが……

「やっぱり、飛び降りって怖いよなぁ……急にこれで死ねるようになってもやりたくないよなぁ…」

はぁ、と大きくため息を吐き出し、心が決まらないかのように足をぶらぶらさせている。

レイチェル > 「おい、飛び降りが何だって?」

彼の背後から、凛とした、しかし不思議と棘を感じさせない声がする。
時計塔で眼下を見下ろす青年の後ろに居たのは、風紀委員のレイチェル・ラムレイ。つい今しがた、ここへ到着したばかりであった。
到着するなり不穏な言葉が聞こえてきた為に、立ち退くよう指示する前に、
そう声をかけたのだ。


風紀委員の中で夏季休暇中の見回りを分担した結果、
今日はこの時計塔の見回りをすることになっていた。
まさか、また自分の見回り中に時計塔に侵入している生徒と出くわすとは、と。
レイチェルは内心肩を竦めた。

加賀智 成臣 > 「………。あ、どうも。」

首だけで声の主を見て、会釈をする。目はすっかり死にきり、顔色は土色。
髪はボサボサの長髪で、どこをとっても不健康、ネガティブという雰囲気しか醸し出していない。

「いえ、ここから飛び降りたら死ねないかなぁと。誰も来ないだろうし…
 僕みたいなゴミムシは地面に潰れてノビるのがお似合いかなぁと。」

ふへへ、と卑屈に笑いながらレイチェルから目を逸らす。
とことんまで悲観的な男のようだ。

レイチェル > 「……どうも、じゃねぇよ。一応ここ、進入禁止なんだぜ」

そこまでは言うものの、すぐに立ち退け、とは言わない。
追い詰めてしまうのもどうかと思ったレイチェルは、
歩み寄ることもまだしない。
その場で、まず風紀委員として告げるべき事だけを告げるに留めたのだ。


「そんな所から飛び降りたら多くの奴は死ぬだろうぜ。
 ……ゴミムシ? 誰かにそう言われたのか?」

柳眉を少し逆立てるレイチェル。
問い詰めるような声色ではない。
この青年の自殺を止めようだとか。
思い直させようだとか。
そんなことを考える前に、彼女の声は自然と穏やかな
それになっていた。

加賀智 成臣 > 「ああ、はい。すいません。でも学校で飛び降りると迷惑がかかりますし。
 飛び降りを『試せる』場所、最近ここしか無くて。」

髪をボリボリと掻き毟る。長い黒髪が、数本抜けてぱらぱらと落ちた。
顔を背け、また窓の外を見る。

「まあ、ここから落ちたら死ぬでしょうね。」

事も無げにそう応える。

「ええ、言われましたし自分もそう思ってますし。早く死にたいなぁ、と。
 ああ、学校が悪いわけじゃないです。ほら、苛められる側にも問題があるってよく言うじゃないですか。」

ふらふらと上体を前後に傾け、今にも落ちそうなバランスを保っている。
気が弱い人が見たら失神しそうな光景だ。

レイチェル > 「……試す? どういう意味だ、そいつは」

この青年が持つ異能か特殊能力が関係しているのだろうかと。
そんな風に考えながら、レイチェルは言葉を投げかけ続けてみる
ことにした。



青年の言葉を受けて、レイチェルの中に一つの確信が生まれた。
ああ、この男は、完全に自分をゴミクズだと信じこんでしまっているのだ、と。
彼をこんな風にしてしまった周りの人間のことを考えると、背筋がぞっとする思いであった。
同時に、胸の奥が少し熱くなった。
目の前の青年の現状を、ほんの少しでも何とかしてやりたいと思った。
だからこそ、彼女はこう質問をした。

「……苛められる側に問題、ね。確かにそういう風に言う奴は結構
 居るな。お前もそう考えてる訳だ。じゃあ聞くが、『お前の思うお前が抱えてる
 問題』ってのは、一体何なんだ?」

ふらふらとしている彼の姿を見て、精神を集中させるレイチェル。
彼がいつ落下しても、助け出せるように。異能を使用出来るように。

加賀智 成臣 > 「そのままですよ。試したいんです、色々と。
 ……ああ、そうか。そういえば僕は無能力扱いだったから、知ってる人も少ないんですね。」

そこで初めて顔を上げて、空を見た。
夏の空は忌々しいほどに青く眩しく、目が潰れそうなほどに白い雲を湛えていた。

「問題?生きてることじゃないですかね。
 あと、名前が女っぽいところとか、無駄に背が高いところとか。
 みんなからはそう言われますね。」

はは、と乾いた笑い声が背中から響く。
丸まったような背中はひどく小さく、哀愁を漂わせていた。

「居るじゃないですか、気に食わないっていうか。
 何も悪いことはしてないしされてないのに、『居るだけで意味もなく不快になる人』って。
 結局、僕がそういう人間だったんじゃないですかね。」

レイチェル > 「……知らねぇな。そもそもお前が誰なのかも知らねーし」
能力を持っていても、無能力扱いの人間というのは存在するものだ。
何人か同じようなタイプの人間を見てきたが、彼もまた同じであるようだった。しかし、飛び降りることで試す異能とは、一体何なのだろうか。凄まじい耐久力を誇る異能、或いは不死の異能……。

つられてふと、金髪の少女も一瞬空を見上げる。
眩しい夏の日差しが目に突き刺さった。


「……生きてることが問題だなんて、軽々しく言うんじゃねぇよ。
 名前が女っぽい? 背が高い? そんなことえ他人を悪く言うような
 奴は、相当根が曲がってやがるとオレは思うぜ。ここで自分を悪く言
 って、死のうとしてる奴よりずっとな」

腕組みをして、ニ、三度頷くレイチェル。
話しながら、自然とその歩みを進めて、青年のすぐ近くまで行き、
大きな窓の縁、青年の横にちょこんと座る。無論良いことではないのだが……なんとなく、この青年と同じ目線に立ってみようと思ったのだ。

「皆が皆、そう思ってる訳じゃねぇよ。例えばオレ。別にお前とこうして話してたって不快にならねーぜ?」

そう言って、青年と同じように足をぶらぶらさせてみたりなどして。
スカートが風に吹かれて小さく靡く。

「そうだ、お前お前、って言うのもなんだし、名前聞いとくか。こうして会ったのも何かの縁だし。
 オレは風紀のレイチェル・ラムレイ。お前は?」

加賀智 成臣 > 「…ああ、すいません。図に乗りました。知ってるわけないですよね、すみません。ゴミ虫です。」

そう言って、窓の縁で伸びをする。グラリと上体が傾く。

「……重々しく言ったほうが良かったですかね?
 分かってますよ、そういう人たちの根が曲がってるってことは。
 でも、僕もそういう人は全員死ねばいいと思ってるし、不幸を手を叩いて喜べる程度には性格悪いですし。
 だから僕はクソみたいなもんなんですよ。」

はぁ、とまた視線を落とした。どうにも闇が深いようだ。
横に座ってきたレイチェルを見て少し距離を離し、横目でその眼帯を見る。

「……そうですか。ありがとうございます。
 たまにそう言ってくれる人もいるんです、お世辞だとしてもいいものですよね。

 ……僕は加賀智。図書委員の加賀智 成臣です。…適当に加賀智なりゴミ虫なり何とでも呼んでください。
 異能は……まあ、見せたほうが早いですかね。」

そう言うと、少しだけ間を開けてから……
グラリと上体を前に倒す。

腰が窓から離れ、体が宙に浮き、その姿が眼下へ落ちていく。

レイチェル > 「この学園は人数が多すぎる。知らねぇ奴の方が圧倒的に多いさ。ゴミ虫じゃねーぞ」

上体を傾ける青年を見て、冷やりとするレイチェル。
しかし何事も無かったようで、やれやれと胸を撫で下ろすのであった。


「自分はクズだと、相手の言ってることが正しいんだと、
 ただただ肯定に回ってるから相手も図に乗ってるのかもしれねー。
 嫌だ、ってはっきり自分の意志を示したことはあるか? 
 ……何にせよ、そいつらとじっくり話せる機会が必要だろーがな。
 あ、視線落とすの禁止な。幸運が逃げちまうぜ」

彼女が身に着けている眼帯。その眼帯は時折光が流れては消えていく。
どうやら普通の眼帯ではないようだ。

「お前にそういう言葉をかけてくれる奴が居るってんなら、お前はまだまだここで生きていける筈だ。 図書委員の加賀智……か。
覚えたぜ。なんかまた辛いことがあったら――おい!」

隣に居た彼が、落下していく。
見せたほうが早いと、彼は言う。
おそらく、ここから落ちても死なないのだろう。
それが、彼の異能なのだろう。


――でも、違う。
――違う!
――そうじゃない!




「時空圧壊《バレットタイム》!」
その異能の名を叫ぶ。

――――――――――――――――――――――――――――
同時に。

周囲の時が、凄まじい速度で減速を始める。
正確だった時、が 。
次第に  その  刻み方を  忘れて――。

ゆっくり、ゆっくりと。
スローモーションで落ちていく加賀智。


「クソ! ああいう奴はどうにも放っておけねぇな!」

窓の縁を蹴って、レイチェルもまた時計塔から飛び降りる。
壊れた時の世界の中で、レイチェルだけが正確に時を刻んでいる。

レイチェルは空中でゆっくりと落ちていく加賀智をしっかりとキャッチ
して、自分の腕の中へ引き寄せる。左腕で彼の身体を抱え。
右手は、地面へと向け。


「……ちっ、時間切れだ」


時は、再びその刻み方を。
思い出し、始める。

――圧壊終了《バレットエンド》。
――――――――――――――――――――――――――――

時が戻り、二人は急速に、真っ逆さまに落ちていく。
行く先は、硬い地面。

加賀智からすれば。
超加速する物体を目にする力がない限り、先ほどまで居なかった筈のレイチェルが、いつの間にか自分の身体にしがみついていた、と。
そのように感じることだろう――。

加賀智 成臣 > 「……………。」

空中で起こった、文字通り一瞬の出来事。
気づけば、先程まで共に窓の縁に座っていた風紀委員が、自分の体にしがみついている。
なるほど、これが彼女の異能か。瞬間移動か、高速機動か。まあ、どちらにせよ……

「……。」

ぐい、と落下する中でレイチェルの体を引き剥がし、体の中に包むように抱き寄せる。
ぐるりと体勢を変え、落下は背中から。肉がなくてもクッションになったりするだろうか?そんなことを考える。
兎にも角にも、その体を守るために衝撃を出来るだけ自分の体で受け止めようと。

まあこの高さから落ちたら、頭が潰れなくても十中八九死ぬだろう。
頚椎と肋骨は逝くとして、内臓破裂と脳震盪は死因に入るだろうか?
そう思いつつ、風を切って落下を続けた。

レイチェル > 落ちていく中で、彼が自分の身体を守ろうとしているのを感じる。
抱き寄せられたまま、レイチェルはふっと微笑んだ。

(はっ、自分はクズだクズだ言っといてコイツ……)


無謀な行動に見えたかもしれない。
しかし、レイチェルには彼と、自らの身を守る手段があった。
それは、彼女が使える数少ない魔術の一つで――。


「衝撃《ブラスト》!」

右腕を地に向けたまま、その魔術の名を叫ぶ。
今にも地面に打ち付けられるその直前に。
地面から全く逆の力――衝撃が発生して、クッションとなった。

残り数十cmまで地面が迫っていたところで、二人の身体がふわり、と浮き上がり
……どさりと落ちた。

加賀智 成臣 > 「………あれ。」

背中をぐいっと、柔らかいもので押し上げられるような感覚。
それが風、あるいは衝撃であると理解した時には、既に地面に背中が付いていた。
傷もなし、異常もなし。少し服が土で汚れたし、目に砂埃が入ったがそれは良しとする。

「………大丈夫ですか?」

さっと体を離し、レイチェルをその場に置いて距離を取る。
そして、目線を逸らして。

「……何で助けに来たんですか?言ったじゃないですか、見せた方が早いって。
 僕、異能のせいで死ねないんですよ。老化もしないし。」

レイチェル > 「おう、『お陰様で』かすり傷一つねぇぜ。
 クズだとか言ってたが……本当のクズだったら、あそこでオレを抱き寄せたりしねぇな?
 しっかり守ろうとしてくれただろ、よく分かったぜ」

その場に置かれれば、ぽんぽんと。自分のスカートについた砂埃を払い落として、
すくっと立ち上がる。

「へぇ、やっぱり死なねぇ異能か……でも、死なないとして、だ。
 地面に叩き付けられる時ってさ、やっぱり痛いんじゃねぇの?
 もし、お前に痛みが無かったとしても、だ。
 簡単に自分を傷つけようとするなんて、オレは間違ってると
 思ってる。助けに行った理由は、それだけだぜ」

けろりとした表情で、そう口にするレイチェル。
制服の砂埃を払い落とすと、よし、と満足気に頷いた。

加賀智 成臣 > 「……そりゃ、守らないと死んじゃうじゃないですか。
 僕以外に死んでいい命なんて無いですよ。」

真顔で、そう答える。…心の底から、自分自身は一切の勘定に入っていないようだ。
背中に手を伸ばし、はたはたと埃を払う。

「………。まあ、痛いですけど……別に痛いだけですし。
 今更ですし、痛いのなんて。自分を大事にしたって、何にもならないですから。
 ……まあ、間違ってるのは分かるんですけどね。」

どうにも性分で、と呟き、土埃が取れたかどうか確認するために上着を脱ぐ。
ひょろ高い身長に似合わず、やたらと体が細い。ガリガリだ。

レイチェル > 「自分だけ良ければ、自分さえ助かれば。
 そう思ってる奴が掃いて捨てるほど居る世の中だ。
 それでもお前はオレを守ろうとしてくれたんだから……
 そこは、誇っていいだろうぜ。だからその……
 『ありがとよ、加賀智』」

礼を言って、レイチェルは語を継ぐ。

「……まぁ、難しいことだけどよ。
 自分のこと、もうちょっと許したり、認めてやっても良いと思うぜ、加賀智。
 少なくとも、オレは今のでお前のこと、ちょっと見直したぜ。
 世辞じゃねーぞ」

罵倒。暴力。そういったものに曝され続けた人間の中には、
大きく自尊心を傷つけられてしまう者が多くある。
自分を許す、自分を認める、ということ。とても難しいことだろうが。
それでも、と。
レイチェルは加賀智に対して言葉を投げかけた。

加賀智 成臣 > 「………。あー。どうも。………はい。
 いや、どういたしまして?でもないですね、僕が悪いし……」

少し目を伏せて、頭をボリボリと掻き毟った。
恥ずかしいのか、そうでないのかよく分からないが。

「………。」

見直す。
その言葉を聞いて、少しだけ目を上げる。
ぱちりと、レイチェルの片目と目線が合ってしまった。

この人は、いい人なのだなぁ、と。
迷惑をかけさせられた相手を褒めれる程度には、いい人なのだなぁ、と感じた。
………悪い気はしなかった。が、良い気もしなかった。

レイチェル > 「……ま、何だ。とりあえず、これからは、ゴミムシ名乗るの禁止な!」
人差し指を立てて、柳眉を逆立てるレイチェル。
頼むぜ、と付け加えつつ。


「さて……悪ぃが、そろそろ見回りに戻らなくちゃいけねぇや。
 加賀智、何かどうしても困ったことがあったら、連絡寄越しな」

クロークの内側からメモ用紙とペンを取り出し、さらさらと自分の端末の番号を書けば、
ピッと人差し指で弾いて加賀智の方へ飛ばした。


「使わねーと思ったら、破いて捨てちまっても構わねぇがな。
 オレでも相談くらいなら、乗ってやるからさ」

最後にそう口にして背を向ければ。
じゃあな、と軽い声色で挨拶をしながら、振り向かずに手だけを適当に振って去っていった。

加賀智 成臣 > 「……はい。分かりました、ゴミ虫に失礼ですもんね。
 ゴミで行くことにします。」

もうダメな感じしかしない。

「あ、と。」

ふわりと飛んできたメモ帳のページを捕まえ、少し見てから畳んで懐にしまう。
それから、少し慌ててこう言う。

「……僕、携帯電話持ってないんですよ。
 親死んでますし、未成年ってことにしてるから契約もできなくて。
 だから、その時は多分男子寮から電話行くと思います。」

そういって、去っていく背中にぺこりと頭を下げた。
大きい体が少し小さくなる程度に、かしこまった礼だった。

ご案内:「大時計塔」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から加賀智 成臣さんが去りました。