2016/12/18 のログ
ご案内:「大時計塔」にミラさんが現れました。
■ミラ > 馬鹿と煙は高いところが好き。
なんていう格言がこの世界にはあるらしい。
高いが何に相当するかは判らないけれど、それが真理であるなら
私は相当のお馬鹿なのだろうとおもう。
なにせこんな場所にいるのだから。
彼女がいるのは時計塔の最上階のさらに上。
小さな子供にすら見えるその姿で鐘楼の鐘のすぐそばに腰かけ、
ゆっくりと足をぶらつかせていた。
一歩間違えば地面に落ちていくような不安定な場所で、
柱に寄りかかりながら静かに島を一望している様は
時計塔の大きさも相まって非常に小さく見えるかもしれない。
彼女の心境を映しているだけかもしれないけれど。
「-----------」
その口からは小さく歌のようなものが零れている。
それはこの世界にない言語で、彼女の母国の言葉。
もっともあの世界でも既にあの国は滅んでしまっているけれど。
ぽつり、ぽつりと口ずさみながらゆっくりと遷ろう空と海、
そして島を眺めている。
■ミラ > 「--------------」
その歌の内容は遠い日の母を思う……望郷の歌。
古い子守歌のようなもので、遠い昔に作られた作者もわからない口伝の歌。
あの世界に帰りたいかと言われれば正直なところ、静かに首を振るだろう。
こちらの世界の方が数倍穏やかで、優しく、笑顔があふれている。
怨嗟と血煙が絶えないあの世界に比べれば、この世界はとても平和だ。
「-------------」
けれど研究所……
元の世界での彼女の研究所は人里離れた場所にぽつんとある監獄のような大きな塔だったのだけれど
そこから見る空と雲は、なんだか好きだった気がする。
野辺の獣すら武装しなければ生きていけない。そんな世界でも
どこまでも続くように見える蒼穹は
『奇麗だった』
歌が先細りに消えていき、その最後に誰に聞かせるでもなく
小さくつぶやく。
■ミラ > 彼女は自殺志願者ではない。
厳密にいうとそんなものに希望を持てなくなったというのが正しい。
あの世界では死ぬことと穏やかな眠りは同義ではなかった。
優秀な人材は死してなお、魂を縛られ戦争の為の道具を開発し続けることが常で、それを当たり前とする空気すらあった。
戦場の大半は死者の軍によって構成され、終わらない戦争をただただ続けていた。
そんな世界で死は通過点に過ぎなかった。
けれど……
(ここから飛び降りられたらどれだけ気持ちがいいだろう)
ふと頭の片隅でそんな声がする。
もちろん彼女の場合少し気を付ければこれの数倍の高さから落下しようと無傷で地面へ降り立つだろう。
けれど完全に手放しで一切の保護も防護もなしに飛び降りれば……
さすがに重症は免れない。
それは理性で分かっているけれど、時折囁くこの感情は
それを待ち望んでいるような気すらする。
純粋に不思議だった。
なぜそんな破滅しかない未来を望む心が人の中にあるのかと。
『こんな思考を誰かに話せば間違いなく戦場で気を病んだと思われる』
繰り返しになるが彼女は決して自殺願望者ではない。多分。
研究は好きだし、この世界の食べ物は美味しすぎるし
明日どんな発見ができるか楽しみで仕方がない。
そんな状態でも、万人の中に死への渇望があるというのは何故なのだろう。
■ミラ > "魔法使い"としてそれを利用することなら実はそう珍しいことではない。
万人にあるその欲求を増幅し掻き立て、自壊に追い込むというのは
彼女にとって特別な術式ではないのだから。
『心理状態は推察できる。
条件付けも可能。
けれど根本的な発生要因が不明』
どうしてそれが存在するのか。
種の保存と真っ向に対立するその欲求がいかにして形成されるのか。
それに関しての明確な答えはあの世界においてもこの世界においても存在しない。
研究者として、時折その部分が気にかかってしまう。
特に自身の中にその片鱗を見つけたときは。
■ミラ > 「……」
我ながらずいぶん不毛な思考をしているなと思う。
どちらかというと哲学の領域に踏み込む問題で
その領域では明確に唯一の答えというものは基本存在しない。
それがわかっていてなおこんな稚拙な疑問に頭を悩ませる私は
消して賢いとは言えないだろう。
『そう考えると至言かもしれない』
まさに今の状況を端的に表している。
最も高い場所に馬鹿が一人。ここに煙があれば完璧だ。
ご案内:「大時計塔」に飛鷹与一さんが現れました。
■飛鷹与一 > 「………参ったな…。」
風紀委員会として規則は当然遵守するべき。そうでなくても、基本ソレは守られるべきものなのは当たり前の事。
だが、この場所は何故かつい来たくなってしまうものがあった。
風紀委員会の赤い制服の上からダウンジャケットを着込み、肩にはライフルケースを担ぎ。
相変らずの死人のような生気も覇気も無い空虚な瞳を携えて長い階段を昇る。
そうやって、最上階までやっとこさ辿り着くだろう。…見渡すが誰も居ない。
少年が来た時点で既に歌は聞こえておらず、だからこそ最上階の更に上にいる先客には直ぐには気付けない。
コツ、コツ、コツ…靴音を静かに反響させながら、外の景色でも眺めてみようか。
「……やっぱり高いな…」
それは当たり前の事で、当たり前の感想で。特に感慨がある訳でもないけれど。
少なくとも、見ていて詰まらないという事は無い…と、思う。
■ミラ > 「……?」
風音の合間に小さく響く靴音に気が付き階下に目を向ける。
赤い制服は……確か風紀委員だったはず。
ここは生徒は原則立ち入り禁止だった。
自身がとても講師に見えないことはさすがに把握している。
よっぽど目のいい生徒でもいて通報でもされたのかもしれない。
風紀委員の仕事を増やしてしまったか。
(一応講師と説明しておくべき)
そう判断するとそのまま後ろに倒れるように体を傾けていき
床に衝突する前に数M程度の高さでくるりと回転しゆっくりと地面に降り立つ。
■飛鷹与一 > 「………!」
感情抑制に長け、少々の事では露骨に動じた態度はあまり見せない少年ではあるが。
流石に、先客が居るとは思って居なかった…それも、この最上階より更に上から降りてくるとは。
鮮やかに回転しながら不意に上から降り立つ、小柄な少女に僅かに瞬きをしてその姿を眺め。
「……どうも、こんにちは」
出てきた言葉は、とても月並みで当たり前の挨拶。捻りもユーモアも無い。
そして、確かに目は良い…のだが、実は彼女の姿に気付いて此処に来た訳ではない。
(……この人がもし生徒なら注意するべきなんだろうけど…)
残念ながら、自分がむしろ生徒なのにここに立ち入っている。
罰せられるとしたらこちらも同罪なのだ。とりあえず、少女の出方を待つ感じで死人の如き瞳を静かに向けて。
■ミラ > 「…ぁ」
飛び降りてみたもののまず何というべきか思いつかない当たり本当に思考が鈍っている。
とりあえずポケットを探り講師の名札を取り出そうとごそごそし始める。
……が。
「……なぃ」
ないのである。見事に。
それも当然。いつもそれを入れている白衣は今研究室でぽかぽかの日差しに当てられており、
そのポケットに入っているそれが手元にあるはずがない。
「……」
内心焦りながら相手の生気のない瞳を見つめ
ちょっと待ってと手で示しながらさらにごそごそするも
数秒後、何かを悟った瞳になり少年に顔を向ける。
「……生徒、立ち入り禁止、把握している
私、は、講師、問題ない」
本人は自分は講師なのでここにいても大丈夫だから心配しないでほしいと伝えたいのだけれど
無表情同士の会話は感情が宿らない分、まるで責めているように聞こえるかもしれない
■飛鷹与一 > 「………は?」
無い?何がだろう。何か紛失したのだろうか?唐突な少女の呟きには緩く首を傾げる。
と、何やら『ちょっと待て』というジェスチャーを少女がこちらに示す。
取り敢えず、少年としては暫くは黙って待っているしかない訳だが…。
数秒後、暫くゴソゴソとしていたが不意に少女が何やら悟った視線をこちらに向けてきた。
「……ああ、講師の方でしたか。…と、いうよりも…俺、見ての通り風紀委員会所属ですが…。
ここに来たのは別に貴女を注意する為、ではないので…ハイ」
少年は少女の考えを読める訳ではない。そんな異能も魔術も技能も無い。
そして、互いに無表情だから感情すら読み取り難いだろう。
例え、感情が宿らない声色や態度でも、責め立てるような響きに聞こえてしまったとしても。
「……むしろ、ここに来たのは個人的な気分転換なので。
だから、生徒立ち入り禁止のここにそんな事情で立ち入ってる俺の方が注意されるべきかと。」
非があるのは己の方だと。彼女が講師なのは特に疑わず…だとすれば。
風紀委員会、ルールを守り守らせる側が破っている自分の方が悪い。
そんなニュアンスが伝わればいいのだが…。
■ミラ > 「……」
小さく安堵の息を吐く。
過去に何度か警備員に講師と信じてもらえず他の教員に引き取られるまで
迷子の子ども扱いをされ、小一時間座っていることになったというのは記憶に新しい。
ちなみに引き取りにきた教員は僅かにふくれっ面の彼女に爆笑していた。
今回は特に問題なく信じてもらえたようだ。
「お気に、いり?」
この場所ははっきり言って結構来るのが大変だと思う。
入り込むには簡単でも随分と長い階段をひたすら上ってこなければならない。正規ルートでは。
それをわざわざ上ってくると言う事は思い入れがあるかそれだけの理由があったかのどちらかだろう。
注意をしに上がってきたのなら大変申し訳ないけれどそうでもないらしいし。
「本来、私、注意、必要
気にしない」
講師としては注意をするべきなのかもしれないが
この島に来てそう長くもないし、彼女の思考からして超法規的な考え方が強い。
さらには大体の相手なら何かやらかしてもある程度リカバリはできるという感覚はあったため
特に自身は責めないという趣旨を伝えようとする。
「邪魔、する、望む、ない
ゆっくり、する、いい」
それにお気に入りであればこの場所を見初めたのは彼のほうが先輩なのだから。
■飛鷹与一 > 「……」
小さな安堵の吐息を零す少女を見つめる。確かに見た目で講師、とは直ぐには信用されないだろう。
が、外見だけで全てを判断するのは…少なくともこの島ではあまり意味が無い。
「…とはいえ、まだ今回で2,3度目ではありますけど」
お気に入り、というのは言い過ぎたかな…?と、思いながらもそんな感じなのだ。
景色を何となく見たい、何となく落ち着く。物思いに耽りたい。そんな気分になる事はあるだろう。
少年の場合、そんなときに訪れたい場所の一つがここだ。
だから、少々上り下りが大変ではあるがそこはあまり苦にしていない。
黙々と何かをするのは嫌いではないのだから。
「……ありがとうございます。じゃあお互い不問という事で一つ」
そう言って緩い無表情で頷きを一つ。そのまま、歩を進めて彼女の横に並ぶ形で改めて外を一度眺め。
「…あ、自分は1年生で風紀委員会の…ヒダカ・ヨイチといいます。」
自己紹介が遅くなったか。ともあれ、視線を少女へと戻しながらそう名乗って緩く会釈を一つ。
■ミラ > 「空、好き、悪い、いない」
偏見の塊のような発言をサラッと吐き出し小さくうなずく。
わずかに上機嫌に見えるのは今日の彼女は比較的感情が表に出ているからかもしれない。
(気分転換か)
ふと言葉を反芻する。
彼の眼は過去に何度も見たような目で……だからこそこのまま走り抜けてもおかしくないとも思う。
そうなれば流石に手を打つつもりではあったものの、その様子は今の所なさそうで。
「了解、不問、受理」
暮れていく風景を眺める。今日は程よく天気がいい。
わずかにある雲が夕日に照らされ青と朱色のグラデーションにようになっているのは
とても美しく見えた。
それはそこに溶けていきたいと思わせるほどの美しさで……。
「……ミラ。講師」
瞳をしばたたかせ、思考を無理やり切り替えながら小さく口にする。
何処かで名前程度は聞いたことがあるかもしれない。
風紀委員なら把握しているかもしれないし。
とはいえ新任で、忙しい祭りの直後に来たような存在なら知らない可能性のほうが高いけれど。
■飛鷹与一 > 「……嗚呼、確かに。魔術や異能とか乗り物とか。色々手段はありますけど…。
空をただ眺めるだけならそんなモノは要らないですしね。俺としては気楽でいいです」
偏見じみた発言にも特に気にした様子は無い。カタコトっぽいのは異世界の人なのだろうか?
若干、初対面で顔を合わせたばかりだが彼女が僅かに上機嫌…に、見えない事も無い。
そして、その瞳に付いてはつい最近言われた事がある。
見た目からして覇気も生気はなく…『何かを置き去りにしてきてしまった』。
そんな瞳だ…生きているのに死んでいるかのように。人並みの知恵も感情も感傷もあるのに。
ただ、少なくとも――今ここから飛び降りて、なんて馬鹿なことは全く考えていない。
「…ミラ講師……何処かで聞いた…あ、もしかして物理魔導学、でしたっけ?
最近出来た授業、だったかそこの講師の人の名前が確かミラ…だった覚えが」
新米風紀委員とはいえ、祭の以前からここに通っているし講師の名前はある程度聞きかじったりしている。
詳細までは当然分からないが、どうやら少年はそれなりに記憶力はあるらしい。
■ミラ > 「平等。学園理念、沿う」
言葉少なく肯定する。
見上げるだけで癒すような空は、たとえどんな色を見せていても
必ずそこにあった。それだけが確かだった。
「……講師、として、聞く?」
話したくないなら話さなくていい。そんな言葉を暗に載せ、並んだまま小さく口にする。
彼の瞳を見て思ったことは、綺麗だったろうなということだ。
死んだ瞳というものは、思っている以上に理解されない。
そうなるに至る思いと情熱がその下に眠っている筈なのに
誰もそのことに気が付いてくれない。
それは灰になったものの目だというのに。
「そう、物理魔道学。 基礎、応用、両方。
気になる、参加する、いい。
自由選択。途中、来なくなる、文句言わない」
至極どうでもよさそうに返事をする。
実際その時間を研究に充てたいというのが彼女の本音だったりする。
■飛鷹与一 > 「……平等、ですね。確かに。空は少なくともどんな時でもそこにあるものですし」
平等とは程遠い、というのが風紀委員会で仕事をこなす内に理解できてきたが。
…平等を否定する気は無い、学園理念を馬鹿にするつもりだって無い。
ただ、平等という言葉は口にすれば簡単だが、その意味は実はズシリと重いのではないか?
少年はフとそう思うのだ。死んだ魚のような、ゾンビのような。生気も覇気も無い瞳が。
フと、ミラ講師の言葉にそちらへと静かに向けられた。僅かに不思議そうに。
「――今は止めときます。正直上手く言葉に纏められる自信が無くて。
あと、その…もしかしたら、他の人からすれば些細な事に思われるかもなので。
……ただ、気が向いたらちょっと聞いてくれると有り難いかもしれません」
初対面の講師に自分は何を言っているんだろうか、と思いながらも。
瞳は死んでいても心は死んでいない。誰かに吐き出したい気持ちはゼロではない。
燃え尽きて灰になった…としても。少年はまだ『死者』ではないのだから。
「…俺の学力、殆ど平凡なんですけど努力して付いていけますかね?
あと、…その、俺、魔力はあるらしいんですけど未だに初歩の初歩すら魔術が使えなくて」
目下の自分の悩みをついポツリと口にしてしまう。そう、魔力はあるが魔術が何故か使えない。
他の講師にも相談してみたが、原因は分からない…ただ、一つ仮説は聞いた。
『…お前さんは、もしかしてこっち側の魔術の適性が無いだけじゃないか?』と。
可能性があるなら、物理魔導学を学んでみるのは無駄ではない。やる気はある。
…が、ミラ講師は何処か面倒臭そうな、どうでも良さそうな調子だ。
ただ、もし受けれるなら途中で投げ出すつもりは少年には無いが。
■ミラ > 「そう」
もとより初対面。何か信頼を得るようなことがあったわけではない。
何かを話されるほど信用がある外見とも自分で思わない。
ただ、聞いてくれる誰かがいる。
そう伝えられるだけでも救われることがある。
それは彼女自身がよく知っていたことだった。
「……思い出す、来る、良い。待ってる」
小さく伝える。
そして続く言葉に小さく首をかしげた。
「……天才の学問、思う、やめたほうがいい
私、扱う、効率、理論化」
この世界においては仕方のないことかもしれないが
彼女が扱っているのは簡単な不確定要素の積み重ねの魔術とは一線を画す。
その区別ができるには今現在ある程度の魔術教養が必要かもしれないが、厳密には別系統の魔術なのだ。
だが感覚的に魔術を使っているものにこれはなかなか理解できない。
似通っているように見えるからこそ同じものだと考えてしまうのだ。
「使えない。問題ない。
本来、そういう人、向け、学問」
効率化を突き詰めれば少ない魔力で強力な魔術を宿した道具を使えるようになるだろう。
それが浸透すれば生活の一部に魔術が宿ることになる。
それは魔術を使えないものにもその恩恵を与える学問に他ならない。
「理解する気、無い、多い。
努力する、教える」
不満げな顔で少しごちる。
単位がほしいだけなら受けるだけ無駄だ。
魔術は今現在認識されている数倍危険で、数倍便利なものだ。
ゆえにそれを理解できないバカには真面目に授業するつもりすらなかった。
彼らがその概念を理解できないことは彼女には保障できた。
何気ないものを生み出す事こそ最先端の知識がいるのだから。
■飛鷹与一 > 「……まぁ、何と言うか。あまり島に来る前の事は思い出したくない事も多くて。
……はい、まぁ軽いお悩み相談室みたいな感じで聞いて頂ければ。
こういうのは、やっぱり講師側の人に聞いて貰うのが一番かな?と、思ったりもしますので」
初対面で信頼を得るのは難しい。少年も少年なりにそこは理解している。
別に彼女の事を信用していない訳ではないし、そもそも外見はまず関係ない。
ただ、単に…過去を思い出す事は苦痛で。もう一度燃え尽きた自分を燃やすような行為だ。
それを誰かに語り、相談し、悩みを吐露するのだから今すぐに、は難しい。
(…けど、ミラ講師は淡々と静かに聴いてくれそうな気がする。
それだけで、結構もしかしたら楽になるかもしれない)
それでいい、それで十分だ。燃え尽きたモノは元には戻らないのだから。
「…効率、理論化。…化学式や統計学に近い感じなんでしょうか?
…確かに、天才では全然無いですが、一度講義を受けてみたいとは思います。」
自分は凡人だ。天才でも秀才でもない。直ぐに壁にぶち当たるかもしれない。
そもそも、初歩の理論すら分からないかもしれない…が、学ぶ事に無駄は無い。そもそも…。
「…でも、まずは理解する努力を。今の俺は魔術が使えないからこそ、その利便性と危険性を知る為にも。
…俺は、正直魔術に関しては授業単位はどうでもいいんです」
ポツリ、と生徒にあるまじき発言だが率直な意見だ。そう、単位目的で興味を示したのではない。
学ぶ姿勢は当然として、単位よりもその授業の内容を理解し読み解く。そして自分の中で消化する。
「――”何かを生み出す事には、とてつもない苦痛と労力を伴う”。
…単に教科書や黒板の文字を追っているだけでは意味が無いと思うので。
…出来るなら、凡人ではありますが物理魔導学の理念の一端くらいは掴めたらと」
■ミラ > 「解決できない、言えない、別」
小さく頷いて了承の意を示す。
吐き出せる速さで、それが例え牛歩でもその速度で吐き出せばいい。
それを吐き出せる湖がある。今はそれだけでいい。
「そう」
大体認識としては間違っていない。
魔術(幻想)と物理(現実)の境界線を見極め、時にその境を超越する。
簡単にいうなれば彼女の学問はそういった趣旨を持つ。
それは海と空の境目を見極めることに似ている。
とても近しいけれど、絶対的な差がそこにはあるのだ。
「……問題、ない。歓迎、する」
願いを発現させるのではない。
これは現実を書き換えるものなのだから。
だからこそその為の願いを、彼女は尊重する。
沈んだ夕日とわずかに照らし始めた月明かりの元
わが意を得たりと優しく満足げにほほ笑む表情がそこにあった。
「世界を、変える、方法
教えて、あげる」
■飛鷹与一 > 「……ありがとうございます。…と、いうより何か既に悩みを聞いて貰ってる感じではありますが」
これはこれで気分転換になるし、別に孤独がいいと気取るつもりはない。
こうして誰かと話すのはやっぱり楽しいし、学ぶ事も気付く事も多い。
「……と、なると」
そこで少し考え込む。今、平凡ながら自分が座学で学んでいる魔術。
その前提を、いや予備知識を敢えて一度『崩す』必要があるかもしれない。
知識を全部まっさらにする訳では無い。『見方を変える』のだ。
…自分で考えておいて、何と地味に難易度が高い事だろう。
だが、つまりそういう事だ。願望を具現化するのではない、現実を書き換えるというならば。
凡人には険しい所ではないかもしれないし、その入り口にすら辿り着けるか怪しいのが正直な所だが。
「じゃあ、改めてよろしく御願いします」
言葉短くそう伝えて頭を一度下げる。例え己に物理魔導学の理解が無理だとしても。
そこで学ぶものが無駄になる事は無い…少年はそう信じている。
「――ミラ講師、何か嬉しそうな顔してますよ?」
初めて無表情が崩れた。彼女の笑顔と言葉に、こちらもつい笑みを浮かべて。
少なくとも、単なる単位目的などではない、と判断して貰えただけ幸いだろうか。
■ミラ > 「構わない。苦、ない」
小さく首を傾ける。
悩むことを無駄とは言いたくない。
それゆえの苦しみはきっと彼自身の糧になる。
「願う、なら、叶う」
そう難しく考えることはないと思う。
この世界の魔法に染まっていないなら、願いだけの世界に染まっていないなら
その船頭は彼女の役目だ。
行き先案内人さえいれば、一人で歩くよりも何倍も楽なはずだ。
「事務、申請。
ようこそ。本当の、魔法、の、世界」
柔らかく告げるも続く言葉に慌てて顔を背けて月を見ているふりをする。
「……気のせい」
彼女が無表情なのは元々というところもあるが……
内心を慮られることが純粋に恥ずかしくて苦手、という理由も多分にあったりする。
顔を背けられるもわずかに頬が紅潮して見えるかもしれない。
■飛鷹与一 > 「…ん、そう言って頂けると有り難いです」
小さく首を傾けているミラ講師の様子を見るからに、迷惑を掛けてしまってはいないようだ。
そして、彼女の言葉に少し瞑目する。ゆっくりと再び開いた目は矢張り灰の視線ではあるが。
「…だったら、尚更ですね、願いを叶えるなら理解と努力は当然前提となりますし」
物理魔導学の知識は当然無く、だけれどこの世界の魔術に染まり切ってもいない。
だったら、水先案内人たる講師の彼女の案内は十二分に心強い助力だろう。
後日、講義受講の為の手続きはするつもりだが、少なくとも講師本人から受理をされてホッとする。
「………そうですか(…ミラ講師、若干頬が赤いんだよなぁ)」
そして、目と勘が鋭い少年は死んだ瞳でも、バッチリその頬が若干赤い事を見抜いていた。
だが、そこをツッコミ入れてしまえば、意固地にさせたり不機嫌にさせかねない。
それは望む所ではないので、ここは空気を読んでおこう。…読んでいる筈だ。
■ミラ > 「ん」
緩慢にうなずく。
きっとそれだけの願いがあるのだろう。
単位など簡単なものではなく、灼けおちそうなほど願っても
手を伸ばしたいと思える願いが彼の中に。
(よかった)
やはり彼は決して死んでなどいない。
その灰の下にまだ燻ぶるような熱を蓄えているだけなのだろう。
講師としても、個人としてもそれを叶えてほしいと思う。
その願い如何に善悪の彼岸など持たないのが彼女の性質。
後で事務にこちらからも話を通しておこう。
さすがに何度も子供として運ばれて行けば嫌でも場所は覚える。
「……そう」
自分でも説得力のない声色になった気がするけれど
あえて気が付かなかったことにしておこう。そうしよう。
■飛鷹与一 > 正直、そんな大それた目的や願いがある訳ではないのだ。
それでも、些細でも詰まらない事でも一人よがりでも何であっても。
例え燃え尽きてその灰の中に埋もれてしまっていても…何かを置き忘れてしまっていても。
死人ではない。瞳は光が無く生気が欠けていても…彼自身はちゃんと生きている。
(……うん、俺はまだ死んでない。今はそれで十分だろう?)
己自身にそう一度問い掛けておきながら、意識を隣に並ぶミラ講師へと戻す。
「……そういえば、ミラ講師。素朴な疑問ですけど言葉が少し片言ですけど変に誤解されたりとかしませんか?」
首を傾げてフと問い掛けを。少年はそういうのはあまり気にしないが、講師だからこそ気苦労も絶えなそうだが。
主に、周りとの意思疎通など、そういった側面においてだが。
■ミラ > 「……唯一手段、依存、危険」
この島には言語を共通化する術式が張り巡らされている。
普通に生活すれば彼女の言語もまた普通に伝わるだろう。
しかし、彼女にとってそれはあまりにも……
「怖い。干渉次第、全員、対象術式、変わる」
全員に影響し、干渉する。
それは無意識に働きかける術式で、それの軍用転用が可能な知識がある彼女からすれば
あまりにも無防備すぎた。
「バベルの塔、同じ、起きかねない」
この世界にもある逸話のように仮にこれに異常が発生した場合
意思疎通をそれに依存していたものは会話すらできなくなるだろう。
そしてそうなったとすればそれは間違いなく……何らかの異常な状況に島全体が巻き込まれているということに他ならない。
平時ならともかく、緊急時にそんな事態が起きればどのような混乱が起きるかは想像に難くない。
「授業中、以外、術式妨害、かける
誤解、多い、けれど、私、の、ミス。仕方、ない」
少しだけ俯く。自分の恐怖感で迷惑をかけてしまっているところもあるけれど……
この世界にきてまだ数週間しかたっていない今のうちにしかできないいことだとも思う。
それに元々……誤解されることや理解されないことが平常運転の生活をしていたのだから理解されないのは仕方がないことだ。
「授業中、普通、喋る。
安心、して、ほしい」
その普通が一般的な普通に比べると著しく不足しているという点に
特に彼女は気が付いていなかったりする。
■飛鷹与一 > 「……干渉系の魔術や異能持ちも居るでしょうしね。」
ポツリ、と口にする。むしろ、この少年の異能こそ地味に迷惑な干渉系に近い性質なのだが。
ただ、少なくとも少年の異能はそこまで大規模な干渉は出来ない。…少なくとも研究結果では。
「バベルの塔…『統一言語の崩壊』…ですか。意思疎通手段が一気に断たれますね」
言葉、というものは意思疎通の一番手軽で確実な手段である。
それが崩壊すると、最悪島そのものが大パニックになりかねない。
互いの意思疎通が一気に限りなく制限されてしまうのだから無理も無いだろう。
「……あ、俺は別にミラ講師の喋り方とか変に気にしたりはしないので問題は無いです。
…と、いうよりもミラ講師みたいに可能性や状況判断をしっかり出来ているのは幸いかと。
少なくとも、それで迷惑とか俺は思ったりしませんので……補足は頂けると助かりますけどね?」
と、最後は少しだけ笑みを浮かべてみせる。彼女には彼女なりの考えや苦労がある。
それを理解できた、なんて自惚れはしない。が、理解する事を己は怠らない。
■ミラ > 「干渉、伝達阻害、可能性、沢山」
小さく目で肯定しながら窓際に体を預け、言葉を連ねていく。
自分がしゃべっている言葉が実は完全に別の言葉に聞こえていたら
それがあの大事件を起こした団体の情報伝達に使われたら?
言語の干渉とは思っている以上に深刻な事態を引き起こすと言葉少なくも彼女は告げる。
「最後、は、言語、以外、の、信頼
現地用語、程度、覚えておく、べき
特に、風紀、運営、重要」
そしてそれができないというのも地味に彼女のプライドに反していた。
「伝わる、問題ない
伝わらない、何時も。問題ない」
常に理解し続けようとする姿勢というのは意外と表に現れるもの。
こんな生徒ばかりなら授業も多少は面白いかもしれないのにと思う。
言葉少ないものの本質的に彼女はおしゃべり好き。長年の習慣で阻害はされているけれど。
■飛鷹与一 > 「…と、なると(…俺の異能も彼女の視点からすれば、十分に可能性の一つになるのかな)」
そもそも、こうして普通に会話してるだけで常に発動しているのが少年の異能の厄介な所。
幸い、ミラ講師に特に何の異常も無さそうなのが内心で安堵する所ではあるが。
無差別で無責任で無秩序。……本当に迷惑で最低な異能だ。内心で昂る気持ちを静かに抑える。
「……成る程。肝に銘じておきます。…と、いっても風紀委員会や運営全体が取り組みしないと難しそうですけどね」
上層部がそもそも何を考えているかなんて、一介の生徒で新米の風紀委員の己には分からない。
そう、理解しようとする姿勢があっても、それだけでは矢張り駄目な事も多いのが世の常。
「…ミラ講師をちゃんと理解しようとしない俺達生徒側は勿論ですが。
…敢えて苦言を言うなら、ミラ講師もそれが日常だからといって見切りを付けすぎかと」
生意気を言ってるなぁ、と思うが敢えて苦言を呈しておく。
例え初対面だろうが講師だろうが、言うべき事は言う。少なくとも今は。
それに、相手を肯定するだけでは駄目だ。否定意見もあってこその理解というもの。
…まぁ、だが相互理解が難しいという事なのだろう。例えば地球の人類と異邦人とでは。
■ミラ > 「無差別型、非制御、確信犯、いずれも可能性、ある」
とはいえそれに対応しきる事は難しい。
幾万の可能性があるからこそ、悪魔の証明になるからだ。
「それ、と、対処想定、しない、別
ありうる可能性、想定する、リスクマネジメント」
暗に告げる。完全に一方の責任というものは厳密には存在しえないと。
「ヒト、組織、直ぐ、変わる、出来ない」
ぽつりとつぶやく言葉に苦みが混じるのは過去の経験からか。
そうして返された言葉に目を瞬かせた。
「質問。世界は数多。
その中、相互理解、可能、信じる、出来る?」
純粋な疑問として投げかけてみる。
この世界にきてまだ日が浅い。どうしても元の世界を引きずってしまう。
分かり合えないとわかっていてそれでもなお、彼は分かり合う努力を続けようとしているように見える。
それはとてもまぶしく好ましいけれど、同時に危うくも見えた。
だからこそそれを本当に信じることができるのか、純粋な疑問として口にする。
■飛鷹与一 > 「…成る程」
言葉少なに頷く。…そして思う。確信犯ではないが無差別で非制御。
幾千幾万の可能性の一つとしては十分だ。…魔術だけではない。矢張り異能制御も課題だ。
「…流石に対処想定はしている、と思うんですけどね…正直上層部なんて俺からしたら雲の上過ぎて」
無表情だが何ともいえない口調で。少なくとも島の運営管理する側は想定はしていそうだが。
「――でしょうね。そう簡単に変われたら、世の中論争も戦争も起きてないでしょうし」
そこは淡々と肯定する。それは事実であるし、地球でも異世界でもある事だろう、と。
若干、ミラ講師の言葉に苦味が混じるのを感じ取る…そういう経験があったのだろうか?
「――そもそも、相互理解が例え無謀で無理だとしても。どちらかが歩み寄らないと第一歩すら無理でしょう?
…だったら、第一歩は俺の方か踏み出して歩み寄ります。それで跳ね除けられて、傷付けられて、結局争う事になるとしても。
だから、信じるとか信じないとかじゃないんです…要するに…まぁ、」
彼女の方に軽く右の拳を緩く掲げてみせる。そうして静かに告げよう。
「俺は手を差し出します。それが無駄で終わるとしてもお節介だとしても。…お人よしの偽善だとしても。」
■ミラ > 「……問題、現場、伝わって、いない
真っ先、対処、する、現場、でしょう?」
とはいえ彼女からすればそこに攻める意図はない。
むしろその逆で……
「仮に、想定、している、なら
干渉、も、その、観測域、中」
それがどれだけ疎ましくとも、そこに在ってもよいのだと。
ある意味彼女にとっての答えでもあるけれど……
きっと誰もが望んでいることでもあるのだろうと思う。
「……そう」
静かに、けれど確たる思いのこもった言葉に一言だけ返す。
その灰色の瞳の中に一瞬だけ鮮を見たようなそんな気がして。
その決意に水を差すような野暮なことはしたくない。
研究者として、それを信じるものとして。
「なら、それ、信じる
努力、してみる。学者、と、して」
ずっとこの世界にいたものが歩み寄れる世界だというなら
それを狂わせてしまう恐怖を内包してなおそう言い切るのならば、
彼が信じる世界を信じてみてもよいと思う。
■飛鷹与一 > 「…そこを突かれると面目ないです、えぇ…」
新米だからというのは言い訳にすらならない。風紀委員会は警察機構の代替でもある。
治安維持を司る部署として、確かに問題ではあろう。
「……だといいんですが」
そうなると、未だに正体が不明な己の異能もまだ『許容範囲内』、または『想定内』という事か。
…今はあまり深く考えるのは止めておこう。思考の迷路に嵌まりそうだ。
「ええ。…まぁ、ミラ講師がそれでも理解は無理だと判断したなら。
せめて愚痴くらいは聞きますよ。俺の考えや姿勢を別に貴女に押し付ける気は無いんですし」
あくまで少年の考えで思いで。既に過去に大事なモノを置いてきてしまったから。
だから、理解するという姿勢はなるべく貫きたいのだ。もう置いていかないように。
「…って、何かすいません。変に真面目くさった意見押し通してしまって。
そういえば、お時間とか大丈夫ですか?」
■ミラ > 「責めて、は、いない
そういう、もの、認識、だけ。
それだけ。」
小さく首を振る。
ただそこにあるだけで、善悪はそのあとそれを見ただれかの判断で。
それを決めるのは私の役目ではない。
「わかった。覚えて、おく」
先ほどと立場が逆になったような言葉の応酬に瞳に面白げな光が一瞬宿る。
一歩引いてしまうのは彼のいいところだけれど、そうでもないところもあるらしい。
「構わない。
でも、拘束する、つもり、ない
気分転換、なった?
なら、良い、の、だけど」
■飛鷹与一 > 「…ミラ講師、さっきから思ってたんですけどある意味で悟ってますよね何か…」
正確には、己自身をそれこそ理解している、というべきなのだろうか?
上手い言葉、表現が思い浮かばず少年としてはそう思うしか無い訳だが。
「えぇ……と、いうかミラ講師。……ちょっと楽しんでませんか?」
言葉の応酬の合間、僅かに面白そうな、楽しげな光が一瞬だけ彼女に宿ったのを目敏く察知する。
まぁ、お互い楽しめるのは矢張り悪い事ではないのだから、それは幸いではあるが。
「あぁ、えぇ…と、いうか気分転換どころか普段こういう話をする人が身近に居なかったので。
何と言うか新鮮、というのは違うかもしれませんがそんな感じですね。…会話そのものは結構好きですし。」
■ミラ > 「そう?居た、場所、原因、かもしれない」
善悪の彼岸から離れた場所と倫理で生活していた時間が長かった。
それが悟っているように見えるのかもしれない。
彼女の中ではまだ自信は凡夫にすぎないけれど。
「会話、楽しむ、方、良い、でしょう?
君、は、面白い」
そういう所に敏いからこそ面白いのだけれどと内心思う。
「そう。良かった」
小さくうなずく。
新鮮な気分で話ができたならそれに越したことはない。
少し肌寒い風を感じながら地平線へと目を向ける。
あっという間に落ちた夕日の代わりに今は星が瞬いている。
それをじっと眺めながら、ぼそりとつぶやく。
「普段、言えないこと、沢山ある
話したいだけ、話す、良い」
■飛鷹与一 > 「……凄い今更な質問ではありますけど、ミラ講師は異世界のご出身…ですよね?」
本当に今更な質問だと思うが。居た場所が原因、となれば独特の世界だったのだろうか?
それとも、案外こちらと共通点も多い世界だったのだろうか?
そもそも、理解しようとする姿勢を持つ以上、異邦人への差別や畏怖は無い。
「…えぇ、まぁ楽しいに越した事はないですが……俺、面白い事を言いましたか?」
ん?という感じで首を傾げていた。目敏くそれなりに聡いのだが…。
割と自己評価が低く、自身を評されるのも慣れていない故にその感想は意外だった。
何となく、既に夜の帳が落ちて星が瞬いている空をこちらも眺める。
相変らず、覇気も生気も輝きも無い瞳だが。紛れも無く少年は生者であり熱もある。
「……むしろ、そういうのはミラ講師だってあるんじゃないかと思いますが。
俺なんかより波乱万丈な感じの人生を送ってるように思えます。
…まぁ生徒が講師の普段言いたいけどいえない事、を聞くのもアリかな、と」
■ミラ > 「そう、こちら、来た、ばかり」
小さく頷く。あの世界に比べてこちらはゆっくりと時間が流れているような気さえする。
平和で……彩のある世界。
「だから、何気ない、こと、面白い」
半分回答のような、あいまいにすら聞こえる返事をのんびりと返す。
彼は自覚していないようだけれど意外と面白いと感じる部分は多い。
とはいえその中には自覚していないという点も含まれるのだから指摘するつもりはないけれど。
「今まで、は、今まで。
この世界、知らない、事、沢山。
……あ、じどーカイサツ、は、嫌い」
小さく付け加える。あれにはずいぶん脅かされた。
■飛鷹与一 > 「…来たばかりで講師って普通に凄いですね」
率直で素朴な感想である。…これ、物理魔導学は死ぬ気で理解しないと詰むかもしれない。
勿論、努力は最大限するが。何と言うか分かりきっていた事だが、矢張りこの人は優秀なのだな、と。
「…そう、ですか。まぁこちらの世界を多少なり気に入ってくれてるなら…
…こちらの世界に住む人間としては幸いですけど」
曖昧にも聞こえる返答。何だろう?スルリとはぐらかされた気分だ。
が、追求はしない。こういう一歩引いた所は理解しようとする姿勢はまた別なのだ。
まぁ、そういう所がからかわれたり弄られたりに繋がる場合も多いのだが。
「…え、何かやたらとピンポイントですね…ああいう機械とかは無かったんですか?」
自動改札に慣れ切っている身としては勿論不思議に思うが。
…いや、別世界から来た人ならそりゃ戸惑うかな、と思ったりもする。
■ミラ > 「そうでも、ない。偶然」
確かに偶然といえるかもしれない。
あちらに比べてこちらの世界の魔術が進んでいなかったから
講師という立場を与えられたけれど逆だってまた十分あり得たのだから。
「うん、楽しい」
その言葉に嘘はない。
食べ物もおいしいし空もきれいだし、何より知らないことがたくさんあって
ある程度自由にそれを見て回れる。あちらでは考えられなかった生活。
でも…
「ぶざー、鳴らされて、威嚇、された
大型輸送、こちら、進んでる」
憤懣やるかたないといった様子でその時のことを思い出す。
あの時はまじめに泣きそうだった。
かなうなら分解して解析してやりたいと今でも思っている。
■飛鷹与一 > 「……ミラ講師がこちらに来たのは偶然かもしれないけど、この常世島に落ち着いたのはある意味で必然かと」
この島の外、となればまた事情が違ってくるだろうし。
まぁ、彼女の見た目から講師、と一発で判断するのは難しいだろう。
服装やネームタグ等で判断できるではあろうが、完全にオフの時とかはまず講師と見られない気がする。
「……えぇ、楽しんでいるならいいんですが、相当根に持ってますね自動改札機に…」
明らかにムスッとした態度のミラ講師に小さく笑って。そういう表情は外見相応だと思う。
と、いうか大型輸送が発達してるとなると、科学技術はこちらより上?なのだろうか。
「…一応、自動改札の事ならネットとかで調べればまぁ構造や仕組みくらいは出てくるかと」
彼女が分解しかねない危険性でも感じ取ったのか、一応挙手しながらそう言って見る。
マジで分解などしたら洒落にならない。いや、流石に彼女は当然自制できるだろうけど念の為だ。
■ミラ > 「それ、は、必然
別の、場所、私、を、扱いきれない」
文字通り魔法使いの彼女を扱いきれる場所があるならまさにこの島だけだろう。
初めについたのは雪国だったけれど、監禁されそうになった時には
クルマごと文字通り"塵も残さず消し飛ばして"やった。
其の後あれにのって惜しいことをしたと後悔したけれど。
消し飛ばすのではなく転移にすればよかった。そうすれば今頃分解して仕組みを理解できたのに。
それに見た目だけなら少し変わったヒト族に過ぎない。
それが突然怪異の力を使えばその恐怖感は想像するに難くない。
「根、持っている。すごく、驚いた」
あそこまではある意味完璧に移動できた分、最後の最後でケチをつけることになった
ヤツには根深い恨みがある。
彼女は割と完璧主義者だった。
「……ねっと?」
知らない単語に首をかしげる。
実はこちらの世界にきて触れたのはスマホ程度で、
それを与えた人物は彼女にそれを与える危険性を鑑みて
インターネットへの接続を切っていた。
そのためそれに触れたことがなかったのだ。
■飛鷹与一 > 「……扱い切れない、というよりも…単純にこういう特殊な島でないと受け入れられないのかな、と思います」
彼女を含め、様々な世界からの異邦人が流れ着く特異性は類を見ないだろうし。
ちなみに、当然彼女が行った物騒な所業は知らない。知らない方が多分少年の為でもあろう。
(……あ、これいずれ何らかの形で”報復”する気だ。間違いない)
願わくば、その前に彼女が無難な落とし所を模索してくれることを祈ろう。
そして、ネットをまだミラ講師は知らないらしい。そして、それを与えた場合の影響とかを少年は知らない。
なので…
「ああ、えぇと…スマホ…携帯電話とか持ってます?ネットというのは…」
と、自分のスマホを取り出してみせつつ、画面を見せながらネットに接続。最低限のネット用語や使い方などを教えていく少年。
これが、後に彼女に影響を与えるかも知れないが、その場合は元凶はこの少年になるだろう。
が、勿論彼に悪意も他意も無い。ただ便利だしミラ講師なら直ぐに使いこなすだろう、という純粋な親切心などだ。
「…と、こんな感じですけど大まかにでも分かりましたか?」
と、一通り操作して見せたりしつつ、そう彼女に尋ねてみる。
■ミラ > 「コクテツ?引き渡し、求めた
回答、は、不可、とのこと、だった」
いつか解体してやろうと思う。
何か事件が起きた際にどさくさに紛れる感じで。
すぐに元に戻せば何とかなるに違いない。
「……」
熱心にその操作法に見入りながら時折試すように操作をしてみる。
そうして画面内に映し出された情報の山に目を細めた。
「驚異的。斬新」
くつくつと笑い声をこぼすのは研究者ゆえの愉悦か。
少なくとも彼女が悪用しうるツールを手に入れた瞬間なのは間違いない。
■飛鷹与一 > 「…いや、そりゃ引渡ししないでしょう。と、いうか例えこの島でも無理です」
風紀委員会としてもそこは真顔で不可だと言いたい。が、ミラ講師はやりかねない。
幸か不幸か、理解しようとする姿勢の為かそういう察する事に長けている少年。
なので、彼女なら間違いなく”やる”。と、確信を持てるのだ。具体的根拠はこの際置いておく。
(……あれ?そうなると、ミラ講師にネットの使い方を教えたのはマズかったか?)
が、残念ながらもう手遅れであろう。簡単な使い方を教えてしまったし。
彼女にスマホを与えた人物からすれば、犯罪者というか戦犯扱いの所業を少年はやってしまったのだ!
「…実際に分解は風紀委員会として止めざるを得ないので、まぁ車とか自動改札機の仕組みはこれで調べて我慢して頂けると、えぇ」
それだけではない。この世界の文化、経済、産業、科学、言語、その他エトセトラエトセトラ…。
日本語や英語等を読めるならば、研究熱心な彼女からすればそれこそ『宝の山』であり『情報の坩堝』だろう。
■ミラ > 「……機械系統、予想、可能
なら、周辺、動力、全消去、
足、つかない。
可能?十分可能。余裕」
やらかしたかと心配する少年を傍目にスマートフォンを眺めながら、
物騒な単語をいくつか吐いていたがはっと顔を上げる。
これ以上は聞かせたらダメな気がする。
「信頼性、疑問
個人投稿、可能?
個別、信ぴょう性、調査、必要と、推察」
さらっと目を通してこの感想を持つ。
一応似た発想の機械は彼女の世界にもあった。
完全に軍用の通信機器で一般公開はされていなかったけれど。
相互通信が可能なら……インプットは当たり前で、アウトプットも可能のはずだ。
「くふ、くふふ」
活字中毒で、読めない言語は実はあまりない。
実際翻訳呪文に頼らずとも相手が言っていることが理解できる程度にはなっているのだから。
あとはその法則性さえ何とかなれば、読解は可能だろう。
そう考える彼女から若干悪い笑みがこぼれる。
■飛鷹与一 > (……ちょっと待ってくれ。この人、今サラリと足がつかないとか口にしたぞ!?)
風紀委員会の端くれとして今のは聞き逃せないのだが、彼女の事だ。
絶対にこちらを煙に巻いてくるに決まっている。むしろ、段々この人の性格が理解できてきた。
残念ながら、これ以上聞かなくても物騒な空気は感じ取りましたとも。
(……と、いうか…俺、何かとんでもない事をしてしまったんじゃないだろうか?)
そうなると、自分が責任もってある程度彼女にブレーキを……あ、駄目だこの笑み。
完全にノってるという感じだ。少年は流石にちょっとこめかみを押さえて溜息。
「……ミラ講師、止めはしない…と、いうか俺程度じゃそもそも止められませんが。
ネットを教えた手前、乱用は控えて頂けると…」
■ミラ > 「……心配?」
研究キチガイ(マッドサイエンティスト)には見えないそんな純真な表情で
きょとんと無邪気に首をかしげる。
「大丈夫、心配、ない」
とりあえず安心させるような声音で告げる。
そう、心配ない。
「私、の、責任、の、範疇に、収める
無茶、は、しない」
つまり責任の範疇なら何をやらかすかはわからない。
急激なパラダイムシフトを誘発するつもりは今のところない。多分。
別にこれを利用して複数ターミナル経由で魔術展開できるとか
この演算能力を使って大規模術式の展開が簡単にできるとかは考えていない。多分きっと。
ましてやそれを悪用して自動改札に復讐しようなんて考えてはいない。多分きっとめいびー。
「冗談、は、ともかく」
すっと表情を戻して呟く。
なんだかんだ言いながら人で遊ぶのも嫌いではない。
けれど遊びすぎもよくない。
「スマートフォン、転用、考えては、いた
上手に、利用、魔法、使えない、人、手助け、なる。」
割とまじめに彼女にとってこの機械というのは可能性の広がるツールではあった
■飛鷹与一 > 「……”扱い方”さえ間違わないなら俺からは何も言いませんけどね、これ以上は」
何でそこで無駄に純真な表情で首を傾げるんだろうかこの人は!!
ある意味で弄られているというか、翻弄されているであろう少年の図。
詰まる所、こういう面がある時点でこの少年はちゃんと”熱”がまだあるのだ。
「…そのセリフは正直信用度が低いと思います。それと…
ミラ講師の責任の範疇の解釈次第だと洒落にならないかと。」
死んだ魚じみた瞳を更に半眼にしてバッサリと切り捨てる。
突っ込む時は目上の相手だろうと容赦が無いのもこの少年の一面だ。
なまじ、相手を理解しようとする姿勢がこの場合『嫌な予感』や『察しの良さ』になってしまっている。
当然、少年としてはそんなの察したくは無かったけれど!
「……冗談どころか半ば本気でしたよねミラ講師…えぇと。こちらの世界の情報ツール…通信媒体とかを有効活用する、と?」
こちらも気を取り直してそう尋ねてみる。生徒というより助手か弟子の気分だ。
■ミラ > 「大丈夫。道具、扱い方、慣れている」
充電が切れた時には焦ったけれど、その反省はちゃんと活かしている。
元々こんな冗談を言ってはいるが、魔術に携わる道具というのは一歩間違えば
それこそ研究室後と吹き飛ぶようなものもある。
「認識の、差異、仕方ない。
それはおいておく、として」
学者としての雰囲気に戻る。
確かに半分本気ではあったが、厳密には彼女はいつだって本気だ。
「例えば、治癒、術式を共有
必要時、呼び出し使用、可能、なれば
一般市民、救助能力、補助、なる」
それにインターネットを利用することは十分可能だと彼女は考えている。
もっともそこまで至るのはこの世界の魔術は解析も最適化も進んでいない。
けれど、それが可能な世界の住人が、しかもその最先端がここにいた。
「魔法、道具。なら、道具、で、魔法、使う、可能」
こともなげに言い放つ。
■飛鷹与一 > 「……ならいいですけど」
と、いうよりこれ以上自分が何を言っても意味が無いだろうと察する。
つまり、ネットの存在、もとい使い方をレクチャーした時点でこの流れは確定していたのだ。
逆に言うならば、彼女の研究に一石を投じた…多少の革命を起こしたと言えなくもないが。
(いや、置いておいて良い訳じゃないんですけどね!!)
心でそう再度ツッコミを入れておく。口に出してもいいが多分無駄だ。
まぁ、この件に関してはもうしょうがない。自分の不手際だと猛省するしかない。
ともあれ、気を取り直して彼女の説明を聞きながら考え込むように。
少年なりに彼女の言葉を自分の中で消化しているようだ。
「魔術を扱う媒体にスマホとかネットと遠隔・高速通信機能を活用する。
そして、スマホとかならネットやメール、回線を通じて魔術の共有化が可能。
…電子媒体で魔術の動作性と高速性、利便性を高めつつ最適化…?」
ブツブツと呟いていたが、我に返り顔を上げる。
■ミラ > 「技術、公開する、いい、違う
使い方、基準、ある。平気。」
安心させるようにのんびり口に出す。
そのあたりの駆け引きには慣れている。たとえ相手が国家でも。
元々研究成果の半分は公開していなかったのだから。
公開して褒められたい。認められたいという欲求はあまりない。
確かに目的の為には手段は選ばないけれど……それにもある程度の基準はあるつもりだ。
「そう。最低限、魔力、使用者負担
高度術式の共有、再構築、可能」
理解が早くて助かると言わんばかりにうなずく。
その洗練度さえ上がればそれこそわずかな魔力で
生活が劇的に便利になるだろう。
それこそが彼女の扱う学問であり、天才向けのものではないといった所以。
■飛鷹与一 > 「…あぁ、もう分かりました、ミラ講師はそういう”駆け引き”には長けてるでしょうし、どのみち俺には適いません」
降参、とばかりに両手を緩く挙げてみせる。とはいえ、この少年の聡い面もある意味で驚異的だが。
異なる世界の住人でも理解し、歩み寄ろうという姿勢だからこその勘の良さでもある。
だからこそ、彼女なりの”基準”があるのだろう、という信頼もある。
「…まぁ、俺も魔力だけは普通にありますし、最低限の魔力で使えるなら便利ですね。
それに、スマホとかは使い慣れてるので慣熟も早いでしょうし。…ああ、つまり…」
天才や秀才ではない。凡人が扱える普遍性を備えた物。自分の様に魔術の扱いに訳ありの者でも使える物。
「……俺とかは意外と向いてるかもしれないですね。そうなると」
■ミラ > 「信用、ない、なぁ?」
小さく笑みを含んだ瞳で見る。
この少年は自分で思う以上に聡い。
特にある程度こちらの力量や感覚を読むことには
かなり長けているといえるだろう。うらやましい限り。
「そういうこと」
少しうれしそうに彼の言葉を肯定する。
意外に思われることは多いが彼女は自分を優秀とは思っているものの
天才とは思っていない。
そして彼女の学問も天才向けの学問なのではないのだ。
その将来性を切り開くために優秀な頭脳を必要とすることは否定しない。
けれどコンロのように捻るだけで炎が出て調理ができる。
つまるところそういった利便性こそが今の所の目標なのだから。
破壊力や効果範囲を突き詰めるならば、別のプロセスが求められるだろう。
けれど……
「ここには、ここの、学問が、ある」
■飛鷹与一 > 「……いや、俺なりにミラ講師は信頼してますけどね」
初対面ではあるが、それなりに人となりも理解できてきた。
それに、彼女なりの考えがあるのも薄々分かってきた。
だから、そういう理解も含めて信頼はしている。
端的に言えば、洞察力が優れているのかもしれない。
ただ、彼自身の無自覚と自己評価が基本低いのが歯止めになっているだけだ。
「……成る程。そうなるとやっぱり物理魔導学は尚更受講しないとですね」
勿論、既存の魔術講義も怠るつもりは無い。魔術が現状は使えないのはもう割り切ろう。
見据えるのは今ではなく、”その先”なのだから。
「…そして、貴女には貴女の学問がある、って事ですね」
小さく笑った。今日は自分は結構笑っているな、と思う。こんなに人と話し込むのも久しぶりだ。
…が、未だに手に持ったままだったスマホを仕舞おうとして時刻が目に留まる。
流石に、ぼちぼち引き上げないといけないだろう。
「…ミラ講師、俺はそろそろ帰ろうかと思いますがそちらはどうします?」
■ミラ > 「ん。そう?」
小さく返す。
信頼されるに足るほどの人格者ではないつもりだけれど
そう言われるだけでも気分が悪いものではない。
むしろ信用されにくいほうだけれど、彼は私の中に信用に足る何かを見出したのだろう。
それを知っているのは今は彼だけでいい。
「……そんな、時間?」
そういえば今日は何食べたっけ?
朝は……食べてない。昼は……食べたことにした。
夜は……どうしよう。
まぁいいやと思考を切り替える。食べるのを忘れるのはいつものことだった。
「引き留める、よく、ない
気分、良くなった、良かった」
小さく首をかしげる。
これでほほ笑む代わりなのだから無表情極まりないが
彼にはある程度通じているだろう。
「私、も、帰る
研究所、あまり、開ける、できない」
そうして腰かけていた窓枠からぴょんと床に着地する。