2016/10/09 のログ
ご案内:「大時計塔」にクゥティシスさんが現れました。
■クゥティシス >
どれだけ時間が経っても。
此処に来て彼に会えなくなっても
この場所は自分にとって特別だ。
秋風が時折肌を刺し、その冷たさに小さく震えながらもそこから動く気にはならなかった。
そうして日付が変わり、眼下の街の灯りが消え失せて、ようやく諦めがつく。
そんな日々を幾度繰り返しただろうか。
それでもまた、今夜も――
「さむ」
小さく零し、手にした袋からタイ焼きを取り出し、一つ頬張る。
僅かに残る暖かさが口内をじんわりと温めてくれる。
ほう、と吐いた息が白くなって宙に溶ける。
「……会って、何がしたいってわけでも…ないんだけど。」
それでも、此処で待つことはやめられなかった。
彼に会って何がしたいか明確に答えることは今の自分には難しい。
それでも。
胸中で渦巻く漠然とした不安感を拭うために。
彼と話しておきたかった。
ご案内:「大時計塔」に渡辺慧さんが現れました。
■渡辺慧 > カツン。と足音が響く。
それは、今までと違うものであり、どこかそこには重さがあった。
登っている最中、ずっと考えていた。
“何故、またここに来たのかと。”
意識して避けていた。来る意味も、ここに来る事を欲する意味もなく。
だが、そうすると決めてから。また、変わり始めてしまったそれにどうしようもなく悪態をつきたい気分だったのかもしれない。
もしくは、それとも――。
だから。
そこについた時に、見えてしまった姿に。
「…………なん、で。…………いるんだよ」
自分は、どうしようもなく運が悪い、いや。……もしくは、とてつもなく悪運が強いのかもしれない。
こぼれた呟きに込められたものは、自分でもあまり。判別などついていなかった。
■クゥティシス >
今となっては此処で過ごすのは一人の方が多くなっていて。
だからこそ。来訪者が来るとは思っていなかった。
故に―
「…け、い…?」
待ち望んだ相手だというのに。
口をついて出たのはそんな間の抜けた言葉だった。
見間違えではないのかと。
自分の不安が見せた幻ではないのかと。
幾度も瞬きをし、首を振って。
それでも、彼はそこに居てくれたから
「ケイ!!」
ようやく、彼が本物だと飲み込めて。
心の奥底から湧き上がってくるどうしようもない感情の波をせき止めることが出来なかった。
大きく揺れる尻尾を隠そうともせず、駆け出そうとして――
「……ケイ?」
立ち止まる。
自分を見る彼の瞳が、何か。
あの頃自分に向けられていたものとは違っていたような気がして―
■渡辺慧 > 以前と全く変わらない声色にある種の安らぎを覚える。
元より、どこの誰とも知らぬ、何も縛られていない彼女との関係性にはどこか恐らく安らぎを見出していたのかもしれない。
その事が既に、自分が何も変わっていないことを明確に示していて。
クシャリ、と顔を取り繕ったように笑った。
えぇ、と一つ頷く。まさしく自分は慧であり。
「“こんにちは、クゥさん”」
ある意味それは、明確な拒絶にも取られるかもしれない。
「……うん。お久しぶりです」
一歩も、その場から動けそうにはないかのように立ち尽くしたまま、笑った。
■クゥティシス >
「…え?」
彼は今、何と言ったのだろう。
自分の名前を、呼んでくれたはずなのに。
あれ程聞きたかった声で、自分の、名前を――
ぴん、と立っていた尻尾が、耳がふにゃりとしおれてしまう。
彼は、一体何を言っているのだろう。
そりゃ、確かに久しぶりではあるのだけれど。
「あ、はは。どしたの、ケイ。何か…変だよ?
そんな、風に…他人みたいに。や、やだなぁ。はは」
踏み出そうとする一歩が、とてつもなく重たい。
その先へは進むなと、わずかに残る野生の本能が告げる。
此処より先に進んでも、己の心を砕くだけにしからないと。
それでも―
「クゥ、ね。ずっとケイに会いたかったの。
会って、いっぱいいっぱい、話したいことがあったんだよ!
いろんなこと、あったから…。だから!」
ぎゅ、と拳を握りしめて―
一歩を踏み出した。
■渡辺慧 > 「……あぁ。そうですね。友達ですものね」
自分でも、その言葉の空虚さに笑ってしまいそうになる。
なんてひどい奴だ、とも思う。それをさらに、張り付いた笑みに変えた。
「えぇ。俺もですよ。……………だから」
お話ならいくらだって、聞きますし。そう付け加えた言葉の酷薄さには、辟易するほどだ。
自分はわがままなのだ。自分の為にしか行動できない。
だから。だから。だから………………だから?
「さて、どんな話をしますか。随分長い事会っていませんでしたしね。色々、ありますもんね」
一歩踏み出した。それは縮まるどころか、むしろ離れていくような感覚を覚えながら。
■クゥティシス >
相手が一歩を踏み出してきてくれた。
初めてあった、あの時のように。
お互いに一歩を踏み出せば、距離はそれだけ縮まると。
そう、思っていたのに―
「違う」
気づけばそう、言葉が漏れ出していた。
会えない時間がそうさせたのだろうか。
自分が会いたかった相手を。
自分が思う相手の姿を、言葉を、頭の中に思い描いていた。
こんなことを話そう。こんなことをしよう。
一緒に、笑っていようと。
積み上げて来たその全てが、彼の一言一言でいとも簡単に瓦解していく。
「クゥは、こんな、こんなケイと会いたかったんじゃない!
やめてよ、ケイ…ずっと、ずっと会いたかったのに。なのに、こんなの…」
声が震える。
こんな言葉を言いたいんじゃない。
「クゥが、何かしたなら…あやまる、からぁ。
だから、そんなの…やめてよ、ケイぃ…」
どうして。何故。
なんで彼がこんな態度を取っているのかが理解できない。
ただただ、辛くて。
彼の発する言葉全てが寒空に震えていた小さなこの身を切り刻んでいく。
床を濡らす滴はさながら、彼女の心の傷口から漏れ出した血液のようで――
■渡辺慧 > こんなの、当たり前の結末だ。
そう胸中で呟いた。むしろ望むところのはずだ。
そうすれば――。自分の苦しみなんていらないなんて言うわがままを、いつかは。
だが、それは理性の声だ。今現実にある認識を、上手く咀嚼できるわけもなかった。
それでも。
困った様に頭をかいた。
「キミは何もしてないです。なんにも。悪い事なんて何もないです」
当たり前のように口は言葉を紡ぐ。
言外に、悪いのは自分だと認めているようなものだし。何よりこの状況を考えればそんなもの当たり前に誰だってわかるだろう。
だから、なんだというのだ。
「……俺だって、そうしたかったですよ」
彼女の涙が血だというならば、恐らく漏れ出すこの言葉が自らの血でもあろう。馬鹿だな、と思う。
「…………それなら、どうすりゃいいんでしょうね。全く」
ひどく疲れた響きを持って呟かれた言葉は、正しく彼女に伝わっただろうか。伝わる意味もない。これも一つの甘えだろう。
苦痛の袋小路を抜けるために、自分で考え付いたのが、そこでじっとうずくまる事だなんて。言ったって理解されるわけがないのだ。