2016/08/22 のログ
ご案内:「大時計塔」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 「んんーっ、久々に来たけどやっぱ良いなあ、ここ!」
夕暮時の時計塔、その最上部に七生は胡坐をかいて座っている。
夏休みも残り僅かとなり、海で泳ぐのもいい加減飽きてきたのか、久し振りに時計塔から島を見渡そうと思って来たのだった。
「夏休みが明けたら、今度は学祭だしなー……今年は何やるんだろ。」
去年は不本意ながらメイド服を着せられたので、今年はもっと男らしい格好したいな、とぽつり呟いた。
■東雲七生 > 「しっかし、男らしい格好が出来る出し物って何があったっけ?」
別に男らしくなくとも良いけれど、と言い訳がましく呟きながら考える。
そもそも背が低く顔立ちも幼い七生が他の同級生の男子と同じ土俵に立てるとなると、よほどの事じゃ無ければ難しい気がしてくるのだった。
「ううん……?
背丈はどうにか誤魔化すとして、もうちょい男っぽい顔に……髭とか、髭とか伸ばすしか……!?」
自分の顎にそっと手を当てる七生。
産毛すら生えてないすべすべの肌があった。
■東雲七生 > 「付け髭……付け髭かあ。
身長だって誤魔化すんだから、髭だって……」
ぶつぶつ。
何だか段々と変な方向へと思考が向かっているが本人は至って真剣だ。
七生の想定する男らしさが一体どこへ向かおうとしているのか、実のところそれは七生本人にもいまいち分からない。
「髭……髭ったってどんな髭にすればいいんだ?
あれか、あの先がくるんって丸まってる口髭とかか……?」
本当に、何処に着地するのか本人にも解らない。
■東雲七生 > 「ふわぁ……んん、ねむ。
……でもそろそろだよなあ。」
欠伸を噛み殺して、夕暮の街を見下ろす。
8月も半分以上過ぎたからか、じわじわと昼の時間が短くなっているらしい。
一日の大半を屋外で過ごすことの多い七生には、話に聞く以上に昼の短さが実感として伝わっていた。
「……えーと、そろそろかな。」
朱い瞳の視線の先には、今にも西の海に沈もうとする夕陽。
そしてぐるっと反対側、東の空を見れば日が沈むより先に空を染める濃い藍。
もう間もなく、水平線の向こうへと陽は落ちて、次第に夜の闇が静かにその範囲を広げるだろう。
その中間が、もうすぐ。日が沈んですぐ、だ。
この昼と夜が交わる、いわゆる黄昏時が七生は何よりも好きな時間だった。
■東雲七生 > 眠い目を擦りながら、じりじりと落ちる夕陽を見つめる。
七生が見守る中、太陽はゆっくりと、しかし確実にその姿を海の中へと消した。
巨大な光源を失ったにも拘らず、空はまだ明るさが残って、七生はその空を眺めてうっとりとした表情を浮かべる。
今はきっと、昼でも夜でも無い時間。
それはしばしば、此岸と彼岸が交わる時間であるとも謂われていた。
逢魔が時。この世ならざる世界が垣間見える時間。
いつの頃からか、七生はこの時間が何よりも好きだった。
きっと記憶を失う以前から、この“何でもない時間”が好きなのだろう、と七生自身は思う。
理由なんて、特に無いけれど。
「──ほぉ。」
自然と口から溜息が零れた。
■東雲七生 > 昼でも夜でも無く、この世でもあの世でも無い時間。
きっと今、自分は何物でもない状態なんだろう、と赤髪の少年は夢想する。
地球人でも異邦人でも無い、自分でも他人でも無い、そんな不思議な錯覚に囚われながら少年はゆっくりと目を閉じた。
今だけは、自分が何者なのか、という言い様の無い不安に駆られなくても済む。
──それから十分ほどが経ち、西の空の朱さもだいぶ薄れてきた頃。
少年はゆっくりと東雲七生へと戻って、突かれれば砕けそうな、不安定な自分をこわごわ抱えて時計塔を後にするのだった。
ご案内:「大時計塔」から東雲七生さんが去りました。