2017/01/06 のログ
ご案内:「大時計塔」にミラさんが現れました。
ミラ > マグカップを両手で持ち、白い息を夜空に吐き出す。
なんだかお気に入りになってしまった時計塔の最上階のそのまた上。
鐘楼の鐘の直ぐ傍にその陰はあった。
一見不安定な、鳥や翼をもつものしかたどり着けないようなそんな場所に腰掛け、
眼下の街並みと空をただ見上げている。

「あけまして おめでと か」

少々たどたどしい口調で反芻する。
新年を祝う習慣がこの世界には残っているらしい。
同僚に明けましておめでとうと言われた時には一体何のことかわからなかった。
別段珍しいことではない。世界の数だけ祭事はある。
それに馴染みのない世界があっても何らおかしな話ではない。むしろ自然なことだろう。
しかしなんと、他の多くの世界の住人がそれに相当する祝祭の習慣を持っているらしい。

『新しい年を祝う……理解できない』

零れたのは祖国の言葉。
……彼女の故郷には新年を祝う習慣はなかった。
新年が来ることが目出度い事だという感覚すらそもそもない。
当たり前だ。

『ずっと戦争してたし』

戦争が常になった世界で、祭事を行うというのは往々にして軍事パレードになりがちだ。
しかも事実上機密事項そのものであった少女は純粋な意味での祭りなど
ほとんど参加したことはない。
当然それに付随する行為も。
だからこそ彼女にとっては純粋に新年を祝うという行為は
理解こそすれ共感できない行為でもあった。

ミラ > そもそも一日や一年の長さすら一致しない。
こちらに来た当初は時差ボケに悩まされたものだ。
こちらに比べて彼女のいた世界は一年が倍近く長い。
また一日の長さもそれに比例しており、彼女の感覚では文字通り
矢のようにこの世界の一日は過ぎ去ってしまう。

(生き急いでいるように見える。仕方がないことだけれど)

故に彼女にとってそれの来訪を祝うという祭事は中々共感しづらい。
世界に住まうものは世界に応じた時間で進んでいく。
いくら幻想種とはいえ、倍近い寿命と体内感覚を持つ世界にいた者にとってその様は
そうでなくとも駆け足で過ぎ去っていく世界の中でひときわ異質に見えてしまい……

『取り残されているように感じるのは私のせいなのだけれど』

つい愚痴てしまう。
元の世界でも慣れている感覚とは言え、やはりどこか疎外感を感じてしまって。
だからこそ、この年始のざわついた空気に馴染むことができず
静かに過ごせるこの場所に入り浸ってみていたりする。

ミラ > この世界にも人の一生を花火に例えた作家がいた。
この世界の生物は文字通り花火のように
刹那鮮烈に輝き、消えていく。
かつては自分達がそうだったはずだ。
短い寿命の中、火花を散らし、世界に溶けていく存在。
それが自分達だった。
けれどいざ立場が逆転してみると、こんな感覚だったのかと
少し感慨深いものと同時に不思議な感覚を覚える。

『貴方もこんな風に私を見ていたのかな』

ふと懐かしい友人を思い出す。
今や記憶の中でしかその名前を呼ぶ事はなくなってしまった
幸運にも”死ぬことができた”たった一人の友人。
彼女もいつか言っていた。

『貴方達はまるで花火のようだ』

と。

ミラ > (いつかこの世界に適応する日が来るのかしら)

どこか他人事のように思いを巡らす。
幸いこの世界では寿命を迎えて死ぬことを制限する法はない。
意識が薄れきり、機能しなくなるまで屍兵として戦い続けることも
何度も何度も形代を変えて生き続ける事もない。
死と生の境界線がとても曖昧で、だからこそどこか他人事のような世界。

(けれどこの世界は違う)

ここでは全てがいつしかその腕に抱かれる。
誰もがたった一つ、最後に安らぐ場所を与えられる。
死をより身近に感じられるからこそ、

『それ以外を選べることを祝えるのかもしれない』

ならいつか、その感覚に共感できる日が来る可能性は十二分にある。
その時こそがこの世界に馴染んだ瞬間と言えるのだろう。
生きていると自身を愛せる日が来るならば、あの人は笑ってくれただろうか。

ミラ > 「……我ながら 幼稚」

一つため息をつきマグカップを傾ける。
逸脱者であることは今に始まったことではない。
そんな事はもうずっと前に理解していたはずだ。
こんな思考はただの駄々、稚拙な言葉遊びに過ぎない。
与えられるものはそれ即ち義務。そんなことは百も承知。

『こちらに来て幼くなった気がする
 独り言もずいぶん増えた』

薄々その理由は分かっている。
あまり好ましい兆候とは言えない。
どこか自制の箍が外れているのだろう。
新しい世界で浮かれているなんて、私にはまったく似合わない。

ミラ > この世界にはこの世界の生き方がある。ただそれだけのこと。
未知を既知で塗り替えようとすることは愚か者のすることだ。

『ただ違う。それだけの事』

付随する感傷も、解釈も、ただ自身がそうという一つの答えに過ぎない。
正解も真実も人の、世界の数だけあるのだから。
ただそれを受け入れ、見つめ続ける。
それだけが傍観者(スターゲイザー)に求められること。

『夜風に当たりすぎた』

星空を見上げぽつりとつぶやく。
故郷に比べ随分と近くに感じられる天球はそれでも
短すぎるこの腕では届かなくって。
そしてだからこそ同じくらい美しかった。
ゆっくりと手を伸ばしゆっくりと握る。

「……」

そのままその姿は後方へとゆっくり傾いでいき重力に従い
わずかに光をまといながら落下し始める。
けれどいつまでたっても床に打ち付けられる音は聞こえず……
誰もいない時計塔はただ静かに月明かりのなか世界を見渡していた。

ご案内:「大時計塔」からミラさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に飛鷹与一さんが現れました。
飛鷹与一 > 研究所での検査と異能の暴走から、年を跨いでそれなりに時間が経過した。
一時期はまともに歩くどころか立てないほどに衰弱しきっていたが、それも何とか回復はした。
とはいえ、突き付けられた現実は誠に厳しいものであるけれど。

(…まさか、異能で自分の生命力を削ってるとは思わなかったな…)

時計塔の最上階。窓辺に佇みながら、相変らず死んだ魚の瞳で景色を眺め思う。
あれから、改めて検査をして貰ったが、どうやら自分の異能は命を削るらしい。
理由は単純で、生れ落ちた瞬間から常に暴走状態で発動している、というものだ。

「……自覚が無いどころか、そもそも異能の正体がまだ曖昧なのにな…」

訳の分からない異能に、知らず知らず命を削られていたとは笑い話にもならない。
生気や覇気の無い瞳の一因は、もしかしたらそれを端的に示していたのかもしれない…が。

「……制御しようにも取っ掛かりすら分からないし…」

そもそも、何時死ぬかも分からない。案外長く生きられるかもしれないが明日死ぬ可能性もゼロではない。
勿論、死ぬべき時は迷い無く受け入れるつもりだが、流石に自分の力で自滅する死に方は御免被りたいものだ。

飛鷹与一 > 「……うん、何か違う事を考えよう…新年早々欝にしかならないし…」

とはいえ、切り替えるのはいいとして何かポジティブな出来事があっただろうか?
おせち?…食べてない。お参り?…行ってない。帰省?…そもそも家族は『もう居ない』。
……駄目だ、プラスの出来事が全然沸いて来ない。こんなネガティブだっただろうか?と、自問自答しつつ。

「……まぁ、何と言うか…年が明けても劇的に何かが変わる訳じゃあない、か」

微々たる変化はあった。それが積み重なればハッキリとした変化に繋がる。
実際、島に来た時よりは精神的にはマシになってきているとは思う。
肩に担いだライフルケースを一度床に下ろして一息零しつつ、景色を眺めながらフと気付いた。

「…立ち入り禁止の場所に風紀委員が居るのも……今更かな」

ここは、学園敷地内でもお気に入りの場所だ。考え事をしたい時や気分転換には丁度いい。